リンドベリが描いた青いすもも ヴィンテージだけの鮮やかな発色
スウェーデンの名窯グスタフスベリのプルーヌス(Prunus)シリーズのティーポットです。プルーヌスはエッグカップやコーヒーカップなどが復刻されていますが、ティーポットには復刻版が存在せず、ヴィンテージでしか入手できません。本国スウェーデンでもほとんど見ることがなく、極めて生産数の少ないアイテムです。
シリーズ名の「プルーヌス」はラテン語でスモモ属を意味する植物学上の属名です。白い地に、黒い茎についた青いプラムの実と二枚の緑の葉が繰り返し描かれています。
印刷技法はクロモトリック(kromotryck)と呼ばれる多色転写印刷です。あらかじめ模様が印刷された転写紙(デカール)を水に浸して台紙から剥がし、素地に一枚ずつ手作業で貼り付けたあと焼成して定着させます。プルーヌスでは青・緑・黒の3色が用いられています。写真はベルサのデカールを貼る工程ですが、プルーヌスも同じ技法で製造されました。
デザイナーはスティグ・リンドベリ。プルーヌスは1962年に生産が開始され、1974年まで製造されました。同時期にはベルサ(Bersa)やアダム(Adam)など複数のテーブルウェアシリーズが展開されていましたが、プルーヌスは多色のため生産コストが高く、販売価格も他のシリーズより高い設定でした。そのためベルサほどの大量販売には至りませんでした。加えてプルーヌスの釉薬は食洗機用洗剤に弱く、使用に伴い釉薬が傷つきやすいという特性がありました。完品の状態で残っている個体が少ない理由のひとつです。
ヴィンテージ版と復刻版の大きな違いはバックスタンプにあります。ヴィンテージのバックスタンプには鮮やかな青でプラムの実が描かれているのに対し、復刻版は錨マークのみです。素材も異なり、オリジナルはフリント陶器(flintgods)で製造されています。フリント陶器とは火打ち石(フリント)を混ぜた多孔質の陶器で、グスタフスベリが日用食器の量産に用いた素材です。焼結しないため液体を吸収する性質があり、表面を釉薬で覆うことで防水性を確保しています。一方、2009年から始まった復刻版はすべてボーンチャイナ(benporslin)で製造されており、素地の質感や重さがオリジナルとは異なります。
■詳細スペック
- メーカー:Gustavsberg / グスタフスベリ
- デザイナー:Stig Lindberg / スティグ・リンドベリ
- シリーズ名:Prunus / プルーヌス
- 年代:1962〜1974年
- 製造国:スウェーデン
- 素材:フリント陶器(Flintgods)
- サイズ:横幅17cm(注ぎ口含む)× 高さ11cm(取っ手含むと17cm)× 容量約800ml
■コンディション:★★★★☆(4.5:極美品)
プルーヌス特有のペイントロスがなく、使用歴もないデッドストック品です。取っ手の木製部に経年の変化が見られますが、本品そのものは割れや欠けや貫入がなく、市場で入手可能なプルーヌスのティーポットのなかで完品に近い、トップコンディションのヴィンテージとなります。底面に見える凹みは製造時の支柱跡です。取っ手は可動式で金属部分は左右に曲がるようになっています。
■関連コレクション
→ グスタフスベリ(Gustavsberg)完全ガイド — 200年の歴史・偽物の見分け方・価格の秘密
グスタフスベリ — 200年の歴史を持つスウェーデン陶磁器の聖地
1825年、ストックホルム群島のヴェルムド島に創設されたグスタフスベリ磁器工場。当初はイギリス式の製法を導入し、1839年に現在も知られる錨(アンカー)のマークを採用しました。1863年にはコーンウォールから粘土を輸入し、ボーンチャイナの生産を開始。やがてスウェーデンを代表する磁器ブランドへと成長しました。
黄金時代を築いた巨匠たち
1917年に初代アートディレクターに就任したヴィルヘルム・コーゲ(1889–1960)は、「美しい日用品をすべての人に」という理念のもと、労働者向けの食器「リリエブロー」を発表。さらにアルジェンタ、ファルスタなどの名シリーズを生み出しました。
1949年にコーゲの後任となったスティグ・リンドベリ(1916–1982)は、ベルサ、スピサリブ、プルーヌス、アダムなど数々の名作を手がけ、グスタフスベリの黄金時代を築きました。「千の芸術家(Tusenkonstnären)」と呼ばれた彼は、陶磁器だけでなくテキスタイル、ガラス、グラフィックデザインなど多岐にわたる分野で活躍しました。
このほか、ベルント・フリーベリ(1899–1981)は中国宋代の青磁に影響を受けた独自の釉薬技法で世界的な評価を得、リサ・ラーソン(1931–2024)はシャモット粘土を用いた愛らしい動物の作品で日本でも絶大な人気を誇りました。
ヴィンテージの見分け方 — バックスタンプ(刻印)ガイド
グスタフスベリの食器には裏面にバックスタンプ(刻印)が施されています。このスタンプのデザインは時代とともに変化しており、製造年代を特定する重要な手がかりとなります。1839年に採用された錨(アンカー)マークは現在まで同社のシンボルとして受け継がれています。1993年にオリジナルの食器生産が終了し、現在はHPF社が復刻版を製造しています。ヴィンテージ品はフリント陶器やフェルトスパット磁器で、復刻版のボーンチャイナとは素材が異なります。










