スウェーデンの国民的作家が生んだ 存在感あふれる北欧の芸術
リサ・ラーソンが1970年代にデザインした旧約聖書に由来する女性のガラス像です。旧約聖書の外典に含まれる「スザンナの入浴」は、美しい女性スザンナが二人の老人によって試みられる話です。
物語のあらすじは次のようになります。スザンナは裕福で信心深いユダヤ人の女性で、ある日彼女は自分の家の庭で入浴しているところを、悪意を持った二人の老人に見られます。彼らはスザンナに迫りますが彼女が拒否すると、彼らはスザンナが若い男と不義を行っていたと偽証します。スザンナは死刑に処されそうになりますが、若いダニエルが登場して彼女の無実を証明し、老人たちの偽証を暴きます。最終的に、スザンナは救われ、不正を行った老人たちは罰を受けます。
この物語は、正義、誠実さ、そして冤罪に立ち向かう勇気のテーマを探求しており、多くの美術作品でも描かれているモチーフとなります。リサ・ラーソンが聖書にモチーフを求めることは比較的珍しく、彼女の作品群のなかでも外伝的な立ち位置にある作品となります。
リサ・ラーソンは1980年に古巣のグスタフスベリ社を退社した後、フリーランスのデザイナーとしてヨーロッパ各国の企業からの依頼を受けていました。こちらはフリーの時期にスウェーデン国内のローヤルクローナというガラスメーカーから依頼され制作したオブジェとなります。
本品はクリスタルガラスで透明度が高く、いろいろな角度から見ると表情にも微妙な違いが生まれる秀作です。また、3kgほどある非常に重たい作品で、リサ・ラーソンのガラス作品では最大サイズとなります。そのままでも自立する作品ですがオリジナルの木製台座がないため、ブックスタンドなどで飾ることをおすすめします。
陶芸家がガラスに挑んだ理由 — リサ・ラーソンとローヤルクローナ
リサ・ラーソンは1954年から1980年までの26年間、グスタフスベリで一貫して陶器の制作に携わっていました。粘土を自らの手でこねて形を与え、釉薬をかけて窯に入れる — それがリサの創作の原点です。
ところが1970年代、リサはスモーランド地方の「ガラスの王国(Glasriket)」に拠点を置くローヤルクローナ(Royal Krona)からの依頼を受け、初めてガラスという素材に挑みます。ローヤルクローナは1975年にスクルーフ(Skruf)、グラスクルーフ(Gullaskruf)、オーセダ(Åseda)、ビョルクシュルト(Björkshult)、モーレロース(Målerås)の5つのガラス工場が統合して誕生したブランドです。夫のグンナル・ラーソンもまた同社でガラスデザインを手がけており、夫婦でガラスの世界に足を踏み入れました。
陶芸家にとってガラスは未知の素材です。粘土であれば自らの手で自在に形を変えられますが、ガラスは1000度を超える溶融状態でしか成形できず、専門の吹きガラス職人や型職人との協業が不可欠です。冷えてしまえば修正もできません。しかしリサの丸みを帯びた造形はガラスの鋳造技法と相性が良く、「自由な動物たち(Djur i frihet)」と名付けられた動物シリーズでは、陶器とは異なる透明な質感のなかにリサらしい温かみのあるフォルムが見事に再現されました。サイ、シロクマ、フクロウ、ライオン、猫など、陶器で培ったモチーフがクリスタルガラスのなかに新たな命を得ています。
ローヤルクローナは1977年に破産しますが、リサのガラス作品はスクルーフ(Skruf)に引き継がれ、1980年代まで制作が続けられました。本作「スザンナの入浴」は、陶芸家として四半世紀のキャリアを積んだリサが、ガラスという異なる素材で聖書の古典的画題に挑んだ意欲作です。約3kgの鉛クリスタルガラスで鋳造された重厚な作品で、光の角度によって表情が微妙に変化する、陶器では得られない透明感が最大の魅力です。
リサ・ラーソン — 北欧の愛すべき陶芸家
師匠スティグ・リンドベリとリサ・ラーソン。1年の試用期間が26年に。
リサ・ラーソン(1931-2024)。スウェーデン南部スモーランド地方エルムフルトに生まれ、ヨーテボリの工芸学校でテキスタイルから陶芸に転向。1954年、学生コンペの審査員を務めたグスタフスベリの巨匠スティグ・リンドベリに才能を見出され、「1年の試用期間」で工場に招かれました。その1年は、やがて26年間の創作活動へと続いていきます。
リンドベリが「レクストゥーガ(遊び小屋)」と呼んだ工房で、リサは「リッラ・ズー(小さな動物園)」「ABCガールズ」「アフリカ」など数々の名作を生み出しました。ある日、暗褐色のシャモット陶土でしっぽを立てた猫を作ったことが、生涯で約30種もの猫の陶器を生むきっかけとなります。
日本とリサ・ラーソン
ABCガールズの「ドーラ」に命を吹き込むリサ。1950年代の痩身美の風潮に対し、古代の豊穣の女神に着想を得たふくよかな女性像を創りました。
一つひとつ手描きで絵付けされるリサ・ラーソンの陶器。職人の手仕事ゆえの一点ずつの違いが、ヴィンテージ品の魅力です。
1970年、リサは大阪万博を訪れ、益子焼の人間国宝濱田庄司と出会います。民藝運動に触れたこの体験が、彼女の手仕事への信念をさらに深めました。2010年には日本の絵本のために赤い縞模様の猫「マイキー」を描き、やがてこの猫は日本中で愛されるキャラクターに。2014-15年の日本巡回展には21万人以上が来場しました。
ヴィンテージと復刻版の見分け方
リサ・ラーソン作品の制作時期は、バックスタンプで判別できます。
- グスタフスベリ工場時代(1954-1980) — 錨マークに「GUSTAVSBERG」「LISA L.」「SWEDEN」の刻印。最もコレクター価値が高いヴィンテージ品。
- フリーランス時代(1980-1992) — ロールストランド、イエ・ガントフタなど各メーカーの刻印。
- Kスタジオ(Keramikstudion:Kスタジオ)時代(1992年〜) — 「K-Studion」の刻印。リサが共同設立した工房で、ヴィンテージの名作を手作りで復刻。高品質ですがオリジナルとは異なります。
当店で取り扱うリサ・ラーソン作品は、スウェーデンから直接買い付けたヴィンテージのオリジナル品です。
■詳細スペック
- メーカー:Royal Krona / ローヤルクローナ
- デザイナー:Lisa Larson / リサ・ラーソン
- 年代:1980年代
- 製造国:スウェーデン
- サイズ:最大幅29cm 縦幅22cm 厚み3cm
■コンディション:★★★★★(5:完品)
割れや欠けがなく、市場で入手可能なヴィンテージのなかでもトップコンディションの作品です。






































