ニルスヨハン カプリ テーブルスプーン 17cm|アダム・ティルストルップ設計の北欧ヴィンテージステンレスカトラリー

ニルスヨハン カプリ(Capri)完全ガイド|アダム・ティルストルップが1950年代に生んだ北欧ステンレスカトラリー

北欧食器タックショミュッケ編集部

この記事の要点

  • 「カプリ(Capri)」は、デンマークのデザイナー、アダム・ティルストルップが1950年代にスウェーデンのニルスヨハン(Nils Johan)のために手がけたステンレスカトラリー
  • ニルスヨハンは1888年に創業し、ボロース地方で製造されたブリキ製品や家庭用品を扱う卸売業から出発して、1969年には北欧最大の家庭用品メーカーと呼ばれるまでに成長した会社
  • 細く絞り込まれた柄と、光を抑えたつや消しの仕上げが、1950〜60年代の北欧モダンらしい表情を生む
  • ディナーからティータイムまでそろう構成で、当店では10種類のカプリを一点ずつそろえている

ステンレスのカトラリーを一本、光にかざしてみます。カプリ(Capri)の柄はつけ根で細く絞られ、指のなかでゆるやかにねじれるように反ります。派手な装飾は何もありません。それでも、無駄をそぎ落とした輪郭そのものが、1950年代の北欧が目指した「用の美」を静かに語りかけてきます。

このカプリを設計したのは、デンマークのデザイナー、アダム・ティルストルップ(Adam Thylstrup, 1914–1989)でした。そして器をつくった会社が、1888年に家庭用金物の卸売業として出発したスウェーデンのニルスヨハン(Nils Johan)です。デンマークの造形感覚とスウェーデンのものづくりが出会った場所に、このシリーズは立っています。

この記事では、カプリという一組のカトラリーを入り口に、それを育てたニルスヨハンという会社の歩み、設計者ティルストルップの仕事、そしてステンレスという素材が20世紀の食卓にもたらした変化までをたどります。読み終えるころには、手のなかの一本のスプーンが、北欧の街や工場とつながって見えてくるはずです。

ニルスヨハン カプリ ディナーフォーク 19cm|つや消しのステンレス
ニルスヨハン「カプリ」のディナーフォーク。柄はつけ根で細く絞られ、先へ向かって静かに反る。

この記事でわかること

  1. カプリ(Capri)とはどんなカトラリーで、どんな構成でそろっているのか
  2. 製造元ニルスヨハンが、小さな卸売業から北欧を代表する家庭用品メーカーへ育った歩み
  3. 設計者アダム・ティルストルップの人物像と、ニルスヨハンに残した仕事
  4. ステンレスという素材の背景と、カプリの見分け方・お手入れの考え方

目次

  1. カプリ(Capri)とは——基本情報
  2. ブリキ製品の卸売から——ニルスヨハンという会社
  3. アダム・ティルストルップ——食卓を設計したデンマーク人
  4. 「カプリ」という名の響き
  5. ステンレス——20世紀の食卓を変えた金属
  6. カプリの造形を見る
  7. 見分け方・年代・バックスタンプ
  8. お手入れと、長く付き合うために
  9. まとめ

1. カプリ(Capri)とは——基本情報

カプリは、ニルスヨハンが1950年代に発表したステンレス製のテーブルカトラリーです。ディナーナイフやディナーフォーク、テーブルスプーンといった食事用の大ぶりな一式から、ティースプーンやサンドイッチ用の小さなフォークまで、食卓のさまざまな場面に対応する構成でそろえられました。

シリーズ名 カプリ(Capri)
メーカー ニルスヨハン(Nils Johan/AB Nilsjohan)、スウェーデン
デザイナー アダム・ティルストルップ(Adam Thylstrup, 1914–1989)
発表 1950年代
素材 ステンレススチール
構成 ナイフ・フォーク・スプーン各種、ティースプーン、サンドイッチ用カトラリーなど

ニルスヨハンのカトラリーには、ほかにも「ソラヤ(Soraya)」や「セッサン(Sessan)」といったシリーズが知られています。そのなかでカプリは、飾りを持たない柄の造形だけで見せるタイプの一組であり、北欧モダンのカトラリーらしい素直さを備えています。

ニルスヨハン カプリ テーブルスプーン 17cm
カプリのテーブルスプーン。すくい部から柄への移り変わりに継ぎ目がなく、一本の線でつながる。

2. ブリキ製品の卸売から——ニルスヨハンという会社

ニルスヨハンは1888年に創業し、スウェーデン西部のボロース(Borås)地方で製造されたブリキ製品や家庭用品を扱う卸売業から出発しました。当時の社名は「ニルソン・オ・ヨハンソン(Nilsson och Johansson)」——ふたりの創業者の姓をそのまま並べた名前で、これがのちに縮められて「ニルスヨハン」となります。

ボロースの広場と市庁舎、市の立つ日
ボロースの中心広場と市庁舎。市の立つ日の賑わいを写した一枚。

品物の産地となったボロースは、スウェーデン南西部、ヴェステルヨートランド地方の街です。古くは繊維と行商の街として知られ、ヴィスカン川が街の中心をくぐり抜けていきます。派手さはありませんが、堅実なものづくりが根づいた土地柄でした。

ボロースの街なかを流れる運河沿いの眺め
ボロースの街を流れる水辺。黄褐色のレンガの建物が水面に映る。

会社は台所まわりの道具を得意としました。エッグタイマー(ゆで卵用の砂時計)や缶切り、そしてカトラリー——毎日の暮らしに欠かせない小さな金物を、手の届く価格で世に送り出していきます。第二次世界大戦後のスウェーデンで進んだ「フォルクヘム(folkhem=国民の家)」、つまりよい暮らしをすべての家庭に、という理想と、ニルスヨハンの製品はよく響き合いました。

社名と規模の変遷

会社は成長にあわせて名を整えていきます。1950年に「AB ニルスヨハン(AB Nils-Johan)」、1959年には表記を改めて「AB Nilsjohan」となりました。そして1969年には、北欧最大の家庭用品メーカーと呼ばれるまでに規模を広げます。カプリが生まれたのは、まさにこの上り坂の時期にあたります。

その後、ニルスヨハンのブランドは1981年にギュルドスメッズ社(Guldsmeds AB)へと移り、いくつかの持ち手を経て、フィンランドのイッタラを擁するグループの一員となりました。長い年月のあいだに会社のかたちは変わっても、ふたりの創業者の名からはじまった家庭用品づくりの記憶は、いまも製品の名として受け継がれています。

王子から名匠まで——ニルスヨハンのデザイナーたち

ニルスヨハンには、時代を代表するデザイナーが名を連ねました。なかでも知られるのが、スウェーデン王家の一員でありながら工業デザイナーの道を選んだシグヴァルド・ベルナドッテ(Sigvard Bernadotte)です。彼がニルスヨハンのために手がけた缶切り「ローダ・クララ(Röda Clara)」は、機能とかたちを両立させた日用品として親しまれました。

シグヴァルド・ベルナドッテの肖像
シグヴァルド・ベルナドッテ。王家に生まれ、工業デザイナーとして活躍した。

陶芸家として名高いシグネ・ペション=メリン(Signe Persson-Melin)も、キャリアのなかでニルスヨハンの仕事に関わっています。ひとつの会社の器物に、王子から陶芸の名匠、そしてデンマークから招かれたティルストルップまでが筆を執った——この顔ぶれの厚みが、ニルスヨハンという会社の底力を物語ります。彼女の歩みについてはシグネ・ペション=メリン完全ガイドで詳しく紹介しています。

3. アダム・ティルストルップ——食卓を設計したデンマーク人

カプリを設計したアダム・ティルストルップは、1914年に生まれ、1989年に世を去ったデンマークのデザイナーです。20世紀半ば、スウェーデンのニルスヨハンのためにいくつものカトラリーを設計し、カプリのほか「シンゴアラ(Singoalla)」などの名も残しました。

ティルストルップの仕事は、母国デンマークだけにとどまりませんでした。彼が手がけたコーヒーポット「ハリウッド(Hollywood)」は、ストックホルムの国立美術館(Nationalmuseum)のコレクションに収められています。日用の食卓道具を設計した人物の作品が、国を代表する美術館に残る——そのこと自体が、北欧のデザインが暮らしの道具を軽んじなかった証といえます。

ストックホルムの国立美術館
ストックホルムの国立美術館。水辺に建つ堂々とした建物。

デンマークとスウェーデンは、海を挟んで隣り合う国どうしです。両国の造形観には、簡素であることを尊び、素材の手ざわりを大切にするという共通の芯が通っています。デンマーク出身のティルストルップがスウェーデンのメーカーで力を発揮できたのは、この地続きの美意識があったからにほかなりません。カプリの静かな輪郭には、二つの国の感覚が重なり合っています。

4. 「カプリ」という名の響き

カプリという名は、地中海に浮かぶイタリアの島、カプリ島を想起させます。切り立った岩肌が海へと落ち、青い入り江がきらめきます。20世紀半ばの北欧では、長い冬を抱える人々にとって、南の海辺は憧れの象徴でした。

イタリア、カプリ島のグランデ・マリーナ
イタリア、カプリ島のグランデ・マリーナ。断崖の下に港町が広がる。

この時代の北欧の製品には、南欧やオリエントを思わせる名がしばしば選ばれました。ニルスヨハンのカトラリーにも「ソラヤ」「シンゴアラ」といった、遠い土地や物語を連想させる名前が並びます。カプリもまた、灰色の空の下で暮らす人々が食卓に招き入れた、ひとかけらの南の光だったと読むこともできます。

5. ステンレス——20世紀の食卓を変えた金属

カプリの魅力を語るには、ステンレスという素材そのものの背景を知っておくと、いっそう理解が深まります。さびにくい鋼=ステンレススチールが実用化されたのは20世紀初頭のことでした。イギリスのシェフィールドは、その開発と普及の中心地のひとつとして知られます。

1920〜30年代のステンレスカトラリーの広告
初期のステンレスカトラリーの広告。シェフィールドの製造元が「さびない輝き」をうたう。

それまでのカトラリーは、銀や、銀を薄くかぶせた洋白(シルバープレート)が主流でした。美しい反面、手入れを怠ればすぐに黒ずみ、磨きが欠かせません。さびにくく、日々の食事にそのまま使えるステンレスの登場は、家庭の食卓を大きく身軽にしました。

スウェーデンの刃物の伝統

スウェーデンには、金物づくりの長い伝統があります。とりわけエスキルストゥナ(Eskilstuna)は、ナイフやはさみ、工具の産地として名を馳せ、その名声はかつてイギリスのシェフィールドと並び称されるほどでした。

18世紀に描かれたエスキルストゥナの地図
18世紀のエスキルストゥナの地図。刃物の街として知られたスウェーデンの町。

ニルスヨハンが創業期に品物を仕入れたボロース地方は、このエスキルストゥナとは別の土地です。それでも、金物を手ごろな価格で広く行き渡らせるスウェーデンの気風は、国じゅうに共有された財産でした。カプリのような普段づかいのステンレスカトラリーは、そうした土壌の上に育っています。北欧のカトラリー全体の流れは、北欧のカトラリー完全ガイドでも整理しています。

6. カプリの造形を見る

ここからは、当店にあるカプリを実際に手に取りながら、その造形を見ていきます。まず目を引くのは、柄の仕上げです。鏡のように磨き上げるのではなく、光を穏やかに拡散させるつや消しに近い表情をたたえています。強い反射がないぶん、金属特有の冷たさがやわらぎ、食卓になじみます。

ニルスヨハン カプリ ディナーナイフ 20.5cm
カプリのディナーナイフ。柄の中ほどに一筋の稜線が走り、握りに表情を与える。

柄はつけ根でぐっと細く絞られ、そこから先端へ向かってなだらかに反っていきます。指を添えると、この絞りが自然と手におさまります。装飾は加えず、輪郭の抑揚だけで美しさを見せる——飾らないことをよしとした、1950〜60年代の北欧デザインらしい設計です。

ニルスヨハン カプリ テーブルナイフ 19.5cm
カプリのテーブルナイフ。刃と柄がひと続きの線で結ばれる。

ディナーからティータイムまで

カプリは、食事の場面ごとに大きさの異なるピースがそろいます。当店では、17cmと19cmの大小のテーブルスプーン、19cmのディナーフォーク、そして12cmの愛らしいティースプーンまで、10種類のカプリを一点ずつご用意しています。単品でそろえられるので、いま使っているカトラリーに一本足す、という迎え方もできます。

ニルスヨハン カプリ ティースプーン 12cm
カプリのティースプーン。手のひらにおさまる小ぶりな一本。

ティースプーンは、コーヒーや紅茶のひとときにちょうどよい大きさです。シリーズでそろえれば統一感が生まれ、大小を組み合わせれば表情が出ます。下の一覧から、それぞれのピースをご覧いただけます。

ニルスヨハン カプリ フォーク 17cm
カプリの17cmフォーク。ケーキや前菜にほどよい中ぶりのサイズ。
ニルスヨハン カプリ サンドイッチフォーク 15.5cm
カプリのサンドイッチフォーク。オープンサンドや前菜に使いやすい小ぶりな一本。

7. 見分け方・年代・バックスタンプ

カプリを見分ける手がかりは、柄の裏に刻まれた刻印(バックスタンプ)にあります。ニルスヨハンのカトラリーには、多くの場合「NILS JOHAN」や「NJ」といった社名・略号と、ステンレスであることを示す「ROSTFRITT(スウェーデン語でさびない、の意)」や「STAINLESS」の表記が打たれています。

刻印の書体やロゴのかたちは、時期によって少しずつ変わります。細部を一つの正解に決めつけることはできませんが、社名の綴りと素材表記がそろっていれば、ニルスヨハンのステンレスカトラリーである手がかりになります。カプリは飾りを持たないシリーズなので、柄の絞りと反り、つや消しに近い仕上げという全体の印象もあわせて見ると、見当がつけやすくなります。

ニルスヨハン カプリ テーブルスプーン 19cm
カプリの19cmテーブルスプーン。17cmと並べると大きさの違いがよくわかる。

年代は、おおむね1950年代の発表から、その後の生産期にわたります。ヴィンテージのカトラリーには、長い時間を経てきたことによる細かな擦れや、光の当たり方で見える小さな傷が残ることがあります。これらは金属が使われてきた時間の表情であり、実用のうえでは支障になりません。

8. お手入れと、長く付き合うために

ステンレスのカトラリーは、扱いのやさしさが身上です。使ったあとは中性洗剤で洗い、水気をやわらかい布でふき取っておけば、長く気持ちよく使えます。水滴を残したままにすると白い跡が残ることがあるので、洗ったらすぐにふくのがおすすめです。

塩分や酸の強いものを長時間のせたままにすると、ステンレスでもまれに点状の変色が出ることがあります。使い終えたら早めに洗うことを心がけると安心です。洗うときは、表面の風合いを保つため、研磨剤入りの金属みがきや硬いたわしは避け、やわらかいスポンジを使ってください。

ニルスヨハン カプリ ディナーナイフ 波刃 20.5cm
カプリの波刃ディナーナイフ。パンや肉を切りやすいギザ刃を備える。

北欧のヴィンテージカトラリーには、ゲンセ(Gense)やボダ・ノヴァ(Boda Nova)など、時代を映す名作がいくつもあります。カプリを入り口に、そうした一族の器へと目を広げてみるのも、北欧の食卓を知る楽しい道のりです。

まとめ

要点の整理

  • カプリは、デンマークのアダム・ティルストルップが1950年代にニルスヨハンのために設計したステンレスカトラリー
  • ニルスヨハンは1888年に創業し、ボロース地方で製造されたブリキ製品や家庭用品を扱う卸売業から、1969年には北欧最大の家庭用品メーカーへ育ち、のちにイッタラを擁するグループへ受け継がれた
  • 細く絞った柄、なだらかな反り、つや消しに近い仕上げが、飾らない北欧モダンの表情をつくる
  • 柄裏の「NILS JOHAN」「ROSTFRITT/STAINLESS」の刻印と、全体の造形が見分けの手がかりになる

一本のカトラリーの向こうには、金物を商ったふたりの創業者も、王子のデザイナーも、隣国から招かれた設計者もいます。手に取るたびに、その広がりを少しだけ思い出していただけたなら、これほどうれしいことはありません。

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