ARABIA エミリア(Emilia)完全ガイド|ライヤ・ウオシッキネンが黒い線で描いた、くつろいだ暮らしの情景
北欧食器タックショミュッケ編集部スウェーデン・フィンランドから北欧ヴィンテージ食器を直接買い付け、1,000点以上を検品してきた当店が、一次情報と実物の観察にもとづいて執筆・編集しています。
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フィンランドの老舗ブランドARABIA(アラビア)のエミリア(Emilia)は、乳白色の地に黒い細い線だけで、くつろいだ日々のひとこまを描いた食器シリーズです。庭でお茶をたのしむ人、猫を膝にのせて揺り椅子で過ごす午後、日傘をさして街を歩く紳士と淑女——一枚ずつ物語のような情景が焼きつけられています。
手がけたのは、ARABIAの絵付け部門で長く活躍したライヤ・ウオシッキネン(Raija Uosikkinen)です。エミリアは1957年に発表され、1960年代なかばまで作られました。色を使わず、線と点のつらなりだけで奥行きと表情を生み出すその絵は、半世紀以上を経てもなお古びません。
この記事では、デザイナーの横顔から、器に描かれた情景、シリーズにそろう器の種類、絵付けの技法と年代の見分け方、そして2023年に登場した復刻版との違いまでを、当店にあるエミリアの実物写真とともにたどります。読み終えるころには、この小さな器のなかに、北欧のおだやかな時間が流れているのが見えてくるはずです。
この記事でわかること
- エミリアを描いたライヤ・ウオシッキネンという作家
- 器に描かれた「くつろいだ暮らし」の情景の読み方
- スクエアプレートからバターケースまで、シリーズにそろう器
- スクリーン印刷という絵付けと、1957年のオリジナル/2023年の復刻の見分け方
目次
エミリアという食器
エミリアは、フィンランドのARABIAが1957年に発表した絵柄の名前です。特徴は、なんといってもその色づかいにあります。ほとんどの北欧ヴィンテージ食器が鮮やかな色や大胆な面で人を惹きつけるのに対し、エミリアは乳白色の地の上に、黒い一色だけです。極細の線と点のつらなりで、人物や花、街並みを緻密に描き込んでいます。
絵の主役は、いつも「くつろいだ暮らし」です。庭でお茶をたのしむ婦人、揺り椅子で猫と過ごすひととき、日傘をさして公園を散歩する人が描かれます。急ぐ様子はどこにもなく、時間がゆっくりと流れています。ARABIA自身も、この絵柄を「気ぜわしさのない暮らしの、物語のような幸福なひととき」を写したものと説明しています。
器の種類も豊富で、プレートやカップだけでなく、バターケース、キャニスター、花器、オーブン皿など、暮らしのさまざまな場面のための器がそろえられました。一つひとつに異なる情景が描かれているため、集める楽しみのある食器としても知られています。
ライヤ・ウオシッキネンという作家

ライヤ・ウオシッキネン(Raija Uosikkinen、1923–2004)は、1923年にフィンランド南部のホッラ(Hollola)に生まれました。ヘルシンキの美術工芸学校(当時はアテネウムの建物にありました)で学び、1947年に陶芸家として卒業しています。同じ年にARABIAへ入り、以後1986年に退くまで、40年近くをこの窯で過ごしました。

ARABIAの絵付け部門で、彼女はエステリ・トムラ(Esteri Tomula)とともに、戦後の器を彩る中心的なデザイナーの一人になりました。エミリアのほか、イスラーム装飾に着想を得たアリ(Ali)、ウラ・プロコッペの器に絵付けをしたピルッティ(Pirtti)、そしてフィンランドの叙事詩をテーマにしたカレワラの年次プレート(1976年から)など、数多くの絵柄を残しています。カイ・フランクが手がけたB型の器に絵をつける仕事も、彼女の大切な役割でした。

ウオシッキネンの人物像と代表作については、別の記事でくわしくまとめています。あわせてライヤ・ウオシッキネン完全ガイドもご覧ください。
ARABIA——ヘルシンキ生まれの名窯

ARABIAは1873年、スウェーデンのロールストランドがヘルシンキ郊外のアラビア地区に築いた分工場として始まりました。1917年にフィンランドが独立するとフィンランドの企業となり、20世紀なかばには国内最大の窯へと成長します。現在はフィスカルスグループの一員となり、イッタラのブランドのもとで受け継がれています。ブランドの歩みや価格については、アラビア食器はなぜ高い?でも解説しています。
黒い線が描く、くつろいだ暮らしの情景
エミリアの魅力は、器ごとに異なる情景が描き込まれていることにあります。ここでは、当店にあるエミリアの器を手がかりに、その絵の世界をのぞいてみましょう。
台所に立つ人

スクエアプレートに描かれるのは、器のならぶ棚を背にした台所のひとこまです。窓辺には鉢植えの花が置かれ、足もとには市松模様の床が広がります。エプロン姿の女性が小さな器を手にしています。棚に並ぶコーヒーポットやカップまで一つずつ描き分けられていて、線をたどるほどに小さな発見があります。
花咲く庭のひととき

バターケースの蓋には、花に埋もれるような庭が広がります。片手に花を持って歩く女性、そのかたわらの小さなテーブルには、コーヒーポットとカップが置かれています。器の側面には、まるで刺繍のような細かな幾何学の帯がめぐらされています。北欧の短い夏、庭で過ごすひとときへのあこがれが、静かに伝わってきます。
猫と過ごす午後

キャニスター(保存容器)の蓋には、揺り椅子に腰かけ、膝に黒い猫をのせた女性が描かれています。まわりには花が咲き、足もとには編みかごのような器が置かれています。何をするでもなく、ただ猫とともに過ごす午後の時間が切り取られています。胴を一周する柵のような帯模様も、この器の見どころです。
散歩する紳士と淑女

花器には、寄り添って歩く紳士と淑女が描かれています。つばの広い帽子とコートに身を包んだ女性、そして山高帽に格子柄のズボンの男性が寄り添います。足もとには花が咲きみだれ、二人の装いはどこか古い時代を思わせます。人物の衣服の柄——市松、ダイヤ、細いストライプ——を一枚の絵のなかで描き分ける、ウオシッキネンの筆の細やかさがよく表れています。
公園の遊歩道


縦長のコーヒーカップには、街の遊歩道が器を一周して描かれています。羽根飾りのついた帽子の婦人、乳母車を押す人、人形を抱いた少女、そして柵の向こうに連なる丸屋根の建物が描かれています。人々が思い思いに散歩する公園のにぎわいが、細い線だけで生き生きと立ち上がってきます。

木立の並ぶ遊歩道を、人々がゆったりと行き交う——ヘルシンキの中心にあるエスプラナーディ公園のような光景は、エミリアに描かれた街の情景とどこかで重なります。器のなかの散歩道をたどっていると、北欧の街を歩いているような気持ちになってきます。
「エミリア」という名前と、絵の着想
これほど物語性の強い絵柄だけに、「エミリアとは誰なのか」という問いは、コレクターのあいだでもたびたび語られてきました。じつのところ、名前の由来については確かな記録が残っておらず、ちまたに出まわる説には食い違いも見られます。
比較的たしかな手がかりは、ARABIA(現在のフィスカルス)自身の説明です。それによれば、この絵柄はウオシッキネンの叔母——90歳を超えてなお庭仕事を愛した女性——のくらしから着想されたと伝えられています。エミリアに描かれる庭やお茶の時間、のんびりとした散歩の情景は、そうした身近な人の暮らしへのまなざしから生まれたのかもしれません。当店では、確認のとれない人物名や物語は書き添えず、絵そのものが伝えてくる「気ぜわしさのない暮らし」という主題を、そのまま受け取りたいと思います。
シリーズにそろう器のかたち

エミリアは、食卓と台所のさまざまな場面のために、幅広い器が作られました。おもなものを挙げると、次のような顔ぶれです。
- スクエアプレート(正方形の皿)
- バターケース
- キャニスター(保存容器)/塩入れ
- TVセットと呼ばれる仕切り付きのプレート
- 花器
- オーブン皿
- コーヒーカップ(縦長のかたちと、寸胴に近いかたちの二種類)
コーヒーカップに二つのかたちがあるように、同じエミリアでも器の形は一つではありません。同じ絵の世界のなかで、器ごとに情景が変わっていく——それが、このシリーズを集めるときのいちばんの楽しみになっています。北欧のうつわの器種そのものに関心があれば、北欧食器の素材ガイドもあわせてどうぞ。

スクリーン印刷という絵付け
エミリアの緻密な線は、一つずつ筆で入れたものではなく、スクリーン印刷で焼きつけられています。極細の線や点の集まりを、器の曲面にも均一に移すことができる方法です。ウオシッキネンの原画のこまやかさが、そのまま量産の器に生きているのは、この絵付けのおかげです。
色を一色に絞り、線の密度だけで濃淡や奥行きを生み出すこの表現は、北欧のグラフィックデザインとも響き合っています。派手さはないのに、いつまでも見ていられる——エミリアが長く愛されてきた理由の一つが、ここにあります。ウオシッキネンが手がけた植物画については、ARABIAの花柄食器完全ガイドでも取り上げています。
年代の見分け方と、2023年の復刻

オリジナルのエミリアは、1957年から1960年代なかばまで作られました。器の底には、カイ・フランクが1949年にデザインした王冠のマークと「ARABIA MADE IN FINLAND」の文字が入ります。マークのそばにある数字は、製造を管理するための符号で、そのまま製造年月を表すものではありません。年代は、マークの形や刷り色の違いを手がかりに読み解いていきます。刻印の細かな見分け方は、アラビアの刻印(バックスタンプ)年代別完全ガイドにまとめています。
オリジナルと2023年の復刻
エミリアは、ARABIA創業150周年にあたる2023年に、「愛された絵柄」を復活させる企画のなかで復刻されました。マグカップやプレートが新たに作られ、現行品として販売されています。つまり市場には、1950〜60年代のオリジナルと、2023年以降の復刻版の二つが流通しています。
両者を分ける手がかりは、絵付けの方法ではありません。オリジナルも復刻版もスクリーン印刷です。手がかりになるのは、まず製造国です。オリジナルはフィンランド製で、2023年の復刻はタイで作られています。器のかたちも当時のままではなく、ARABIAは復刻にあたって「現代のライフスタイルに合わせた新たなシェイプ」を用いたと説明しています。加えて底のマークの新旧も、年代を読む手がかりになります。どちらも正真正銘のARABIA製ですが、作られた時代と場所が違います。ヴィンテージと復刻の一般的な見分け方については、北欧ヴィンテージと復刻版の見分け方もご参照ください。
状態の見方と、飾って楽しむ
60年以上前に作られたオリジナルのエミリアには、時代を経た器ならではの表情が見られます。買い求めるときや手もとの器を眺めるときは、次のような点に目を向けてみてください。
- 貫入(かんにゅう):釉薬の表面に見られる細かな網目状の線です。経年による自然な変化で、欠陥ではありません。エミリアのカップにもよく見られます。
- 欠け・ひび・摩耗:縁の欠けや、素地までいたるひび、絵柄のかすれを確認します。スクエアプレートは薄づくりのため、縁の状態は特に見ておきたいところです。
- 絵柄の濃さ:長く使われた器では、線が薄くなっていることがあります。
お手入れのときは、絵柄を傷めないよう、やわらかいスポンジでやさしく洗います。漂白剤は絵の色を損なうおそれがあるため、貫入の汚れが気になる場合でも避けたほうが安心です。
モノトーンで緻密なエミリアの絵は、現代の住まいにもよくなじみます。棚に立てかけたり、壁に飾ったりすれば、小さな一枚が北欧のおだやかな時間を部屋に運んでくれます。色を主張しないぶん、木の家具ともグリーンとも静かに調和する——それが、エミリアという食器の懐の深さです。
まとめ
要点の整理
- エミリアは、ライヤ・ウオシッキネンが1957年に手がけたARABIAの食器で、1960年代なかばまで作られました。
- 乳白色の地に黒一色のスクリーン印刷で、庭・お茶・散歩といったくつろいだ暮らしの情景を描きます。
- スクエアプレート、バターケース、キャニスター、花器、二種類のコーヒーカップなど、器の種類が豊富です。
- 2023年に復刻されました。絵付けはどちらもスクリーン印刷で、製造国(フィンランド/タイ)と器のかたち、底のマークで見分けます。
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参考資料
ARABIA/Iittala 公式(Rakastetut kuviot)、フィンランド語版ウィキペディア「Raija Uosikkinen」、Designmuseo Finland/Finna、laatutavara.com 装飾資料、kerailija.fi ほかを参照しました。画像はWikimedia Commonsおよび当店で撮影したものです。
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