グスタフスベリ リネア(Linnea)ティーカップ&ソーサー|白地に藤色とピンクの釣鐘形の花が連なる北欧ヴィンテージ食器

グスタフスベリ リネア(Linnea)完全ガイド|スティグ・リンドベリが描いた、リンネの愛した小さな森の花

北欧食器タックショミュッケ編集部
グスタフスベリ リネア(Linnea)ティーカップ&ソーサー|白地に藤色とピンクの釣鐘形の花が連なる北欧ヴィンテージ食器
グスタフスベリのリネア(Linnea)ティーカップ&ソーサー。白い器面に、二輪ずつ垂れる小さな釣鐘形の花が連なる

この記事の要点

  • リネア(Linnea)は、スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)がグスタフスベリ(Gustavsberg)のためにデザインした、小さな花を主題とする食器シリーズです
  • 絵柄は、北欧の森にひっそりと咲く花リンネソウ(Linnaea borealis)。二輪ずつ対になって垂れる釣鐘形の花が、白い器面を静かに彩ります
  • リンネソウは、植物分類学の祖カール・フォン・リンネ(Carl von Linné)にちなんで名づけられた花で、彼がとりわけ愛した草花として知られます
  • 裏印には、グスタフスベリの錨マーク、SWEDENの文字、デザイナーの署名「STIG L.」、そして花の由来を語る英語の詩が記されています
  • 1965年にデザインされ、1970年まで生産されたヴィンテージで、白い余白を生かした静かな構成が、華やかな絵柄のシリーズとは異なる趣を持っています

リネア(Linnea)とは

リネア(Linnea)は、スウェーデンの名窯グスタフスベリ(Gustavsberg)のために、デザイナーのスティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)が手がけた、小さな花を主題とする食器シリーズです。背の低い円筒形のティーカップの胴を、細い蔓が一周し、そこから桃色と藤色の釣鐘形の花が二つずつ垂れ下がります。丸い葉は緑と水色が交互に置かれ、白い地に軽い線だけが走る、余白の多い絵柄が特徴です。

華やかに塗り込めるのではなく、細い線と小さな花、そして白い余白の対比で構成された佇まいは、1950〜60年代の北欧デザインが大切にした簡素の美しさを、そのまま器の上に写したように見えます。派手さはありませんが、手元に置くと、静かな野の草花がそっと寄り添うような、やわらかな印象を残します。

グスタフスベリ リネアのソーサーを真上から見た図|緑の蔓が縁をめぐり小花が連なる
リネアのソーサーを真上から見たところ。緑の蔓が縁をひとめぐりし、その内側に小さな釣鐘形の花が連なる

ソーサーは、中央に同じ草花を一株、その外側に蔓を巡らせた構成で、カップを載せると内と外で絵柄が呼応します。カップとソーサーを重ねたときに一つの野の風景ができあがるという、細やかな設計です。

「リネア」という名前は、スウェーデンの森に咲く小さな花リンネソウ(Linnaea borealis)に由来します。この名前は他の窯にも用いられ、たとえばフィンランドのARABIAにも同名のシリーズがありますが、絵柄も作り手も別のものです。グスタフスベリのリネアは、裏印にデザイナーの署名「STIG L.」が入る、スティグ・リンドベリの手によるシリーズです。

リンネソウ——絵柄に宿る北欧の小さな花

リンネソウの花のクローズアップ|二輪ずつ対になって下向きに咲くピンクの釣鐘形の花
リンネソウ(Linnaea borealis)の花。細い茎が二股に分かれ、二輪ずつ向かい合って下を向いて咲く(画像:Wikimedia Commons, Alpsdake, CC BY-SA 4.0)

リンネソウ(Linnaea borealis)は、北の針葉樹林の暗い林床にひっそりと生える、小さな常緑の匍匐性の植物です。細い茎が二股に分かれ、その先に淡い桃色の釣鐘形の花が二輪ずつ、向かい合って下を向いて咲きます。英語では twinflower(双子の花)と呼ばれ、この対になって咲く姿がそのまま名前になりました。

リネアのカップを改めて見ると、この花の姿がそのまま絵柄に写し取られていることがわかります。二つずつ垂れ下がる釣鐘形の花、細く伸びる蔓、丸い葉——器の上の草花は、空想の花ではなく、北欧の森に実在する一輪の記録です。

リネアの絵柄の接写|細い緑の蔓と桃色の釣鐘形の花、緑と水色の丸い葉
リネアの絵柄の接写。細い蔓から桃色の花が二輪ずつ垂れ、緑と水色の丸い葉が交互に並ぶ

色づかいも控えめです。花は桃色と藤色、葉は緑と水色。いずれもやわらかな中間色でまとめられ、白い地の広さが、その小ささをかえって引き立てます。数を描き込まず、余白を惜しみなく残す——この抑制こそが、リネアという絵柄の核にあります。

リンネソウの植物図|リンドマン「北欧植物図譜」より
スウェーデンの植物画家カール・リンドマンが「北欧植物図譜(Bilder ur Nordens Flora)」に描いたリンネソウ。匍匐する茎と二輪の花(画像:Wikimedia Commons, パブリックドメイン)

スウェーデンの植物画家カール・リンドマン(Carl Lindman)が「北欧植物図譜(Bilder ur Nordens Flora)」に残した図版と、リネアの絵柄を並べてみると、両者がよく似ていることに気づきます。地を這う細い茎、丸い葉、二輪ずつ垂れる花——リンドベリは、植物図譜のような正確さと、器の装飾としての軽やかさの、ちょうど中間にこの花を置きました。

「花の王」カール・フォン・リンネ

リンネソウの名は、スウェーデンが生んだ博物学者カール・フォン・リンネ(Carl von Linné、1707〜1778)にちなみます。彼は、生物にラテン語の属名と種小名を並べて記す二命名法(binomial nomenclature)を確立し、動植物の名づけの体系をつくりあげました。近代の分類学は、この人の仕事の上に立っています。

カール・フォン・リンネの肖像画|アレクサンデル・ロスリン筆
アレクサンデル・ロスリンが描いたカール・フォン・リンネの肖像。胸元に小さな草花の小枝が挿してある(画像:Wikimedia Commons, パブリックドメイン)

リンネ自身が、この小さな花をこよなく愛したことはよく知られています。数えきれない植物に名を与えた彼の名前が、北の森の目立たない一輪に結びつけられたのは、彼の友人であった植物学者グロノヴィウス(Gronovius)が、その花にリンネの名を献じたことによります。控えめで質素な花に自分の名がつくことを、リンネはたいそう喜んだと伝えられます。

カール・フォン・リンネの紋章|上部にリンネソウが描かれる
リンネの紋章。盾の上に、二輪の花を垂らしたリンネソウが描かれる(画像:Wikimedia Commons, Chiswick Chap, CC BY-SA 4.0)

その愛着は、彼が貴族に列せられたときに定めた紋章にもあらわれています。盾の上には、二輪の花を垂らしたリンネソウがはっきりと描かれました。リネアの器を手にすることは、そのまま、この博物学者が生涯かたわらに置いた一輪の花に触れることでもあります。

ウプサラのリンネ庭園|睡蓮の池とオランジェリー
リンネが植物を分類し教えたウプサラのリンネ庭園。睡蓮の池の奥にオランジェリーが建つ(画像:Wikimedia Commons, ArildV, CC BY-SA 4.0)

リンネが植物と向き合った舞台が、スウェーデン中部の街ウプサラです。大学の庭園には、彼が体系づけた植物たちが受け継がれ、季節ごとに花を咲かせます。器の上の小さな花は、こうしたスウェーデンの自然史の伝統と、静かに地続きになっています。

デザイナー、スティグ・リンドベリ

スティグ・リンドベリ|グスタフスベリのデザイナー
自作の器に触れるスティグ・リンドベリ。20世紀スウェーデンを代表するデザイナーの一人(画像:Wikimedia Commons, パブリックドメイン)

スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg、1916〜1982)は、20世紀のスウェーデンを代表するデザイナーの一人です。北部の街ウメオに生まれ、1949年には師であるヴィルヘルム・カーゲ(Wilhelm Kåge)の後任として、グスタフスベリの美術部門を率いる立場に就きました。以後1980年まで、この窯の顔として、数多くの器やテキスタイルを世に送り出しました。

ミラノ・トリエンナーレでは金メダルやグランプリを重ね、その仕事は国際的にも高く評価されました。葉のかたちを写したベルサ(Berså)をはじめ、身近な自然を明るく親しみやすい形に変える手腕は、リンドベリの真骨頂です。リネアもまた、森の小さな花をやさしいまなざしで写し取った、この作家らしい一作といえます。リンドベリの歩みは、スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)完全ガイドでくわしくたどっています。

スモーランドの森と明るい夏の夜——リネアの生まれた風景

スモーランド地方ローシュルトの古い農家|リンネの生まれた土地
リンネが生まれたスモーランド地方ローシュルトの古い農家。木の柵と草屋根の家が残る(画像:Wikimedia Commons, Boldings, CC BY-SA 4.0)

リンネが生まれたのは、スウェーデン南部のスモーランド地方でした。やせた土地に森と湖が続くこの地方は、けっして豊かとはいえない風土ですが、そのぶん人々は身近な自然をよく見つめて暮らしてきました。リンネソウは、このスモーランド地方の州花にも選ばれています。器の上の花は、リンネの故郷の野に咲く花でもあります。

針葉樹林の林床に咲くリンネソウ|北欧の森の下草
針葉樹の下草として、苔むした地面に広がるリンネソウ。小さな花が点々と下を向いて咲く(画像:Wikimedia Commons, Alpsdake, CC0)

リンネソウが好むのは、モミやマツの下の、日のあまり差さない林床です。派手な花畑ではなく、人の目につきにくい森の奥に、苔と針葉に埋もれるように咲きます。裏印の詩が「他の花が育たない暗いモミの影で」とうたうのは、まさにこの情景です。

スウェーデンの針葉樹林|苔むした林床に光が差す森
スウェーデンの針葉樹林。まっすぐな幹の間から光が差し、苔むした林床が広がる(画像:Wikimedia Commons, MMN-o, CC BY-SA 4.0)

スウェーデンの夏は日が長く、南部でも夜遅くまで薄明るさが残ります。裏印の詩は、そうした「明るいスウェーデンの夏の夜」に、遠くまで漂うリンネソウの甘い香りをうたっています。リネアの器を眺めていると、針葉樹の匂いと、いつまでも暮れない北の夏の空気が、そっと立ち上がってくるようです。

リネアを生んだ窯、グスタフスベリ

1946年のグスタフスベリ磁器工場|入り江に面したスウェーデンの窯
1946年のグスタフスベリの工場。ストックホルム近郊の入り江に面して、のこぎり屋根の工場が並ぶ(画像:Wikimedia Commons, Sune Sundahl, CC0)

グスタフスベリは、ストックホルム近郊の入り江に面した町で、1825年に磁器づくりを始めた窯です。スウェーデンでは、1726年創業のロールストランド(Rörstrand)に次ぐ古い歴史をもち、19世紀から20世紀にかけて、この国の器づくりを支えてきました。水辺に開けた工場の風景は、北欧の産業と自然が寄り添う土地の記憶そのものです。

20世紀のグスタフスベリは、ヴィルヘルム・カーゲ、スティグ・リンドベリ、そしてベルント・フリーベリ(Berndt Friberg)ら、時代を画するつくり手を擁しました。リネアもまた、こうした黄金期の空気のなかで生まれた一作です。窯の200年におよぶ歩みは、グスタフスベリ(Gustavsberg)完全ガイドにまとめています。スウェーデンの窯全体の見取り図は、スウェーデンの食器ブランド完全ガイドもあわせてご覧ください。

リネアの見分け方

リネアを見分ける手がかりは、まず絵柄そのものです。白い器面に、細い蔓と、二輪ずつ垂れる釣鐘形の小花、緑と水色の丸い葉。この余白の多い草花模様は、グスタフスベリの他のシリーズと明確に異なり、一目でそれとわかります。

リネアの裏印|リンネソウの絵とLINNEAの銘、英語の詩、グスタフスベリの錨マーク、SWEDEN、STIG L.の署名
リネアの裏印。リンネソウの絵とLINNEAの銘、由来を語る英語の詩、グスタフスベリの錨マーク、SWEDEN、そして「STIG L.」の署名

もう一つの決め手が、裏印です。本品の裏面には、リンネソウの小さな絵と「LINNEA」の銘、グスタフスベリの象徴である錨のマーク、「SWEDEN」の文字、そしてデザイナーの署名「STIG L.」が並びます。さらに、花の名の由来を語る英語の詩がそえられています。

Deep in the Swedish forests in the shadows of dark firs, where no other flowers grow, you can find this bashful plant. Many poets have sung the simple beauty of this little flower with its sweet almond scent that you can sense far and wide during the white Swedish summer nights. To honour "The King of Flowers" Carl von Linné (1707-1778), the herb was given its name Linnea.

他の花が育たない暗いモミの影、スウェーデンの森の奥深くに、この内気な花は咲きます。明るいスウェーデンの夏の夜に遠くまで漂う、甘いアーモンドの香りを放つこの小さな花の素朴な美しさを、多くの詩人がうたってきました。「花の王」カール・フォン・リンネ(1707〜1778)をたたえて、この草はリネアと名づけられました。

「STIG L.」の署名はスティグ・リンドベリを指し、錨のマークはグスタフスベリの器であることを示します。裏印の読み方や年代の手がかりは、グスタフスベリの刻印・絵付け師のサイン完全ガイドやグスタフスベリの年代の見分け方でさらにくわしく解説しています。

リネアは1965年にデザインされ、1970年まで生産されました。「SWEDEN」の刻印は、スウェーデンの工場で焼かれた証で、この時代のグスタフスベリが、北欧デザインの黄金期にあったことを物語ります。状態を見るときは、絵柄のすれや、釉薬表面の細かな網目状の亀裂である貫入の有無を確かめると、その器の来た道のりが見えてきます。貫入は経年の表情のひとつで、ヴィンテージらしい味わいとして受けとめられています。

リネアを暮らしの風景に

リネアのティーカップ&ソーサーを斜め上から見た図|白地に小花が連なる
リネアのティーカップとソーサー。白い器に、小さな野の花が静かに連なる

リネアは、大きな絵柄で空間を支配する器ではありません。けれども、棚の一角や窓辺にそっと置くと、白い地に散らばる小さな花が、部屋のなかに野の草花の気配を運んできます。派手に主張しないぶん、日々の暮らしの背景に、長くなじんでくれる器です。

一輪の小さな花に博物学者が名を与え、その花をデザイナーが器に写し、はるばる海を越えて日本の住まいに届く——リネアの器を手元に置くことは、そうした北欧の自然と人の物語を、暮らしのなかに小さく招き入れることでもあります。スウェーデンの器を贈り物として選ぶときの考え方は、北欧ヴィンテージ食器を贈り物にでもふれています。

要点の整理

  • リネア(Linnea)は、スティグ・リンドベリがグスタフスベリのためにデザインした、小さな花を主題とする食器シリーズです
  • 絵柄は、北欧の森に咲くリンネソウ(Linnaea borealis)。二輪ずつ垂れる釣鐘形の花と、白い余白の対比が核にあります
  • リンネソウは、植物分類学の祖カール・フォン・リンネにちなむ花で、彼の紋章にも描かれています
  • 裏印には、錨マーク、SWEDEN、署名「STIG L.」、そして花の由来を語る英語の詩が並びます
  • 1965年にデザインされ、1970年まで生産されたヴィンテージで、余白を生かした静かな構成が、リネアを見分ける手がかりになります

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参考資料:Wikipedia(Carl Linnaeus/Linnaea/Stig Lindberg/Gustavsberg porcelain)/Nationalmuseum, Sweden(Alexander Roslin によるリンネ肖像)/当店所蔵品の裏印

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