フィンランドの暮らしを繊細に描いた、ライヤ・ウオシッキネンの手描きバターケース
フィンランドを代表する食器メーカーARABIAのエミリア(Emilia)シリーズのバターケースです。蓋には花々に囲まれた庭で午後のひとときを過ごす婦人の姿が描かれています。傍らの小さなテーブルにはコーヒーポットが置かれ、優雅な午後の情景が細やかな点描で表現されています。本体の側面にはフェンスを模した幾何学的な装飾パターンが施されています。当時はバターを入れるための器としてデザインされました。
エミリア(Emilia)シリーズについて
エミリアはARABIAの名デザイナー、ライヤ・ウオシッキネンの代表作です。点描で描かれた風景はアメリカの理想の生活を表現したものとされています。シリーズ名の「エミリア」とは米国に住んでいたライヤの叔母の名前です。
乳白色の下地に白黒の点描という一見シンプルな技法ですが、絵柄は細部まで緻密に描かれています。各アイテムには異なる情景が描かれており、庭でくつろぐ婦人、ロッキングチェアで猫と過ごす午後、ハンモックでの読書など、穏やかな暮らしの一場面が切り取られています。

シリーズにはスクエアプレート、バターケース、キャニスター、TVセット(プレート&カップ)、フラワーベース、オーブン皿、塩入れなど多彩なアイテムが展開されました。販売当時は大ヒットしましたが、実用的な用として愛されてきた食器のため、現代まで良い状態で残っているものは多くありません。
ARABIA — フィンランドが世界に誇る陶磁器の名窯

1873年、スウェーデンのロールストランド社がヘルシンキに設立した分工場がARABIAの始まりです。当初はロシア帝国向けの陶磁器を生産していましたが、1917年のフィンランド独立後に完全なフィンランド企業となり、20世紀半ばにはフィンランド最大の陶磁器メーカーへと成長しました。

黄金時代を築いたデザイナーたち
カイ・フランク(1911–1989)は「フィンランドデザインの良心」と呼ばれ、キルタ(後のティーマ)やカルティオなど、無駄を削ぎ落とした機能美の名作を生み出しました。1949年にはARABIAのクラウンマーク(王冠のバックスタンプ)もデザインしています。
ウラ・プロコッペ(1921–1968)は、コバルトブルーの手描きが美しいバレンシア(1960–2002年)と、鉄粉を施した独特の土色が魅力のルスカ(1960年代–1999年)を手がけました。ルスカの粗い表面は日本の楽焼に似た風合いで、北欧と日本の美意識の近さを感じさせます。

このほか、ビルガー・カイピアイネン(1915–1988)は「装飾の王」と呼ばれ、名作パラティッシをはじめ華やかな装飾陶芸を制作。エステリ・トムラはフローラシリーズの植物画で知られ、ライヤ・ウオシッキネンも数多くの装飾パターンを手がけました。
ヴィンテージの見分け方 — バックスタンプ(刻印)ガイド

- 1874〜1930年頃:素地への型押し(インプレスト)が主流。1878年以降はフィンランドの紋章入りカラーマークも併用。
- 1932〜1949年:クルト・エクホルムがデザインした「パイプスタンプ」。工場に導入された122mのトンネル窯を表現したデザイン。
- 1949年〜現在:カイ・フランクがデザインしたクラウンマーク(王冠)。月桂樹の輪を逆さにして王冠に見立てた斬新なデザイン。1964年、1971年、1975年、1981年、2014年に更新。
- 生産年の読み方:1940年代以降は月→年の順で数字が刻印。2等品にはローマ数字IIや色付きドットが付されます。
- 2016年以降:ヘルシンキ工場は2016年3月に閉鎖され、現在はタイとルーマニアで生産。ヴィンテージ品はすべてフィンランド製で、「MADE IN FINLAND」の刻印があります。
■詳細スペック
- メーカー:ARABIA / アラビア
- パターンデザイン:Raija Uosikkinen / ライヤ・ウオシッキネン
- シリーズ名:Emilia / エミリア
- 年代:1960年代
- 製造国:フィンランド
- サイズ:横幅13cm 縦幅8.5cm 高さ5.7cm
■コンディション:★★★★☆(4.5:極美品)
内部底の一端にわずかに光に透かすとスレが見られます。底部の高台にみられる茶色い部分は汚れではなく、陶土の色が透けたものです。全体的に完品といってよい、ほとんどミントコンディションの作品です。柄のズレやにじみもなく、作品としての完成度も非常に高いものです。










