アラビア コラーリ(Koralli)完全ガイド——二人の巨匠が紡いだ、珊瑚色の手描きの名作

アラビア コラーリ(Koralli)完全ガイド——二人の巨匠が紡いだ、珊瑚色の手描きの名作

この記事の要点

  • コラーリ(Koralli)は、フィンランド語で「珊瑚」を意味するアラビアのストーンウェアシリーズ
  • フォームはウラ・プロコッペが1960年にデザインしたSモデル、装飾はライヤ・ウオシッキネンによる手描きのボタニカルデザイン
  • 生産期間はわずか4年(1983〜1987年)。全品手描きのため流通量が極めて少ない
  • 赤褐色・ピンクベージュ・グレーの花葉が織りなす、柔らかく温かみのある色彩が特徴
目次
  1. コラーリとは——フィンランド語で「珊瑚」
    1. 「珊瑚」の名を持つ食器
    2. コラーリの特徴
  2. 二人の巨匠が紡いだ名作
    1. フォームの母——ウラ・プロコッペ
    2. 装飾の詩人——ライヤ・ウオシッキネン
  3. Sモデル——北欧食器史上最も多産なフォーム
    1. コラーリの姉妹シリーズ
  4. 手描きのボタニカル装飾
    1. 一つとして同じものはない
  5. コラーリのアイテム一覧
    1. カップ&ソーサー
    2. プレート
    3. ボウル&サービングピース
  6. 1983年——コラーリが生まれた時代
    1. ヘルシンキ・トウコラの工場にて
  7. バックスタンプの読み方
  8. 日本の美意識との響き合い
  9. まとめ

コラーリとは——フィンランド語で「珊瑚」

「珊瑚」の名を持つ食器

Koralli(コラーリ)——フィンランド語で「珊瑚」を意味するこの名は、アラビア(ARABIA)が1983年に発表したストーンウェアシリーズに付けられました。赤褐色やピンクベージュの花と葉が、温かみのあるクリーム色の地肌の上でゆるやかに揺れる。その色彩はどこか、海底でゆっくりと枝を広げる珊瑚礁を思わせます。

珊瑚礁の水中写真
海中に広がる珊瑚礁。コラーリの装飾に通じる、自然が生む有機的な色彩と形(撮影: Toby Hudson / CC BY-SA 3.0)

コラーリの生産期間はわずか4年(1983〜1987年)。しかもすべてのピースが一点ずつ手描きで絵付けされたため、市場に出回った総数はアラビアの他のシリーズと比べると極めて限られています。この希少性ゆえに、ヨーロッパのオークションでは見積もり価格の3〜7倍で落札されることも珍しくありません。

コラーリの特徴

アラビア コラーリ コーヒーカップ&ソーサー
コラーリのコーヒーカップ&ソーサー。赤褐色とピンクベージュの花葉が手描きで描かれている

コラーリを手に取ると、まず目を引くのは筆のタッチの大胆さです。赤褐色、ピンクベージュ、グレーの三色で描かれた花と葉は、書道的な筆使いで一気に描かれています。水彩のように薄く透ける部分と、深く色が乗った部分が一つの花の中に共存し、奥行きのある表情を生み出しています。

素材はストーンウェア(炻器)。磁器よりも厚みがあり、手に取ったときの重みと温かみは、日常の道具としてデザインされた北欧食器ならではのものでした。

二人の巨匠が紡いだ名作

コラーリは、一人のデザイナーの作品ではありません。器の形(フォーム)表面の装飾を、それぞれ異なるデザイナーが手がけました。この分業体制は、アラビアが長年にわたって培ってきた製作の伝統です。

フォームの母——ウラ・プロコッペ

ウラ・プロコッペのポートレート
ウラ・プロコッペ(1921〜1968年)。アラビアを代表するフォームデザイナー(撮影: Pietinen)

コラーリの器の形を生んだのは、ウラ・プロコッペ(Ulla Procopé, 1921〜1968年)です。ヘルシンキに生まれ、中央工芸学校(現アールト大学)を卒業後、1948年にアラビアに入社。熟練した轆轤(ろくろ)の技術を持ち、量産に適した美しいフォームを次々と生み出しました。

1957年のミラノ・トリエンナーレでの受賞を経て、1960年に彼女が完成させたのがSモデルと呼ばれる汎用フォームです。このSモデルこそ、コラーリの器の形そのものです。同じフォームからルスカ(Ruska)、バレンシア(Valencia)、アネモン(Anemone)、フローラ(Flora)など、アラビアの代表的なシリーズが数多く生まれました。

アラビアのデザインチーム 1953年
1953年、アラビアのデザインチーム。左からカーリナ・アホ、サーラ・ホペア、ウラ・プロコッペ、カイ・フランク(撮影: Pietinen)

プロコッペは1968年、スペイン・テネリフェで珪肺症(けいはいしょう)のため47歳で亡くなりました。しかし彼女が遺したSモデルは、その後も20年以上にわたってアラビアの食器づくりの基盤であり続けたのです。

装飾の詩人——ライヤ・ウオシッキネン

ライヤ・ウオシッキネンとエステリ・トムラ 1957年
1957年のアラビア工場にて。左がライヤ・ウオシッキネン、右がエステリ・トムラ(撮影: Kalle Kultala / Lehtikuva)

コラーリの花と葉を描いたのは、ライヤ・ウオシッキネン(Raija Uosikkinen, 1923〜2004年)。フィンランド南部の町ホッロラ(Hollola)に生まれ、中央工芸学校で磁器の絵付けを学んだ後、1947年にアラビアに入社しました。以来39年間にわたって装飾デザイナーとして活躍し、「アラビア史上おそらく最も多作な装飾デザイナー」と評されています。

1895年のホッロラ教会
ウオシッキネンの故郷ホッロラ。1895年に撮影された中世の石造教会

ウオシッキネンは生涯で60回以上の海外旅行を重ね、東アジアを含む世界各地から布地を持ち帰ってはインスピレーションの源としていました。エミリア(Emilia)、ポモナ(Pomona)、ポラリス(Polaris)、リネア(Linnea)、そしてコラーリ——いずれも彼女の筆から生まれた名作です。

コラーリが発表された1983年、ウオシッキネンは60歳。1986年にアラビアを退職しており、コラーリは彼女のキャリア晩年の集大成ともいえる作品です。

Sモデル——北欧食器史上最も多産なフォーム

コラーリのティーポット
コラーリのティーポット。丸みを帯びたSモデルの優美なフォームがよくわかる

コラーリの器のフォームは、ウラ・プロコッペが1960年にデザインしたSモデルです。「S」はストーンウェア(Stoneware)の頭文字に由来し、厚手の炻器に最適化された堅牢で美しいフォームとして設計されました。

Sモデルの革新性は、一つのフォームに異なる装飾を施すことで、まったく異なる表情のシリーズを生み出せる点にありました。同じカップ、同じプレートでありながら、ルスカは大地の荒々しさを、バレンシアはコバルトブルーの華やかさを、そしてコラーリは珊瑚のような柔らかい温もりを表現しています。

コラーリの姉妹シリーズ

同じSモデルのフォームから生まれた主なシリーズは以下の通りです。

シリーズ 装飾デザイナー 生産開始
ルスカ(Ruska) 装飾なし(釉薬のみ) 1960年
バレンシア(Valencia) ウラ・プロコッペ 1960年
アネモン(Anemone) 1962年
フローラ(Flora) エステリ・トムラ 1970年代
コラーリ(Koralli) ライヤ・ウオシッキネン 1983年
アラビア バレンシアのトリベット
コラーリの姉妹シリーズ、バレンシアのトリベット(鍋敷き)。同じSモデルのフォームながら、コバルトブルーの装飾でまったく異なる表情を見せる(CC BY-SA 3.0)

手描きのボタニカル装飾

コラーリのティーカップ&ソーサー
コラーリのティーカップ&ソーサー。広い飲み口いっぱいに花と葉が広がる

コラーリの最大の魅力は、すべてのピースが絵付け師による完全な手描きであることです。転写(トランスファー)やステンシルではなく、一つ一つの花と葉が筆で直接描かれています。

装飾のモチーフは、赤褐色・ピンクベージュ・グレーの三色で構成された花と葉。ピンクベージュのストライプが器の縁や側面に走り、全体に柔らかなリズムを与えています。筆は書道のように太さを変えながら一気に運ばれ、大胆さと繊細さが共存する独特の表情を生み出しています。

一つとして同じものはない

コラーリの17.5cmプレート
コラーリの17.5cmプレート。筆の勢いや色の濃淡が一枚ごとに異なる

手描きであるがゆえに、コラーリには一つとして同じものが存在しません。水彩のように薄く透ける部分と、深く色が乗った部分が一枚の皿の上に共存し、見る角度によって異なる表情を見せます。この「不均一さ」こそがコラーリの本質であり、量産品でありながら一点物の温かみを宿す理由です。

コラーリのアイテム一覧

コラーリは、日常のテーブルに必要なピースがひと通り揃ったフルセットのシリーズとして展開されていました。

カップ&ソーサー

カップは4つのサイズが生産されていました。

種類 容量 特徴
デミタスカップ 約0.08L エスプレッソ用の小さなカップ
コーヒーカップ 0.15L フィンランドのコーヒー文化の定番サイズ
ティーカップ 0.28L 広い飲み口が特徴の浅めのカップ
マグ 0.3L 取っ手付きの大容量タイプ
コラーリのコーヒーポット
コラーリのコーヒーポット。蓋から注ぎ口まで全面に花葉が描かれている

プレート

コラーリの24cmディナープレート
コラーリの24cmディナープレート。リムの花柄とピンクベージュのストライプが美しいコントラストを描く

プレートは3つの基本サイズと深皿が確認されています。

種類 直径
ケーキプレート 17.5cm
プレート 20cm
ディナープレート 24〜25.5cm
スーププレート(深皿) 約20cm
コラーリのスーププレート
コラーリのスーププレート(深皿)。手描きの花葉がリムに沿って配されている

ボウル&サービングピース

コラーリの23cmボウル
コラーリの大サイズ23cmボウル。サービングピースとしてデザインされた深めの器

コラーリには、カップとプレートに加えて充実したサービングピースが揃っていました。

  • ティーポット(茶こし付き)
  • コーヒーポット
  • クリーマー
  • シュガーポット
  • ボウル(18cm / 23cm)
  • ソースボート
  • ピッチャー
  • オーブン皿
コラーリのソースボート
コラーリのソースボート。Sモデル特有の丸みを帯びたフォルムと、手描き装飾の組み合わせ

1983年——コラーリが生まれた時代

1965年のアラビア工場航空写真
1965年、ヘルシンキ・トウコラ地区のアラビア工場群を上空から(撮影: SKY-FOTO Möller / CC BY-SA 4.0)

コラーリが生まれた1983年は、北欧の陶磁器産業にとって激動の時代でした。1973年の石油危機以降、安価な輸入品との競争激化により、かつて隆盛を誇った北欧の窯は次々と人員削減や製品ラインの整理を迫られていました。

アラビアも例外ではありません。親会社ヴァルチラ(Wärtsilä)のもとで合理化が進むなか、1984年にはスウェーデンのロールストランドを買収。1990年にはハックマン(Hackman)グループへと売却されます。

そうした経済的な逆風の中で、コラーリは「既存のSモデルのフォームに新しい手描き装飾を施す」という、ある意味で合理的なアプローチから生まれました。新しい型を起こすコストをかけず、装飾の力だけでまったく新しいシリーズを生み出す——プロコッペが遺したSモデルの汎用性が、ここでも発揮されたのです。

ヘルシンキ・トウコラの工場にて

アラビア工場の建物
現在のアラビア工場の建物。かつてここでコラーリが一つずつ手描きで絵付けされていた(撮影: Markus Koljonen / CC BY-SA 3.0)

ヘルシンキの北東、ヴァンター川のほとりに位置するトウコラ地区。1874年にスウェーデンのロールストランドの子会社として設立されたアラビア工場は、この地で150年以上にわたって陶磁器を焼き続けてきました。

コラーリが生産されていた1983〜1987年、工場の絵付け部門ではウオシッキネンが描いた原画をもとに、熟練の絵付け師たちが一つ一つの器に筆を走らせていました。しかし、手描きの高いコストは経済合理化の波と相容れず、わずか4年で生産は終了。ウオシッキネン自身も1986年に退職し、コラーリはアラビアの手描き装飾の伝統の、一つの到達点として歴史に刻まれました。

現在のアラビアンランタ地区
現在のアラビアンランタ地区。工場跡地は大学キャンパスや住宅地として生まれ変わった(撮影: Safa Hovinen / CC BY 2.0)

バックスタンプの読み方

アラビアのバックスタンプ
Sモデルシリーズのバックスタンプの例(バレンシア)。「ARABIA」の文字と王冠マーク、「MADE IN FINLAND」が確認できる(CC BY-SA 3.0)

コラーリの生産期間(1983〜1987年)に使用されていたバックスタンプは、アラビアのクラウンスタンプ(王冠マーク)です。カイ・フランクが窯の排気管の輪を上下逆にしてデザインしたとされるこの王冠は、1949年以降アラビアのシンボルとして使われ続けてきました。

コラーリのバックスタンプの特徴は以下の通りです。

  • 「ARABIA」の文字 + 王冠マーク
  • 「MADE IN FINLAND」の表記
  • Sモデルを示すモデルマーキング(文字または文字ペア)

なお、アラビアは1971年以降、月や年の刻印を廃止しています。そのため、バックスタンプだけでコラーリの正確な製造年を特定することは難しく、「1983〜1987年のいずれか」という範囲での判断となります。

コラーリの真贋を見分けるポイントとしては、手描き特有の筆致の個体差があることが最も重要です。完全に均一なパターンの場合は、手描きではない可能性があります。素材がストーンウェア(炻器)であること、Sモデル特有の丸みを帯びたフォルムであることも確認してください。

日本の美意識との響き合い

コラーリの18cmボウル
コラーリの18cmボウル。手描きによる色の濃淡のゆらぎが、一点物の趣を生んでいる

コラーリの姉妹シリーズであるルスカの釉薬は、しばしば「日本の楽焼に似た素朴な表面」と表現されます。マット釉薬に鉄粉を施すことで生まれる一品ごとの表情の違いは、楽焼に通じる偶然性の美です。

コラーリにも同様の精神が流れています。手描きの装飾は完全な均一性を目指さず、筆の勢いや色の濃淡のばらつきを「個性」として受け入れています。水彩のように薄く透ける花弁と、深く色が乗った葉が一つの器の上に共存する——その不均一さの中に美を見出す感性は、日本の侘び寂びの精神と深いところで響き合っているように思えます。

装飾デザイナーのウオシッキネンは、60回以上の海外旅行で東アジアを含む世界各地を訪れ、模様のある布地を持ち帰ってはインスピレーションの源としていました。コラーリの柔らかな筆致の背景に、東洋の美意識からの影響があったとしても不思議ではありません。

コラーリの大サイズピッチャー
コラーリの大サイズピッチャー。大きな面に大胆に描かれた花葉が映える

まとめ

コラーリ(Koralli)は、ウラ・プロコッペのSモデルとライヤ・ウオシッキネンの手描き装飾が出会うことで生まれた、アラビアの隠れた名作です。わずか4年の生産期間、全品手描きという贅沢な製法、そして珊瑚のように温かく有機的な色彩——これらすべてが重なり合い、今日では希少なコレクターズアイテムとなっています。

北欧陶磁器産業が大きな転換期を迎えた1980年代、手描きの伝統を最後まで守り抜いたコラーリは、アラビアの職人たちの技と誇りの結晶でもあります。

あわせて読みたい関連記事

関連商品をチェック

コラムに戻る