スウェーデンの名門カトラリーメーカー、Gense(ゲンセ)の名作「テーベ(Thebe)」のディナーフォークです。柄の先へ向かってゆるやかに広がるフォルムに、細く刻まれたラインが走ります。四本の歯はほどよい厚みをもち、手にとると見た目以上の重心の落ち着きが伝わります。
テーベは、スウェーデンを代表する工業デザイナー、フォルケ・アルストロム(Folke Arström, 1907–1997)が1944年に手がけた、Gense初の本格的なモダン・ステンレスカトラリーです。柄に刻まれた繊細なラインが特徴で、エジプト風の様式にちなむ名とされています。銀器が正式な食卓の主役だった時代に、ステンレスという新しい素材で「美しい日常の食卓」を実現しようとした、その最初の答えがテーベでした。
テーベは発表後も長くつくり続けられたロングセラーで、本品は1970年代に製造された個体と考えられます。デザインから30年近くを経てなお現役の定番であり続けたことが、この造形の完成度を物語っています。
この一本の背景には、20世紀初頭のスウェーデンが掲げたひとつの理想があります。「Vackrare vardagsvara(より美しい日用品を)」——良質で美しい道具は、一部の富裕層のためではなく、すべての家庭に届けられるべきだという考え方です。アルストロムはこの理念を、銀ではなくステンレスという素材で形にしました。安価で丈夫、しかも美しい。テーベが切りひらいたこの道は、のちのフォーカス(Focus, 1955年)やフォーカス・デラックス(Focus de Luxe, 1956年)へと続き、アルストロムがGenseのためにデザインしたステンレス食器は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されるまでになりました。ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館も、フォーカス・デラックスを所蔵しています。
Gense — 「鉄鋼の街」エスキルストゥーナが生んだカトラリー
Genseは1856年、グスタフ・エリクソン(Gustaf Eriksson)がエスキルストゥーナ(Eskilstuna)に創業しました。社名は「Gustaf Eriksson Nysilverfabrik i Eskilstuna(エスキルストゥーナのグスタフ・エリクソン洋銀工場)」の頭文字に由来します。当初は洋銀(nysilver)のトレイや金物を手がけ、やがてカトラリーへと軸足を移し、1915年に銀のカトラリー、1930年からステンレスのカトラリーを製造するようになりました。1982年にはスウェーデン王室御用達を受けています。
Genseが生まれたエスキルストゥーナは、スウェーデンで「鉄鋼の街」と呼ばれてきた金属工芸の都です。その起源は17世紀にさかのぼります。1650年代、リガから招かれた鍛冶親方ラインホルド・ラーデマッハー(Reinhold Rademacher, 1609–1668)が国王カール10世グスタフの特権を得て工房を移し、1659年に最初の鍛冶場が完成しました。刃物、はさみ、針、錠前——手仕事の金属加工がこの街の産業として根を張り、二世紀を経てGenseが生まれる土壌となります。
図:Jean de la Vallée, Public domain, via Wikimedia Commons
写真:Calle Eklund / V-wolf, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
刃物の街の技術の蓄積と、機能主義の理想。そのふたつが交わるところに、テーベは生まれました。発表から80年を経てなお古びることのない、北欧モダンの古典といえる一本です。
当店で取り扱うGenseのカトラリーは、スウェーデンから直接買い付けたヴィンテージのオリジナル品です。
■詳細スペック
- メーカー:Gense / ゲンセ
- デザイナー:Folke Arström / フォルケ・アルストロム
- パターン名:Thebe / テーベ
- 種別:ディナーフォーク
- 素材:ステンレススチール(rostfritt stål)
- デザイン年:1944年
- 制作年代:1970年代
- 製造国:スウェーデン
- サイズ:全長 約18.2cm
■コンディション:複数在庫品 ★★★☆☆(3.5:良品)
わずかに使用感がありますが、オリジナルの輝きをとどめた良品です。本品は複数在庫(13本)です。在庫品はすべて写真と同等のコンディションで、個別の風合いには個体差がある場合があります。個別の状態をご確認の場合はチャットまたはメールにてお問い合わせください。
