プルーヌス(Prunus)完全ガイド|スティグ・リンドベリが描いた青い梅の食器——歴史と見分け方
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この記事の要点
- プルーヌス(Prunus)はスティグ・リンドベリが1962年にグスタフスベリのためにデザインした食器シリーズ
- オリジナルは1962–1974年に製造され、2009年より骨磁器(ボーンチャイナ)で復刻生産
- モチーフは西洋スモモ(Prunus domestica)の花と実。青と白の二色で描かれる
- プレート、カップ、ポット、バターケース、キャセロール鍋など幅広いアイテムが作られた
- 青い梅の意匠は、日本の花鳥画や染付磁器の伝統とも響き合う
目次
- プルーヌスとは
- 誕生の背景——1962年のグスタフスベリ
- デザイン——青い梅のモチーフ
- 製法と素材
- シリーズに含まれるアイテム
- グスタフスベリ——スウェーデンの窯
- プルーヌスと日本の美意識
- 真贋の見分け方と復刻版
- まとめ
プルーヌスとは
プルーヌス(Prunus)は、スウェーデンのグスタフスベリ窯のためにスティグ・リンドベリがデザインした食器シリーズです。オリジナルは1962年から1974年まで製造され、その後2009年より骨磁器で復刻生産されています。
白い器面に、青い絵の具で西洋スモモ(バラ科サクラ属の Prunus domestica)の花と実が手描きで描かれているのが特徴です。一見シンプルに見えながら、一点ごとに筆致の濃淡や枝ぶりの違いがあり、工房での手仕事の痕跡が豊かに残されています。
誕生の背景——1962年のグスタフスベリ
1962年、グスタフスベリはすでにスティグ・リンドベリを中心としたデザイナー陣のもとで黄金期の真っ只中にありました。リンドベリは1949年に前任のヴィルヘルム・コーゲから磁器部門を引き継ぎ、1955年のスピーサ・リブ、1961年のベルサ(Berså)など、数々のヒット作を世に送り出していました。プルーヌスは、その延長線上に生まれた作品です。
デザイナー:スティグ・リンドベリ
スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg, 1916–1982)は、スウェーデン北部のウメオ(Umeå)に生まれ、ストックホルムのコンストファック(Konstfack, 国立美術工芸大学)で学びました。1937年にグスタフスベリに入社し、コーゲの下で修行を積み、後継者として磁器部門を率いることになります。
リンドベリの特徴は、陶芸家でありながら同時に絵本作家、テキスタイルデザイナー、イラストレーターとしても活躍した点です。この多才さが、プルーヌスに見られるイラスト的な絵付けの原点となっています。植物や動物を軽やかな線でとらえる筆致は、リンドベリの絵本にも通じています。
フォルクヘムの食器文化
プルーヌスが生まれた1960年代初頭のスウェーデンは「フォルクヘム(folkhem, 国民の家)」と呼ばれる社会民主主義的な繁栄期にありました。家庭に家電が普及し、住宅が近代化されるとともに、日常の食卓をどのように整えるかが人々の関心事になっていた時代です。
この時期、ベルサやプルーヌスのような植物モチーフの食器は、スウェーデンの一般家庭に広く行き渡りました。青い梅の絵付けがなされたプルーヌスもまた、1960年代から70年代のスウェーデン民家の食卓風景を特徴づけた意匠のひとつとされています。
デザイン——青い梅のモチーフ
プルーヌスの名は、バラ科サクラ属(Prunus属)に由来します。モチーフは西洋スモモ(Prunus domestica)で、枝先に咲く白い花、そして丸く実った青紫の果実が、器面にのびのびと描かれています。
プルーヌスという植物
学名の Prunus は、バラ科の広い属名です。西洋スモモのほか、梅、桜、桃、杏、アーモンドなどもすべてこの属に含まれます。つまりプルーヌスの絵柄は、日本で言う「梅」と「李(スモモ)」と「桃」がひとつの系譜に属する植物の絵——と言えます。
北欧の夏は短く、日照時間が長い時期に果樹が一斉に花を咲かせ、実を結びます。庭先にスモモの木を植える習慣はスウェーデンの田舎家にもよく見られ、晩夏に青紫色の実を収穫してジャムや蒸留酒(プルーンブランネヴィーン)に加工する文化が残っています。プルーヌスの絵柄は、そうした北欧の夏の暮らしから生まれました。
青と白の普遍性
プルーヌスの配色は青と白の二色構成です。この組み合わせは、中国の元代以来の染付(ブルー&ホワイト)、オランダのデルフト焼、そしてスウェーデンのグスタフスベリやロールストランドにまで続く、世界共通の陶磁器の伝統色と言えます。リンドベリはその普遍的な配色に、自分らしい軽やかな筆致で新しい息吹を与えたのです。
製法と素材
プルーヌスの素材と製法は、シリーズの時代によって異なります。
フリントゴッズからボーンチャイナへ
オリジナルの1962年〜1974年のプルーヌスは、主にフリントゴッズ(flintgods)と呼ばれる硬質陶器で作られました。フリントゴッズは長石と珪砂を高温で焼いた素地で、磁器に近い硬さと透明感を持ちながら、陶器らしい温かみも残します。スウェーデンの食器の多くがこの素地で作られてきました。
なお、1962年から1974年の製造期間中にはボーンチャイナ(骨磁器、benporslin)で作られたプルーヌスも存在しています。オークションハウスのブコフスキーは、プルーヌスの39点セットを「ボーンチャイナ、グスタフスベリ、1962–74」として分類しており、オリジナル時代から複数の素材が並行して使われていたことがわかります。
2009年に復刻された現行品は、すべて骨磁器(benporslin)で作られています。オリジナルと比べて白さが際立ち、器の厚みも薄く軽量です。
手描きの絵付けと透明釉
プルーヌスの絵付けは手描き(アンダーグレーズ)で行われました。素焼きの器に職人が筆でコバルト顔料を置き、その上から透明釉を掛けて本焼成する——という製法です。同じ絵柄でも、描き手の筆運びによって一点ごとに微妙な違いが生まれ、これがヴィンテージのプルーヌスの見どころになっています。
1970年代に入ると、ペイントロスを防ぐために透明釉を再度掛けて再焼成する技術が導入されました。貫入(釉薬面の細かいひび)が生じやすい個体も見られ、これはプルーヌス特有の魅力のひとつとして愛されています。
シリーズに含まれるアイテム
プルーヌスは食卓を通して揃えられるフルラインのシリーズとしてデザインされました。以下は、オリジナル時代(1962–74)および復刻版(2009〜)に確認されている主なアイテムです。
- プレート類:21cm、25cmの丸プレート/各サイズのスクエアプレート
- ボウル:12.5cmの小ボウルから大きめのサラダボウルまで
- コーヒー・ティーウェア:コーヒーカップ&ソーサー、ティーカップ、デミタス、ティーポット、ピッチャー
- シュガーボウルとクリーマーのセット
- バターケース(蓋物)
- キャセロール鍋(大・小)
- エッグカップ
- チョコレートカップ(希少)
なかでもチョコレートカップ(Choklad koppar)は、コーヒーカップとティーカップの中間のような寸胴形で、ごく少量しか作られなかった幻のアイテムとして知られています。キャセロール鍋やバターケースも、割れやすい取っ手や蓋が残っている状態の良いものは希少です。
グスタフスベリ——スウェーデンの窯
プルーヌスを生み出したグスタフスベリは、1825年に創業したスウェーデンの老舗磁器窯です。ロールストランド(1726年創業)に次いで、スウェーデンで2番目に古い磁器メーカーでした。
ストックホルム群島の工房町
グスタフスベリは、ストックホルム中心部から東に約20km、ヴェルムド(Värmdö)島の入江に位置する小さな町です。豊かな森と内海に囲まれた群島地帯で、工場とともに発展した磁器職人たちの集落でした。工場の煙突、労働者住宅、そして港——すべてがひとつの産業文化を形作っていました。
黄金時代とその終わり
リンドベリがグスタフスベリに関わった1949年から1980年までの約30年間は、この窯の黄金時代と呼ばれます。しかし1973年の石油危機を境に、北欧の磁器産業は急速に衰退していきました。プルーヌスの生産も1974年に終了しています。
その後グスタフスベリ社自体も幾度かの経営主体交代を経て、2005年にはスウェーデン国内での大量生産体制が事実上縮小されました。ただしブランドは消滅せず、現在はグスタフスベリ・ポーセリンファブリク社が、かつての工場の一部を引き継ぐ形で、リンドベリの代表作を小ロットで復刻生産しています。プルーヌスもその中のひとつです。
プルーヌスと日本の美意識
プルーヌスの意匠は、日本の美術史に親しんだ人にとって非常に身近なものに映ります。
青と白で描かれる Prunus 属の花と実——このモチーフは、日本では古くから梅や桃の絵柄として、伊万里や九谷の染付磁器に登場してきました。柳宗悦が「用の美」を説いた民藝運動と、スウェーデンの「日用品にこそ美を」というフォルクヘムの思想には、近いところがあります。
プルーヌスのモチーフである西洋スモモ(Prunus domestica)と、日本の梅(Prunus mume)、桜(Prunus serrulata)は植物学的にも近い親戚同士です。白い五弁の花、枝ぶりのリズム、青紫色の実——いずれも日本人の目に馴染み深い造形です。リンドベリが見ていたスウェーデンの庭先の風景と、日本画家が眺めた梅の木は、遠いようで案外近いところで響き合っています。
青白磁のような配色を選びつつ、筆致は軽やかでモダン——このバランスこそがプルーヌスの魅力であり、和食器と洋食器が混在する日本の食文化においても、長く親しまれてきた意匠です。
真贋の見分け方と復刻版
プルーヌスには大きく分けて二つの時代があります。
オリジナル版(1962–1974):フリントゴッズまたは骨磁器で焼成。裏面のバックスタンプには、当時のグスタフスベリのロゴ(錨マークに三つの王冠、GUSTAVSBERG の文字)と、リンドベリのサイン、シリーズ名 PRUNUS が入ります。生産年代によってスタンプの印刷方法や書体に違いがあります。
復刻版(2009年〜):すべて骨磁器。素地は真っ白で、器の厚みは薄く軽量です。裏面には現行のグスタフスベリ・ポーセリンファブリクのロゴが入ります。絵柄そのものは大きく変わっていませんが、全体の質感からオリジナルと見分けがつきます。
どちらも正規のプルーヌスですが、ヴィンテージ市場で高く評価されているのは1962–74年のオリジナル版です。特にキャセロール鍋、バターケース、ティーポット、ピッチャーなどの実用器は、当時生産数が少なく、良好な状態で残っているものは希少です。
まとめ
- デザイナー:スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg, 1916–1982)
- 製造:グスタフスベリ、オリジナル1962–1974年、2009年〜復刻生産
- 素材:オリジナルはフリントゴッズおよび骨磁器、復刻版は骨磁器
- 絵付け:手描きアンダーグレーズ、コバルト青顔料、透明釉仕上げ
- モチーフ:西洋スモモ(Prunus domestica)の花と実
- 代表アイテム:21cm/25cmプレート、ティーポット、バターケース、キャセロール鍋、ピッチャー、チョコレートカップ(希少)
- 希少性:キャセロール鍋、バターケース、チョコレートカップは特に残存数が少ない