グスタフスベリのサインと絵付師マーク完全ガイド|スタジオの「手」の刻印と、魚や音符が示す絵付師の名前
北欧食器タックショミュッケ編集部スウェーデン・フィンランドから北欧ヴィンテージ食器を直接買い付け、1,000点以上を検品してきた当店が、一次情報と実物の観察にもとづいて執筆・編集しています。
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グスタフスベリのスタジオ・ファイアンスを一枚、裏返してみます。底面にあるのは、Gの字に指を立てた小さな「手」の浮き彫り、その脇に魚のような記号、モデル番号、そしてSWEDENの文字。社名のスタンプよりずっと小さなこの印たちが、実は、その器を「誰がデザインし、誰が絵付けしたのか」まで教えてくれます。
ロゴやバックスタンプが「いつ・どこで」を語る印だとすれば、サインと絵付師マークは「誰が」を語る印です。この記事では、グスタフスベリ・スタジオの「手」のマークの意味、底面の読み方の順序、そして約38名の絵付師たちが残した個別マークの一覧までをまとめます。年代の読み方はグスタフスベリの年代の見分け方で、ロゴの変遷はグスタフスベリのロゴの歴史で扱っているので、この記事は「人の印」に絞ります。
この記事でわかること
- スタジオの「手」のマークが生まれた背景と、その意味
- 底面の標準構成——手のマーク・絵付師マーク・モデル番号・SWEDENの読み方
- 「手のマークだけ」と「手のマーク+署名」の違い——量産彩色か、本人の原作か
- 魚、音符、きのこ——約38名の絵付師個別マーク一覧
- 絵付師マークが「無い」ことが持つ、逆説的な意味
- 手の色(茶・青・赤・黒・黄)と、色で作者を断定できない理由
- 「F/10·24」のようなモデル番号・パターン番号の読み方
スタジオの「手」——1942年に生まれた工房の証
グスタフスベリの芸術部門を率いたヴィルヘルム・コーゲ(Wilhelm Kåge)は、1942年、若きスティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)とともに実験工房「Gストゥディオン(G-studion)」を興しました。量産ラインとは別に、作家たちが自由に造形と装飾を探究する場です。ここで作られた品の底面に押されたのが、Gの字と手を組み合わせた浮き彫り——通称スタジオハンドです。
手のマークは、いわば工房の署名です。リンドベリやリサ・ラーソン(Lisa Larson)、ベルント・フリーベリ(Berndt Friberg)、カーリン・ビョルクィスト(Karin Björquist)など、スタジオに関わった作家たちが共有しました。つまり手のマークだけでは「スタジオの製品である」ことまでしか分かりません。誰の仕事かを知るには、その周りにある小さな印を読み解いていくことになります。
手の色は一つではない
スタジオハンドは青一色ではなく、資料では茶・青・赤・黒・黄の5色が確認されています。この記事の写真でも、青い手、赤い手、黒い手が登場します。コーゲは主に茶系、リンドベリは主に青を使ったという傾向が複数の資料で語られていますが、手は工房で共用されたマークです。色は作り手を推測する手がかりのひとつにとどめ、色だけで「誰の作品か」を断定しないのが安全です。
底面の標準構成——四つの要素に分解して読む
スタジオで量産された手描きファイアンス(錫釉陶器)の底面は、多くの場合、次の四つの要素でできています。
- スタジオハンド——Gと手のマーク。スタジオ製品の証
- 絵付師の個別マーク——魚や音符のような小さな記号。彩色を担当した職人の署名
- モデル番号——「P|49-16」のような型番。デザインと器形を示す管理記号
- SWEDEN——製造国の表記
ここでひとつ、判別の落とし穴に触れておきます。モデル番号の英数字を、作家のサインと読み違えないことです。オークションの説明などで「signerad(サインあり)」と書かれていても、実際には型番や絵付師マークを指している場合があります。文字が本当に人名の署名なのか、管理記号なのか——底面の鮮明な写真で確かめる価値があります。
モデル番号の読み方——Fで始まる英数字
当店の在庫の底面から実例を拾うと、「F/10·24」「F.05」「21.F」「R/82・43」——いずれも英字と数字の組み合わせです。Fは花柄(Flower)のパターンを指すとされ、続く数字がパターンや器形・色を管理する番号です。ただし書式は個体によって揺れがあり、すべてが解読できるとは限りません。大切なのは、これが工房の管理記号だと見分けられること。英数字を人名の署名と読み違えなければ、番号の細部が読めなくても鑑定は成り立ちます。
「手」だけか、「手+署名」か——ここで意味が変わる
スウェーデンのサイン資料サイトsignaturer.seは、リンドベリのファイアンスについて明快な基準を示しています。スタジオハンドのみ=リンドベリのデザインによる量産品(絵付師が彩色)。スタジオハンドに加えてStigの署名があるもの=リンドベリ本人による原作(originalarbete)。手のマークが「工房」を示し、署名が「本人の手」を示す——この二段構えです。
実際、量産の食器ファイアンスにリテラルな「Stig L」署名が入ることは通常ありません。署名が入るのは、一点物の炻器(stengods)や限定番号入りの陶板といった、本人が手がけた作品の側です。つまり底面に署名を見つけたら、それは例外的な一枚である可能性が高い——そう読むのが、この窯の印の文法です。
この底面がよい教材です。量産品では、デザイナーの名前は「DESIGN:」として印刷され、手描きの彩色は「HANDMÅLAT(HAND PAINTED)」という品質表示で示されます。名前があること・彩色が手描きであることと、本人の署名があることは、それぞれ別の話です。
魚、音符、きのこ——絵付師マーク一覧
スタジオでは約25年にわたり、およそ35〜40名の熟練絵付師が手作業で装飾を担いました。色や模様にある程度の裁量が与えられ、それぞれが自分の小さなマークを製品に残しています。魚ならMaja Snis、音符ならEdith Györi、きのこならMarianne Preissler——記号から人の名前へたどり着ける、いわば工房の名簿です。
| 絵付師 | 個別マーク |
|---|---|
| A. Kniv | Ψ(三叉の記号) |
| Alf Jarnestad | Vに下点 |
| Anita Roi | クローバー |
| Ann Hägg | Aとρを組み合わせた形 |
| Arne Sandström | 稲妻状の線 |
| Astrid Andersén | 三角から放射する線 |
| Astrid Wiberg | 三日月 |
| Ava Köhlin | ハート |
| B. Jörgensen | 葉に縦線 |
| Beth Macdonald | 太い三日月のC |
| Brita Jansson | Z字 |
| Britta Taubert | #(井桁) |
| Edith Györi | 音符 |
| Eduard Berchthold | 段のついた旗(E字) |
| Emil Löfdahl | L |
| Eva Bergman | 目 |
| Franca Pugno | 封筒(四角に×)/円に×の2種 |
| Giovanni Pugno | 六芒星 |
| Gofredo Nannini | フラスコ(壺) |
| H. Gammelbye | H・G |
| Helinä Pitkänen | チューリップ |
| Inga Andersson | 菱形に縦線 |
| Inge Klink | 木/ベルの2種 |
| Karin Björquist | W字の曲線 |
| Karin Gustavsson | 王冠のようなW |
| Kurt M Addin | 二重の斜線 |
| Lennart Lindkvist | 舟(三角の帆) |
| Lennart Svensson | 傘 |
| Maja Snis | 魚 |
| Margareta Bjärström | 山(二つの峰) |
| Marianne Preissler | きのこ |
| Osvaldo Delladonne | 上向きの矢印 |
| Sigrid Richter | 円の中にS |
| Undelius | 小鳥 |
| Ursula Printz | 波線 |
| Ville Olsson | 積み重ねた横線 |
※ 当店が参照している資料(リンドベリ展・スタジオ関連資料)に基づく一覧です。同一人物に複数のマークが確認されているケースもあります。
底面の小さな記号と、この一覧を突き合わせる。それだけで、半世紀前のスウェーデンで、その一枚に筆を入れた職人の名前が浮かび上がります。量産品でありながら、作った人の顔が見える——スタジオ・ファイアンスの魅力は、この距離の近さにあります。
記号の形も、置かれる位置も、一枚ごとに違います。手の色の違いとあわせて、もう少し並べてみます。
マークが「無い」ことの意味——逆説の署名
一覧を手にすると、逆のケースにも気づきます。スタジオハンドとデザイナーの署名はあるのに、絵付師の個別マークが見当たらない品です。
絵付師が彩色すれば、絵付師のマークが入る。そのマークが無く、デザイナー本人の署名だけがある——これは、デザイナー本人が絵付けまで手がけたことを示す根拠になります。当店でも、この「不在」を鑑定の手がかりのひとつにしています。サインの世界では、何かが無いことが、いちばん強い署名になることがあるのです。
リサ・ラーソンの作品では、工場期には写真のような「LISA L.」の刻印が、1992年からのKスタジオ期には素地に藍で手書きされた「Lisa L/K-Studion」のサインが用いられました。リサのサインの読み方と、サインの無い個体の考え方についてはリサ・ラーソン完全ガイドで、Kスタジオという工房そのものについてはKスタジオの解説記事で詳しく扱っています。
陶板の裏の「献辞」は手書きではない
もうひとつ、混同しやすい印を挙げておきます。記念品・贈答用のグスタフスベリ陶板の裏面に見られる献辞——たとえば「KURT LARSSON 50 ÅR 16·9·1977 FRÅN KONSUM STOCKHOLM」のような文字列です。筆記体で刻まれているため手書きのサインに見えますが、これは工房に発注して型入れされた印字です。企業が社員の節目に贈った品などによく見られる、この時代のグスタフスベリ陶板の特徴で、作家のサインとは性格が異なります。
当店の実例で読む
ここまでの読み方を、実際の一点でたどってみます。当店で扱っているリンドベリのスタジオ・ファイアンスのボウルは、白い器面に緑、黄、黒の絵の具がのびやかに躍る手描きの一点です。底面には、「底面の標準構成」の章で写真に載せたとおり、スタジオハンドと絵付師の小さなマーク——つまりGストゥディオンの製品であり、リンドベリのデザインのもとで工房の絵付師が彩色した一枚、と読めます。器の表の勢いのある筆致と、裏の小さな印。表と裏をあわせて読むと、一枚のファイアンスが急に雄弁になります。
底面を読む順序
- 手を探す——Gと手のマークがあればスタジオ製
- 英数字を読む——「F/10·24」のような型番か、人名の署名か。型番を署名と混同しない
- 小さな記号を探す——あれば絵付師の個別マーク。一覧表と突き合わせて名前へ
- 署名の有無で結論——手のみ=量産彩色。手+署名で絵付師マークが無ければ、本人絵付の可能性
まとめ
グスタフスベリの底面でいちばん雄弁なのは、社名の大きなスタンプではなく、Gと手の小さな浮き彫りと、魚や音符のようなささやかな記号です。手のマークが工房を、個別マークが絵付師を、署名が作家本人を指す。そして絵付師マークの不在が、本人絵付の根拠になる——印の文法さえ覚えれば、裏返した一枚から、それを作った人たちの顔ぶれまで読み取れます。
器の絵柄は表の顔、底面の印は裏の履歴書です。ヴィンテージを手に取ったら、まず裏返す。グスタフスベリの楽しみは、そこから始まります。
要点の整理
- スタジオハンド——1942年創設のGストゥディオンの証。作家たちが共有した工房の署名
- 底面の標準構成——手のマーク+絵付師の個別マーク+モデル番号+SWEDEN。型番を署名と混同しない
- 手の色は5色——茶・青・赤・黒・黄。色は傾向の手がかりで、作者の断定材料にしない
- 手のみ=量産彩色、手+署名=本人の原作——signaturer.seの基準。量産食器ファイアンスに「Stig L」署名は通常入らない
- 絵付師マーク約38名分の一覧——魚=Maja Snis、音符=Edith Györiのように、記号から名前へたどれる
- マークの不在は本人絵付の根拠——デザイナー署名のみの品は例外的な一枚と読む
- 陶板の献辞は印字——手書きのサインと混同しない
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