北欧食器のVDNマークとは|スウェーデン陶磁器の品質表示と年代の見方
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VDNマークとは|北欧ヴィンテージ陶磁器の底面でわかる品質表示と年代
Photo: Wikimedia Commons / Anden2000 / CC0
スウェーデンの北欧ヴィンテージ陶磁器を裏返したとき、ブランドの刻印と並んで「VDN F555」や「VDN B555」といった表記を目にすることがあります。ロールストランドやグスタフスベリの戦後シリーズに残るこの小さな表示は、材質や当時の性能評価、そして製造時期を読み解くための重要な手がかりです。
VDNは、スウェーデンのVarudeklarationsnämnden(ヴァルデクラレーションスネムンデン/商品宣言委員会)が1951年から1973年まで運用した品質表示制度です。標準化された試験方法にもとづき、材質や性能に関する情報を消費者へ示すための表示として運用され、北欧ヴィンテージ陶磁器の世界では、VDN表記は主に1960年代から1970年代前半のスウェーデン陶磁器を見分ける非常に有力な手がかりになります。ただし、1973年の制度終了後も、既存の転写紙や表示資材が使われたと考えられる作品があり、1970年代後半の記念モデルなどにもVDN表記が見られる場合があります。
目次
VDNの基本情報
| 正式名称 | Varudeklarationsnämnden(ヴァルデクラレーションスネムンデン) |
| 日本語訳 | 商品宣言委員会 |
| 略称 | VDN |
| 運用期間 | 1951年〜1973年 |
| 性格 | 標準化試験にもとづく商品宣言・比較消費者情報制度 |
| 運営 | 国家と産業界が共同で支えた非営利の消費者情報制度 |
| 対象分野 | 生活用品、家具、衣類、繊維、食品、家電、家庭用品など約100品目分野 |
| 陶磁器での表示 | 1960年代以降のスウェーデン陶磁器に見られる |
| 後継機関 | 1973年にKonsumentverket(スウェーデン消費者庁)へ機能が引き継がれた/家具分野はMöbelfaktaとして独立して発展 |
日本のヴィンテージ市場では「品質マーク」「品質保証マーク」と説明されることもありますが、スウェーデンの制度史としては、標準化試験にもとづく商品宣言・比較消費者情報の表示と捉えるのが正確です。
Varudeklarationsnämndenの歴史——戦後スウェーデンの福祉国家から
1951年のスウェーデンは、戦争の傷跡から立ち上がり、「フォルクヘメット(Folkhemmet=国民の家)」と呼ばれる福祉国家の理想を社会に根付かせようとしていた時代でした。住宅、医療、教育、そして家庭に置かれる道具にまで——客観的な情報で「賢く選ぶ」ことが、市民の美徳として浸透していきます。
Photo: Jan de Meyere / Wikimedia Commons / Public Domain
同年に設立されたVarudeklarationsnämnden(VDN)は、この空気を「買い物の現場」に持ち込んだ仕組みでした。政府と産業界が共同で運営し、企業から独立した立場で家庭用品の品質を試験し、結果を製品本体に「商品宣言(Varudeklaration)」として表示する。20年余りの活動を通じて、食品、衣類、家具、家電、繊維、化学製品、そして陶磁器に至るまで、約100種類の商品宣言基準が整備されました。陶磁器への適用が始まったのは1960年代に入ってからのことです。
なぜスウェーデン陶磁器の底にVDNマークが付いたのか
Photo: Wikimedia Commons / Anden2000 / CC0
1960年代のスウェーデン陶磁器業界は、北欧モダンの黄金期を迎えていました。ロールストランド(1726年創業)、グスタフスベリ(1825年創業)、ゲフレ(1910年創業)、ホガナス・ケラミック(1909年創業)。これらの窯はそれぞれにスター・デザイナーを擁し、戦後スウェーデンの家庭空間を彩るシリーズを次々に送り出します。スティグ・リンドベリのベルサ、マリアンヌ・ウェストマンのモナミ、ロールストランドのグレーン・アンナ。これらの陶磁器は、もはや富裕層の調度品ではなく、ふつうの市民の家庭に並ぶ「親しみのある日常」になっていきました。
同じころ、スウェーデンの家庭には大きな変化が訪れます。1960年代後半から、食洗機と高活性の合成洗剤が一般家庭に普及し始めたのです。それまで手洗いが当たり前だった陶磁器が、突然75℃の熱湯と強い洗剤に晒される時代に入りました。「うちの陶磁器は食洗機で割れないか」「絵柄が剥がれないか」「釉薬にヒビが入らないか」——市民の素朴な不安は切実なものでした。
Photo: ArkDes / Wikimedia Commons / Public Domain
VDNは、この時代の問いに正面から応えた制度です。陶磁器を客観的な試験にかけ、釉薬の貫入・ひび割れに関する性質、食材や酸への表面耐性、洗浄耐性の3項目について評価結果を製品底面に刻印する。市民は店頭で陶磁器を裏返し、その小さな数字を読むだけで「これは新時代の暮らしに耐えるか」を判断できるようになりました。グスタフスベリは、強い洗剤の影響を受けやすかった一部シリーズを、より硬いフリント陶器(flintgods)で再製造するなど、メーカー側も制度に応じた素材の選択を進めていきます。
VDN555表記の読み方——文字と数字に込められた意味
VDNマークは、たとえば「VDN F555」「VDN S555」「VDN P555」のように、「VDN」+アルファベット1文字+数字3桁の組み合わせで表記されます。一見すると暗号のような表記ですが、読み解き方を知れば底面の小さな文字が、その1枚の素性を一瞬で語ってくれます。
アルファベット部分——材質
| 文字 | スウェーデン語 | 日本語訳 |
|---|---|---|
| B | Benporslin | ボーンチャイナ(骨灰磁器) |
| F | Flintgods | フリント陶器(軟質陶器の一種) |
| P | Fältspatporslin | 長石磁器(一般的な硬質磁器) |
| S | Stengods | ストーンウェア(炻器) |
同じシリーズでも素材が違うことがあります。グスタフスベリのベルサでは、初期から中期にかけてVDN F555(Flintgods/フリント陶器)の作品が確認でき、1970年代に入るとVDN B555(Benporslin/ボーンチャイナ)の表記を持つ作品も見られるようになります。同じグスタフスベリのDart(ダート)でもボウル類はVDN S555(Stengods)、コーヒーカップはVDN B555と器種ごとに分かれます。底面の1文字だけで、その作品がどの材質で作られているのかが、一瞬で読み取れます。
3桁数字——3項目の性能評価
3桁の数字は、それぞれが独立した品質項目の評価値です。各項目は1から5までのスケールで評価され、5が最高を意味します。
| 位置 | 評価項目 | 「5」が示す内容(当時の新品状態を前提) |
|---|---|---|
| 1桁目 | 釉薬の特性 | 規定の試験条件下で、釉薬の安定性が高い基準を満たしている |
| 2桁目 | 食材や酸への表面耐性 | 当時の基準上、食材や酸に対する表面耐性が高い |
| 3桁目 | 洗浄耐性 | 当時の基準上、75℃での洗浄耐性がある |
つまり「555」とは、3項目すべてが当時のVDN基準で最も高い評価だったことを示します。底面に「VDN F555」と刻まれていれば、それは「フリント陶器であり、当時のVDN基準で釉薬・表面耐性・洗浄耐性の3項目に高い評価が付与された」ことを意味します。
興味深いことに、ヴィンテージ市場で底面の数字をじっくり眺めていくと、ほとんどが「555」です。中には「VDN L355」(Gabriel-Verken の Sol i den シリーズなど)のような中間評価が刻まれた一枚もまれに見つかりますが、ごくわずかです。メーカーは、当時の試験で三項目すべてに最高点が付いた製品にだけ、誇らしげにこの数字を刻んでいったのでしょう。底面で「555」を見つけたとき、その作品はファイブスター・三冠の証を背負っている、というわけです。
ベルサ(Berså)に2つのヴィンテージ期がある——F555とB555で読み解く素材の変化
スティグ・リンドベリが1961年にデザインしたグスタフスベリのベルサは、戦後スウェーデン陶磁器を語るうえで欠かせないシリーズです。実は、ベルサのヴィンテージには大きく2つの時期があり、底面のVDN材質記号からその違いを読み取れます。
Photo: タックショミュッケ店内在庫(ベルサ 21cmプレート)
VDN表記入りのベルサでは、初期から中期にかけてVDN F555/Flintgods(フリント陶器)の作品が確認できます。一方で、1970年代に入ると、VDN B555/Benporslin(ボーンチャイナ)の表記を持つ作品も見られるようになります。
Photo: タックショミュッケ店内在庫(ベルサ 17.5cm 丸柄プレート)
ベルサを手に取ったときは、葉の絵柄やブランド刻印に目を奪われる前に、ぜひ底面を確認してみてください。VDNの直後に続く一文字が「F」なら、1960年代のフリント陶器。「B」なら、1970年代以降のボーンチャイナです。
初期のF555 ベルサには、ひとつ難点がありました。フリント陶器の絵付けは食洗機にかけると上絵の摩耗が進みやすく、ベルサの象徴である葉の青々とした緑が薄れていってしまうのです。そこで1970年代に入ると、釉薬を強化したB555(ボーンチャイナ)モデルが登場します。葉の青々とした緑はそのままに、表面の釉薬だけが強化された——食洗機の時代にも耐える、理想的な組み合わせでした。
ところが、その新しいB555モデルも長くは続きませんでした。1973年の第一次石油危機を受けて、ベルサは1970年代半ばに生産を終えてしまいます。F555は葉の緑が消えやすく、B555は生産期間そのものが短い——同じベルサでも、両者はそれぞれ別の事情で、いまや限られた数しか残らない貴重なヴィンテージになっています。
Photo: タックショミュッケ店内在庫(訳あり品 ベルサ 24cm大皿)
なお、F555とB555のどちらの世代であっても、漂白剤や強アルカリ性の洗浄剤の使用は絶対に避けてください。釉薬を強化したB555であっても、漂白剤やキッチン用クレンザーは絵付けと釉薬の双方を急速に劣化させ、葉の青々とした緑をほんの数回で失わせてしまうことがあります。ベルサの葉の緑を未来へ残すための、最も大切な前提条件です。
ロールストランド、グスタフスベリの実例
VDNマークは、戦後スウェーデンを代表するロールストランドとグスタフスベリの1960年代後半〜1970年代前半の代表シリーズに、特によく見られます。当店ブログのロールストランド入門、グスタフスベリ完全ガイドと合わせて読むと、これらのブランドにおけるVDN表記の位置づけがより立体的に見えてきます。
ロールストランド——Mon Amie・Sylvia の VDN P555
Photo: タックショミュッケ店内在庫(Mon Amie 特大スクエアプレート)
ロールストランドのMon Amie(モナミ)は、マリアンヌ・ヴェストマンが1952年にデザインした青い花柄が象徴的なシリーズで、ロールストランドを代表する戦後ヒット作です。当店在庫のMon Amieスクエアプレートの底面には、VDN P555の表記が刻まれています。P=Fältspatporslin(長石磁器)、555 はVDN基準上の最高評価を示します。ロールストランドは、長石磁器(フェルトスパー・ポーセリン)の伝統で知られる窯であり、Mon Amieはその系譜に位置づけられる一作です。
Photo: タックショミュッケ店内在庫(Sylvia 250年記念食器)
VDN制度は1973年に公的には終了しましたが、1976年発売のSylvia 250年記念モデルにはVDN P555表記が確認できます。このことから、少なくとも一部のシリーズでは、1970年代後半にもVDN表記を伴う作品が流通していたと考えられます。制度の運用期間と、実際に底面表示が残る作品の流通時期は、完全には一致しない可能性があります。
このほか、ロールストランドのGrön Anna(緑のアンナ)にはVDN F555(Flintgods/フリント陶器)が、Koka Blåにも、しばしばVDN表記が確認されています。蚤の市やオークションで底面に「VDN」の3文字を確認できれば、その作品は基本的にスウェーデン製で、1960年代〜1970年代に流通したものと考えられる手がかりになります。
グスタフスベリ——プルーヌスとダート
グスタフスベリは、スティグ・リンドベリ作品を中心に、シリーズによって材質コードが大きく分かれています。代表作の底面を順番に見比べると、その違いが鮮明になります。
Photo: タックショミュッケ店内在庫(Prunus スクエアプレート 小)
スティグ・リンドベリのPrunus(プルーヌス)は、青い花柄が涼やかな1950年代後半〜1960年代のシリーズです。当店の作品の底面には「FLINTGODS VDN 555」が確認でき、F=Flintgods(フリント陶器)が555の高評価を得ていたことを示します。スティグ・リンドベリ特有の碇+花のフラワー印章は、グスタフスベリのフリント陶器シリーズに広く採用されました。
グスタフスベリの後期の代表作Dart(ダート)は、ベルサとはまた異なる材質コードで刻印されています。当店在庫のDartには、ストーンウェア(Stengods)のVDN S555表記と、ボーンチャイナ(Benporslin)のVDN B555表記の両方の作品が確認でき、シリーズの中でも器種ごとに素材が使い分けられていたことが、底面からはっきりと読み取れます。
Photo: タックショミュッケ店内在庫(Dart 小ボウル)
Photo: タックショミュッケ店内在庫(Dart ティーカップ&ソーサー)
Photo: タックショミュッケ店内在庫(Dart コーヒーカップ&ソーサー)
同じDartシリーズのコーヒーカップ&ソーサーには、VDN B555の表記を持つ作品も確認できます。底面にはBENPORSLIN(ボーンチャイナ/骨灰磁器)の文字があり、Dartシリーズのなかでも、器種によってストーンウェアとボーンチャイナが使い分けられていたことがわかります。小型のカップ類では、ストーンウェアではなく、より薄手に仕上がるボーンチャイナが使われた作品も確認できます。
同じ作家、同じ窯、同じシリーズでも、底面のアルファベット1文字でその作品がどの材質で作られているのかが読み取れる——VDN表記の精度の高さがよくわかる実例である。F/S/P/Bの違いは、当時のメーカーが各シリーズ・各器種をどう設計したかの記録でもある。
1973年、VDNからKonsumentverketへ
1973年、スウェーデン政府は消費者保護を国家機関に統合する政策に踏み切ります。新たにKonsumentverket(コンスメントヴェルケット/スウェーデン消費者庁)が設立され、これに伴って20年余り民間と政府の橋渡しを担ってきたVarudeklarationsnämndenの機能はKonsumentverketへ引き継がれました。VDNが整備してきた約100の商品宣言基準は、国家機関である消費者庁の業務の一部として継承されていきます。
家具業界においては、VDNマーキングは独立した形で発展しました。家具向けの商品表示制度は、Möbelfakta(ムーベルファクタ)として独立した制度に発展し、現在に至るまでスウェーデン家具業界の表示基準として機能しています。スウェーデン製家具を選ぶときに今もMöbelfaktaの表示を確認できるのは、その源流に1951年のVDNがあったからです。
一方、陶磁器業界では、1973年以降に新規に「VDN」を冠した商品宣言マークが刻印されることはなくなりました。これが、ヴィンテージ陶磁器市場で「VDN表記がある作品は、おおむね1960年代〜1973年頃に出荷されたもの」と判別できる理由になっています。一つの陶磁器作品に刻まれた小さな3文字が、20年余りの歴史を持つ消費者制度の終わりとともに「年代の証言者」へと役割を変えました。
まとめ——底面の小さな文字が語るもの
VDNマークの要点
- VDNは、スウェーデンのVarudeklarationsnämndenが1951年から1973年まで運用した商品宣言制度です
- 「VDN+アルファベット1文字+数字3桁」で構成され、アルファベットは材質、数字は当時の基準における性能表示を示します
- FはFlintgods、PはFältspatporslin、SはStengods、BはBenporslinを表します
- 「555」は3項目すべてが高い評価であることを示しますが、現在のヴィンテージ品の使用可否を保証するものではありません
- VDN F555=フリント陶器で555評価。ロールストランドGrön Annaや、グスタフスベリベルサの初期〜中期の作品などに見られます
- VDN B555=ボーンチャイナで555評価。グスタフスベリベルサの1970年代以降の作品や、同じくグスタフスベリの一部シリーズで確認できます
- VDN P555=長石磁器(Fältspatporslin)で555評価。ロールストランドのMon AmieやSylviaなどに見られます
- VDN S555=ストーンウェアで555評価。グスタフスベリDartの一部作品などに見られます
- ロールストランド、グスタフスベリなど、1960年代以降のスウェーデン陶磁器にVDN表記が見られます
VDNマークは、単なる底面表記ではありません。戦後スウェーデンが、標準化された試験と客観的な商品情報によって、消費者が比較しやすい社会を目指した時代の痕跡です。北欧ヴィンテージ陶磁器の底面に残る「VDN F555」や「VDN P555」を読み解くことは、その一点が生まれた時代の消費文化や製造思想を知る手がかりになります。
蚤の市で、骨董市で、あるいは当店のような北欧ヴィンテージ陶磁器の専門店で、次に北欧の陶磁器を裏返したときは、ぜひ底のVDN表記を探してみてください。VDN F555、VDN S555——その小さな文字の連なりが、戦後スウェーデンの家庭の物語を静かに伝えてくれます。
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