シルビア・レウショヴィウス完全ガイド|「粘土と色彩の詩人」——ロールストランドで27年間花を描き続けた陶芸家
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この記事の要点
- シルビア・レウショヴィウス(1915–2003)はロールストランドで約27年間活躍したスウェーデンの陶芸家
- 1954年ミラノ・トリエンナーレで銀メダルを受賞した実力派
- ロールストランド創業250周年記念サービス「シルビア」の装飾デザインを手がけた
- 植物・鳥・子どもをモチーフにした「粘土と色彩の詩」と評される作風
目次
- シルビア・レウショヴィウスとは
- スモーランドの少女時代
- ヨーテボリでの学び——30歳からの再出発
- ロールストランドとの出会い
- 作風——粘土と色彩の詩
- ミラノ・トリエンナーレ銀メダル(1954年)
- 1960年代の黄金期
- シルビアシリーズの誕生——250周年の花
- 北欧デザインと日本の美意識
- 晩年——アリングソースへの帰還
- まとめ
シルビア・レウショヴィウスとは
シルビア・レウショヴィウス(Sylvia Leuchovius, 1915–2003)は、スウェーデンを代表する陶芸家のひとりです。ロールストランド窯で約27年間にわたり、壁板(ヴェッグプラッタ)、フィギュア、食器の装飾デザインを手がけました。
その作風は「粘土と色彩の詩(poesi i lera och färg)」と評され、植物、鳥、子どもといった自然のモチーフを、温かくユーモラスに、時にアイロニーを交えて表現しました。
スモーランドの少女時代
1915年3月29日、シルビアはスウェーデン南部スモーランド地方のリンネリード(Linneryd)に生まれました。父カール・ヨハン・レウショヴィウスは教会のオルガニスト兼聖歌隊指揮者で、音楽に満ちた家庭で育ちました。三人の兄弟とともに、スモーランドの深い森と湖に囲まれた環境で幼少期を過ごしています。
リンネリードの教会と音楽
スモーランドは「ガラスの王国」としても知られる手工芸の伝統が根強い地方です。コスタ・ボダやオレフォスといったガラス工房が点在し、ものづくりの精神が土地に染みついています。父の音楽的感性と、スモーランドの職人文化が、後のシルビアの芸術性の土台となりました。
ヨーテボリでの学び——30歳からの再出発
シルビアは最初、お針子(ソメルスカ)の訓練を受けました。しかし30歳のとき、人生を大きく転換する決断をします。1945年、ヨーテボリのスロイドフォレニンゲン・スコーラン(Slöjdföreningens skola)に入学したのです。装飾美術とグラフィックの部門で学び、1949年に卒業しました。
スロイドフォレニンゲン・スコーラン
この学校は1848年に設立されたスウェーデン有数のデザイン教育機関です。現在の正式名称はHDK-ヴァランド(HDK-Valand)で、ヨーテボリ大学に属しています。北欧デザイン界の多くの巨匠を輩出した名門です。
卒業時、学校長がシルビアの才能を認め、ロールストランドに直接推薦しました。この推薦が、彼女の人生を決定づけることになります。
ロールストランドとの出会い
1949年、シルビアはロールストランドのアーティストとして採用されます。主な任務は装飾デザイン(デコール)の創作でした。彼女はリードヒェーピング(Lidköping)に移り住み、ヴェーネルン湖畔のこの小さな町で、以後27年間にわたる創作活動を展開します。
ヴェーネルン湖畔の町リードヒェーピング
リードヒェーピングはスウェーデン最大の湖ヴェーネルン(Vänern)の南岸に位置する町です。1726年にストックホルムで創業したロールストランドは、1926年にヨーテボリへ移転した後、1930年代後半にこの地に工場を移しました。穏やかな湖畔の環境は、多くのアーティストにインスピレーションを与えてきました。
四人の女性陶芸家
1952年、ロールストランドは四人の女性陶芸家による展覧会を開催しました。ヘルタ・ベングトソン、マリアンヌ・ウェストマン、マリア・ハックマン=ダーレーン、そしてシルビア・レウショヴィウス。シルビアの壁板は「ロマンティックな色調」と評価され、イギリスのサンデー・タイムズ紙でも称賛を受けました。
この四人は、1950年代のロールストランドを支えた才能あるアーティスト集団でした。同僚のマリアンヌ・ウェストマンが食器のフォルムデザインを得意としたのに対し、シルビアは一点もの(ユニーク)の陶芸作品と装飾パターンの創作に力を注ぎました。
作風——粘土と色彩の詩
シルビアの作品は大きく二つのカテゴリーに分けられます。
一点ものの芸術作品:ストーンウェア(炻器)による壁板、フィギュア、そしてシャモット(粗粒粘土)を使ったプレートに陶器のスティルライフを配した作品群です。泥漿(スリップ)と落ち着いた色調の釉薬を駆使し、装飾的な構図を作り上げました。モチーフの世界は植物、鳥、そして子ども。「粘土と色彩の詩」と呼ばれる所以です。
量産品の装飾デザイン:コーヒーサービス「セレクト」、テーブルウェア「パリエッテ」「トスカーナ」、そして代表作「シルビア」の装飾パターンなど、日常使いの器にも詩情を込めました。
ミラノ・トリエンナーレ銀メダル(1954年)
1954年、シルビアはミラノ・トリエンナーレ(Triennale di Milano)に出品し、銀メダル(Medaglia d'argento)を獲得しました。この国際的な評価は、彼女の装飾的な陶芸が北欧デザインの文脈を超えて認められた証です。
同年のトリエンナーレには、同僚のカール=ハリー・ストールハーネやヘルタ・ベングトソン、マリアンヌ・ウェストマンも参加しており、ロールストランドの存在感を世界に示す機会となりました。
1960年代の黄金期
1959年にはロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館、1960年にはニューヨークの北欧陶芸展に作品が展示されました。そして1962年、ストックホルムのヴァルハッラヴェーゲンに新設されたロールストランドの展示ホールで、初の個展を開催。この展示ホールのオープニングを飾る栄誉を得ました。
キャリアを通じて約40回もの展覧会に参加し、スウェーデン国内外で高い評価を受けています。
公共装飾の仕事
シルビアは公共空間の装飾も数多く手がけました。ヨーテボリのクングスラドゥゴード学校(Kungsladugård)では陶板壁画を制作し、リードヒェーピング病院の装飾も担当しています。
彼女の作品はストックホルムの国立美術館(Nationalmuseum)、ヨーテボリのレースカ美術館(Röhsska museet)、ノルウェーのトロンハイム、そしてアメリカのコレクションにも収蔵されています。
シルビアシリーズの誕生——250周年の花
1971年、ロールストランドは経営合理化のため、工場のアーティスト全員を解雇するという苦渋の決断を下しました。シルビアもその一人でしたが、翌1972年にはフリーランス契約を結び、工場での制作期間を確保します。
そして1976年——ロールストランド創業250周年。この記念すべき年に、シルビアは祝典用サービスの装飾デザインを任されました。マリアンヌ・ウェストマンがフォルム(器の形)を、シルビアがデコール(装飾パターン)を担当。長石磁器の白い素地にスミレが咲く、優美なシリーズが誕生しました。
このシリーズには、デザイナー本人の名前「シルビア」が冠されました。シルビアシリーズの全アイテム解説やバックスタンプの読み方については、シルビア完全ガイドで詳しくご紹介しています。
北欧デザインと日本の美意識
シルビアの作品には、日本の美意識との近さを感じます。
「簡素(かんそ)」を重んじる日本の美学と、シルビアの抑制された色調の装飾。「用の美」を説いた柳宗悦の民藝思想と、日常の器に詩情を込めるスカンジナビアの伝統。そして自然のモチーフを愛する感性——草花、鳥、水辺の風景——は日本画の題材にも通じます。
シルビアの壁板に描かれた小鳥や草花は、日本の花鳥画(かちょうが)の伝統を思い起こさせます。東西の工芸が目指した「暮らしのなかの美」という理想は、時代も場所も超えて響き合っているのです。
晩年——アリングソースへの帰還
1976年、シルビアは最後の個展を開催し、引退を表明しました。その後、かつて若い頃に暮らしたヨーテボリ近郊のアリングソース(Alingsås)に戻り、絵画制作を続けながら静かな晩年を過ごしています。
2003年3月31日、88歳の誕生日からわずか2日後に永眠。スウェーデンの主要紙 Svenska Dagbladet は4月4日付でネクロログ(追悼記事)を掲載しました。1962年に Dagens Nyheter 紙の批評家レベッカ・タルシースが「Keramik med poesi(詩のある陶芸)」と題した記事で讃えた通り、シルビアの作品は「粘土と色彩の詩(poesi i lera och färg)」として、今もスウェーデンの美術館に静かに息づいています。
生まれ故郷スモーランドの教会音楽に囲まれて育ち、30歳で芸術の道に踏み出し、スウェーデン陶芸史に確かな足跡を残した生涯でした。
まとめ
- 生涯: 1915年スモーランド生まれ、2003年アリングソースにて没(88歳)
- 教育: スロイドフォレニンゲン・スコーラン(現HDK-ヴァランド)卒業(1949年)
- キャリア: ロールストランド正社員1949–1971年、フリーランス1972–1976年
- 受賞: ミラノ・トリエンナーレ銀メダル(1954年)、スカラボリ県文化奨学金(1971年)、エルヴスボリ県文化奨学金(1973年)
- 代表作: シルビアシリーズ(1976年)、セレクト、パリエッテ、トスカーナ、シャモット壁板
- 収蔵: ストックホルム国立美術館、レースカ美術館、ロールストランド美術館ほか