ヴィルヘルム・コーゲがデザインした銀象嵌シリーズ「アルジェンタ」の大サイズボウル。深緑の釉薬に純銀の装飾が映える、グスタフスベリを代表するアートピース。
スウェーデンを代表する陶器メーカーのグスタフスベリ社が製造したアルジェンタ(Argenta)シリーズの大サイズボウルです。深みのある緑色の釉薬に銀の象嵌が施された、同シリーズのなかでも存在感のある大型の作品です。直径23.5cmという堂々としたサイズと高台付きの形状から、テーブルの中央に据えて果物を盛るフルーツボウル(果物鉢)としてデザインされたものと考えられます。内部の底面にはコンパスローズ(羅針盤の方位図)が銀で描かれています。大航海時代の海図に起源を持つこのモチーフは、海洋国家スウェーデンの伝統を映すとともに、放射状に広がる幾何学的な造形がアール・デコの美意識と見事に調和しています。外側にはシダの葉を思わせる細長い葉文様が銀で等間隔に描かれ、口縁と高台には銀彩の帯が巡らされています。内と外で異なる意匠を持ちながら、幾何学的な統一感で結ばれた端正な一品です。
グスタフスベリは1825年に創業したスウェーデンで2番目に古い窯です。19世紀後半まではバスタブなどの住宅設備を主に製造していましたが、やがて芸術的な陶磁器の製作に力を入れ始めます。しかし当時の北欧陶器はマイセンや中国の陶磁器の影響を色濃く受けた装飾的な食器が主流で、独自の表現を確立するには至っていませんでした。

転機となったのが、1917年にスウェーデン工芸協会の推薦を受けてアートディレクターに就任したヴィルヘルム・コーゲの存在です。画家出身のコーゲは、シンプルながらも斬新な線や色の組み合わせにより次々と新しいデザインを生み出し、グスタフスベリを北欧陶器の中心的存在へと押し上げました。コーゲは1949年にアートディレクターの座をスティグ・リンドベリに引き継ぐまで、約30年にわたりグスタフスベリの芸術性を牽引しました。リンドベリはコーゲの弟子であり、リサ・ラーソンはそのリンドベリの弟子、すなわちコーゲの孫弟子にあたります。

アルジェンタは1920年代にコーゲが開発し、1930年のストックホルム博覧会で発表されたシリーズです。グリーンの施釉ストーンウェアに純銀を手作業で象嵌する技法が特徴で、その革新性は国際的な称賛を浴び、グスタフスベリの名を世界に知らしめました。1930年代末には画工や鋳造工など専属の職人が30名に達し、最盛期の1940年代にかけて多彩な形状で展開されました。「アルジェンタ」とは「銀色」を意味し、本体の装飾が銀色に彩られていることに由来しています。
伝統とミッドセンチュリーの境界に立つシリーズ
アルジェンタの重厚な銀象嵌のデザインは、マイセン以来のヨーロッパ陶器の伝統を色濃く受け継いでいます。一方で、コーゲ自身がミッドセンチュリーの礎を築いた人物であることを考えると、アルジェンタはまさに伝統と革新の境目に位置する作品です。
ミッドセンチュリーの全盛期には、シンプルモダンなデザインが次々と登場し、伝統的な装飾陶器の多くは淘汰されていきました。しかしアルジェンタは1930年の発売から1970年代後半まで約半世紀にわたって製造が続けられました。ポップでシンプルなデザインが席巻するなかでも、トラディショナルなデザインとして受容され続けたという事実は、アルジェンタが時代を超えたデザイン的価値を有していることの証といえます。
伝統を出発点としたこのシリーズは、ミッドセンチュリーの全盛期を経て、石油危機に揺れる1970年代後半に静かにその歴史を閉じました。北欧陶器の近代化を見届けた、まさに歴史の生き証人ともいうべきシリーズです。
■詳細スペック
- メーカー:Gustavsberg / グスタフスベリ
- デザイナー:Wilhelm Kåge / ヴィルヘルム・コーゲ
- シリーズ名:Argenta / アルジェンタ
- 年代:1930〜70年代
- 本作の製造年代(推定):1950年代なかば(同一ロットのスナップスカップに「SJBF 1905 1955」の記念銘があることから、一式が1955年前後に製作されたものと推定)
- 製造国:スウェーデン
- 素材:施釉ストーンウェア、銀象嵌
- サイズ:直径23.5cm × 高さ12.5cm
■コンディション:★★★★★(5:完品)
欠けや擦れのない完品です。保存状態も良好で市場で入手可能なヴィンテージのなかでトップコンディションのアイテムとなります。
■関連コレクション
→ ヴィルヘルム・コーゲ完全ガイド|グスタフスベリを築いた巨匠の生涯・代表作・見どころ










