グスタフスベリ ゲフィール 楕円オーブン皿 イエロー|スティグ・リンドベリの耐熱ストーンウェア

グスタフスベリ ゲフィール(Gefyr)完全ガイド|スティグ・リンドベリが1952年に手がけた、オーブンから食卓への耐熱シリーズ

北欧食器タックショミュッケ編集部

この記事の要点

  • ゲフィール(Gefyr)は、スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg, 1916–1982)がグスタフスベリのためにデザインし、1952年から1956年に製造された耐熱シリーズです。
  • 素材は、窯の熱に耐えるストーンウェア(炻器)です。装飾を主役にしたファイアンスのカルネヴァルとは、性格の異なるラインにあたります。
  • 主題は「オーブンで焼いた料理を、別の器へ移さずそのまま食卓へ運ぶ」という、1950年代のスウェーデンが思い描いた新しい食事のかたちでした。
  • 色はパステルのイエロー・ターコイズ・ブルー・ライトブルーに、深いマスタードが加わります。縁のきわには白い釉薬の細い線が残されます。
  • 裏面のマークには、グスタフスベリの錨(いかり)と「UGNSELDFAST(オーブン耐熱)」「GEFYR」、型番や製造管理に関わる記号、「SWEDEN」が並びます。

ゲフィール——オーブンから食卓へ運ぶ、というひとつの発明

自作の器とともに写るデザイナー スティグ・リンドベリ
グスタフスベリの黄金期を率いたデザイナー、スティグ・リンドベリ(1916–1982)。自作の器とともに。撮影:Bent K. Rasmussen/パブリックドメイン

ゲフィール(Gefyr)は、スウェーデンを代表する陶芸家スティグ・リンドベリが、グスタフスベリのために手がけた耐熱シリーズです。太陽や鳥を描いたカルネヴァルのような装飾の器とは違い、絵柄を持ちません。かわりにこのシリーズがそなえているのは、窯の熱に耐えるという性能と、そのまま食卓に置いても美しい有機的なフォルムでした。

製造されたのは1952年から1956年までの短い期間です。オーブンで焼いた料理を、別の器へ移さずそのまま食卓へ運ぶ——そんな食事のかたちを、リンドベリはひとつの器に託しました。オーブンの熱に耐えることと、食卓に置いたときに美しいこと——この二つを同時に満たすことが、シリーズの主題になっています。

本記事は、当店ブログの「スティグ・リンドベリ完全ガイド」「北欧食器の素材ガイド」を補うかたちで、ゲフィールというひとつのシリーズに焦点をあてます。その背景にあるリンドベリの仕事、グスタフスベリという窯の町、耐熱ストーンウェアという素材、そしてフォルムと刻印の読み方までを、現地の写真とともにたどります。

目次

  1. ゲフィールの基礎データ
  2. ゲフィール(Gefyr)とは——1952年の耐熱シリーズ
    1. オーブンから食卓へ
    2. 耐熱食器という新しい考え方
  3. スティグ・リンドベリ——絵筆を持った陶芸家
    1. アートと日用品、二つの顔
  4. グスタフスベリ——ヴェルムドー島の窯の町
    1. 島に開いた窯
    2. アンカーマークとスタジオ
  5. 素材と技法——耐熱ストーンウェアという選択
  6. フォルムを読む——楕円・笹の葉・ココット
  7. 刻印で見分ける——UGNSELDFAST と GEFYR
  8. まとめ

ゲフィールの基礎データ

シリーズ名 ゲフィール(Gefyr)
デザイナー スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg, 1916–1982)
製造元 グスタフスベリ(Gustavsberg/スウェーデン)
製造期間 1952年〜1956年
素材 耐熱ストーンウェア(炻器)
イエロー・ターコイズ・ブルー・ライトブルーなどのパステル、深いマスタード。縁に白い釉薬の線
おもな器種 楕円のオーブン皿、笹の葉型プレート、蓋付きのカロット(ココット)、ボウル、盛り皿
マーク グスタフスベリの錨、UGNSELDFAST(オーブン耐熱)、GEFYR、型番・製造管理に関わる記号、SWEDEN

ゲフィール(Gefyr)とは——1952年の耐熱シリーズ

グスタフスベリ ゲフィールの楕円形オーブン皿 イエロー
ゲフィールの楕円形オーブン皿。長辺の両端が反り上がり、そのまま持ち手になる。やわらかなパステルイエローに、縁の白い線。

ゲフィールは、リンドベリがグスタフスベリのスタジオ部門で手がけた耐熱ストーンウェアのシリーズです。デザインは1952年、製造は1952年から1956年までのおよそ5年間にとどまります。この短さが、ヴィンテージ市場での存在感につながっています。

楕円のオーブン皿を見ると、シリーズの考え方がよくわかります。長辺の両端がゆるやかに立ち上がって反り、そこがそのまま持ち手になっています。ミトンをはめた手でつかんでも滑りにくい形で、オーブンから食卓まで運ぶ動作のために整えられています。装飾を足すのではなく、動きと用途からフォルムが決まっているのです。

オーブンから食卓へ

グスタフスベリ ゲフィールの蓋付きココット皿 イエロー
棒状の取っ手と注ぎ口をそなえた蓋付きのカロット。一人分を焼いて、蓋をしたまま食卓へ運ぶかたち。

蓋付きのカロット(ココット)には、シリーズの主題がもっとも素直にあらわれています。一人分をこの器で焼き、蓋をして食卓へ運ぶ。取り分けるための器も、盛りつけ直す手間もいりません。棒状の取っ手はまっすぐ伸びて先がふくらみ、器の熱から指を遠ざけます。注ぎ口が一箇所つくられているので、ソースやスープを注ぎ分けることもできます。

1950年代のスウェーデンでは、キッチンと食卓の距離を縮める住まいの工夫が進んでいきました。オーブンで焼いたものをそのまま卓上へ——ゲフィールは、その暮らしの流れをひとつの器に落とし込んだシリーズだと読むこともできます。この蓋付きのカロットは当店にも在庫があり、ゲフィールの蓋付きココット皿(イエロー)としてご覧いただけます。

耐熱食器という新しい考え方

オーブンでそのまま焼ける食器は、当時のスウェーデンではまだ新しい考え方でした。窯の急な温度変化に耐える土と釉薬を選び、直火やオーブンの熱にさらしても割れにくいように焼き締めます。ゲフィールは、そうした耐熱食器の先駆けのひとつに数えられます。裏面に押された「UGNSELDFAST(ウグンセルドファスト=オーブン耐熱)」の語が、その性能を今に伝えています。

興味深いのは、性能を優先しながらも、フォルムがどれも柔らかいことです。楕円、雫、笹の葉——工業製品らしい直線ではなく、自然の輪郭が選ばれています。耐熱という機能の器に、彫刻のような形を与えています。ここに、量産食器と装飾陶板の両方を手がけたリンドベリらしさが表れているといえます。

スティグ・リンドベリ——絵筆を持った陶芸家

スティグ・リンドベリは、1916年にスウェーデン北部の街ウメオで生まれました。ストックホルムで美術を学んだのち、1937年にグスタフスベリへ入り、師のヴィルヘルム・コーゲのもとで頭角を現していきます。1949年には芸術監督を引き継ぎ、以後この窯の黄金期を率いました。ミラノ・トリエンナーレでの受賞をはじめ、その仕事は国際的にも高く評価されています。

リンドベリの魅力は、作風の幅にあります。装飾ファイアンスのような一点ものに近い仕事もあれば、何万という家庭に届いた量産食器もあります。この振れ幅の大きさが、彼を戦後スウェーデンでもっとも親しまれたデザイナーのひとりにしました。ゲフィールは、その二つの極のあいだにある器だといえます。

アートと日用品、二つの顔

スティグ・リンドベリのベルサの緑の葉のカップとソーサー
リンドベリの代表作ベルサ。白地に緑の葉が連なる量産食器。撮影:Holger Ellgaard/CC BY-SA 3.0

リンドベリの名を広めた量産食器といえば、緑の葉が連なるベルサ(Berså)や、縞模様のスピサ・リブ(Spisa Ribb)です。いずれも大量に生産され、スウェーデンの食卓に深く根づきました。詳しくは「ベルサ完全ガイド」「スピサ・リブ完全ガイド」でも触れています。

スティグ・リンドベリのスピサ・リブの縞模様のカップとソーサー
スピサ・リブ。縦の縞が走る量産食器。ベルサと同じく、絵柄で語るシリーズ。撮影:Holger Ellgaard/CC BY-SA 3.0

いっぽうカルネヴァル(Karneval)に代表される装飾ファイアンスは、絵柄そのものが主役でした。ゲフィールは、そのどちらとも違います。絵柄で語るのでも、量産の手軽さで語るのでもなく、耐熱という性能とフォルムで語ります。リンドベリの引き出しの多さを示す、もうひとつの顔だといえます。装飾ファイアンスの側については、「カルネヴァル完全ガイド」をあわせてご覧ください。

グスタフスベリ——ヴェルムドー島の窯の町

1946年のグスタフスベリ工場の全景
1946年のグスタフスベリ工場の全景。鋸屋根の工房群と、その先に広がる群島の水。撮影:Sune Sundahl/CC0

ゲフィールが生まれたグスタフスベリは、ストックホルムの東に広がる群島のなかの島、ヴェルムドー島にあります。窯を囲むように町ができ、港から原料と製品が船で運ばれてきました。水と森にかこまれた立地そのものが、この窯の器の色や質感に影を落としているように感じられます。

島に開いた窯

ヴェルムドー島の自然保護区の夏草の小道と道標
ヴェルムドー島の自然の小道。夏草の原に立つ道標と、遠くの赤いコテージ。撮影:Jérôme Senaneuch/CC BY-SA 4.0

グスタフスベリは、スウェーデンで2番目に古い窯として知られます。もっとも古いのは1726年創業のロールストランドで、グスタフスベリはそれに続く歴史を重ねてきました。19世紀にはイギリス由来の技術を取り入れ、20世紀にはコーゲやリンドベリといったデザイナーを迎えて、北欧デザインの中心地のひとつになっていきます。

夏の島は、日ざしと緑にあふれます。岩肌に赤いコテージが点在し、澄んだ水が入り江に満ちています。ゲフィールのパステルの黄や、深いマスタードの色を眺めていると、こうした北欧の夏の光景がそっと重なってきます。

グスタフスベリの給水塔とマリーナ
グスタフスベリの給水塔とマリーナ。木立の上に立つ町のランドマーク。撮影:Holger Ellgaard/CC BY-SA 4.0

アンカーマークとスタジオ

手とGを組み合わせたグスタフスベリ・スタジオの陶板の看板
グスタフスベリ・スタジオの看板。手とGを組み合わせた印。リンドベリが率いたアート部門の象徴。撮影:Holger Ellgaard/CC BY-SA 3.0

グスタフスベリの器の裏には、錨(いかり)のマークが押されます。港町の窯にふさわしい印で、ゲフィールの裏面にもこの錨が見られます。グスタフスベリの裏面マーク全般の読み方については「グスタフスベリの年代判別ガイド」でくわしく解説しています。

グスタフスベリ陶磁器博物館の煉瓦の外観と看板
グスタフスベリ陶磁器博物館。煉瓦の工房を転用した建物と、壺をかたどったロゴの看板。撮影:Greger Ravik/CC BY-SA 4.0

リンドベリが率いたアート部門は「グスタフスベリ・スタジオ」と呼ばれ、手とGを組み合わせた印を掲げました。量産の食器工場のなかに、実験的な仕事を許す小さな工房を抱えていたことが、この窯の層の厚さを生みました。ゲフィールのように、性能とかたちを両立させる器が生まれた土壌でもあります。

素材と技法——耐熱ストーンウェアという選択

ゲフィールのオーブン皿の裏面 白い素地と高台
オーブン皿の裏面。釉薬をかけない白い素地が見える。厚みのあるストーンウェアが、蓄熱の力になる。

ゲフィールの素材は、ストーンウェア(炻器)です。陶器よりも高い温度で焼き締められ、吸水性が低く、緻密で丈夫という性質を持ちます。手に取ると見た目よりずっしりと重く、その質量がそのまま蓄熱の力になります。オーブンで熱をたくわえ、食卓でしばらく温度を保つ——耐熱シリーズにふさわしい素材選びです。陶器・磁器・炻器の違いは「北欧食器の素材ガイド」で整理しています。

ゲフィールの笹の葉型プレート マスタード
深いマスタードのゲフィール。乾いた土のような黄土色で、光の当たり方によっては琥珀色に寄る。パステル中心のシリーズのなかで、この色だけは重さがある。

色は、やわらかなパステルが基調です。イエロー、ターコイズ、ブルー、ライトブルーがそろいます。表面まで一様に釉薬が回り、白い素地は裏面にだけ残されます。縁のきわには白い釉薬が細い線となって残り、この一本の白が、色の面の輪郭をくっきりと際立たせます。パステルの群れのなかで、深いマスタードだけは明らかに重さを持ち、まわりの白い器を引き締めてくれます。マスタードのプレートは、ゲフィールのリーフ型プレート(マスタード)としてご覧いただけます。

フォルムを読む——楕円・笹の葉・ココット

ゲフィールの笹の葉型プレート イエロー
笹の葉をかたどった30cmのプレート。片端には葉柄をかたどった突起。細長い形が、食卓の器のあいだにすっと差し込める。

ゲフィールのフォルムは、自然の輪郭から引かれています。笹の葉をかたどった細長いプレートは、片端に葉柄をあらわす小さな突起を持ちます。この突起は形の締めくくりであると同時に、持ち上げるときに指がかかる場所でもあります。細く浅い姿は、ニシンや細長く切った野菜を一列に並べるのにちょうどよく、食卓では他の器のあいだにすっと収まります。イエローの一枚はゲフィールのリーフ型プレート(イエロー)としてご覧いただけます。

ゲフィールのココット皿を上から見た白い内側と黄色の取っ手
カロットを上から見たところ。外はパステルイエロー、内は白。色を内側に回さないのは、盛った料理の色を濁らせないため。

釉薬の使い分けにも、考え方が表れます。カロットは、外側がパステルイエロー、内側が白です。色を内側にまで回さなかったのは、盛りつけた料理の色が濁らないようにするためだと読むこともできます。楕円のオーブン皿、笹の葉のプレート、雫のかたちのカロット——器種はさまざまでも、どれもが有機的な曲線でつらぬかれ、シリーズとしての一体感を保っています。

刻印で見分ける——UGNSELDFAST と GEFYR

ゲフィールの裏面のマーク グスタフスベリの錨とUGNSELDFAST GEFYR 54 SWEDEN
ゲフィールの裏面のマーク。グスタフスベリの錨、UGNSELDFAST(オーブン耐熱)、GEFYR、型番の「54」、SWEDEN。

ゲフィールを見分ける手がかりは、裏面のマークに集まっています。中央にはグスタフスベリの錨が置かれ、その周りに「UGNSELDFAST」「GEFYR」「SWEDEN」の語と、器形を示す番号や製造管理に関わる記号が並びます。「UGNSELDFAST」はスウェーデン語でオーブン耐熱を意味し、「GEFYR」はシリーズ名です。

マークに添えられる番号は、器のフォルムを区別するための型番です。同じゲフィールでも、皿・ボウル・カロットなどで番号が変わり、数字をそのまま製造年と読むことはできません。写真の器の「54」も、そうした型番のひとつです。刻印の読み方は、「グスタフスベリの刻印(サイン)ガイド」でくわしく扱っています。あわせて、生産が終わったシリーズの背景については「北欧食器の『廃盤』とは」もご参照ください。

まとめ

夏のストックホルム群島の岩の島と赤いコテージ
夏のストックホルム群島。岩の島に立つ赤いコテージと、澄んだ水。ゲフィールの色が生まれた土地。撮影:Bengt Nyman/CC BY 3.0

ゲフィールは、絵柄を持たないぶん、素材とかたちと色だけで語る器です。オーブンから食卓へという1950年代の食事像を、耐熱ストーンウェアと有機的なフォルムで受けとめました。装飾ファイアンスや量産食器とはまた別の、リンドベリのもうひとつの引き出しを見せてくれます。パステルの黄や深いマスタードを前にすると、北欧の夏の島の光が静かに立ち上がってきます。

要点の整理

  • ゲフィールは、スティグ・リンドベリがグスタフスベリのためにデザインした耐熱シリーズで、製造は1952年から1956年です。
  • 素材は耐熱ストーンウェア(炻器)。オーブンで焼いてそのまま食卓へ運ぶ、という主題を持ちます。
  • 色はパステルのイエロー・ターコイズ・ブルー・ライトブルーと、深いマスタード。縁には白い釉薬の線が残ります。
  • フォルムは楕円・笹の葉・雫など、自然の輪郭から引かれています。
  • 裏面のマークには、錨・UGNSELDFAST・GEFYR・型番や製造管理に関わる記号・SWEDENが並び、シリーズ名や耐熱仕様、フォルム番号などを確認できます。

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