青い釉薬に包まれた金婚式の夫婦 リサ・ラーソン最大級の壁掛け陶板
リサ・ラーソンがグスタフスベリ時代に手がけたヴェッグプラットル(Väggplattor:壁掛け陶板)の一枚、ユビレウム(Jubileum)です。並んで腰掛ける老夫婦を大きなレリーフで表した、35cm角の重厚な作品となります。
グスタフスベリには量販品を生産するラインとは別に、Gスタジオ(G-Studion)と呼ばれる部門があり、スティグ・リンドベリやリサ・ラーソンといったデザイナーがここでアート作品を制作していました。本品もそのアトリエで生まれた一枚で、背面にはリサ・ラーソンの名を冠したバックスタンプが刻まれています。
ユビレウム(Jubileum)とはスウェーデン語で「記念日」を意味する言葉です。旧約聖書ではユダヤ教の五十年に一度の祝祭を指し、転じて欧米ではこの年をゴールデン・ジュビリー(金婚式)として祝うようになりました。日本の「金婚式」もこの風習がもとになっています。本作はスウェーデンでグルドブロロップ(Guldbröllop:金婚式)とも呼ばれ、長い年月をともに歩んだ夫婦を思わせる作品として親しまれてきました。
ブルーの釉薬をまとった一枚
金婚式の陶板には、同じレリーフの造形を用いながら釉薬の色調が異なる作品が知られています。当店がこれまで扱ってきたユビレウムは、金から黄褐色の縁取りに白・グレー・赤褐色を組み合わせた暖色系の配色でした。それに対して本品は、作品全体をブルー系の釉薬が覆っています。
人物の造形や構図そのものは同じでも、色彩が変わるだけで受ける印象は大きく変わります。暖色系のユビレウムが金婚式という題材そのままの温かさをたたえるのに対し、こちらのブルーはより静謐でモダンな佇まいを見せます。青い釉薬の濃淡とストーンウェアの素地が組み合わさることで、レリーフの凹凸もいっそう明瞭に感じられます。
ただし「通常版」と「ブルー版」という二種類の正式な製品区分が設けられていた、という意味ではありません。ユビレウムを含むグスタフスベリの大型壁掛け陶板には、同じ造形に対して異なる釉薬や配色が施された作品が知られています。本品も、そうした制作上のカラーバリエーションの一つと考えられます。並べて比べると、リサ・ラーソンの陶板が型から起こしただけの量産品ではなく、釉薬の選択と焼成によって一枚ごとに異なる表情を持っていたことがよく分かります。
35cm角の大型壁掛け作品
ユビレウムは、リサ・ラーソンがグスタフスベリで制作したヴェッグプラットル(Väggplattor:壁掛け陶板)に属する作品です。人物を細かく写実的に描くのではなく、大胆な凹凸によって二人の姿を構成しています。リサ・ラーソンの作品のなかでも最大級の大きさで、手に取るとずしりとした重さが伝わります。
正面から眺めるだけでなく、横から光が差し込む場所ではレリーフに深い陰影が生まれます。釉薬そのものの色彩と、立体造形が生む光と影の双方を楽しめる作品です。とりわけ本品はブルーの濃淡がレリーフに沿って変化するため、暖色系のユビレウムとは異なる、北欧モダンらしい落ち着いた表情を見せます。
裏面に残された「KF勤続40年」の記念
裏面には「LISA L Gustavsberg」の刻印があります。さらに本品には「40 år i KF:S Tjänst」と記されています。これは「KFでの勤務40年」を意味する記念の書き込みで、KFとはスウェーデンの協同組合運動を担ったコオペラティーヴァ・フォルブンデット(Kooperativa Förbundet)の略称として知られています。
この背面の為書きはグスタフスベリのスタジオで工房付けの職人によって筆記されたものです。右下には26という番号が書かれていますが、数十個というロットで発注をうけたことを示しています。当時は大口の注文に対しては記念の刻印をして顧客に引き渡しがされていたようです。KF職員の長年の勤続や退職を祝う記念品として贈られたものと考えられます。作品そのものが「記念日」を主題としていることを思うと、40周年の贈り物にこの陶板が選ばれたという背景も興味深いものがあります。
グスタフスベリ — 200年の歴史を持つスウェーデン陶磁器の聖地
1825年、ストックホルム群島のヴェルムド島に創設されたグスタフスベリ磁器工場。当初はイギリス式の製法を導入し、1839年に現在も知られる錨(アンカー)のマークを採用しました。1863年にはコーンウォールから粘土を輸入し、ボーンチャイナの生産を開始。やがてスウェーデンを代表する磁器ブランドへと成長しました。
黄金時代を築いた巨匠たち
1917年に初代アートディレクターに就任したヴィルヘルム・コーゲ(1889–1960)は、「美しい日用品をすべての人に」という理念のもと、労働者向けの食器「リリエブロー」を発表。さらにアルジェンタ、ファルスタなどの名シリーズを生み出しました。
1949年にコーゲの後任となったスティグ・リンドベリ(1916–1982)は、ベルサ、スピサリブ、プルーヌス、アダムなど数々の名作を手がけ、グスタフスベリの黄金時代を築きました。「千の芸術家(Tusenkonstnären)」と呼ばれた彼は、陶磁器だけでなくテキスタイル、ガラス、グラフィックデザインなど多岐にわたる分野で活躍しました。
このほか、ベルント・フリーベリ(1899–1981)は中国宋代の青磁に影響を受けた独自の釉薬技法で世界的な評価を得、リサ・ラーソン(1931–2024)はシャモット粘土を用いた愛らしい動物の作品で日本でも絶大な人気を誇りました。
ヴィンテージの見分け方 — バックスタンプ(刻印)ガイド
グスタフスベリの食器には裏面にバックスタンプ(刻印)が施されています。このスタンプのデザインは時代とともに変化しており、製造年代を特定する重要な手がかりとなります。1839年に採用された錨(アンカー)マークは現在まで同社のシンボルとして受け継がれています。1993年にオリジナルの食器生産が終了し、現在はHPF社が復刻版を製造しています。ヴィンテージ品はフリント陶器やフェルトスパット磁器で、復刻版のボーンチャイナとは素材が異なります。
■詳細スペック
- メーカー:Gustavsberg/グスタフスベリ
- デザイナー:Lisa Larson/リサ・ラーソン
- シリーズ名:Väggplattor/壁掛け陶板
- 作品名:Jubileum/ユビレウム(金婚式)
- カラー:ブルー
- 年代:1966〜1970年
- 製造国:スウェーデン
- 素材:ストーンウェア
- サイズ:縦35cm 横35.5cm 厚み2.3cm
- 刻印:LISA L Gustavsberg
■コンディション:★★★★★(5:完品)
割れや欠けは見られず、非常に良好なコンディションを保っています。
角の一部には陶土のざらつきや素地が粗く見える箇所がありますが、これは後から生じた欠けや割れではなく、成形・焼成時に生じた製造上の特徴です。ヴィンテージのストーンウェア作品のため、釉薬の濃淡や焼成によって生まれた表情も見られます。とりわけ本品ではブルーの釉薬に濃淡があり、部分ごとに異なる発色を見せています。
裏面には「40 år i KF:S Tjänst」の記念の書き込みがあります。表面からは見えない部分であり、本品がスウェーデンで歩んできた来歴の一部としてそのまま残しています。






































