北欧ヴィンテージと復刻版(再発売)の見分け方|廃盤・復刻の違いと、刻印・素材・色で読む

北欧ヴィンテージと復刻版(再発売)の見分け方|廃盤・復刻の違いと、刻印・素材・色で読む

北欧食器タックショミュッケ編集部

北欧ヴィンテージの器を探していると、同じシリーズなのに「ヴィンテージ」と書かれたものと「復刻版」と書かれたものが並んでいることがあります。カステヘルミ、ティーマ、モナミ——どれも一度は生産が終わり、のちに同じ名前でよみがえった器です。値段も、風合いも、微妙に違います。

この二つは、どちらも窯が正式に世に出した製品です。片方だけが正規の品という話ではありません。区別したいのは、いつ・どこで・どんな素地で作られたか、という一点です。この記事では、廃盤・復刻・再発売といった言葉の意味を整理したうえで、器の裏の刻印、素材や造形、そしてブランドごとの実例から、ヴィンテージと復刻版を見分ける手がかりをまとめます。読み終えるころには、フィンランドの古いガラス工房から、フィスカースの企業城下町まで、北欧のものづくりの現在地を旅した気分になっていただけるはずです。

この記事でわかること

  • 「ヴィンテージ」「アンティーク」「廃盤」「復刻版」「再発売」という言葉の意味の違い
  • 器の裏の刻印・ロゴ・製造国表記から製造の時期を読む方法
  • 素材・釉薬・造形の変化から、古いものと新しいものを見分ける手がかり
  • カステヘルミ・ティーマ・バレンシア・タイカ・モナミなど、代表的なシリーズの実例

目次

  1. ヴィンテージと復刻版――同じ窯が世に出した、別の時代のもの
  2. なぜ廃盤になり、なぜ復刻されるのか
  3. 見分け方①――器の裏を読む(刻印・ロゴ・製造国)
  4. 見分け方②――素材・釉薬・造形・色
  5. ブランド別・代表的な事例
    1. カステヘルミ――1988年に途絶え、2010年によみがえったガラス
    2. ティーマとキルタ――同じ発想、異なる素地
    3. バレンシア――廃盤になったが、復刻はされていない
    4. タイカ――同じ名前、まったく別のデザイン
    5. モナミ――記念の年によみがえった器
  6. ヴィンテージと復刻版、どちらを選ぶか
  7. まとめ

ヴィンテージと復刻版――同じ窯が世に出した、別の時代のもの

フィンランド ラップランドの湖と森
フィンランド・ラップランド、コラリの湖とユッラスの丘。北欧のものづくりが育まれた土地。(写真: Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0, Ximonic/Simo Räsänen)

まず言葉を整理します。器づくりの世界では、いくつかの近い言葉が入り混じって使われています。

  • 廃盤(はいばん)――窯がそのシリーズの生産と販売を終えること。カタログから外れ、以後は新品が作られなくなります。
  • 復刻版(ふっこくばん)/再発売――一度廃盤になったシリーズを、窯が同じ名前・同じ意匠でふたたび生産すること。多くは記念の年に、当時のデザインをもとに現代の素地や設備で作り直されます。
  • ヴィンテージ――ヴィンテージに関しての明確な定義はありませんが、一般にはおおむね20年から100年ほどを経たものを指して使われます。下限を30〜40年とする見方もあります。北欧食器では、1950〜70年代のミッドセンチュリー期のものが中心です。
  • アンティーク――おおむね100年以上を経たものを指して使われることが多く、ヴィンテージより線引きが揃っています。19世紀の器などがこれにあたります。
  • レトロ――おおむね20〜30年ほどの、比較的新しい「懐かしさ」を指す言葉です。

ここで大切なのは、ヴィンテージも復刻版も、どちらも窯が正式に世に出した製品だという点です。廃盤になったシリーズが復刻されるとき、それを手がけるのはブランドそのものです。ですから両者を分けるのは「いつ作られたか」という時間の問題になります。当時の窯で、当時の職人が仕上げたものがヴィンテージ、廃盤を経て近年に作り直されたものが復刻版、という区別になります。

ここで見分けたいのは、同じブランドの器の「古いものか、新しいものか」です。どちらも正規の製品であり、優劣を競うものではありません。以下では、その手がかりを順に見ていきます。

なぜ廃盤になり、なぜ復刻されるのか

フィスカース村の冬の街並み
フィンランドの企業城下町、フィスカース村の冬の街並み。北欧の名窯を束ねるフィスカースの発祥地。(写真: Wikimedia Commons, CC BY 4.0, Olga1969)

北欧を代表する窯の多くは、20世紀の後半に相次いで大きな再編を経験しました。とりわけフィンランドでは、イッタラ、ARABIA、ヌータヤルヴィ、ハックマンといったブランドが次々と統合され、2007年にはフィンランドの老舗メーカー、フィスカース(Fiskars)がイッタラ・グループを買収します。この統合によって、イッタラ、ARABIA、そしてスウェーデンのロールストランドやヘガナス、ボダ・ノヴァまでもが、同じ企業グループの傘下に収まりました。

こうした再編のなかで、採算の合わなくなったシリーズや、時代の好みから外れた意匠は廃盤になっていきます。手描きのシリーズのように、多くの職人の手を必要とするものは、とりわけ維持が難しくなりました。ARABIAのヘルシンキ工場は2016年に操業を終え、以降の製品はタイとルーマニアで作られています。長く続いた「フィンランド製」の時代が、ここで一区切りついたことになります。

一方で、いったん廃盤になった器が、数十年を経てよみがえることもあります。多くは、デザイナーの記念の年や、シリーズの節目に合わせた復刻です。廃盤後に中古市場で価格が上がり、根強い人気が確かめられたシリーズが、ブランドの判断で復刻される――そうしたパターンがしばしば見られます。次の章から見ていくカステヘルミ(2010年)やモナミ(2008年)は、その代表的な例です。

見分け方①――器の裏を読む(刻印・ロゴ・製造国)

ヘルシンキ アラビアランタ地区
ヘルシンキのアラビアランタ地区。長くARABIAの工場が置かれた一帯に建つ住宅と草地。(写真: Wikimedia Commons, CC BY 2.0, Safa Hovinen)

ヴィンテージと復刻版を見分けるとき、最も確かな手がかりは器の裏にあります。裏面の刻印(バックスタンプ)やロゴ、そして製造国の表記は、あとから書き換えることのできない、器そのものに焼き付けられた情報だからです。

製造国の表記を見る

最もわかりやすいのが、製造国の表記です。ARABIAのヘルシンキ工場が2016年に閉じ、生産がタイとルーマニアへ移ったことはすでに触れました。つまり、裏に「MADE IN FINLAND(フィンランド製)」とあれば、おおむねそれ以前に作られたものと考えられます。一方、「MADE IN THAILAND」や「MADE IN ROMANIA」とあれば、近年の生産です。イッタラのティーマなども同様に、現行品の裏には海外の製造国が記されています。

器の裏に製造国が記されるのには、歴史的な背景があります。19世紀末のアメリカで、輸入品に原産国の表示を求める関税法が定められ、20世紀前半にその義務が広がりました。北欧の器が海を渡って各国へ売られるなかで、「どこの国で作られたか」を裏面に記す習慣が根づいたのです。この製造国表記が、いまでは製造の時期を読むうえでの、客観的な手がかりになっています。ただし在庫や品目によっては例外もあるため、あくまで有力な目安として見るのがよいでしょう。

ロゴ・刻印の変遷を見る

ブランドのロゴや刻印は、時代とともに姿を変えます。たとえばイッタラのティーマは、前身であるキルタの時代にはARABIAのマークが押されていましたが、のちにイッタラのロゴへと変わりました。裏面にARABIAのマークがあれば古い時代のもの、イッタラのロゴであればより新しいもの、というように、マークそのものが年代の手がかりになります。

ARABIAの器は、裏印の移り変わりがよく整理されているため、この判別がしやすいブランドのひとつです。ただし年表を全部覚える必要はありません。ヴィンテージか近年のものかを分けるうえで効く節目は、いくつかに絞られます。

  • 王冠の意匠(1949〜2014年)――王冠をかたどった図柄は、1949年から2014年まで、版を変えながら長く使われました。2014年にブランドが刷新され、以降は「ARABIA」の下に「1873」を置いた文字だけの意匠が登場します。つまり王冠が入っていれば2014年より前ということになります。ただし刷新の発表と店頭への反映には時間差があり、また2014年以降のすべてが「ARABIA 1873」というわけでもありません。ムーミンの製品には別の裏印が使われています。
  • 「WÄRTSILÄ(ヴァルチラ)」の文字(1971〜1975年)――王冠の下に親会社ヴァルチラの社名が並ぶ裏印は、1971年に導入され、1975年に「ARABIA FINLAND」へ切り替わりました。期間が4年ほどと短いため、この社名が入っていれば1970年代前半の製造と、かなり狭く絞り込めます。ヴァルチラがアラビアに資金を入れたのは1947年、工場の所有が移ったのは翌1948年末ですが、社名が裏印に載るのは1971年からです。その直前、1964年から1971年の裏印は「ARABIA MADE IN FINLAND」で、親会社名は入っていません。
  • 数字の刻印――裏面に製造の年月を示す数字が入っていることがあります。イッタラの公式な工場印一覧では、1899年以降にこの数字コードが用いられたと説明されています。ただし読み方は時期によって入れ替わり、併用された期間もあります。裏面の数字には型番や工程を示すものも混じるため、数字だけで製造年を確定することはできません。いつ廃止されたかについても、公式の資料に明確な記載は見当たりませんでした。

製造国の見分け方には、はっきりした法則があります。フィンランドで作られた時代の製品は、裏印そのものに「FINLAND」の国名が入っています。「ARABIA FINLAND」や「MADE IN FINLAND」がそれにあたります。いっぽうタイ製をはじめとする海外生産品は、器の本体に製造国の表記がありません。かわりに底面に貼られたシールに「Designed in Finland / Made in Thailand」と記されています。ARABIAは2016年3月にヘルシンキの陶磁器工場での生産を終え、以降は主にタイとルーマニアの契約工場で作られています。

つまり、裏印に国名が焼き付けられていればフィンランド製、本体に国名がなくシールで示されていれば海外生産品、という読み方ができます。シールは剥がれてしまうことがあるため、シールがなく、本体にも製造国の表記がない場合は海外生産品と考えられます。なお海外生産品も、ARABIAが正式に世に出した製品です。製造国の違いは、優劣ではなく作られた場所と時代の違いを示すものです。この点についてはアラビア食器に「偽物」はある?で写真とともに詳しく説明しています。

ARABIAの裏印を年代順にたどりたい場合は、アラビアの刻印(バックスタンプ)年代別完全ガイドで26種以上の実物写真とともに解説しています。

もっとも、マークと年代の細かな対応はブランドごとに異なり、同じマークが長く使われることもあります。ですから「このマークだから何年」と一律に決めつけるのではなく、実物の刻印を確かめることが大切です。各ブランドの刻印の読み方については、北欧食器のバックスタンプ総合ガイドや、アラビアの刻印年代別完全ガイドイッタラのロゴ・バックスタンプ年代別完全ガイドもあわせてご覧ください。

見分け方②――素材・釉薬・造形・色

ヌータヤルヴィのガラス村の建物
フィンランド最古のガラス工房ヌータヤルヴィ(Nuutajärvi)の木造の建物。カステヘルミが生まれた地。(写真: Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0, Mikkoau)

裏面の刻印に加えて、器そのものの表情からも、古いものと新しいものの違いが見えてきます。復刻の際に素地の種類が変わったり、色の配合が調整されたりすることがあるためです。

素地が変わることがある

復刻にあたって、素地そのものが作り変えられる場合があります。後ほど詳しく見るキルタとティーマがその典型で、古いキルタはファイアンス(錫釉をかけた土もの)で焼かれていましたが、1981年にティーマとして生まれ変わったときには、より丈夫な炻器(せっき/ストーンウェア)に素地が変わりました。同じデザイナーの同じ発想から生まれた器でも、手に取ったときの重さや厚み、縁の質感が異なります。

色は年代の手がかりになるが、色名だけでは決められない

色の配合も、時代によって少しずつ変わります。同じシリーズでも、古いものと新しいものとで、青の濃さや緑の深さに違いが見られることがあります。そのため色は年代を推し量る手がかりになりますが、注意も必要です。復刻版の色名は、そのときどきの季節やコレクションに合わせて入れ替わることが多く、「この色名だから必ず新しい」と、色の名前だけで判断することはできません。色はあくまで、刻印や造形とあわせて見る補助的な手がかりと考えるのがよいでしょう。

ヴィンテージ カステヘルミ ブルーの14cmプレート
ヴィンテージのカステヘルミ、ブルーの14cmプレート。青の濃さや鮮やかさは、年代を読む手がかりのひとつ。

手に取ったときの印象

造形の細部にも、違いが表れることがあります。当店でも、同じシリーズのヴィンテージと復刻版を実際に見比べる機会がありますが、そうした場面で、粒の立体感や縁の張り、光を透かしたときの奥行きに、わずかな差を感じることがあります。ただし、こうした差はメーカーが公表した仕様ではなく、あくまで実物を手に取ったときの印象です。金型が変わったといった断定はできません。個体差もあります。器の表情は最後の決め手というより、刻印や製造国とあわせて確かめる、もうひとつの窓と考えてください。

ブランド別・代表的な事例

ここからは、実際のシリーズを例に、ヴィンテージと復刻版の関係を具体的に見ていきます。それぞれに事情が異なり、「復刻されたもの」「復刻されていないもの」「同じ名前でも別のデザインのもの」があります。

カステヘルミ――1988年に途絶え、2010年によみがえったガラス

カステヘルミのプレスガラス 琥珀色
露のつぶが連なるカステヘルミのプレスガラス(琥珀色)。型による成形で生まれる装飾。(写真: Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0, Tommi Nummelin)

カステヘルミ(Kastehelmi)は、フィンランド語で「朝露のしずく」を意味するプレスガラスのシリーズです。ガラス作家オイバ・トイッカ(Oiva Toikka)が1964年にデザインしました。表面に連なる小さな露のつぶは、プレス成形のときに型の合わせ目に残る跡を隠すために考え出されたものだと、イッタラ自身が伝えています。装飾は型による成形で生まれるもので、手描きではありません。

当初はフィンランド最古のガラス工房ヌータヤルヴィ(Nuutajärvi、1793年創業)で作られ、トイッカはこの工房で製品開発を率いていました。古いものの裏には、イッタラではなくヌータヤルヴィのマークが入っていることもあります。カステヘルミは1964年から1988年まで作られたのち、いったん廃盤になりました。1988年はイッタラとヌータヤルヴィが統合した年でもあります。

ヌータヤルヴィ カステヘルミ ヴィンテージ 17.5cmプレート
ヌータヤルヴィ期のヴィンテージのカステヘルミ、17.5cmプレート。露のつぶが連なるプレスガラス。

その後、2010年にイッタラがカステヘルミを復刻します。オイバ・トイッカのデザイナー生活50年を記念したもので、まずクリアとアップルグリーンの2色で復活し、以降は色数を増やしながら続いています。つまり現在市場にあるカステヘルミには、1964〜1988年のヴィンテージと、2010年以降の復刻版の二つの流れがあります。

イッタラ カステヘルミ 復刻版 グリーンのプレート
2010年以降にイッタラが復刻したカステヘルミ、グリーンの17.5cmプレート。裏面のマークと色名が、ヴィンテージとの手がかり。

見分けるときは、まず裏のマーク(ヌータヤルヴィか、イッタラか)を確かめ、次に色を手がかりにします。ヴィンテージにあった色調と、現在の季節ごとの色名は、そのまま重なるわけではありません。加えて、当店で実物を見比べると、古いもののほうが露のつぶに立体感を感じることがありますが、これは仕様として公表されたものではなく、あくまで手に取ったときの印象です。なお、現在のカタログにない小ぶりなサイズや形もあり、そうした品はヴィンテージでしか出会えません。

ヌータヤルヴィ カステヘルミ ヴィンテージ 11cmボウル
ヌータヤルヴィ期のヴィンテージのカステヘルミ、11cmの小ぶりなボウル。側面には成形時の縦の継ぎ目。

当店では、ヌータヤルヴィ期のヴィンテージのカステヘルミを扱っています。ヴィンテージ カステヘルミ 17.5cmプレートヴィンテージ カステヘルミ 11cmボウルなど、朝露を閉じ込めたようなプレスガラスの表情を、造形の美しさとしてお楽しみいただけます。

ティーマとキルタ――同じ発想、異なる素地

カイ・フランク 1989年
「フィンランドデザインの良心」カイ・フランク(1989年)。背景に日本の新聞と書。(写真: Wikimedia Commons, CC BY 4.0, Jorma Puranen)

ティーマ(Teema)は、名前こそ新しいものの、そのルーツは1950年代のキルタ(Kilta)にさかのぼります。どちらも「フィンランドデザインの良心」と呼ばれたカイ・フランク(Kaj Franck、1911–1989)の仕事です。フランクはキルタを1948年にデザインし、1950年代初頭に発売しました。発売年についてはイッタラが1952年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)などの美術館は1953年と記しており、資料によって幅があります。作り手はARABIA(ヴァルチラ社)でした。

キルタの器は、余分な装飾をそぎ落とし、白・黒・青・緑・黄といった無地の色で、重ねられ、組み合わせられるように作られていました。改まった揃いの食器ではなく、一枚ずつ買い足して自由に取り合わせる――「戸棚のなかの革命」とも呼ばれた考え方です。このキルタは、ARABIAがファイアンス(錫釉をかけた土もの)の生産を終える1974年前後に廃盤になりました。

キルタの器 複数の色
キルタの器。無地の色で、重ね・組み合わせできるようにデザインされた食器。(写真: Wikimedia Commons, Public domain, Otto-Ville Mikkelä)

その後、フランク自身が形を見直し、1981年にティーマとして生まれ変わります。ここで大きく変わったのが素地です。土もののファイアンスから、より丈夫な炻器(ストーンウェア)へと作り替えられ、形もより角ばった、重ねやすいものに整えられました。ティーマは当初、生成りの白と黒で登場し、のちに色数を増やしていきます。つまりキルタとティーマは、同じデザイナーの同じ発想から生まれた器でありながら、素材の異なる別の世代なのです。

見分けるときは、やはり裏面が第一の手がかりです。ARABIAのマークがあれば古いキルタの時代のもの、イッタラのロゴがあればより新しいティーマ、と読めます。現行のティーマの裏には、タイやルーマニアの製造国が記されています。ティーマの歩みについては、イッタラ ティーマ完全ガイドでも詳しく解説しています。

バレンシア――廃盤になったが、復刻はされていない

すべての人気シリーズが復刻されるわけではありません。ARABIAのバレンシア(Valencia)は、廃盤になったものの、いまのところ復刻はされていない器です。デザイナーはウラ・プロコッペ(Ulla Procopé、1921–1968)。1960年に発表された、白地にコバルトブルーを手描きした一枚です。シリーズ名は地中海に面したスペインの港町にちなみます。プロコッペは1968年、療養先のスペイン・カナリア諸島で、珪肺症(けいはいしょう)のために47歳で世を去りました。

ARABIA バレンシア コバルトブルーの手描きプレート
ARABIAのバレンシア、白地にコバルトブルーを手描きした19.5cmプレート。一枚ごとに筆致の表情が異なる。

バレンシアは彼女の死後もおよそ2002年まで、40年余りにわたってフィンランドで作り続けられました。そしてARABIAが手描きのシリーズを畳んで以降、復刻された記録は確認されていません。ARABIAの現行生産はタイとルーマニアに移り、手描きのバレンシアはそこには含まれていません。ですから、いま市場に出回っているバレンシアは、すべてこの一続きの生産期に作られたヴィンテージだと考えられます。

もっとも、同じヴィンテージのなかでも、より古いものと新しいものがあります。コレクターのあいだでは、裏面に手書きのサインと絵付師のイニシャルが残る個体を初期のもの、活字のスタンプに変わった個体をより後年のものと見る、という見分け方が知られています。これは一般に言われる目安であり、窯の公式な記録として裏づけられたものではありませんが、一続きのヴィンテージのなかで時期を推し量る手がかりになります。バレンシアやプロコッペについては、スウェーデンの磁器の母マリアンヌ・ウェストマンらと同時代の作り手として、当店の各記事でも触れています。

タイカ――同じ名前、まったく別のデザイン

フィンランドの秋の森と湖
フィンランドの秋の森と湖。色づく白樺。タイカ=「魔法」の名を思わせる北欧の情景。(写真: Wikimedia Commons, CC BY 3.0, Hemmo Vattulainen)

ヴィンテージと復刻版を考えるとき、注意したいのが「同じ名前でも、まったく別のデザイン」という場合です。タイカ(Taika、フィンランド語で「魔法」)は、その代表例です。じつはタイカという名前の食器は、時代を隔てて二つ存在します。しかもこの二つは、片方がもう片方の復刻版ではありません。名前だけが同じ、別々のデザインです。

ARABIA タイカ 1970年代のティーポット
1970年代にARABIAが「タイカ」の名で世に出した器のひとつ、ティーポット。現行のタイカとは別のデザイン。

現行のタイカは、フィンランドのデザイナー、クラウス・ハーパニエミ(Klaus Haapaniemi、1970年生まれ)が絵柄を、ヘイッキ・オルヴォラ(Heikki Orvola)が器の形を手がけ、2007年に発表されたものです。ふくろうや狐、木々といった北欧の民話を思わせる図像が、黒や赤、青の深い色で、物語の挿絵のように細やかに描かれています。一方、それよりずっと早く、1970年代のARABIAにも「タイカ」と名づけられた別のシリーズがありました。両者は図像も色も器の形もまるで異なります。

ここで気をつけたいのは、裏面のマークだけでは決められないことです。現行のハーパニエミによるタイカも、ヘルシンキのARABIA工場で作られたため、裏に「ARABIA」の名が入っているものがあります。ですから「ARABIAの刻印だから古いタイカ」とは限りません。二つを確実に見分けるのは、むしろ絵柄そのものです。ふくろうや狐が物語のように描かれていれば現行のハーパニエミのタイカ、それとはまったく異なる図柄であれば1970年代の別のタイカ、という具合に、意匠を見るのが確かな方法です。タイカ完全ガイドでも、二つのタイカの違いを詳しく整理しています。

モナミ――記念の年によみがえった器

リードヒェーピングの市庁舎前の市場 古い写真
ロールストランドの故郷リードヒェーピングの市庁舎前に立つ市場(古い写真)。かごや露店が並ぶ。(写真: Wikimedia Commons, スウェーデン国立文化財庁, No restrictions)

最後に、記念の年に復刻された例として、ロールストランドのモナミ(Mon Amie)を挙げておきます。モナミは「スウェーデンの磁器の母」と呼ばれるマリアンヌ・ウェストマン(Marianne Westman)が1952年に発表した、青い花を散らしたシリーズです。着想は1940年代後半、スウェーデンの夏至祭のころの花にあるとされます。

モナミはいったん1987年まで作られたのち廃盤になり、2008年、ウェストマンの80歳を記念して復刻されました。復刻にはウェストマン本人もかかわっています。ここでも見分けの基本は同じで、裏面の刻印と製造国、そして素地や色の表情を手がかりにします。ウェストマンとモナミの物語は、マリアンヌ・ウェストマン完全ガイドで詳しくたどっています。

ヴィンテージと復刻版、どちらを選ぶか

ヨーテボリの蚤の市コンメシェン
スウェーデン・ヨーテボリの蚤の市コンメシェン(Kommersen)。北欧のヴィンテージが集まる場所。(写真: Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0, Vogler)

ここまで見てきたように、ヴィンテージと復刻版は、どちらも窯が世に出した製品です。では、どちらを選ぶとよいのでしょうか。これは優劣の問題ではなく、何に惹かれるかの問題です。

復刻版の魅力は、いま新品として手に入れられることと、コンディションが安定していることにあります。廃盤になったデザインを、現代の素地で、割れや傷のない状態から始められます。一方、ヴィンテージの魅力は、その器が作られた時代そのものにあります。当時のフィンランドやスウェーデンの工房で、当時の職人が仕上げた素地や色。すでに手に入らない形やサイズ。そして、年月を経たものだけがまとう静かな質感です。棚に置いたとき、そこには一枚の器を超えて、北欧のある時代の空気が立ち上がります。

ヴィンテージを選ぶときは、コンディションの見方も知っておくと安心です。素地そのものが割れている「ひび」と、釉薬の表面に細かな網目状に走る「貫入(かんにゅう)」は、別のものです。貫入は経年を経た器に自然に生じる表情で、欠点とは限りません。状態の読み方については、北欧ヴィンテージ食器のコンディションを読むもあわせてご覧ください。

まとめ

ヴィンテージと復刻版は、対立するものではありません。ひとつのデザインが、時代を超えて二度、三度と世に出たという物語の、それぞれの章です。廃盤という中断があり、復刻というよみがえりがある。その来歴を器の裏から読み解けるようになると、一枚の器の見え方が変わってきます。裏のマーク、製造国の一言、素地の手触り――そのどれもが、その器がどの時代からやってきたのかを静かに語っています。

要点の整理

  • 言葉の整理――廃盤=生産・販売の終了、復刻版/再発売=窯による再生産、ヴィンテージ=おおむね20〜100年、アンティーク=おおむね100年以上。いずれも窯が正式に世に出した正規の製品であり、古いか新しいかの区別。
  • 見分け方① 裏面――刻印・ロゴ・製造国が最も確かな手がかり。「MADE IN FINLAND」はおおむね2016年以前、「THAILAND/ROMANIA」は近年。ARABIAマーク=古い時代、イッタラのロゴ=より新しい。
  • 見分け方② 器の表情――素地(キルタのファイアンス→ティーマの炻器)、色調、造形。ただし色名だけでは判断せず、手触りの差はメーカー仕様ではなく実物の印象として見る。
  • 事例――カステヘルミ(1964〜88年ヴィンテージ/2010年復刻)、バレンシア(廃盤だが復刻なし=すべてヴィンテージ)、タイカ(同名だが別デザイン、復刻ではない)、モナミ(2008年に記念復刻)。

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