北欧のヴィンテージプレート(皿)完全ガイド|グスタフスベリ・ARABIA・ロールストランド・イッタラの名作と、形・サイズ・飾り方
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この記事でわかること
- ディナープレートからケーキ皿、大皿、オーバル、スクエアまで——北欧のプレートの種類とサイズの目安、そして「トリオ」という揃え方
- 丸・オーバル・スクエアという形の違いと、リムや白磁の余白が絵柄を引き立てるデザインの読み方
- グスタフスベリ、ロールストランド、ARABIA、イッタラ——各窯を代表する名作プレートと、その背景にある北欧の風景
- 食卓のプレートと壁飾りの陶板の違い、そしてヴィンテージのプレートを選び、飾って愛でるためのヒント
北欧ヴィンテージ食器のなかで、プレート(皿)はもっとも中心的な存在です。もともとは料理のためにデザインされた実用の器でありながら、白磁の広やかな余白に大胆な図案が展開され、今日では棚に並べ、壁に掛けて観賞する対象として親しまれています。一枚の皿は、円という静かなかたちのなかに、デザイナーの線や色、そして北欧という土地の空気をまるごと閉じ込めているのです。
この記事では、ディナープレートからケーキ皿、大皿、オーバルやスクエアまで、北欧のプレートの種類とサイズをひもときながら、グスタフスベリ、ロールストランド、ARABIA、イッタラといった名窯が手がけた代表的な皿を紹介します。ベルサの緑の葉、パラティッシの果実、シルビアのパンジー——おなじみのシリーズも、皿という大きな画面を通して見ると、また違った豊かさを見せてくれます。
銅版転写の古いプレートから、スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)やカイ・フランク(Kaj Franck)の仕事まで、そして飾り皿と陶板の違いや飾り方のヒントまで。読み終えるころには、一枚のプレートの背景に、ストックホルム群島の港町や、ヴェーネルン湖畔の煉瓦工場、ヘルシンキの赤煉瓦の街並みが見えてくるはずです。旅をするように、北欧のプレートを辿っていきましょう。
目次
北欧の暮らしとプレート——皿という器の役割
北欧の食卓を思い浮かべるとき、その中心にあるのはやはりプレート(皿)です。スウェーデンやフィンランドの家庭では、コーヒーと菓子を楽しむフィーカの席でも、家族の食事でも、それぞれの場面にふさわしい大きさの皿が選ばれてきました。プレートは、料理のためにデザインされた実用の器として明確な役割を担いながら、同時にもっとも広い面積を持つ器でもあります。だからこそ、デザイナーたちはこの白い円を一枚の画布のように扱い、思い思いの図案を展開してきました。
今日、私たちが北欧ヴィンテージのプレートを手にするとき、その多くは飾って観賞する対象として迎えられます。棚に立てて並べれば小さなギャラリーになり、壁に掛ければ一枚の絵のように空間を彩ります。皿のかたちと絵柄に込められたデザインの妙を、じっくりと愛でることができるのです。この章ではまず、北欧のプレートの種類とサイズ、そして「トリオ」という揃え方から、皿という器の輪郭を辿っていきましょう。
プレートの種類とサイズ
北欧のプレートには、用途に応じてさまざまな種類とサイズがあります。以下に挙げる寸法はいずれも目安で、窯やシリーズによって幅があります。それでも、おおよその区分を知っておくと、手元の一枚がどんな場面のためにデザインされたものかが見えてきます。
ディナープレートは約24〜28センチ。スウェーデン語で「ミッダーグスタルリク(middagstallrik)」、フィンランド語で「ルオカラウタネン(ruokalautanen)」と呼ばれ、ディナーコースの主菜のためにデザインされた、もっとも大きな皿です。一枚で構図が完結する大きさゆえ、絵柄の魅力がもっとも豊かに展開されます。
デザートプレート・取り皿は約17〜21センチ。スウェーデン語で「アシエット(assiett)」と呼ばれます。前菜やデザート、サラダを取り分けるためにデザインされた皿で、ディナープレートより一回り小ぶりです。コレクションの中心になりやすく、流通量も比較的多い種類です。
ケーキ皿は約15〜18センチ。フィーカに欠かせない焼き菓子のためにデザインされた小ぶりの皿で、後述するトリオを構成する一枚としても親しまれます。パン皿は約15〜17センチで、ケーキ皿と近い大きさです。
サービングプレート・大皿は約28〜33センチ。スウェーデン語で「ファート(fat)」と呼ばれ、料理を取り分けて供するためにデザインされた大ぶりの皿です。一枚でも存在感があり、壁に掛けたときの主役にもなります。オーバルは長径25〜35センチほどの楕円のサービング皿で、横長の構図に絵柄が伸びやかに広がります。
スクエアは角皿のことで、北欧モダンの幾何学的な造形を象徴します。丸い皿に比べて数が限られ、コレクションのアクセントになる存在です。コーヒーの小皿・ソーサーは約13〜15センチで、カップと組み合わせて使われる、もっとも小さな皿のひとつです。こうして並べてみると、北欧のプレートが暮らしの場面ごとにきめ細かく作り分けられていたことがわかります。
トリオ(trio)という揃え方
北欧のコーヒー文化には、「トリオ(trio)」という独特の揃え方があります。コーヒーカップとソーサー、そして同じ絵柄のケーキ皿を三点で組み合わせたもので、スウェーデン語では「カフェトリオ(kaffetrio)」とも呼ばれます。フィーカの席で、同じ図案がカップから皿まで連なる様子は、小さな組曲のような統一感を生み出します。
多くのスウェーデンの窯がトリオを展開しました。ロールストランドのトロイヤ(Troja, ウェストマン)をはじめ、各窯の代表的なシリーズには、たいていトリオの揃いが用意されていたのです。カップ・ソーサー・ケーキ皿という三つの異なるかたちに、同じ絵柄が姿を変えて現れる——それ自体が、ひとつのデザインの完成度を示すものでもありました。
今日、トリオは観賞とコレクションの対象として大きな魅力を持ちます。三点が揃って棚に並ぶと、ばらばらの一枚では味わえない、まとまりのある美しさが生まれます。ケーキ皿を一枚立て、その手前にカップとソーサーを重ねて飾れば、北欧のフィーカの風景がそのまま小さな静物画になります。トリオを揃える楽しみは、ヴィンテージ食器を集める醍醐味のひとつといえるでしょう。
トリオを起点に集めはじめ、そこから同じシリーズのデザートプレートや大皿へと少しずつ広げていく——そんな集め方も、北欧食器の楽しみのひとつです。最初に一組のトリオを手に入れ、絵柄の世界に惹かれたら、同じ図案の別のかたちを探す。やがて棚の上に、ひとつのシリーズが小さな家族のように並んでいきます。ケーキ皿という最小単位から、北欧のテーブルウェアの世界はどこまでも広がっていくのです。
プレートの「形」を読む——丸・オーバル・スクエア、リムと余白
プレートの姿は、外形と縁(リム)、そして白磁の余白という要素の組み合わせとして読み解くことができます。一見シンプルな円のなかにも、作り手の設計が宿っています。ここでは、形のバリエーションと、絵柄を引き立てる余白の使い方を見ていきましょう。
形のバリエーション
もっとも定番の形は、やはり丸です。丸い皿は絵柄を中心から放射状に、あるいは縁に沿って円環状に配しやすく、北欧のプレートの大半を占めます。グスタフスベリのベルサのように、白地に葉模様が円を描いて並ぶ構成は、丸という形を最大限に生かしたデザインといえます。
オーバル(楕円)は、魚料理や盛り合わせを取り分けるためにデザインされた、横長のサービング皿です。丸い皿にはない伸びやかな画面を持ち、絵柄が左右に長く広がります。ARABIAのパラティッシの初期のディナープレートが楕円形だったように、横長の構図は絵柄に独特のリズムを与えます。
スクエア(角皿)は、北欧モダンの幾何学を象徴する形です。直線と直角で構成された皿は、丸い皿の柔らかさとは対照的に、凛とした緊張感を持ちます。角皿は作られた数が限られるため、コレクションのなかでアクセントになる存在です。一枚あるだけで、棚の上の表情が引き締まります。
リム・クーペと余白
プレートの縁の作りには、大きく二つのタイプがあります。ひとつは、立ち上がったリム(縁)を持つ形です。リムに絵柄や金彩を巡らせることで、皿の外周に額縁のような装飾の帯が生まれます。19世紀の転写プレートや、金彩を施したクラシックな皿に多く見られる構成です。もうひとつは、縁の立ち上がりがゆるやかな、あるいはほとんどない「クーペ(coupe)」形です。クーペ形は皿の面が一続きにつながり、絵柄をのびのびと中央まで展開できます。
北欧のプレートを特徴づけるのは、白磁の余白の使い方です。多くのデザイナーは、図案を画面いっぱいに詰め込むのではなく、あえて白い地を広く残しました。余白があることで、緑の葉や青い花といった図案が、いっそう鮮やかに浮かび上がります。白と図案のあいだの「間」こそが、北欧のプレートの清らかさを支えているのです。
一方で、中央に図案を凝縮させたプレートは、それ自体が一枚で完結した小さな絵画のように観賞できます。皿という円のなかに、デザイナーの線と色が静かに収まっている——だからこそ北欧のプレートは、飾って眺める対象として、これほどまでに愛されてきました。形と余白の関係を意識して眺めると、一枚一枚の皿が、また違った深さで見えてくるはずです。
余白を生かす設計は、北欧の風土とも無縁ではありません。冬の長い北欧では、室内に差し込むわずかな光をいかに美しく受けとめるかが、暮らしの大切なテーマでした。白い余白を広く取ったプレートは、その少ない光を反射してやわらかく明るく見え、図案だけが静かに浮かび上がります。北欧のプレートに漂う清らかさの背景には、こうした光をめぐる感覚が息づいているのです。形と余白、そして光——この三つの関係を思い浮かべながら眺めると、一枚の皿の佇まいが、いっそう奥行きをもって感じられるでしょう。
グスタフスベリのプレート
グスタフスベリ(Gustavsberg)は、ストックホルム群島のヴェルムドー島にある港町です。1825年に磁器の生産が始まり、スウェーデンで2番目に古い窯として知られます(1726年創業のロールストランドに次ぐ歴史です)。1838年には英国から13名の陶工を招いて製法を英国式へと転換し、品質を一新しました。19世紀には、銅版転写による絵付けを施したフリント陶器のプレートを量産し、各家庭へと広めていきます。
そして20世紀半ば、スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg, 1916–1982)のもとで、グスタフスベリは黄金期を迎えました。彼の手がけた数々のシリーズには、それぞれにプレートが含まれ、北欧のテーブルウェアを代表する図案が次々と生まれます。この港町で焼かれた皿は、転写プレートからリンドベリのモダンな図案まで、スウェーデンの磁器の歴史をそのまま映し出しているのです。
19世紀の転写プレート——ヴェクショー(Wexiö)
銅版転写(トランスファーウェア)は、図柄を彫った銅版から紙へ刷り、その紙を素地に押し当てて文様を写し取る技法です。手描きでは難しかった精緻な図案を、安定した品質で量産できるようになり、19世紀のヨーロッパ各地で広く用いられました。下の一枚は、グスタフスベリ製ではなく転写技法そのものを示す参考例ですが、藍色の風景や植物文様が紙を介して器に写し取られる様子をよく伝えています。
グスタフスベリは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、こうした転写技法による装飾プレートを数多く作りました。そのひとつが、花の間に鳥や蝶を配し、金彩を添えた「ヴェクショー(Wexiö)」です。緻密な転写の文様に金彩が重なり、当時のクラシックな食卓のためにデザインされた華やかな一枚です。ヴェクショーの年代やデザイナーについては資料が限られるため、ここでは1900年前後と幅をもって捉えておくのがよいでしょう。
当店には、この100年ほど前のヴェクショーのプレートが入荷しています。時代を経た北欧ヴィンテージらしい質感をまとい、転写の文様や金彩には、当時の手仕事の気配がそのまま残っています。19世紀末から20世紀初頭という、グスタフスベリがまだ転写プレートを盛んに作っていた時代の空気を伝える、貴重な一枚です。年代の手がかりとなる裏面の刻印については、後ほど「バックスタンプと状態を見る」の章で触れます。
ベルサ(Berså)——リンドベリの緑の葉
ベルサ(Berså)は、スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg, 1916–1982)が1961年にデザインした、グスタフスベリでもっとも知られる図案のひとつです。スウェーデン語で「木陰の東屋」を意味し、白地に緑の白樺の葉が対になって連なります。ディナーサービスは1961年から1974年まで生産され、2005年以降に再生産されました。装飾の実作は、アシスタントのクリステル・カールマルク(Krister Karlmark)によるものとされています。
ベルサのプレートには、ディナー(約24センチ)、ランチョンやサラダ向けのもの(約18〜21センチ)など、いくつかのサイズがあります。白い余白を背景に、緑の葉がリズミカルに並ぶ構成は、丸という形の魅力を最大限に引き出しています。皿の上に広がる葉のパターンは、夏の庭の木漏れ日を思わせ、見る人を北欧の緑の風景へと誘います。ベルサは、北欧のプレートを象徴する一枚として、今なお高い人気を保っています。
ベルサという図案そのものの歴史や、緑の葉に込められた意味については、専用のベルサ(Berså)完全ガイドでさらに詳しく辿っています。リンドベリのデザインの背景に関心をお持ちの方は、あわせてご覧ください。
アダムと後期のプレート
かつて磁器を船で運び出したグスタフスベリの港は、今も静かな水辺の風景を保っています。先ほどの1890年代の古写真と見比べると、円錐窯や帆船は姿を消したものの、緑の尖塔の教会と白い給水塔が、町の輪郭として変わらず残っているのがわかります。この港町で、リンドベリは1961年のベルサの前後にも、数々のテーブルウェアを世に送り出しました。
アダム(Adam)は、リンドベリが1959年にデザインした人気のテーブルウェアです。後期のグスタフスベリは、こうした量産シリーズに加えて、アレナ(Arena)のように多様な図案のプレートも展開しました。また、リサ・ラーソン(Lisa Larson)がグスタフスベリ時代に手がけたグラナダ(Granada)の絵柄をまとったプレートなども知られています。グラナダやアレナは美術陶器系の図案でもあり、ここではあくまでプレートの作例として軽く触れておきます。
当店には、アレナの19センチプレートが入荷しています。デザートや取り皿にあたる手ごろな大きさで、棚に立てて飾るのにも向いた一枚です。グスタフスベリ後期の図案の幅広さを、手元で味わうことができます。
こちらは、リサ・ラーソンのグラナダの絵柄をまとったプレートです。当店のものは訳ありの一枚ですが、リサ・ラーソンがグスタフスベリ時代に残した図案を皿のかたちで楽しめる、興味深い作例です。リサ・ラーソンの作風そのものについては、別の記事でも掘り下げています。グスタフスベリのプレートは、転写の時代からリンドベリ、そしてリサ・ラーソンへと、一枚ごとに作り手の個性が刻まれているのです。
ロールストランドのプレート
ロールストランド(Rörstrand)は、1726年にストックホルムで創業した、ヨーロッパで2番目に古い磁器メーカーです。約200年をストックホルムで過ごしたのち、1920年代にイェーテボリ(Göteborg)へ、続いて1930年代にヴェーネルン湖畔のリードヒェーピング(Lidköping)へと生産を移しました。リードヒェーピングは「磁器の町」として栄え、長くロールストランドの拠点であり続けます。2005年12月30日にリードヒェーピング工場での生産を終えましたが、ブランドは現在もフィスカース(Fiskars)グループのもとで存続しています。
工場の跡地は、ロールストランド・センターとなりました。博物館や自社の磁器でフィーカを楽しめるカフェを備え、上の写真のように、歴代の名作磁器が静かに並ぶ展示室を訪れることができます。モナミの青い花から、シルビアのパンジー、アネモンのアネモネまで——ロールストランドのプレートには、二世紀半を超える磁器づくりの伝統と、女性デザイナーたちの繊細な筆が息づいています。
モナミとウェストマン
マリアンヌ・ウェストマン(Marianne Westman, 1928–2017)は、ファールンに生まれ、コンストファック(Konstfack)で学んだのち、ロールストランドへ入りました。その代表作モナミ(Mon Amie, 1952年)は、白地にコバルトブルーの花が映える、ロールストランドを象徴する図案のひとつです。プレートをはじめ幅広いアイテムが作られ、長く愛されてきました。ウェストマンの仕事の全体像や、モナミが生まれた背景については、マリアンヌ・ウェストマン完全ガイドで詳しく辿っていますので、あわせてご覧ください。
シルビア(Sylvia)
シルビア(Sylvia)は、ロールストランドの創業250周年にあたる1976年に生まれた記念シリーズです。フォルムをマリアンヌ・ウェストマンが、装飾のパンジー(三色スミレ)をシルビア・レウショヴィウス(Sylvia Leuchovius)が担当しました。素地は薄手のボーンチャイナで、白磁に手描きされたパンジーが、繊細な表情を見せます。二人の女性デザイナーの仕事が一枚の皿に重なっている——それがシルビアの大きな魅力です。
当店には、シルビアの24センチディナープレートと、前章でご紹介した特大スクエアプレートが入荷しています。ディナープレートは、白磁の余白を背景にパンジーがやわらかく咲く、シルビアの魅力をまっすぐに伝える一枚です。手描きゆえに、花の表情は一枚ごとにわずかに異なり、職人の筆の運びを感じ取ることができます。薄手のボーンチャイナならではの、光を透かすような白さも見どころです。
アネモン(Anemon)
アネモン(Anemon)は、様式化されたアネモネの花を描いたシリーズで、茶色の「アネモン・ブルン(Anemon brun)」など複数の配色で展開されました。落ち着いた色調と、簡潔に図案化された花のかたちが、ヴィンテージらしい味わいを生んでいます。その帰属、すなわち誰がデザインしたのかをめぐっては議論があり、当店でもロールストランド「アネモン」は誰のデザインかという記事で、別途検討しています。
当店には、アネモンの24センチディナープレートと、第1章でご紹介したケーキ皿が入荷しています。ディナープレートは、白磁の中央に様式化されたアネモネが咲く、構図の整った一枚です。同じ図案でケーキ皿まで揃えれば、大小の皿が連なるコレクションの楽しみが生まれます。確かな一次資料が限られるなかで、誰が描いたのかを推理していく過程そのものも、ヴィンテージのプレートを集める醍醐味のひとつといえるでしょう。
ARABIAのプレート
ARABIA(アラビア)は、1873年にスウェーデンのロールストランドによって、ヘルシンキ郊外トウコラ(Toukola)のアラビア地区に設立されました。1916年にフィンランド資本へと移り、一時は1,500人を超える職人を雇用する、ヨーロッパ有数の規模の磁器工場へと成長します。1932年にはクルト・エクホルム(Kurt Ekholm)が芸術監督に就任し、戦後はカイ・フランクとデザイン部門のもとで、簡素で美しいフィンランド食器を世界へと送り出しました。
ARABIAのプレートには、フィンランドのデザイナーたちの個性が、それぞれ鮮やかに刻まれています。ビルガー・カイピアイネン(Birger Kaipiainen)の絢爛な楽園、ウラ・プロコッペ(Ulla Procopé)の簡素なフォルム、エステリ・トムラ(Esteri Tomula)の繊細な花柄——一枚の皿のなかに、北欧デザインの多彩な表情が広がります。ヘルシンキの赤煉瓦の工場から世界へ届いた皿たちを、順に見ていきましょう。
パラティッシ(Paratiisi)——楽園の楕円皿
パラティッシ(Paratiisi)は、ビルガー・カイピアイネン(Birger Kaipiainen)が1969年にデザインした、ARABIAでもっとも有名な図案のひとつです。フィンランド語で「楽園」を意味し、果実やスミレ、ブラックカラントが画面いっぱいに茂る、豊穣な絵柄が特徴です。当初の1970年からのBKサービスでは、ディナープレートはオーバル(楕円)形でした。1987年の再生産時に、丸形・ストーンウェアへと変更されています。配色は、黄と青、そして紫を基調とします。
当店には、希少なヴィオラロゴのパラティッシのオーバルプレートが入荷しています。一枚は36センチの特大、もう一枚は29.5センチで、いずれも初期の楕円形ならではの伸びやかな画面を持ちます。横長の楕円に楽園の果実が広がる様子は、丸形とはまた異なる、立体的な果実園のような豊かさです。壁に掛ければ、それ自体が一枚の絵画として空間の主役になります。パラティッシの図案や歴史をさらに詳しく知りたい方は、パラティッシ(Paratiisi)完全ガイドもご覧ください。
プロコッペの皿——バレンシア・ルスカ・アネモネ
ウラ・プロコッペ(Ulla Procopé, 1921–1968)は、戦後のARABIAを代表するデザイナーのひとりです。彼女が手がけた皿には、機能と美しさを両立させた、簡素で力強い造形が貫かれています。なかでも三つのシリーズが、それぞれ異なる釉薬の表情で知られます。
バレンシア(Valencia, 1960年)は、白いストーンウェアにコバルトブルーの文様を一枚ずつ筆で描いたシリーズです。手描きゆえの濃淡や筆の勢いが、一枚ごとに異なる味わいを生みます。ルスカ(Ruska, 1960年)は、フィンランド語で紅葉を意味し、ARABIA初のマット釉を用いたことで知られます。茶の釉調は一枚ごとに微妙に異なり、北欧の秋の森を思わせる深みを持ちます。
アネモネ(Anemone, 1962年)は、オフホワイトの厚手の素地に、濃紺の花を手描きしたシリーズです。素朴な白地に映える深い青の花は、プロコッペらしい簡潔さと温かみを兼ね備えています。これら三つのシリーズは、当店では別途、コレクションやシリーズの記事でご紹介しています。バレンシアやルスカ、アネモネのプレートは、いずれも手描きや独特の釉薬による「一枚ごとの個性」を、観賞の対象として存分に味わえる器です。
花を描いた皿——クロッカス・フローラ・コラーリ
エステリ・トムラ(Esteri Tomula, 1920–1998)は、シルクスクリーンの技法を駆使して、ARABIAに約150もの装飾を残したデザイナーです。黒の輪郭を刷り、そこへ色を加えていくその手法は、繊細で詩的な花柄を数多く生み出しました。クロッカス(Krokus)は、白地にクロッカスの花を描いたシリーズで、1970年代後半の短期間に生産され、高い人気を得ました。配色には青のものと、白地に黒一色で線描したものがあります。
当店には、クロッカスの19.5センチプレートが入荷しています。白地に黒の線描で咲くクロッカスは、春のフィンランドの野を思わせる、清楚な一枚です。短期間の生産だったため、現在では見つけにくいシリーズのひとつになっています。フローラ(Flora)もまた、トムラがフィンランドの春の花を描いたシリーズで、フォルムはプロコッペが手がけた「ARABIA S」型を用いています。
コラーリ(Koralli)は、ライヤ・ウオシッキネン(Raija Uosikkinen, 1923–2004)が絵柄を手がけたシリーズで、赤褐色やピンクベージュの花が、温かな色調で器を彩る図案として知られます。クロッカスのシルクスクリーン、フローラの春の花、そしてコラーリの手描き——ARABIAの花柄プレートは、技法の違いによって、それぞれに固有の表情を持っているのです。一枚の皿に咲く花を通して、フィンランドの自然の移ろいが、静かに伝わってきます。
イッタラとフィンランドのプレート——磁器からガラスへ
フィンランドのプレートは、磁器だけにとどまりません。ガラスという素材もまた、皿という器のかたちで豊かに展開されました。イッタラ(iittala)とヌータヤルヴィ(Nuutajärvi)という二つのガラス工場は、透明な素材ならではの軽やかさで、北欧のプレートに新しい表情をもたらしたのです。黄葉に包まれた秋のイッタラ・ガラス村の風景は、そうしたフィンランドのガラスづくりが、自然のただなかで育まれてきたことを伝えています。
磁器の白い余白とはまた違い、ガラスの皿は光を透かし、置かれた場所の色をほのかに映し込みます。無地の機能美を追求したカイ・フランクのティーマから、露のしずくを散らしたトイッカのカステヘルミまで——フィンランドのプレートが、磁器からガラスへとどう広がっていったのかを見ていきましょう。
ティーマ(Teema)——カイ・フランクの無地の皿
カイ・フランク(Kaj Franck, 1911–1989)は、「フィンランドデザインの良心」と呼ばれたデザイナーです。彼の発想の出発点には、正方形・長方形・円という三つの基本形がありました。装飾を排し、形と色そのものを見せることを目指した彼のデザインは、戦後フィンランドの機能主義を象徴しています。上の写真は、1940年代にろくろへ向かう若き日のフランクの姿です。
ティーマ(Teema)は、その前身であるキルタ(Kilta, 1953年)を再検討し、1981年に再導入されたシリーズです。発売時の色はクリーム白と黒でした。プレートには、大皿(約26センチ)や小皿(約21センチ)などがあり、いずれも余分な装飾を一切持ちません。無地であるがゆえに、釉薬の色とかたちの純度がそのまま器の表情になります。フランクが目指した、形と色だけで成り立つ皿——ティーマは、その思想をもっとも端的に体現したシリーズといえるでしょう。
カステヘルミ(Kastehelmi)——トイッカの露のガラス皿
カステヘルミ(Kastehelmi)は、オイバ・トイッカ(Oiva Toikka)が1964年に、ヌータヤルヴィ(Nuutajärvi)でデザインしたプレスガラスのシリーズです。フィンランド語で「露のしずく」を意味します。トイッカは、ガラスを型で成形する際にどうしても残る合わせ目を、欠点として隠すのではなく、同心円状に並ぶ小さなガラスの粒で覆い隠すという、巧みな解決を考案しました。露のしずくのような粒の連なりは、こうして生まれたのです。
当店には、カステヘルミの17.5センチプレートが入荷しています。色はクリア、ライトブルー、モスグリーン、ブラウンなどが作られましたが、いずれも光を透かすと、粒のひとつひとつがきらめき、露を結んだ朝の草の葉のように見えます。当初の生産は1960年代から1970年代後半にかけて続き、2010年にイッタラが再生産しました。窓辺に置けば、外光を受けてガラスの粒が表情を変え、フィンランドの自然の一場面を、手のひらの皿のなかに映し出してくれます。磁器とはまったく異なる、ガラスのプレートならではの魅力です。
飾り皿・陶板との違い——壁を飾るプレート
北欧のプレートを飾って楽しむとき、知っておきたいのが、食卓用の皿と壁飾りの陶板との違いです。食卓用のプレート(皿)は、料理のためにデザインされた実用の器で、平らな見込みと立ち上がったリム、そして平坦な裏面を持ちます。皿として作られたものは、テーブルの上で安定し、重ねられるよう設計されたものでした。
一方、壁飾りの陶板(セラミック・プラーク、スウェーデン語でヴェッグプラッタ/väggplatta)は、はじめから壁に掛けて観賞するためにデザインされた装飾品です。レリーフ状の凹凸を持つものが多く、裏面には壁に掛けるための吊り穴が備わっています。前章で触れたジイ・ガントフタの花のレリーフが、その代表例です。陶板は皿のかたちをしていても、用途も構造も、食卓の皿とは最初から異なっているのです。
その中間にあるのが、皿のかたちをした「飾り皿」です。飾り皿は、実用の皿でありながら、絵柄や造形が観賞に堪えるよう作られており、壁に掛けても棚に立てても映えます。当店では、食卓用のプレートも飾り皿も陶板も、いずれも「飾って観賞する」という框で扱っています。壁飾りの陶板そのものについては、北欧の壁飾りプレート(陶板)完全ガイドで詳しく辿っていますので、壁を彩る器に関心をお持ちの方は、あわせてご覧ください。
ヴィンテージのプレートを選ぶ・愛でる
グスタフスベリの芸術監督を長く務めたヴィルヘルム・コーゲ(Wilhelm Kåge, 1889–1960)は、「より美しい日常の器を、すべての人に」という理念を掲げました。質の高いデザインを、特権的な人々のためだけでなく、広く人々の手に届けたい——その思想は、北欧のテーブルウェアが二十世紀を通じて追い求めてきた理想そのものでした。私たちが今、ヴィンテージのプレートを手に取れるのも、こうした作り手たちの志があったからこそです。この章では、プレートを選び、飾って愛でるためのヒントを紹介します。
サイズと役割で選ぶ
プレートを選ぶとき、まず手がかりになるのが本来の用途です。ディナー、デザート、ケーキ、サービングという区分を知っておくと、手元の一枚がどんな場面のためにデザインされたものかが見え、サイズ選びの目安になります。第1章で触れたおおよその寸法を思い出しながら選ぶと、コレクションに統一感が生まれます。
飾ることを前提にするなら、大きさの違いを役割の違いとして楽しむのがおすすめです。大皿は壁の主役として、一枚で空間を引き締めます。中ぶりのディナープレートは、棚に立てて並べる中心に。そして小ぶりのケーキ皿やソーサーは、トリオで揃えて、カップとともに小さな組曲のように飾る楽しみがあります。サイズと役割を意識して集めると、一枚一枚が、コレクション全体のなかで居場所を見つけていくのです。
バックスタンプと状態を見る
ヴィンテージのプレートを見分けるうえで、もっとも大きな手がかりになるのが、裏面のバックスタンプ(刻印)です。ブランドやシリーズ、おおよその年代を読み解く鍵になります。グスタフスベリは社名に錨のマークを組み合わせた印で知られ、ARABIAは年代によってロゴが変化してきました。こうした年代記号の読み方については、北欧食器のバックスタンプ総合ガイドや、ARABIAの刻印を年代別に整理したガイドで詳しく解説しています。
状態を見るときは、貫入(クレイジング)、ナイフ傷、金彩の擦れ、縁の欠けやニュウ(細かなひび)などに目を向けます。貫入とは、釉薬の表面に生じる細かな網目状のひびのことで、年月を経た器に自然と現れるものです。ナイフ傷は、かつて実用された皿の見込みに残る細い線で、これもまた時を重ねた証といえます。これらはいずれも、時代を経た北欧ヴィンテージらしい質感の一部でもあり、観賞の枠のなかで受けとめることができます。完璧な新品ではなく、時間を経た器ならではの味わいとして捉えると、一枚一枚の個性がいっそう愛おしく感じられます。当店では、すべての品を検品したうえで、状態を星評価とともに商品説明に記しています。星評価は★★★★☆(美品)といった形式で、状態の目安をひと目で確かめられるようにしています。
飾り方・愛で方
北欧のプレートには、さまざまな飾り方があります。ひとつめは、プレートスタンドやイーゼルで立てる方法です。シルビアの21センチプレートのように絵柄が中央に置かれた皿は、立てると白磁に咲くパンジーが一枚の絵のように正面から楽しめます。ふたつめは、ピクチャーレールやフックを使って、壁に掛ける方法です。大小の皿を組み合わせて壁に並べれば、小さなギャラリーが生まれます。
みっつめは、キャビネットや棚にトリオを並べる飾り方です。カップ・ソーサー・ケーキ皿を同じ絵柄で揃え、ガラス扉の奥に並べると、まとまりのある美しさが際立ちます。よっつめは、大皿を一点もののアートとして、壁の主役に据える方法です。パラティッシのオーバルプレートのような大ぶりの皿は、それだけで空間の焦点になります。そしていつつめは、季節に合わせて飾る皿を入れ替える楽しみ方です。緑のベルサを夏に、紅葉色のルスカを秋にと、皿の絵柄で部屋に季節を呼び込むことができます。
いずれの飾り方でも、光の入る場所を選ぶのがおすすめです。窓辺や明るい棚に置くと、釉薬の艶や絵柄の青、ガラスの粒のきらめきが、時間によって表情を変えていきます。朝と夕方では、同じ一枚の皿がまったく違って見えることもあるでしょう。一枚のプレートが移ろう光を受けとめる様子は、北欧の住まいの静かな風景を、そのまま日本の暮らしのなかに呼び込んでくれます。
よくある質問
Q. 北欧ヴィンテージのプレートは、どのサイズを選べばよいですか?
A. 飾って楽しむなら、まずは17〜21センチほどのデザートプレートやケーキ皿が取り入れやすいサイズです。棚に立てても収まりがよく、シリーズの絵柄も十分に楽しめます。壁に掛けて主役にしたい場合は、24センチ前後のディナープレートや、28センチ以上の大皿・オーバルプレートが向いています。
Q. 北欧ヴィンテージのプレートと陶板は何が違いますか?
A. プレートはもともと食卓のためにデザインされた皿で、裏面に高台やバックスタンプがあるものが多く見られます。一方、陶板は最初から壁飾りとして作られた装飾作品で、裏面に壁掛け用の穴や紐を通す構造を備えているものがあります。どちらも観賞の対象になりますが、成り立ちと構造が異なります。
Q. 北欧ヴィンテージのプレートを見るときのポイントは何ですか?
A. まずはブランド、シリーズ名、サイズ、絵柄の状態、裏面のバックスタンプを確認します。貫入、ナイフ傷、金彩の擦れ、縁の欠けなども状態を見る手がかりです。新品のような完璧さではなく、時代を経た器ならではの質感として楽しめるかどうかが、ヴィンテージプレート選びの大切なポイントです。
Q. トリオとは何ですか?
A. トリオとは、コーヒーカップ、ソーサー、ケーキ皿を同じ絵柄で揃えた三点セットのことです。北欧のフィーカ文化と結びついた揃え方で、カップから皿まで同じ図案が連なる美しさを楽しめます。棚に飾ったときにもまとまりがあり、北欧ヴィンテージ食器のコレクションとして人気があります。
まとめ
この記事のまとめ
- 北欧のプレートには、ディナー・デザート・ケーキ・サービング・オーバル・スクエアなど、用途に応じた種類とサイズがあり、カップとケーキ皿を揃える「トリオ」という飾り方が親しまれてきた
- 丸・オーバル・スクエアという形の違いと、リムや白磁の余白の使い方が、絵柄の見え方を大きく左右する
- グスタフスベリは転写プレートからリンドベリのベルサへ、ロールストランドはシルビアやアネモンへと、各窯が個性的なプレートを残した
- ARABIAはパラティッシの楕円皿やプロコッペ・トムラの花柄で、イッタラとヌータヤルヴィはティーマやカステヘルミで、磁器からガラスへとプレートを広げた
- 食卓の皿と壁飾りの陶板は構造が異なり、バックスタンプと状態を手がかりに、飾って観賞する框でプレートを愛でることができる
一枚のプレートには、北欧の暮らしのかたちが、まるごと凝縮されています。皿という種類とサイズの体系も、丸やオーバルといった形の知恵も、転写から手描き、シルクスクリーン、そしてガラスへと広がる技法の歴史も、すべてがこの円のなかに収まっているのです。手元の一枚を眺めながら、ヴェルムドー島の港、ヴェーネルン湖畔のリードヒェーピング、ヘルシンキの赤煉瓦の街並みへと思いを巡らせていただけたなら、これほど嬉しいことはありません。一枚のプレートを通して、北欧への小さな旅を続けていただければと思います。