リンドベリのGスタジオから生まれた 古代技法ファイアンス焼きの逸品
スウェーデンの名窯グスタフスベリ(Gustavsberg)で20世紀中葉の製作されたファイアンス(錫釉陶器)焼きのピッチャーです。赤土の素地に錫釉を掛けることで生まれ、ふわりとした質感があります。コバルトの緑で描かれた花々が静かに浮かび上がり、遠目には壁面に絵が掛かったような存在感をつくります。
モチーフは北欧の野の花を想起させる記号化されたボタニカルともいうべきもので、花弁や葉のかたちを記憶で捉えた印象派的な作風です。図案としては完成度が高く、見る人の記憶や季節感を呼び起こします。さらに輪郭線のゆらぎや、筆の運びの強弱、釉薬の吸い込みで生まれるにじみ等、現代の大量生産では均一化されてしまう要素が景色として残っています。
背面(底部)には、工房制作を示す “G” のハンドサインが見られ、さらに型式・デコレーター(絵付師)に関する記号も確認できます。グスタフスベリには多くのデコレーターが在籍し、同じ図案でも筆致や青の濃淡に個体差が出るのがファイアンス作品の醍醐味。本作も、その“個性”が美点としてきれいに表れています。
容量は適正1000ml、満水時1200mlです。大ぶりなプロポーションゆえ、彫塑的なボリュームと面の取り方が美しく、視線を集めるオブジェとしても完成されています。
当時の制作風景を伝える映像が残っています。丸メガネをかけている男性がデザイナーのスティグ・リンドベリです。本作品もこの工房で制作され現代に残るものとなります。
グスタフスベリ — 200年の歴史を持つスウェーデン陶磁器の聖地

1825年、ストックホルム群島のヴェルムド島に創設されたグスタフスベリ磁器工場。当初はイギリス式の製法を導入し、1839年に現在も知られる錨(アンカー)のマークを採用しました。1863年にはコーンウォールから粘土を輸入し、ボーンチャイナの生産を開始。やがてスウェーデンを代表する磁器ブランドへと成長しました。

黄金時代を築いた巨匠たち
1917年に初代アートディレクターに就任したヴィルヘルム・コーゲ(1889–1960)は、「美しい日用品をすべての人に」という理念のもと、労働者向けの食器「リリエブロー」を発表。さらにアルジェンタ、ファルスタなどの名シリーズを生み出しました。
1949年にコーゲの後任となったスティグ・リンドベリ(1916–1982)は、ベルサ、スピサリブ、プルーヌス、アダムなど数々の名作を手がけ、グスタフスベリの黄金時代を築きました。「千の芸術家(Tusenkonstnären)」と呼ばれた彼は、陶磁器だけでなくテキスタイル、ガラス、グラフィックデザインなど多岐にわたる分野で活躍しました。

このほか、ベルント・フリーベリ(1899–1981)は中国宋代の青磁に影響を受けた独自の釉薬技法で世界的な評価を得、リサ・ラーソン(1931–2024)はシャモット粘土を用いた愛らしい動物フィギュアで日本でも絶大な人気を誇りました。
ヴィンテージの見分け方 — バックスタンプ(刻印)ガイド

グスタフスベリの食器には裏面にバックスタンプ(刻印)が施されています。このスタンプのデザインは時代とともに変化しており、製造年代を特定する重要な手がかりとなります。1839年に採用された錨(アンカー)マークは現在まで同社のシンボルとして受け継がれています。1993年にオリジナルの食器生産が終了し、現在はHPF社が復刻版を製造しています。ヴィンテージ品はフリント陶器やフェルトスパット磁器で、復刻版のボーンチャイナとは素材が異なります。
■詳細スペック
- メーカー:Gustavsberg / グスタフスベリ
- フォルムデザイン:Stig Lindberg / スティグ・リンドベリ
- パターンデザイン:Helinä Pitkänen / ヘリナ・ピトカネン
- 年代:1950年代
- 製造国:スウェーデン
- サイズ:幅16cm(取手含む)高さ22cm 適正容量1000ml 満水時1200ml
■コンディション:★★★★★(5:完品)
割れ・欠け・貫入がなく、非常に良好なコンディションです。釉薬の濃淡、にじみ、筆ムラは制作当時からの表情であり、本作の個性としてご理解ください。










