リサ・ラーソンの陶板(壁掛けレリーフ)完全ガイド|ビショップス・ドラバント・ポモナ・ユニークの見分け方

リサ・ラーソンの陶板(壁掛けレリーフ)完全ガイド|ビショップス・ドラバント・ポモナ・ユニークの見分け方

リサ・ラーソンと陶板の世界

リサ・ラーソン(Lisa Larson、1931–2024)と聞いて、まず思い浮かぶのは「マイキー」や「ライオン」といった陶製フィギュリンかもしれません。けれども、彼女がグスタフスベリ(Gustavsberg)で過ごした1954年から1980年までの26年間、もうひとつ大きな柱として作り続けたのが陶板(スウェーデン語では壁掛けレリーフ、英語では wall plaque)でした。

グスタフスベリ工房で働くリサ・ラーソン
グスタフスベリ工房で制作するリサ・ラーソン。Public domain / Wikimedia Commons

陶板は、壁に掛けるためにデザインされた「絵画のような陶」です。フィギュリンが立体作品として机や棚の上に置かれたのに対し、陶板は、壁面に飾ることで部屋の中に絵画のような表情を加える作品でした。リサは1960年代から70年代にかけて、ビショップス(Bishops、司教)、ドラバント(Drabant、衛兵)、ポモナ(Pomona、果実)、UNIK(ウニーク、一点もの)、タリア(Thalia)など、多彩なシリーズで「壁に飾るための陶」を生み出していきました。本稿では、当店で扱う実物と現地スウェーデンの写真をたどりながら、リサ・ラーソンの陶板の世界を整理していきます。

この記事でわかること

  • リサ・ラーソンの陶板(壁掛けレリーフ)の全体像と主要シリーズがわかります
  • ビショップス(Bishops)からドラバント(Drabant)、ポモナ(Pomona)、UNIK(ウニーク)まで、シリーズごとのデザイン年と特徴を確認できます
  • 素地(ストーンウェア)と部分施釉という制作技法を理解できます
  • サインとバックスタンプから真贋・年代を判別する手がかりを得られます

目次

  1. 陶板とは何か——フィギュリンとのあいだ
  2. 制作の舞台——グスタフスベリ工房
  3. 基本情報——リサ・ラーソンと陶板の年表
  4. 主要シリーズ一覧
    1. ビショップス(Bishops、司教、1963–1969)
    2. ドラバント(Drabant、衛兵、1970–1973)
    3. ポモナ(Pomona、果実、1971)
    4. UNIK(ウニーク、1960年代)
    5. タリア(Thalia)・ユビレウム(Jubileum)・フィェリル(Fjäril)、その他
  5. 受注制作の陶板——ヴァイキング船とグーテンベルク
  6. 制作技法——ストーンウェアと部分施釉
  7. サインとバックスタンプ
  8. 飾り方・コレクションのヒント
  9. まとめ

陶板とは何か——フィギュリンとのあいだ

陶板を仕上げるリサ・ラーソン
作品を仕上げるリサ・ラーソンの様子が撮影されている。Public domain / Wikimedia Commons

陶板は、スウェーデン語で壁掛けレリーフ、英語ではwall plaqueと呼ばれます。粘土を四角や円形に伸ばし、表面に浅い浮き彫り(レリーフ)を施したのち、焼成して仕上げます。リサの陶板の多くはストーンウェア(stengods、炻器。高温で焼成される硬質な陶質素材)で作られ、白い素地に部分的に色釉を差すスタイルが特徴です。

フィギュリンと陶板は、同じ「リサ・ラーソンの粘土仕事」でも、飾られる場所と見られ方が異なります。フィギュリンは机や棚に置かれる小さな立体作品であり、陶板は壁面に掛けられる平面性のある陶製レリーフです。1960年代のスウェーデンでは、住宅の白い壁に絵画ではなく陶板を飾る習慣が広く根づき、リサの陶板はその文化のなかで多くの家庭に届いていきました。

フィギュリンと陶板——役割の違い

フィギュリンは手元で眺める小さな立体作品です。一方、陶板は壁に掛けられ、部屋の中に小さな絵画のような場面をつくります。宗教的な人物、衛兵、果実、花、鳥、子どもなど、リサの陶板には、平面の中に小さな物語を閉じ込めたようなモチーフが多く選ばれています。

スティグ・リンドベリとリサ・ラーソン
リサをグスタフスベリへ招いたスティグ・リンドベリ(左)と、リサ・ラーソン(右)が並んで写されている。Public domain / Wikimedia Commons

制作の舞台——グスタフスベリ工房

グスタフスベリ時代のリサの陶板は、ストックホルム郊外ヴェルムドー(Värmdö)にあるグスタフスベリ工房で生まれました。グスタフスベリは1825年に創業した、スウェーデンを代表する食器・陶製品メーカーであり、北欧食器の歴史を語るうえで欠かせない存在です。ロールストランド(Rörstrand)が1726年創業の老舗として知られる一方、グスタフスベリは19世紀以降のスウェーデン近代デザインを支えた重要な窯として発展してきました。

現在のグスタフスベリ工場の外観
現在のグスタフスベリ工場の建物。湖畔の小さな町に、200年近い窯の歴史が今も息づいている。Holger Ellgaard / CC BY-SA 4.0

リサが入社したのは1954年、23歳のときでした。当時のグスタフスベリは芸術監督スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)のもとで黄金期を迎えていました。リサはイェーテボリ工芸デザイン大学の修了制作で北欧競技会の賞を獲り、その作品を見たリンドベリが直接スカウトしたという経緯があります。

1890年代のグスタフスベリ港と工場
1890年代のグスタフスベリ港と工場の様子。当時は船で原料を運び込み、製品を運び出していた。Public domain / Wikimedia Commons

陶板の量産工程は、原型制作とは別に、工場部門の分業体制の中で進められました。型起こしと素焼き、施釉、本焼きの工程が分担されるなか、リサ自身は原型の制作と試作に集中しました。つまり、グスタフスベリ時代のリサの陶板は完全な一点ものではなく、原型をもとに複数制作される工房作品として位置づけられます。

グスタフスベリ教会
グスタフスベリ教会。工場と教会と社宅が湖畔にまとまる、典型的な北欧の工場町を象徴している。Holger Ellgaard / CC BY-SA 4.0

基本情報——リサ・ラーソンと陶板の年表

在籍工房 グスタフスベリ(Gustavsbergs Porslinsfabrik)
在籍期間 1954年〜1980年(26年間)
陶板の代表的シリーズ UNIK(ウニーク、1960年代)、ビショップス(Bishops、1963–1969)、ドラバント(Drabant、1970–1973)、ポモナ(Pomona、1971)、タリア(Thalia)、ユビレウム(Jubileum)、フィェリル(Fjäril)ほか
素地 白系のストーンウェア(stengods、炻器に近い高温焼成素材)
技法 石膏型による浮き彫り成形+部分施釉
主なサイン 「Lisa L」筆記体、グスタフスベリのアンカーマーク(年代でロゴが変化)

主要シリーズ一覧

ビショップス(Bishops、司教、1963–1969)

リサ・ラーソンの陶板でもっとも有名なシリーズが、ビショップス(Bishops、司教)です。1963年から1969年にかけて生産された5体の細長い陶板で、それぞれが教会の聖職者を象っています。高さは約44センチ。白系のストーンウェアの素地に、それぞれ異なる色釉(青、緑、茶、白など)が部分的に差されています。

司教の冠(ミトラ)と長い祭服のシルエットを縦長の陶板にまとめた構成からは、リサ独特のユーモアと敬意が同居していることが伝わってきます。教会という重い題材を、丸みのある輪郭と素朴な表情で「親しみやすい人物」へと変換したところに、デザイナーとしての手腕が表れています。

ドラバント(Drabant、衛兵、1970–1973)

ビショップス(Bishops)の成功を受けて1970年に発表されたのが、ドラバント(Drabant、衛兵)です。スウェーデン王室の親衛隊を題材に、4体の陶板で構成されています。高さはおよそ28〜29センチで、ビショップス(Bishops)よりやや小ぶりにまとめられています。歴史的な衣装をまとう人物が浮き彫りで表現されています。

「Drabant」はスウェーデン語で王の側近・近衛兵を意味する古い言葉です。リサはこのシリーズで、ユニフォームの帯や装飾を細部まで描き込みながら、表情は素朴で愛らしく仕上げました。1973年まで生産され、その後は廃番となっています。

ポモナ(Pomona、果実、1971)

1971年にデザインされたポモナ(Pomona)は、4枚の正方形陶板からなるシリーズです。名前はローマ神話の果樹園と果実の女神に由来します。リンゴ、洋梨、葡萄、桜桃など、北欧の果樹園で実る果実が、明るい色釉で描かれています。

950点限定のリンゴの木の陶板
リサ・ラーソンが描いたリンゴの木の陶板。果実モチーフはポモナ(Pomona)シリーズに連なる主題となっている。

リサの陶板のなかでも、ポモナ(Pomona)は、北欧の長い冬のあとに訪れる庭の明るさを感じさせるシリーズです。素地の白と釉薬の黄、緑、赤のコントラストが、果樹園の風景を呼び起こします。当店ではリンゴの木をモチーフとした陶板を扱っています。

リサ・ラーソン ポモナの陶板、リンゴの木の下に座る男女
リンゴの木の下に座る男女を描いた陶板。緑の葉と赤・橙の実、二人の青い衣装が浅い浮き彫りで表される。

UNIK(ウニーク、1960年代)

UNIKは、リサ・ラーソンの陶板の中でもとくにコレクターに愛されるシリーズです。スウェーデン語の "unik" は「唯一の」「ユニークな」という意味を持ち、シリーズ名としては一般に UNIK / Unik と表記されます。正方形の陶板に、猫、鳥、植物、人物などを浮き彫りで表したシリーズで、釉薬の差し方や焼き上がりに個体差が出るため、量産品でありながら一枚ごとに表情が異なります。

青い雄鶏の陶板
青い雄鶏(Tuppfågel)を描いた陶板。鳥はUNIKシリーズで好まれたモチーフのひとつにあたる。
イソシギの陶板
イソシギ(Drillsnäppa)を描いた陶板。水辺の鳥を縦長の構図に収めている。

タリア(Thalia)・ユビレウム(Jubileum)・フィェリル(Fjäril)、その他

タリア(Thalia)は、ギリシャ神話の喜劇の女神に由来する名で、4本の花瓶、1枚の陶板、1枚の鏡で構成される統一感のあるシリーズです。白系のストーンウェアに辛子色(マスタードイエロー)の釉薬が差され、動物と人物のレリーフ装飾が施されています。

ユビレウム(Jubileum、記念日)は、結婚や周年の記念に贈られた陶板で、花に囲まれた男女のモチーフが浮き彫りで表現されています。贈答用途を想定した「節目を祝う陶」として、スウェーデンの家庭で長く愛されてきました。

Jubileum 金婚式の陶板
ユビレウム(Jubileum、金婚式)の陶板。花に囲まれた男女と「50」の文字が浮き彫りで描かれている。

フィェリル(Fjäril、蝶)は、ルンデル(Rundel、円形)シリーズの一作で、円形の陶板に蝶を浮き彫りで配した愛らしい作品です。直径は小ぶりで、玄関や子ども部屋の壁にも掛けやすいサイズに作られています。

蝶の壁掛けフィェリル
円形の陶板に蝶を配したフィェリル(Fjäril)。ルンデル(Rundel、円形)シリーズの代表作にあたる。

受注制作の陶板——ヴァイキング船とグーテンベルク

カタログ商品としての陶板シリーズに加えて、リサ・ラーソンは企業や団体からの受注制作(コミッション・ワーク)でも数多くの陶板を残しています。これらは一般市場には流通せず、組合員や関係者に配られたため、現存数が限られています。

商船福祉協議会向けのヴァイキング船陶板
スウェーデン商船福祉協議会(Handelsflottans Välfärdsråd)向けに制作されたヴァイキング船の陶板。

たとえばヴァイキング船を描いた陶板は、スウェーデン商船福祉協議会(Handelsflottans Välfärdsråd)への記念品として制作されたものです。航海の歴史を象徴する龍の船首と、シンプルな帆が浮き彫りで表現されています。

グーテンベルクの陶板
スウェーデン・タイポグラフィ組合のために作られた、活版印刷の祖グーテンベルクの陶板。

グーテンベルクの陶板は、スウェーデン・タイポグラフィ組合(印刷工組合)への記念品として制作された一枚で、活版印刷の祖ヨハネス・グーテンベルクの肖像が浮き彫りにされています。組合員に限定配布されたため、流通数は少なくなっています。

これらの受注制作品は、リサがグスタフスベリの量産ラインの仕事と並行して、デザイナーとして社会のさまざまな領域に関与していたことを物語っています。

制作技法——ストーンウェアと部分施釉

リサ・ラーソンの陶板の魅力は、技法と素材の選択に深く根ざしています。素地はストーンウェア(stengods)で、磁器と陶器とは別分類の「炻器」にあたる、高温で焼成される硬質な陶質素材です。一般にストーンウェアは高温で焼き締められるため、緻密で堅牢な素地になります。釉薬を一部だけ差しても、素地そのものの白い肌が美しく残ります。

1946年のグスタフスベリ工場
1946年のグスタフスベリ工場の様子。リサ入社の8年前、まだ手作業が中心の時代にあたる。Public domain / Wikimedia Commons

浮き彫りの作り方

陶板の制作工程は、原型からの石膏型起こしに始まります。リサが粘土で原型を作り、それから石膏で雌型を取ります。生産用には雌型に泥漿(スリップ)を流し込むか、粘土板を押し当てて成型します。乾燥後に素焼き、釉薬掛け、本焼きという順序で進みます。

部分施釉の美しさ

リサの陶板の多くは、「部分施釉」と呼ばれる技法で仕上げられています。素地全体に釉薬をかけるのではなく、人物の衣装や果実、鳥の羽など、特定の部分にだけ色釉を差します。これによって、白い素地のざらりとした質感と、釉薬を差した部分の艶やかさが対比的に浮かび上がります。

グスタフスベリのリンドベリ・スタジオ
グスタフスベリのスティグ・リンドベリ・スタジオ。芸術性の高い食器や陶の作品が生まれた現場にあたる。Holger Ellgaard / CC BY-SA 3.0

サインとバックスタンプ

リサ・ラーソンの陶板の真贋を見極めるうえで重要なのが、裏面のサインとバックスタンプです。多くの陶板には、リサ自身の手書きサイン「Lisa L」あるいは「Lisa Larson」が刻まれています。筆記体で書き付けられたサインは、釉薬を掛ける前の素地に針状の道具で引っ掻く形で残されたものが多く見られます。

サインと並んで、グスタフスベリの工場マーク(アンカー=錨のロゴ、または年代によっては手のマーク)が付されています。グスタフスベリのロゴは時代によって変化しており、ロゴから製造年代を推定することができます。

陶板の裏面サインとバックスタンプ
陶板の裏面の様子。「Lisa L」のサインとグスタフスベリのバックスタンプが刻まれている。

復刻版との見分け方

リサ・ラーソンの作品は、2000年代以降に復刻されたものも多く出回っています。とくに猫や子どものフィギュリンは複数の窯で復刻されており、陶板についても、近年の再生産品や復刻的に扱われる作品が見られるため、ヴィンテージ品として購入する場合は確認が必要です。ヴィンテージの陶板を見分けるには、(1) 素地の風合い、(2) サインの位置と書体、(3) 釉薬の表情の3点を総合的に確認することが目安になります。

1960〜70年代のヴィンテージは、素地に手作業由来のわずかな凹凸があり、釉薬の流れにもムラが残ることがあります。近年の復刻品は、ヴィンテージ品に比べて素地や仕上げが均一に見える場合があります。ただし、作品ごとに差があるため、サイン、バックスタンプ、素地、釉薬の表情を総合的に確認することが大切です。

飾り方・コレクションのヒント

グラナダのプレート
グラナダ(Granada)のプレート。陶板と並んで、装飾的なプレートもリサの代表的な仕事にあたる。

リサ・ラーソンの陶板は、北欧の家庭で白い壁に飾られるためにデザインされました。複数を組み合わせる場合は、シリーズで揃えるか、モチーフ(鳥、花、人物)でグループ化するのが基本です。ビショップス(Bishops)やドラバント(Drabant)のように人物の縦長陶板は、玄関の壁や階段の踊り場に飾るのにも向いています。ポモナ(Pomona)の果実モチーフは居間や廊下の壁に、UNIK(ウニーク)の動物モチーフは、子ども部屋や小さな壁面にもなじみやすい親しみやすさがあります。

壁への取り付け

陶板の裏面には、吊り下げ用の穴やフックが設けられているものが多くあります。穴がない場合は、専用のプレートハンガー(皿掛け金具)を使って固定します。ストーンウェアの陶板は意外と重みがあるため、石膏ボードに直接釘を打つのではなく、下地のある場所か、専用のアンカーを使って取り付けることが望ましいでしょう。

コレクションを育てる

リサ・ラーソンの陶板は、市場での流通量がフィギュリンほど多くありません。とくにビショップス(Bishops)やドラバント(Drabant)の完品セットは希少で、コレクター市場では一枚ずつ集めていくのが現実的です。受注制作の陶板(ヴァイキング船、グーテンベルクなど)はさらに流通量が少なく、出会えれば縁のあった一枚として大切にしたいところです。

ヴェルムドー郊外のグスタフスベリ
ヴェルムドー(Värmdö)にあるグスタフスベリの町。リサが作家としての重要な時期を過ごした場所にあたる。Jordgubbe / CC BY-SA 4.0

まとめ

リサ・ラーソンが1954年から1980年までグスタフスベリで作り続けた陶板は、フィギュリンとは異なる「壁に語りかける陶」の世界を切り拓きました。

ビショップス(Bishops)、ドラバント(Drabant)、ポモナ(Pomona)、UNIK(ウニーク)、タリア(Thalia)、ユビレウム(Jubileum)。シリーズごとに違うモチーフを取りながら、いずれもストーンウェアの白い素地と部分施釉の組み合わせという、彼女らしい清潔な美意識で貫かれています。

受注制作の作品まで含めると、陶板はリサの仕事を語るうえで欠かせない重要な分野だったことが分かります。フィギュリンが棚の上の小さな彫刻として愛され続けたように、陶板は北欧の家庭の壁面に飾られ、半世紀以上にわたって暮らしの中に居場所を与えられてきました。

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