ロールストランド プリムール 金彩グルド・バグダッドのトリオ

ロールストランド プリムール(Primeur)完全ガイド|シグネ・ペション=メリンの白い磁器と金彩「グルド・バグダッド」

ロールストランド プリムール 金彩版グルド・バグダッドのカップ・ソーサー・ケーキ皿のトリオ
ロールストランドのプリムール(Primeur)金彩版「グルド・バグダッド」のトリオ。白磁の表面に金の細い縞が一面に走る

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この記事の要点

  • プリムール(Primeur)は、シグネ・ペション=メリン(Signe Persson-Melin)がロールストランドのためにデザインした食器シリーズ
  • 1980年にデザインされ、1980〜1984年に製造。姉妹シリーズ「ア・ラ・カルト(À la Carte)」と同じ1980年の設計
  • 「Primeur」はフランス語で「初物(はつもの)」の意。名付け親は、夫でグラフィックデザイナーのヨーン・メリン
  • 細い縞のフォルムに、ホワイト(テラコッタの縁取り)/ブルー/金彩「グルド・バグダッド」の3つの展開
  • 裏印は三つの王冠と筆記体のロゴ、シリーズ名「PRIMEUR」、シグネのサイン、品質表示「VDN」

プリムールとは

プリムール(Primeur)は、スウェーデンの老舗窯ロールストランド(Rörstrand)のために、デザイナーのシグネ・ペション=メリン(Signe Persson-Melin)が手がけた食器シリーズです。1980年にデザインされ、1980年から1984年にかけて製造されました。

絵柄でにぎやかに飾るのではなく、円筒形のフォルムと、表面を縦に走る細い縞だけで構成された、静かで端正なデザインです。北欧デザインが大切にしてきた「機能と美の調和」が、もっとも純粋なかたちで結晶した一群といえます。

ロールストランド プリムール 21cmプレート 白磁にテラコッタの細い縁取り
プリムールの21cmプレート。白い器面に、テラコッタ色の細い線が縁を一周する

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同じフォルムを受け継ぐ姉妹シリーズに「ア・ラ・カルト(À la Carte)」があり、両者は同じ1980年の設計です。シグネの作品のなかでも、磁器のテーブルウェアという領域を代表する一群として知られています。

デザイナー:シグネ・ペション=メリン

シグネ・ペション=メリン(Signe Persson-Melin, 1925–2022)は、陶・ガラス・錫・ブロンズと素材を横断しながら、70年以上にわたって創作を続けた、スウェーデンを代表する工芸デザイナーです。プリムールは、その長い歩みのなかで、円熟期に生まれた磁器の仕事にあたります。

シグネ・ペション=メリンのポートレート
シグネ・ペション=メリン(Signe Persson-Melin, 1925–2022)。陶からガラスまで横断したスウェーデンの工芸デザイナー(画像:Svenskt konstnärslexikon)

スコーネが育てた造形

シグネは1925年、スウェーデン最南端のスコーネ地方、トメリッラ(Tomelilla)近郊で生まれました。なだらかな丘陵とリンゴ園、夏には菜の花が一面を黄金色に染めるエステルレン(Österlen)の風景が、彼女の原風景です。1944年にストックホルムのコンストファック(Konstfack, 国立芸術工芸デザイン大学)で陶芸を学び、その後コペンハーゲンで彫刻を学びます。このとき大きな影響を受けたのが、東洋の古陶磁を深く敬愛したデンマークの陶芸家ナタリー・クレブス(Nathalie Krebs)でした。

1950年、25歳でマルメに自身の工房を構えます。当時、若い女性が独立した工房を持つこと自体が異例でした。素材そのものの声に耳を澄ます姿勢は、生涯変わらない彼女の核になりました。シグネの歩みの全体像は、シグネ・ペション=メリン完全ガイドで詳しくたどっています。

ガラスと教育——「カリスマのあるもの」

シグネの名を国際的に知らしめたのは、ボダ・ノヴァ(Boda Nova)のために生み出した、コルクの取っ手をもつ耐火ガラスのティーポットでした。そして1985年には、コンストファックでスウェーデン初の陶芸・ガラスの教授に就任し、次の世代を育てます。

彼女が繰り返し語った言葉に「モノにはカリスマが必要だ(Saker måste ha karisma)」があります。流行を追わず、見るたびに新鮮な驚きを与える——その信条は、装飾を削ぎ落としたプリムールの佇まいにもまっすぐに通じています。ロールストランドの仕事は、彼女が外部の客員デザイナーとして1978年から1985年ごろにかけて引き受けた仕事のひとつでした。

1980年、ロールストランドのプリムール

「初物」という名前

「Primeur」はフランス語で、春にいちばん早く実る、みずみずしい初物の野菜を指す言葉です。名付け親は、シグネの夫でグラフィックデザイナーのヨーン・メリン(John Melin)でした。シグネが磁器のテーブルウェアに本格的に取り組んだ、その瑞々しい門出にふさわしい名前といえます。

ロールストランド プリムール ブルーのカップ・ソーサー・プレート
プリムールのブルー。淡いブルーの細い縞に、テラコッタの縁取りを合わせたバリエーション

1980年代のロールストランドとリードヒェーピング

プリムールが生まれた1980年代初頭、ロールストランドの製造はスウェーデン西部、ヴェーネルン湖に面した街リードヒェーピング(Lidköping)の工場で行われていました。この時期のロールストランドは、フィンランド資本との結びつきのなかにあり、1984年にはヴァルチラ(Wärtsilä)の傘下に入るなど、経営再編の只中にありました。プリムールは、そうした変化の時代に生まれた、端正で静かなシリーズです。

ヴェーネルン湖に面したリードヒェーピングの街並みの空撮
ヴェーネルン湖に面したリードヒェーピングの街。プリムールはこの街のロールストランド工場で生まれた(Photo: Doc Searls / Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0)

3つのバリエーション

プリムールの表情を決めているのは、表面を縦に走る無数の細い縞です。この同じ縞が、色を変えて三つの顔をつくります。

ホワイト

もっとも基本となるのが、縞を抑えた無地のホワイトです。白い器面に、テラコッタ色の細い線が縁を一周します。装飾を削ぎ落とし、フォルムの美しさだけで成り立つ潔さは、シグネが意図した造形をそのまま映し出しています。

ロールストランド プリムール ホワイトのティーカップ・ソーサー・ケーキ皿のトリオ
ホワイトのプリムール。ティーカップ・ソーサー・ケーキ皿のトリオ。無地の白に、テラコッタの細い縁取り

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ブルー

淡いラベンダーブルーの細い縞を表面にめぐらせ、テラコッタ色の縁取りを合わせたのがブルーです。一見すると単色の水色に見えますが、よく見ると細い線が幾筋も連なり、濃淡の揺らぎが生まれています。カップの取っ手の下には、小さなロールストランドの王冠ロゴが添えられています。

金彩「グルド・バグダッド」

もっとも華やかなのが、金彩版「グルド・バグダッド(Guld Bagdad=金のバグダッド)」です。同じ細い縞が、今度は金色で器面いっぱいに走り、縁には手描きの研磨金が引かれています。この金彩版は、海外の高級磁器需要、とりわけアメリカ市場を見すえて作られた、輸出向けの仕様でした。

ロールストランド プリムール 金彩グルド・バグダッドの背の高いコーヒーポット
グルド・バグダッドのコーヒーポット。背の高い円筒形に、金の縞と金の縁取りがめぐる

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金彩版「バグダッド」という名が誘うもの

「グルド・バグダッド」という名前は、流通の場で金彩版を指す呼び名として知られています。命名の由来が公式に詳しく語られているわけではありませんが、「金のバグダッド」という響きからは、かつて東方の都として栄えたバグダッドの華やかなイメージが立ちのぼります。

バグダッドは、イスラム黄金時代に学問と交易と文化の中心地として栄えた都市です。『千夜一夜物語』に連なる東方の物語世界とも重なり、写本を飾った金の装飾は、豊かさと洗練の象徴でした。プリムールの金彩がまとう、ひかえめでありながら格のある輝きは、そうした遠い東方の黄金のイメージと、どこかで響き合っているのかもしれません。

バグダッドで1237年に制作されたマカーマートの挿絵 イスラム黄金時代の学者たち
バグダッドで1237年に制作された『マカーマート』の挿絵。イスラム黄金時代の学問の情景(パブリックドメイン)

絵柄でにぎやかに飾るのではなく、細い線の輪郭そのものを金で引き立てる——その引き算の美学は、北欧モダンの簡素と、東方の黄金の華やぎを、一枚の器のうえで静かに出会わせています。

ロールストランド プリムール 金彩グルド・バグダッドのシュガーボウル
グルド・バグダッドのシュガーボウル。ふっくらとした蓋物に、金彩の縞が映える

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素材と細部——薄い白磁の手ざわり

プリムールは、薄手の白い磁器で作られています。ロールストランドは19世紀末以降、長石を用いた磁器(長石質磁器)を主軸としており、1980年代のテーブルウェアもこの系譜に連なります。凛とした薄さと、やわらかな曲線が、高級ラインらしい品格を生んでいます。

なお、オークションの記録ではプリムールを「benporslin(ボーンチャイナ)」と記すものと、単に「porslin(磁器)」と記すものが混在しています。ロールストランド自身の博物館によれば、同社が骨灰磁器を高級素材として製造したのは19世紀後半から1926年までで、その後の実用食器には長石質磁器が広く用いられました。プリムールの白さと薄さは、この長石質の白磁によるものと見るのが自然です。

ロールストランド プリムール ホワイトのデミタスカップとソーサー
プリムールのデミタスカップ&ソーサー。小ぶりな円筒形に、テラコッタの細い縁取り

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シリーズのアイテム

プリムールは、テーブルを通して揃えられるフルラインのシリーズとして展開されました。当店で確認できる主なアイテムは次のとおりです。

  • プレート類:21cmプレート24.5cmプレート
  • カップ類:ティーカップ、コーヒーカップ、デミタスカップの3種
  • トリオ(カップ・ソーサー・ケーキ皿)
  • コーヒーポット、クリーマー(ミルクピッチャー)、シュガーボウル

カップには、容量のたっぷりしたティーカップ、標準的なコーヒーカップ、エスプレッソほどの小ぶりなデミタスカップの3種があります。サイズ違いを少しずつ揃えていくのも、ヴィンテージのプリムールを集める楽しみのひとつです。

ロールストランド プリムール 金彩グルド・バグダッドのクリーマー ミルクピッチャー
グルド・バグダッドのクリーマー(ミルクピッチャー)。注ぎ口の縁にも金のラインがめぐる

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ロールストランド——スウェーデンでもっとも古い窯

プリムールを生んだロールストランドは、1726年にストックホルムで創業した、スウェーデンでもっとも古い歴史をもつ磁器の窯です。スウェーデン王室の支援のもと、ファイアンス焼きから始まり、やがて長石質磁器やフリント陶器へと技術を広げ、300年近くにわたって北欧の食文化とデザイン史に深く根を下ろしてきました。

1900年頃のロールストランド磁器工場の職人たち
1900年頃のロールストランドの工房。ストックホルム時代の職人たち(Nordiska museet所蔵/パブリックドメイン)

19世紀末には、ストックホルムの総合芸術産業展示会などでブランドの技術と意匠を競い、ヨーロッパ有数の窯としての地位を築きました。20世紀には、マリアンヌ・ウェストマンシルビア・レウショヴィウスヘルタ・ベングトソンといった名デザイナーを迎え、北欧モダンを代表する数々のシリーズを世に送り出します。

1897年ストックホルム総合芸術産業展示会のロールストランドの展示
1897年ストックホルム総合芸術産業展示会のロールストランドの展示(Nordiska museet/パブリックドメイン)

工場はストックホルムからヨーテボリを経て、1930年代後半にリードヒェーピングへと移ります。リードヒェーピングでの生産は2005年12月30日に終了しましたが、ブランドはその後もフィスカース(Fiskars)グループの傘下で存続しています。かつての工場は複合施設「ロールストランド・センター」となり、その歴史を伝えています。

リードヒェーピングのロールストランド・センター 青い筆記体のRの看板と煉瓦の工場
リードヒェーピングのロールストランド・センター。かつての工場を受け継ぐ複合施設。青い筆記体の「R」はブランドの象徴

裏印(バックスタンプ)と年代の見方

プリムールの裏面には、ロールストランドを象徴する三つの王冠と、筆記体の「Rörstrand SWEDEN」のロゴが入ります。その下にシリーズ名「PRIMEUR」、デザイナーであるシグネ・ペション=メリンのサイン、そして品質表示「VDN」が並びます。

ロールストランド プリムールの裏印 三つの王冠 PRIMEUR シグネのサイン VDNマーク
プリムールの裏印。三つの王冠と「Rörstrand SWEDEN」、シリーズ名「PRIMEUR」、シグネのサイン、品質表示「VDN」が並ぶ

「VDN」は、スウェーデンの消費者向け品質表示制度のマークで、おおむね1970年代から1980年代の製品に見られます。プリムールの製造時期とも重なり、年代を読み解くひとつの手がかりになります。VDNマークの詳しい見方は、北欧食器のVDNマークとはでも解説しています。デザイナーの実名がサインとして入っている点は、プリムールが品質を重んじた上級ラインであったことを物語っています。

姉妹シリーズ「ア・ラ・カルト」

プリムールと同じ1980年、シグネはロールストランドのために、同じフォルムを下敷きにした姉妹シリーズ「ア・ラ・カルト(À la Carte)」もデザインしました。円筒形のカップ、細い縁取り——プリムールで結晶した造形が、こちらにも受け継がれています。ア・ラ・カルトはオークションの場でしばしばプリムールと一括で扱われるほど、両者は近しい関係にあります。

ロールストランド ア・ラ・カルトのコーヒーカップとソーサー 白磁にオレンジの縁取り
シグネによる姉妹シリーズ、ア・ラ・カルト(À la Carte)のコーヒーカップ&ソーサー。プリムールと同じ円筒形のフォルムを受け継ぐ

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プリムールと余白の美

プリムールの魅力は、何より「引き算」にあります。絵柄を語らせるのではなく、白い余白と、細い縞のリズム、そして器の輪郭だけで成立させる——この潔さは、日本の美意識にも深く通じます。

シグネが若き日に師事したナタリー・クレブスは、中国や日本の古陶磁を敬愛し、釉薬の研究に生涯を捧げた陶芸家でした。素材そのものの声に耳を澄まし、余分を削ぎ落とすという姿勢は、その学びのなかで育まれたものです。見るたびに新鮮であること——シグネの「カリスマのあるもの」という信条は、用の美を説いた日本の感性とも、静かに重なります。

白磁にひとすじの金、あるいは淡い青。にぎやかな絵柄をもたないからこそ、プリムールは置かれた空間の光や余白を映し込み、見るたびに違う表情を見せます。北欧の棚にも、和の室礼にも溶け込む静けさが、このシリーズには宿っています。

まとめ

  • デザイナー:シグネ・ペション=メリン(Signe Persson-Melin, 1925–2022)
  • 製造:ロールストランド、1980年デザイン、1980〜1984年製造
  • 名前:フランス語で「初物」。名付け親は夫のヨーン・メリン
  • 素材:薄手の白い磁器(長石質磁器)
  • バリエーション:ホワイト(テラコッタの縁取り)/ブルー/金彩「グルド・バグダッド」(輸出向け)
  • 姉妹シリーズ:ア・ラ・カルト(À la Carte、同じ1980年の設計)
  • 裏印:三つの王冠+「Rörstrand SWEDEN」+「PRIMEUR」+シグネのサイン+VDN

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