北欧の壁飾りプレート(陶板)完全ガイド|リサ・ラーソン・ジイ・ガントフタ・ロールストランド・ARABIAが描いた装飾陶板の世界
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北欧の住まいを訪れると、ソファの上、玄関の壁、キッチンの一角に、必ずといってよいほど一枚の陶板が掛かっています。手のひらより少し大きい焼き物に、花、鳥、人物、街の景色が静かに描かれ、壁面に北欧の物語を運びます。
この壁飾りプレート(スウェーデン語でVäggplatta、フィンランド語でSeinälaatta)は、1950年代から70年代にかけて、北欧のミッドセンチュリーモダンと深く結びついて発展した装飾陶板です。この記事では、陶製・ストーンウェア製の壁面装飾を総称して「壁飾りプレート」または「陶板」と呼び、丸皿状のもの、角型のもの、立体的なレリーフ状のものも含めて扱います。絵画より手頃で、彫刻より省スペース。アパート暮らしの広がりと、機能性を重んじる北欧デザインの思想が交差したところに、この小さな焼き物の文化は生まれました。
本記事では、リサ・ラーソン、ジイ・ガントフタ、ロールストランド、ARABIA、ウプサラ・エクビーなど、北欧の主要な窯と作家が手がけた壁飾りプレートを横断的にたどります。窯ごとの個性、代表的なシリーズ、見分け方、そして読者がコレクションをはじめるための視点までを一冊のガイドにまとめました。
この記事でわかること
- 北欧で1950〜70年代に壁飾りプレート文化が広がった歴史的背景
- グスタフスベリ・ロールストランド・ARABIA・ジイ・ガントフタ・ウプサラ・エクビーの代表作と作家
- リサ・ラーソンのBishop・Drabant・Pomona・UNIK・Vaggplattorシリーズの違い
- バックスタンプ・素材・吊り具で陶板の年代と窯を見分ける方法
目次
- 北欧の壁飾りプレート文化の背景——なぜ1950〜70年代に広がったのか
- グスタフスベリ——リサ・ラーソンとスティグ・リンドベリが描いた壁面の物語
- ロールストランド——ストーンウェア陶板の頂点
- ARABIA——ルート・ブリュックとアートデパートメントの陶板
- ジイ・ガントフタ——スカンジナビアン陶板を広く普及させた窯
- ウプサラ・エクビー——マリ・シムルソンとイングリッド・アッテルベリ
- デンマークの壁飾り——ミケル・アナセンとナブストラップ窯
- 見分け方ガイド——バックスタンプ・素材・吊り具で読み解く
- コレクションをはじめるためのヒント
- まとめ——壁に掛けた一枚が、北欧そのものを運ぶ
1. 北欧の壁飾りプレート文化の背景——なぜ1950〜70年代に広がったのか
アパート暮らしとミッドセンチュリーモダン
第二次世界大戦後の北欧では、都市部のアパート暮らしが急速に広がりました。新しい住まいは限られた壁面しか持たず、絵画を一面に飾るような空間ではありません。そこに登場したのが、手のひらサイズから30cm前後の壁飾りプレートです。北欧諸国ではこの装飾陶板を Väggplatta(スウェーデン語)、Seinälaatta(フィンランド語)、Vægplade(デンマーク語)と呼び、絵画と工芸の中間に位置する芸術として独自に発展しました。
この流れを後押ししたのが、1954〜57年にかけてアメリカとカナダを巡回した展覧会「Design in Scandinavia」です。北欧の機能美が国際的に評価され、家庭の中の「アート×日用品」という考え方が定着しました。陶板はまさにこの思想を体現する存在となりました。狭い壁面に詩を一行掛けるように、陶板は北欧の住まいを彩るためにデザインされました。
ファイアンスからストーンウェアへ——素材の変化
1950年代初頭までの壁飾りプレートは、伝統的なファイアンス(軟質陶器)が中心でした。白い素地に錫釉をかけ、その上に手描きで絵付けします。グスタフスベリのGスタジオで、スティグ・リンドベリが多くのファイアンス陶板を手がけたのもこの時期です。
1950年代後半になると、ストーンウェア(炻器)が台頭します。1,200℃以上の高温で焼成された硬質の素地は、粗粒のシャモット(chamotte=焼成済みの粘土を粉砕した骨材)を含むことで、独特のざらつきと素朴な表情を生み出しました。ロールストランドのグンナー・ニールンドと、後継のカール=ハリー・ストールハネは、このシャモット・ストーンウェアの可能性を切り拓いたデザイナーです。リサ・ラーソンの代表作Bishop・Drabantシリーズも白いストーンウェアで、釉薬の透明感とシャモットの素朴さを両立させています。
2. グスタフスベリ——リサ・ラーソンとスティグ・リンドベリが描いた壁面の物語
グスタフスベリは1825年創業の老舗窯で、北欧の陶の産業を長く支えてきました。ロールストランドに次ぐ、スウェーデン有数の歴史をもつ窯としても知られます。20世紀のミッドセンチュリーには、ヴィルヘルム・コーゲ、スティグ・リンドベリ、リサ・ラーソンの三代にわたる芸術監督が、グスタフスベリを北欧モダニズムの中心へと押し上げました。壁飾りプレートにおいても、この窯は最大の表現力を発揮しました。
リサ・ラーソンの代表シリーズ:Bishop・Drabant・Pomona・UNIK・Vaggplattor
リサ・ラーソンは1954年にグスタフスベリのスタジオに入り、1980年まで26年間在籍しました。動物オブジェだけでなく、壁面に飾るレリーフ状の作品も含まれます。代表的なシリーズを年代順にたどります。
- Bishop(Biskop 1-5):1963〜69年。白ストーンウェアの細長いレリーフ、高さおよそ44cm。5体の聖職者が縦に並ぶ姿は、ゴシック建築の彫像を想起させる。
- Vaggplattor(壁プレートシリーズ):1966年から発表された大型レリーフ群。ヴェネツィア、ストックホルムの旧市街(ガムラスタン)、白鳥、リンゴの木など、街と自然をモチーフにした7点が知られる。
- UNIKシリーズ:1961年から発表されたユニークピース寄りの陶板。象、ひまわり、丸い猫、乗馬、鳥など、彫像のモチーフを平面化したような造形が特徴的。
- Drabant(1-4):1970〜73年。白ストーンウェアのレリーフ、高さおよそ28〜29cm。歴史衣装をまとった近衛兵が4体描かれた。
- Pomona:1974〜79年。果実モチーフの正方形プレート4種。ローマ神話の果樹園の女神ポモナに由来する。
これら5つのシリーズには、リサ・ラーソンの作家性が一貫して流れています。彫像の量感を平面に押し戻したような造形、釉薬と白い素地の余白の取り方、そして物語性のあるモチーフ選び。BishopやDrabantは中世ヨーロッパへ、Pomonaはローマ神話へ、Vaggplattorは北欧の街と自然へと、それぞれ異なる時空を一枚の壁に運んできます。
スティグ・リンドベリとGスタジオのファイアンス陶板
リサ・ラーソンの師であるスティグ・リンドベリは、グスタフスベリのGスタジオ(Studion)で多くのファイアンス陶板を手がけました。1950年代を通じて発表された壁飾り群は、白い錫釉に淡い色彩で描かれた魚、鳥、人物、抽象モチーフで構成され、一枚一枚がGスタジオの職人と手描きで仕上げられた限定的なエディションとして知られます。
Gスタジオは1942年に設立され、リンドベリは戦後の長きにわたってその中心人物として活動しました。陶板は通常のテーブルウェアとは異なり、職人と手仕事で仕上げられたアートピースとして位置づけられました。裏面には「Gustavsberg Studio Hand」のサインと、リンドベリのモノグラムが手書きで入ります。
ブリト・ルイス・サンデルとマルガレータ・ヘンニックス
グスタフスベリにはリサ・ラーソンと並んで活躍した女性作家が多数います。ブリト・ルイス・サンデルは1954年に入社し、1984年までの30年間、地中海風の動物モチーフや蝶のレリーフ、壁掛け時計などを手がけました。マルガレータ・ヘンニックスは1969〜2003年に在籍し、天使や花籠などポエティックな壁飾りを生み出しました。彼女たちの作品は、リサ・ラーソンの華やかさとは対照的に、より柔らかく、家庭的な詩情をたたえています。
3. ロールストランド——ストーンウェア陶板の頂点
ロールストランドは1726年創業の、ヨーロッパ有数の歴史をもつ老舗ブランドです。20世紀のロールストランドにとって、壁飾りプレートは「アート部門の到達点」でした。とくにストーンウェアの分野では、グスタフスベリと並ぶ高さに達しました。
グンナー・ニールンドが切り拓いた色彩シャモット
グンナー・ニールンド(1904〜1997)は、1931年から1959年までロールストランドの芸術監督を務めました。彼の最大の功績は、シャモットを含むストーンウェアと、マット釉と色釉を駆使した装飾技法をロールストランドに導入したことです。1940年代後半以降、彼の手による大型のひまわりプレート、レリーフ皿、彫刻的な壁プレートが次々と生まれました。
ニールンドのストーンウェアは、白い磁器とは異なる重厚な質感を持ちます。粗粒シャモットが指先に伝わり、釉薬は薄く流れたり、濃く滞留したりして、一枚ごとに表情が異なります。これが「ロールストランドのアート陶板」を独自のジャンルへと育てました。
シルヴィア・レウショヴィウスの「粘土と色彩の詩」
シルヴィア・レウショヴィウス(1915〜2003)は、1949年にイェーテボリ工芸学校を卒業し、ロールストランドに装飾担当として入社しました。「粘土と色彩の詩人」と評された彼女の作風は、ストーンウェアの素地に、淡い色釉と象眼のような線描を組み合わせたもので、白い小鳥、花、人物が静かに浮かび上がります。1970年代に発表された花鳥モチーフの大サイズ壁プレートは、彼女の代表作群です。
彼女はまた、1976年のロールストランド創業250周年を記念した「シルビア(Sylvia)」シリーズの絵柄を担当しました。スウェーデン王妃シルビアと同名のこの食器は、手描きの花が散らされた婚礼の食器として知られます。レウショヴィウスの仕事は壁飾りからテーブルウェアまで、ロールストランドの装飾デザイン全体に深く影響を与えました。
カール=ハリー・ストールハネのスタジオ陶板
カール=ハリー・ストールハネ(1920〜1990)は1939年にロールストランドに入社し、1973年までの34年間在籍しました。中国宋代の青磁・天目を深く研究したことで知られ、釉薬の表情を極限まで引き出した彼のスタジオピースは、ロールストランドのアート部門を象徴する存在となりました。1960〜70年代に手がけた粗質シャモットの壁プレートは、量感のある彫刻的なレリーフで、釉薬の流れと素地の対比が見どころです。
4. ARABIA——ルート・ブリュックとアートデパートメントの陶板
フィンランドのARABIAは、1873年にスウェーデンのロールストランドによって、ヘルシンキ郊外のアラビア地区に設立されました。1916年にフィンランド資本へ移り、戦後はWärtsilä傘下で発展していきます。1932年にはクルト・エクホルムが芸術監督となり、ARABIAのアート部門を牽引しました。アート部門には、ビルガー・カイピアイネン、ルート・ブリュック、トイニ・ムオナ、ミハエル・シルキンらが専属作家として迎えられました。彼らはテーブルウェアではなく、芸術陶器・壁飾り・大型陶板を専門に手がけました。
ルート・ブリュックのモザイク陶板と大統領官邸
ルート・ブリュック(1916ストックホルム生〜1999ヘルシンキ没)は、ARABIAの陶板の歴史において最も重要な作家です。1942年にARABIAアート部門へ入り、初期はビルガー・カイピアイネンと共同で、グラフィックの素養を活かした絵画的な陶板を手がけました。1945年にはガラスデザイナーのタピオ・ヴィルカラと結婚しています。
1960年代以降のブリュックは、小さなタイル状の陶片を組み合わせた大型モザイク陶板へと作風を転換しました。彼女の代表作は、1975年にヘルシンキ市庁舎ロビーに設置された大型モザイク壁画「太陽の都市(Aurinkokaupunki)」と、1987〜91年に大統領官邸マンティニエミ(Mäntyniemi)のために制作された7枚組レリーフ「氷の流れ(Jäänlohkare)」です。一枚一枚の陶片が独立した色面となり、組み合わさることでひとつの大きな風景となる構造は、ブリュックの到達点となりました。
ヒルッカ・リーサ・アホラとヘリヤ・リウッコ=スンドストレム
ARABIAアート部門のもうひとつの柱が、ヒルッカ・リーサ・アホラ(1920〜2009、通称HLA)とヘリヤ・リウッコ=スンドストレム(1938〜2024)です。アホラは1943年にARABIAでトレイニーとなり、装飾画家エルサ・エレニウスに師事しました。1974年までアート部門に在籍し、青い花を中心に詩的な陶板を多数残しました。1968年にはイタリア・ファエンツァ国際陶芸ビエンナーレでグランプリを受賞しています。代表作のひとつ「太陽の薔薇(Aurinkoruusu)」は、フィンランドの夏を象徴する一枚として知られます。
ヘリヤ・リウッコ=スンドストレムは1962年からARABIAで活動を始め、40年以上にわたって詩的な壁プレートを制作しました。彼女の作品はナイーブな線描と柔らかな色釉が特徴で、子どもの絵のような筆致のなかに、フィンランドの自然と物語が静かに息づいています。
ビルガー・カイピアイネンの装飾的なプレート
ビルガー・カイピアイネン(1915〜1988)は「装飾家の王(Koristelijoiden kuningas)」と呼ばれたARABIAのスター作家です。1937年にARABIAアート部門に入り、鳥(とくに極楽鳥)を主題にした装飾陶板を多く手がけました。ビーズや鏡片を釉薬の上に埋め込む独自の技法で、装飾性の極致を追求し、その作品はロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館にも収蔵されています。カイピアイネンの装飾陶板の系譜は、後のARABIA作家たちにも引き継がれ、上記のアンニッキ・ホヴィサーリ作のクジャクの陶板にも、その精神を見ることができます。
5. ジイ・ガントフタ——スカンジナビアン陶板を広く普及させた窯
スウェーデン・ガントフタ村の小さな窯
ジイ・ガントフタ(Jie Gantofta)は1942年、ジョン・エーヴェルト・"ジイ"・ヨーンソン(John Ewert "Jie" Johnson、1908〜1992)がヘルシンボリで創業した小さな陶器工房に始まります。1944年にスコーネ地方の小さな村ガントフタへ移転し、社名にその地名を加えました。1952年から家庭用陶器の生産を開始、1960年代半ばに装飾品専業へと舵を切りました。
ジイ・ガントフタが「壁飾りプレートの工房」として広く知られるようになったのは、1960年代後半以降です。シンプルな素地に、植物・動物・人物・スウェーデンの田園風景を彫り込み、淡い色釉で仕上げます。価格が手頃で、絵柄のバリエーションが豊富だったため、北欧の住まいに広く浸透しました。1992年に創業者ヨーンソンの死去とともに窯は閉鎖され、生産はポルトガルへ移管されました。
アイモ・ニエトスヴオリと花の陶板
ジイ・ガントフタの代名詞ともいえる作家が、フィンランド出身のアイモ・ニエトスヴオリ(Aimo Nietosvuori、1933年フィンランド・アシッカラ生まれ)です。1962年にスウェーデン・ヴェステロースに移住し、自身の工房アトリエ・レルトッペン(Atelié Lertuppen)を立ち上げました。1967年からジイ・ガントフタの製品設計に参加し、1976年に工房ごと買収される形でジイの専属となりました。閉鎖までに数多くの陶板を手がけ、ジイを代表する作家となりました。
アイモのデザインは、スウェーデンの自然と田園を主題にしています。野花、小麦、ベリー、田園風景、地方ごとの植物。背面に印刻された3桁のモデル番号と、彼自身のサインが入る場合があります。彼以外にも、アニタ・ニルンド(Anita Nylund)、エルシ・ボウレリウス(Elsi Bourelius)、アンニカ・シールマン(Annika Kihlman)、エゴン・ラーション(Egon Larsson)といった作家がジイ・ガントフタで活躍しました。
6. ウプサラ・エクビー——マリ・シムルソンとイングリッド・アッテルベリ
ウプサラ・エクビー(Upsala-Ekeby)は1886年にウプサラで創業し、1910年代以降は芸術陶器の分野でも知られるようになりました。スウェーデンの中部に位置するこの大工場は、20世紀半ばにはスウェーデン最大級の陶磁器グループへと成長し、ガビ・シトロン=テンボリ、マリ・シムルソン、イングリッド・アッテルベリ、ベリット・ターナー、エステル・ヴァーリンといった作家を擁しました。
マリ・シムルソン(1911〜2000)は、エストニア出身でロシアのサンクトペテルブルクに生まれ、後にスウェーデンに帰化した陶芸家です。1949年にウプサラ・エクビーへ入り、1972年までの23年間、装飾陶板や花瓶を多数手がけました。代表作「ベアタ(Beata)」(1965年)は、多彩色で描かれた少女の顔の円形壁プレートで、北欧モダニズムの装飾性の到達点に位置づけられます。
イングリッド・アッテルベリ(1920〜2008)は1944年にウプサラ・エクビーへ入社し、独自の釉薬を開発した陶芸家です。1940年代後半にはマンガン土を使った素朴な陶器を、1950年代以降はシャモットを含むストーンウェアの壁飾りを手がけました。彼女の作品は、釉薬のマチエール(質感)そのものを主題にした抽象的なものが多くあります。
7. デンマークの壁飾り——ミケル・アナセンとナブストラップ窯
デンマークの壁飾りプレートは、スウェーデン・フィンランドのそれと異なる発展を遂げました。中心となった窯のひとつが、1890年にボーンホルム島で創業したミケル・アナセン&サン(Michael Andersen & Son)です。島の赤土を活かした素地に、漁村の風景、海の生き物、人物を素朴な線で彫り込み、淡い色釉で仕上げる作風が知られます。
もうひとつの代表的な窯がナブストラップ(Knabstrup)です。シェラン島の小さな町で1856年に創業し、20世紀には装飾陶器の分野でも知られるようになりました。とくにディートリンデ・ハイン(Dietlinde Hein)が1960〜70年代に手がけた、青い民族衣装の女性たちの陶板は、デンマークの民間伝承を背景にした独特の世界観を持っています。
王立コペンハーゲン(Royal Copenhagen)とビング&グレンダール(Bing & Grøndahl、1987年にロイヤル・コペンハーゲンと合併)も、壁飾りプレートの分野で重要な役割を果たしました。とくに直径8cm前後の小さなファイアンス陶板「プラケット(plaquettes)」シリーズは、複数のデザイナーが原画を提供し、手のひらサイズの記念プレートとして広く流通しました。
8. 見分け方ガイド——バックスタンプ・素材・吊り具で読み解く
主要メーカーのバックスタンプ
壁飾りプレートの真贋と年代を判別する第一の手がかりは、裏面のバックスタンプです。主要メーカーの特徴を簡潔に整理します。
- グスタフスベリ:「GUSTAVSBERG」の社名と錨のマーク。Gスタジオ製は手描き、シリーズ製は印刷。リサ・ラーソンの陶板は「LL」または彼女のサインが手描きで入る。Drabant・Bishop・Pomonaは「Lisa L」と表記されることが多い。
- ロールストランド:三冠(Three Crowns)マーク。スタジオピースは「R」マークに加えてデザイナーのモノグラム(GN=ニールンド、CHS=ストールハネ、SL=レウショヴィウス)が手描き。年代によって冠の形が変化する。
- ARABIA:王冠と「ARABIA」のロゴ。アート部門の作品は「ARABIA ART」「TAIDETEOLLISUUS」などの追加表記が入り、作家のサインが手書きで添えられる。ルート・ブリュックは「Bryk」、カイピアイネンは「BK」、ヘリヤ・リウッコ=スンドストレムは「Heljä」のサインを残した。
- ジイ・ガントフタ:「JIE Sweden」の印刻と3桁のモデル番号。アイモ・ニエトスヴオリ作品には本人のサイン「Aimo」が入る場合がある。背面に紐通し穴があり、吊り下げ用の構造が成形されている。
- ウプサラ・エクビー:「UE」または「Upsala-Ekeby」のスタンプ。シリーズ番号と作家のサインが組み合わされる場合がある。
素材で年代を読む——ファイアンス・ストーンウェア・シャモット
素材は年代を読むうえで重要な手がかりです。1950年代前半までの陶板は、白いファイアンス(軟質陶器)に錫釉と手描き絵付けが主流でした。スティグ・リンドベリのGスタジオ作品が代表的です。
1950年代後半以降は、ストーンウェアが台頭します。1,200℃以上の高温で焼成された硬質の素地は、釉薬の発色が安定し、シャモット(焼成済みの粘土を粉砕した骨材)を加えることで素朴なざらつきを得ました。リサ・ラーソンのBishop・Drabantシリーズ、ロールストランドのストールハネ・レウショヴィウス作品が代表です。
指先で触れると、ファイアンスは滑らかで温かく、ストーンウェアは硬く密度があります。シャモットを含むものは、磨りガラスのような粒子の感触が指に伝わります。これは年代判別のもうひとつの指標となります。
吊り具の構造と取り付け
壁に掛けるための吊り具にも、メーカーごとの違いがあります。スウェーデン製の陶板は、背面に釉薬下の小さな穴が成形され、紐や金具を通す構造が一般的です。フィンランド製、とくにARABIAアート部門の陶板は、背面に素焼きの突起と穴を併設し、より重い作品でも安定して掛けられるよう設計されました。デンマーク製は、背面にワイヤーや金属フックを埋め込むタイプが多く見られます。
取り付け時は、陶板の重量と壁面の素材を確認したうえで、適切なフックを選んでください。重量のあるストーンウェア陶板や、ルート・ブリュックの大型モザイクなどは、画鋲では支えきれません。壁面にX字に2本のピンを打ち、その上に専用のフックを設置する方法が、北欧の住まいで広く用いられています。
9. コレクションをはじめるためのヒント
壁飾りプレートのコレクションをはじめるとき、まず考えたいのは「どんな空間に掛けるか」です。光の入る玄関、ソファの上、キッチンの一角、寝室の枕元。それぞれの場面に合わせて、サイズ・色・モチーフを選んでください。
入門として手に取りやすいのは、ジイ・ガントフタの花の陶板です。価格帯が比較的手頃で、絵柄のバリエーションが豊富で、北欧らしい素朴さがあります。リサ・ラーソンのPomonaシリーズも、果実モチーフの正方形プレートとして人気が高く、4枚を並べて飾る楽しみがあります。
中級者から上級者へ進むなら、ロールストランドのシルヴィア・レウショヴィウス、ストールハネのスタジオピース、ARABIAのアホラ・リウッコ=スンドストレム作品、そしてリサ・ラーソンの初期UNIK・Bishop・Drabantシリーズへと視野を広げるとよいでしょう。最終的にコレクションの頂点に立つのは、ルート・ブリュックの陶板です。中サイズの陶板でも稀少性が高く、大型のモザイク作品はオークションで高額が付きます。
飾り方の基本は「壁面の余白を活かす」です。北欧の住まいでは、白い漆喰壁や明るい色の木壁に、一枚の陶板を主役として掛ける飾り方が好まれます。複数枚を並べる場合は、サイズや色調を揃えるか、逆にあえて対照的なものを組み合わせて、視線の動きを設計するとよいでしょう。北欧のインテリア雑誌では、ソファの背後の壁にBishopの5体を縦に並べる構成や、Pomonaの4枚を正方形に組む構成がしばしば紹介されます。
10. まとめ——壁に掛けた一枚が、北欧そのものを運ぶ
北欧の壁飾りプレートは、1950〜70年代のミッドセンチュリーモダンと深く結びついて発展した装飾陶板です。グスタフスベリのリサ・ラーソンとスティグ・リンドベリ、ロールストランドのニールンド・レウショヴィウス・ストールハネ、ARABIAのルート・ブリュックとアホラ、ジイ・ガントフタのアイモ・ニエトスヴオリ、ウプサラ・エクビーのマリ・シムルソンとアッテルベリ。それぞれの窯と作家が、壁面という小さなキャンバスに、北欧の自然・人物・物語を焼き付けました。
バックスタンプ、素材、吊り具を読み解けば、一枚の陶板から窯と年代が見えてきます。そして壁に掛けた一枚は、北欧の市場を経て日本へ届いた小さな旅人として、住まいの空気を静かに変えていきます。
まとめ
- 北欧の壁飾りプレートは1950〜70年代のアパート暮らしの広がりとともに発展した装飾陶板です
- グスタフスベリのリサ・ラーソンが残した5シリーズ(Bishop・Drabant・Pomona・UNIK・Vaggplattor)は、この分野の中心的な遺産です
- ロールストランドのストーンウェア、ARABIAのアート部門、ジイ・ガントフタの花の陶板が、それぞれ独自の系譜を築きました
- バックスタンプ・素材・吊り具を観察すれば、一枚の陶板から窯と年代が読み取れます
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