北欧のひまわり(Solros)モチーフ完全ガイド|ニールンドが彫り、リサ・ラーソンが描いた「太陽の花」
北欧食器タックショミュッケ編集部スウェーデン・フィンランドから北欧ヴィンテージ食器を直接買い付け、1,000点以上を検品してきた当店が、一次情報と実物の観察にもとづいて執筆・編集しています。
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まっすぐ天を仰ぐ大輪の花。放射状に広がる花びらと、種を敷き詰めた円い中心。ひまわりは、夏の光そのものを写したような花です。スウェーデン語では「ソルロス(solros)」、太陽(sol)とバラ(ros)を組み合わせて「太陽のバラ」と呼ばれます。
この花の姿は、20世紀スウェーデンの陶芸家たちの手も惹きつけました。ロールストランドのアトリエで肉厚の陶土に彫り込まれ、グスタフスベリでは一枚の陶板の中心に据えられ、白い器の上には黒い線だけで描かれました。同じ「ソルロス」という名を持ちながら、窯とつくり手によって、まったく違う表情のひまわりが生まれています。
この記事では、スウェーデン語の「太陽の花」という言葉から北欧の夏の情景をたどり、ロールストランドのグンナー・ニールンド、グスタフスベリのリサ・ラーソンという二人の名前を軸に、北欧の窯に咲いたひまわりのモチーフをご紹介します。
この記事でわかること
- スウェーデン語「ソルロス(solros)=太陽の花」の由来と、北欧の夏にひまわりが映える背景
- グンナー・ニールンドとロールストランドのアトリエ作品——彫りで表したひまわり
- リサ・ラーソンがグスタフスベリで手がけた「ウニーク(Unik)」の陶板
- 彫り・盛り・線描き——ひとつの花が窯とつくり手ごとに違う表情になる理由
目次
ソルロス(Solros)——スウェーデン語の「太陽の花」
スウェーデン語でひまわりを「ソルロス(solros)」といいます。太陽を意味する「sol」と、バラを意味する「ros」を合わせた言葉で、直訳すれば「太陽のバラ」。フィンランド語の「アウリンゴンクッカ(auringonkukka)」も、太陽(aurinko)の花(kukka)という同じ発想の言葉です。北欧の二つの言語が、そろってこの花に「太陽」の名を与えていることになります。
ひまわり(Helianthus annuus)はもともと北アメリカ原産の植物です。ヨーロッパへ伝わったのは16世紀のこととされ、スペインを経て16世紀後半には記録に現れたと伝えられます。北欧の庭で観賞用に育てられるようになったのは1600年代半ば以降といわれ、この花は北欧にとって、比較的あたらしい「よそから来た夏の花」でした。
それでも、太陽を追うように花の向きを変えるその姿は、光を待ちわびる北の国の人々の心に響いたのでしょう。ひまわりは太陽や光、夏を思わせる花として親しまれてきたとされます。学名の「Helianthus」自体、ギリシャ語で太陽(helios)と花(anthos)を意味する言葉です。
北欧の短い夏と、黄色い花
北欧の夏は、驚くほど短く、まぶしいほど明るい季節です。緯度の高いスウェーデンやフィンランドでは、冬は長く日照時間が短い一方、夏至の頃には夜がほとんど訪れず、白夜に近い薄明かりが続きます。凝縮された光のなかで、草原の花々がいっせいに咲きそろいます。
赤い木壁に白い窓枠のサマーハウス、庭に咲く草花、湖のほとりの光——北欧の夏の情景は、この地のデザインの原風景でもあります。花や植物を器の上に写しとる北欧の陶芸の伝統は、こうした短くも豊かな夏への愛着と切り離せません。ひまわりの大輪の黄色は、そのなかでもとりわけ夏の太陽を象徴する色でした。
陶の器に写されたひまわりは、季節が過ぎても色あせません。夏の盛りに咲いて枯れていく生花とは違い、釉薬をまとった陶のひまわりは、窓辺や棚の上で一年じゅう黄色い光を放ちつづけます。北欧の作り手がこの花を器に彫り、描いた背景には、そんな「季節を留める」願いも読み取れるように思います。
スウェーデンの窯に咲いたひまわり——三つの表現
スウェーデンを代表する二つの名窯、ロールストランド(Rörstrand)とグスタフスベリ(Gustavsberg)。この二つの窯から、「ソルロス(Solros)」の名を持つひまわりの作品が生まれています。おもしろいのは、同じ花を題材にしながら、その表現がまったく異なることです。
ひとつは、ロールストランドのアトリエで生まれた肉厚の陶に彫り込まれたひまわり。もうひとつは、グスタフスベリでリサ・ラーソンが手がけた陶板のなかで様式化されたひまわり。そしてもうひとつ、白い器の上に黒い線だけで描かれたひまわりです。彫り、盛り、線描き——ひとつの花が、窯とつくり手の個性を映して三通りの姿になります。順にたどっていきましょう。
グンナー・ニールンドとロールストランドのアトリエ作品
釉薬の陶芸家、グンナー・ニールンド
グンナー・ニールンド(Gunnar Nylund、1904〜1997)は、20世紀のスウェーデン陶芸を語るうえで欠かせない作家のひとりです。1930年代から長くロールストランドの芸術面を率い、力強いフォルムの炻器(ストーンウェア)と、深く複雑な釉薬の表現で名を高めました。彼の生涯とロールストランドでの仕事は、グンナー・ニールンド完全ガイドでくわしくご紹介しています。
ニールンドの真骨頂は、なんといっても釉薬です。深い青緑や褐色をたたえた炻器の器は、光を受けるとしっとりとした奥行きを見せます。ひとつの色のなかに濃淡や斑(むら)が生まれ、工業製品にはない表情を宿す——それがニールンドの陶の魅力でした。
彫りで表したひまわり——アトリエ作品のソルロス
ロールストランドには、大量生産される食器のラインとは別に、著名なデザイナーが一点ものに近いアート作品を手がける工房(アトリエ)の部門がありました。スウェーデン語で「アトリエ作品(ateljégods)」と呼ばれるこの領域では、実用性よりも造形と釉薬の実験が優先されます。ひまわりを主題にした「ソルロス」のフラワーベースや飾り皿は、このアトリエ作品として生まれたものとして知られます。
造りはいかにもニールンドらしく、全体に肉厚で重量感があります。ひまわりの花と葉は、表面に刻まれた線によって表されています。溝に濃い釉薬が沈み込むことで、花の輪郭が陰影となって浮かび上がります。黄緑や褐色の地に、溝の黒がくっきりと走る——絵付けではなく、彫りと釉薬の重なりで描かれたひまわりです。
底面にニールンドのイニシャル「GN」が刻まれた個体が、彼の作として知られています。じつは、ひまわりを主題にしたレリーフは、ロールストランドのアトリエで活躍した他の作家の作品にも見られます(たとえばシルヴィア・レウコヴィウスが1971年に署名したひまわりのレリーフ皿が知られます)。同じ工房で同じ花を扱っても作者は一人ではないため、署名の有無が帰属を見分ける手がかりになります。
同じソルロスでも、釉薬の色によって印象は大きく変わります。太陽を思わせる黄色や黄緑のものが多いなかで、青緑の釉をかけた一枚は、夕暮れの空のような静けさをたたえています。なお、器の裏面に見られる文字や数字の記号については、ロールストランド美術館は「製造年ではなく、素地やモデルを示す技術的な記号」と説明しています。裏面の数字だけで年代を割り出すことはできません。刻印の読み方はロールストランドのバックスタンプ(刻印)完全ガイドにまとめています。
制作年については、ディーラーの商品説明などで「1950〜60年代頃」とされることが多いものの、工場や美術館の一次資料で個々の作品の年代を確認することは難しく、当店でも幅をもってとらえています。ニールンドが力を注いだ釉薬と造形の陶芸——その延長線上に咲いた、彫りのひまわりです。
リサ・ラーソンの「ウニーク」——陶板のひまわり
リサ・ラーソンとグスタフスベリ
リサ・ラーソン(Lisa Larson、1931〜2024)は、戦後スウェーデンでもっとも愛された陶芸家のひとりです。スウェーデン南部スモーランド地方に生まれ、ヨーテボリの工芸学校で学んだのち、1954年、グスタフスベリの巨匠スティグ・リンドベリに才能を見出されて工場に招かれました。「1年の試用期間」で始まった在籍は、やがて四半世紀を超える創作の日々へと続いていきます。
「リッラ・ズー(小さな動物園)」の動物たちや「ABCの少女たち」など、リサの作品は素朴であたたかく、そして手仕事の跡をそのまま残しています。彼女は自然の姿を単純なかたちへと抽象化し、土のざらつきや釉薬の濃淡を生かすことを得意としました。その作風の本質は、動物の陶にも、花を描いた陶板にも通じています。
グスタフスベリは、ストックホルム近郊の入り江に開けた窯場の町です。19世紀から続く工場は、20世紀にはスティグ・リンドベリやリサ・ラーソンといった作家を擁し、スウェーデン・モダンデザインの中心地のひとつになりました。工房の一角には、独立した創作のためのスタジオが置かれ、量産品とは別の実験的な作品づくりが行われていました。
ウニーク(Unik)シリーズの陶板「ソルロス」
リサ・ラーソンがグスタフスベリで手がけた作品のなかに、「ウニーク(Unik)」と名づけられた陶板(壁掛けのレリーフ、スウェーデン語でväggplatta)のシリーズがあります。動物や植物などを主題に、正方形の陶板の中心へモチーフを大きく据えた、装飾的な壁飾りです。ひまわりを表した「ソルロス(Solros)」は、そのなかの一枚として知られています。
公的なコレクションの記録では、この「ソルロス」の陶板は1961年にデザインされたものとされます(スウェーデンのNationalmuseumやDigitaltMuseumに同名の陶板が収蔵されています)。素地は炻器(ストーンウェア)で、手で彩色をほどこし、部分的に釉薬をかけて仕上げられています。かたく焼き締めた土の上に、放射状の花びらと、点を打った花芯が力強く表されています。
この陶板は長く作られたため、時代や個体によって釉薬の色合いにかなりの幅があります。褐色の濃いもの、黄土色のもの、白っぽく淡いもの——同じ図柄でも、まとう色によって表情が大きく変わります。カタログの定番とは異なる色づかいの個体も見られます。冒頭でご紹介した深い青の一枚も、その一例です。
正面には「LISA L」のサインが押されています。土の質感、手彩色の濃淡、押印のわずかな傾き——一枚ごとに異なるその表情に、多作で知られたリサの手の跡が残っています。リサ・ラーソンの壁掛けレリーフ全般については、リサ・ラーソンの陶板(壁掛けレリーフ)完全ガイドでさらにくわしくたどれます。
線で描くひまわり——グスタフスベリの食器
彫りで表したニールンドのひまわり、盛り上げるように表したリサ・ラーソンのひまわり。三つめの表現は、まったく対照的です。グスタフスベリには、「ソルロス」の名で、白い器の上に黒い線だけでひまわりを描いた食器も見られます。
ソーサーの縁に沿って、花びらの輪郭だけが黒い線で描かれ、上に載る白いカップには絵柄がありません。色を塗り重ねるのではなく、線の勢いと余白でひまわりを感じさせる——グラフィックのように涼やかなデザインです。彫りと釉薬で立体を追ったニールンドやリサの陶板とは正反対の、平面と線による様式化です。
この線描きのソルロスは、海外の販売サイトでは特定のデザイナーの作として紹介されることもありますが、工場や美術館の記録でその帰属を確認することはできていません。当店では、確かな裏づけのある事実のみをお伝えする方針から、デザイナー名は断定せずにご紹介しています。作者の名を離れても、線一本でひまわりを描ききる潔さは、北欧デザインらしい簡素の美を伝えています。
ひまわりのモチーフを飾る
ひまわりを主題にした陶は、そのほとんどが壁飾りやフラワーベース、飾り皿として作られた、はじめから眺めるための器です。だからこそ、暮らしの風景のなかに置いたときにいちばん映えます。
壁掛けの陶板は、白い壁にひとつだけ掛けると、黄色い花が絵画のように空間を明るくします。飾り皿はスタンドに立てて棚の上へ、フラワーベースは造形そのものをオブジェとして——ひまわりの大輪は単体でも十分な存在感があります。数十年を経たヴィンテージの陶には、製造時に生じた貫入(釉薬の細かなひび模様)や、時代を経た北欧ヴィンテージらしい質感が見られることもありますが、それもまた土と釉薬の作品ならではの味わいです。長く美しく保つための扱いは北欧ヴィンテージ食器の保存と手入れガイドにまとめています。
まとめ
スウェーデン語で「太陽の花」を意味するソルロス。北欧にとっては比較的あたらしい夏の花でありながら、その大輪の黄色は、短くまぶしい北の夏を象徴する色として、陶芸家たちの手を惹きつけました。ロールストランドのグンナー・ニールンドは肉厚の陶に彫り込み、グスタフスベリのリサ・ラーソンは陶板の中心に据え、そして白い器の上には黒い線だけで描かれました。彫り、盛り、線描き——ひとつの花が、窯とつくり手の個性を映して、これほど違う姿になります。作品の裏側にある物語を知ると、棚に飾られた一輪のひまわりが、いっそう豊かに見えてくるはずです。
要点の整理
- 「ソルロス(solros)」は太陽(sol)とバラ(ros)を合わせたスウェーデン語で、ひまわりを指す
- ひまわりは北アメリカ原産で、ヨーロッパには16世紀に、北欧の庭には1600年代半ば以降に広まった比較的あたらしい夏の花
- ロールストランドのアトリエ作品のソルロスは、彫りと釉薬で表された立体的なひまわり。GN署名の個体はグンナー・ニールンド作として知られる
- グスタフスベリのリサ・ラーソン「ウニーク」の陶板ソルロスは、1961年デザインとされる炻器の壁飾り
- 同じ「ソルロス」でも、彫り・盛り・線描きと、窯とつくり手によって表現が大きく異なる
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