スペインの海を閉じ込めた 掌サイズのコバルトブルー
1960年、ウラ・プロコッペがARABIAのためにデザインした「バレンシア(Valencia)」。シリーズ名はスペイン南東部の港町に由来します。濃いコバルトブルーの筆致は、地中海の静かな海と強い日差しを思わせ、ARABIA製品の中でも最も根強いファンを持つ不朽の名作となりました。
こちらはシリーズの中で最も小ぶりなデミタスカップ&ソーサーです。手のひらにすっぽりと収まるサイズで、厚みのある釉薬の上に、その上にコバルトブルーが一筆ずつ手描きされています。筆の運びには手仕事ならではの揺らぎがあり、同じ紋様でも一つひとつに異なる表情が見られます。深い青が釉薬の凹凸に沿って濃淡を生み、光の角度によって表情が変わるのは、手描きのバレンシアならではの特徴です。
ウラ・プロコッペとスペインの海
プロコッペ(1921–1968)は、バレンシアのほかにもルスカ(Ruska)を手がけ、ARABIAの黄金時代を支えたデザイナーのひとりです。彼女が考案したSモデルのフォルムは、後にフローラ(Flora)やコラーリ(Koralli)にも受け継がれました。
プロコッペは珪肺症のため1968年に47歳の若さで亡くなります。療養先はスペインのカナリア諸島でした。バレンシアという名前にスペインの港町を選んだこと、そして最期の日々をスペインの海辺で過ごしたこと——プロコッペが終生にわたり地中海の光と色彩に惹かれていたことが伝わります。
バレンシアは彼女の死後もロングラン生産が続き、2002年までの40年以上にわたってフィンランド国内で製造されました。その後は復刻されておらず、現在入手可能なものはヴィンテージ市場に出回るもののみとなります。
手書きサインが語る製造年代
本品は、カップとソーサーの裏面に手書きのサインがあることから、生産開始の1960年から1970年代に制作されたものと考えられます。バレンシアは80年代に一時生産が途絶えましたが、再開後は活字スタンプで「ARABIA」と刻印されるようになりました。つまり、手書きサインのあるバレンシアはヴィンテージの中でも初期のものにあたります。「UP」はウラ・プロコッペのイニシャルで、絵付師のイニシャルがスラッシュで区切られて記されています。
ARABIA — フィンランドが世界に誇る陶磁器の名窯
1873年、スウェーデンのロールストランド社がヘルシンキに設立した分工場がARABIAの始まりです。当初はロシア帝国向けの陶磁器を生産していましたが、1917年のフィンランド独立後に完全なフィンランド企業となり、20世紀半ばにはフィンランド最大の陶磁器メーカーへと成長しました。
黄金時代を築いたデザイナーたち
カイ・フランク(1911–1989)は「フィンランドデザインの良心」と呼ばれ、キルタ(後のティーマ)やカルティオなど、無駄を削ぎ落とした機能美の名作を生み出しました。1949年にはARABIAのクラウンマーク/王冠のバックスタンプもデザインしています。
ウラ・プロコッペ(1921–1968)は、コバルトブルーの手描きが美しいバレンシア(1960–2002年)と、鉄分を含む素地による独特の土色が魅力のルスカ(1960年代–1999年)を手がけました。ルスカの素朴な表面は日本の焼き物にも通じる風合いがあり、北欧と日本の美意識の近さがうかがえます。
このほか、ビルガー・カイピアイネン(1915–1988)は「装飾の王」と呼ばれ、名作パラティッシをはじめ華やかな装飾陶芸を制作。エステリ・トムラはフローラシリーズの植物画で知られ、ライヤ・ウオシッキネンも数多くの装飾パターンを手がけました。
ヴィンテージの見分け方 — バックスタンプ(刻印)ガイド
- 1874〜1930年頃:素地への型押し(インプレスト)が主流。1878年以降はフィンランドの紋章入りカラーマークも併用。
- 1932〜1949年:クルト・エクホルムがデザインした「パイプスタンプ」。工場に導入された122mのトンネル窯を表現したデザイン。
- 1949年〜現在:カイ・フランクがデザインしたクラウンマーク(王冠)。月桂樹の輪を逆さにして王冠に見立てた斬新なデザイン。1964年、1971年、1975年、1981年、2014年に更新。
- 生産年の読み方:1940年代以降は月→年の順で数字が刻印。2等品にはローマ数字IIや色付きドットが付されます。
- 2016年以降:ヘルシンキ工場は2016年3月に閉鎖され、現在はタイとルーマニアで生産。ヴィンテージ品はすべてフィンランド製で、「メイド・イン・フィンランド(MADE IN FINLAND)」の刻印があります。
■詳細スペック
- メーカー:ARABIA / アラビア
- デザイナー:Ulla Procope / ウラ・プロコッペ
- シリーズ名:Valencia / バレンシア
- 年代:1960年〜1970年代
- 製造国:フィンランド
- サイズ:カップ直径約7.5cm 高さ約5cm ソーサー直径約11.5cm
■コンディション:★★★★☆(4:美品)複数在庫品
オリジナルの姿を留めた割れや欠けや貫入がない美品です。ソーサーの表面は光に透かすとわずかにスレが見られますが、色つやが良い個体となります。
■関連コレクション
このシリーズのデザイナーについて詳しく知る: ウラ・プロコッペ完全ガイド|ルスカとバレンシアを生んだアラビアの革新者













