スウェーデンの食器メーカー、Gense(ゲンセ)が1944年に発表した「テーベ(Thebe)」シリーズのディナーナイフです。
刃は切っ先を丸く収めたテーブルナイフの形です。柄から刃へは段をつけて移り、刃の面には装飾を置かず、輪郭の線だけで構成されています。
柄の表には2本の溝が縦に走り、そのあいだに一本の畝が盛り上がります。溝は途中で消えず、そのまま柄尻まで続き、末端は畝の形を生かした波型に閉じられています。装飾としての線と、手に収まりやすい立体的な形状が一体になったデザインです。裏面には「GENSE」のメーカー刻印があります。
写真:K W Gullers/Tekniska museet(TEKA0123131)/Public Domain Mark
本品も、この最終工程を経て世に出た一本です。機械で打ち抜かれたのち、職人が一点一点手にとって微調整をほどこす。そうして仕上げられたからこそ生まれる個体ごとのわずかな表情の差は、ヴィンテージならではのよさといえます。
シリーズ名の「テーベ」は、古代エジプトの都テーベ、現在のルクソールを指すギリシャ語名に由来します。1944年という、装飾を抑えた機能主義が広く支持されていた時代に、あえて古代都市を思わせる装飾的な名前を与えた点も、このシリーズの興味深いところです。
テーベが登場した当時、食卓用カトラリーではまだ銀製品が大きな存在感を持っていました。しかし銀器は、くすみを防ぐために定期的な磨きが必要で、日常的に使うには手間のかかる道具でもありました。ステンレス製のテーベは、戦時下の材料事情に対応しただけでなく、そうした「磨く手間」そのものを減らす、新しい日用品として提案されました。
当時のGenseの広告でも、素材の新しさ以上に、手入れの負担が減ることが強調されています。「テーベの品々は主婦に自由な時間をもたらす——磨く必要がないのだから」と謳われ、全国の金物店、家庭用品店、宝飾店などで販売されました。第二次世界大戦中に銀の価格が上昇するなかで、きちんと整った食卓を保ちながら、より現実的に使えるカトラリーとして受け入れられていったシリーズでもあります。
広告:AKTIEBOLAGET GENSE, Eskilstuna/図版:thebe.se
テーベはその後、最盛期には130点近い品目を擁する大きなシリーズへと発展しました。ディナーフォークやナイフだけでなく、ジャムスプーン、切り分けナイフ、チーズスライサー、バターナイフなど、食卓まわりの細かな道具まで幅広く揃えられています。
本品はそのうちのディナーナイフにあたり、当時のGenseの品番では709番。カタログ上の全長は196mmと記録されています。
Gense — 「鉄鋼の街」エスキルストゥーナが生んだカトラリー
Genseは1856年、グスタフ・エリクソン(Gustaf Eriksson)という銀食器職人がスウェーデン中部の都市エスキルストゥーナ(Eskilstuna)で創業した会社です。社名は「Gustaf Eriksson Nysilverfabrik i Eskilstuna(エスキルストゥーナのグスタフ・エリクソン洋銀工場)」の頭文字に由来します。
写真:K W Gullers/Tekniska museet(TEKA0123130)/Public Domain Mark
当初は洋銀(nysilver)のトレイや金物を手がけ、やがてカトラリーへと軸足を移し、1915年には銀のカトラリー、1930年代からステンレスのカトラリーに参入するようになりました。また、1982年にはスウェーデン王室の御用達を受けた由緒正しい企業です。
■詳細スペック
- メーカー:Gense / ゲンセ
- デザイナー:Folke Arström / フォルケ・アルストロム
- パターン名:Thebe / テーベ
- 種別:ディナーナイフ
- 素材:ステンレススチール(rostfritt stål)
- デザイン年:1944年
- 制作年代:1970年代(推定)
- 製造国:スウェーデン
- サイズ:全長 約19.6cm
■コンディション:複数在庫品 ★★★☆☆(3.5:良品)
わずかに使用感がありますが、オリジナルの輝きをとどめた良品です。本品は複数在庫です。在庫品はすべて写真と同等のコンディションで、個別の風合いには個体差がある場合があります。個別の状態をご確認の場合はチャットまたはメールにてお問い合わせください。
