北欧ヴィンテージ食器の保存と手入れ——観賞用のうつわを長く美しく保つガイド

北欧ヴィンテージ食器の保存と手入れ——観賞用のうつわを長く美しく保つガイド

北欧食器タックショミュッケ編集部

北欧ヴィンテージのうつわは、半世紀という時間をくぐり抜けて日本へ届いた品です。当店でお届けするグスタフスベリ、アラビア(ARABIA)、ロールストランド、イッタラのうつわは、いずれも観賞用として——つまり「使うため」ではなく「眺めて、飾って、遺していくため」のものとして海を渡ってきました。だからこそ、その付き合い方も少しだけ、美術館が収蔵品と向き合うまなざしに似ています。

この記事は、北欧ヴィンテージ食器を長く美しく保つための保存と手入れのガイドです。釉薬に走る貫入(かんにゅう)をどう捉えるか。光や温度、湿度とどう付き合うか。埃や汚れをどうやさしく払うか。欠けや貫入のある器をどう扱うか。棚にどう並べ、どう収納するか。ガラス器には何が起こるのか——保存修復の考え方をやさしく噛みくだきながら、順にたどっていきます。難しい道具は要りません。大切なのは、うつわを傷めない知恵と、少しの心づかいです。

ガラス扉付きの作り付け飾り棚に整然と並ぶ器
ガラス扉付きの飾り棚(ビトリーヌ)に整然と並ぶ器。埃と光をやわらげ、コレクションを守り、見せる収納の基本形。(画像:Wikimedia Commons/CC0/Rijksmuseum)

この記事でわかること

  • 「使うため」ではなく「遺すため」——観賞用のうつわを保存するという考え方
  • 貫入が生まれるしくみと、それを「時の表情」として味わうまなざし
  • 光・温度・湿度という三つの環境要因と、うつわを傷めない飾り方・保管のしかた
  • 金彩・上絵・銀彩をいたわる、やさしい埃と汚れの手入れの基本
  • 欠け・貫入のある器の扱い方、並べ方・収納・ガラス器ならではの注意点

目次

  1. 「使うため」ではなく「遺すため」——観賞用という考え方
  2. 北欧の窯と美術館——保存という発想の源
  3. 貫入とは何か——器に刻まれた網目と、その見方
    1. 貫入が生まれるしくみ
    2. 貫入は「時の表情」——観賞のまなざし
  4. 光とどう付き合うか——直射日光と退色
  5. 温度と湿度——安定した環境で保つ
    1. 急激な温度差を避ける
    2. 湿度を一定に、金属との接触を避ける
  6. 埃と汚れの、やさしい手入れ
    1. まずは柔らかい刷毛で埃を払う
    2. 金彩・上絵・銀彩は特にやさしく
  7. 欠け・貫入のある器の扱い
  8. 並べ方と収納——重ねる・立てる・間をとる
  9. ガラス器の保存——温度差と水あか、クリズリング
  10. 飾る器の扱い——壁掛け・立て掛けの注意
  11. 器のふるさと——北欧の四季と、飾り棚の光
  12. まとめ

「使うため」ではなく「遺すため」——観賞用という考え方

北欧ヴィンテージ食器の保存を考えるとき、出発点になるのは「観賞用」という立ち位置です。当店の器はすべて、飲食のためではなく、飾り、眺め、コレクションとして受け継いでいくためのものとして日本に届いています。この視点に立つと、手入れの目的もはっきりします。器を消耗させずに、器がまとう表情——釉薬の艶、絵付けの色、半世紀分の落ち着き——を、そのまま未来へ持ち越すことです。

それは、美術館が収蔵品を守るときの発想とよく似ています。作品に過度な負担をかけず、光や温度や湿度をおだやかに整え、触れるときは細心に扱う。派手なことは何もありません。むしろ「なるべく何もしない」「変化を急がせない」ことが、保存の要点です。北欧のうつわは丈夫な日用の器として生まれましたが、半世紀を経たいま、私たちはそれを一点の作品として遇します。この記事の手入れの作法も、すべてこの「遺すためのまなざし」から導かれています。

北欧の窯と美術館——保存という発想の源

保存という発想の源をたどると、北欧の窯そのものが、うつわを「遺す」ことに深く関わってきたことに気づきます。ストックホルム東方、ヴェルムドー島にあるグスタフスベリ磁器美術館(Gustavsbergs Porslinsmuseum)には、旧グスタフスベリ窯のコレクションが四万五千点以上収められています。2000年に旧オーナーからスウェーデン国家へ寄贈され、その後はスウェーデン国立美術館が管理し、常設で一万点以上が展観されてきました。水辺に立つ旧工場の建物群が、そのまま文化施設として保存されている——「使うためでなく遺すため」という発想を、これほど雄弁に象徴する場所もありません。

赤レンガのアーチ窓が並ぶグスタフスベリ磁器美術館の外観
グスタフスベリ磁器美術館。赤レンガのアーチ窓に囲まれた、器の記憶をとどめる旧工場建築。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0/撮影:Greger Ravik)

この窯では、ヴィルヘルム・コーゲ(Wilhelm Kåge)が芸術監督を務め、1942年にスティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)と実験工房「Gストゥディオン」を興しました。1949年にリンドベリが芸術監督を継ぎ、ベルサ(Berså)やスピサ・リブといった名作が生まれます。それらの器がいま、飲食の道具としてではなく、デザインの遺産として大切に保存されている——その事実自体が、私たちが手元の一点をどう扱うべきかを教えてくれます。

角に縦書きでARABIAと刻まれたヘルシンキの旧アラビア工場ビル
ヘルシンキの旧ARABIA工場ビル。角に縦書きで刻まれたロゴが、フィンランドを代表する窯の記憶を伝える。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0/撮影:Juutilai)

スウェーデンの「磁器の街」リードヒェーピング(Lidköping)に立つロールストランド美術館も、ヴェーネル湖の湖畔の旧工場内に約一万五千点を収蔵し、街全体がやきものの記憶をとどめています。1992年にグスタフスベリはフィンランドのARABIAと結び、のちにロールストランドとともにイッタラ・グループへ統合されました。北欧三国の窯が一つの系譜に連なっていく物語——その延長線上に、私たちの飾り棚もつながっています。窯が四万五千点を遺すように、私たちも手元の一点を遺す。スケールは違っても、まなざしは地続きです。

貫入とは何か——器に刻まれた網目と、その見方

ヴィンテージの器を光にかざすと、釉薬の表面に細かなひび割れの網目が走っていることがあります。これが貫入(かんにゅう)です。「器が割れているのでは」と不安になる方もいますが、多くの場合、ひびは釉薬の層に生じており、素地そのものの破断とは異なります。一方で、貫入には汚れや水分が入りやすくなることもあるため、保存の面では状態を見ながら扱う必要があります。そのうえで、北欧ヴィンテージでは、時間が器の表面に描いた「景色」として味わわれてきました。

貫入が生まれるしくみ

貫入とは、施釉された器の表面にあらわれる、細かなひび割れの網目のことです。保存修復の分野では「素地と釉薬のあいだに生じた張力によって、釉薬層に入る細かなひび割れの網目」と説明されます。ひび割れは硬い釉薬の層にとどまり、素地そのものが割れているわけではありません。

生じる主な要因は、素地と釉薬のわずかな熱膨張率の差です。焼成後の冷却時に釉薬が素地よりも速く収縮すると、釉薬に張力がかかって網目状のひびが入ります。また、多孔質の素地(アーゼンウェアやファイアンスなど)では、長い年月のなかで大気中の水分をわずかに吸って膨張し、焼成時の冷却を耐え抜いた釉薬にあらためて張力を与えることで、時間をおいて貫入があらわれることも知られています。ある材料科学の知見では、多孔質素地の0.1%ほどのわずかな吸湿膨張でも、新たな貫入を生じさせうるとされます。一方、しっかり焼き締まったストーンウェア(炻器)は吸湿がごく少なく、こうした遅れて生じる貫入は比較的あらわれにくいと考えられています。北欧のヴィンテージには陶器と炻器の両方があり、貫入の出方も一点ごとに異なります。

釉面全体に細かな貫入が広がる青磁の鉢
釉面いっぱいに広がる貫入の網目。貫入は洋の東西を問わず施釉のやきものに共通する現象で、これは美術館所蔵の青磁鉢の一例。(画像:Wikimedia Commons/CC0/Cleveland Museum of Art)

なお、こうしたひびの網目を、あえて装飾として狙って生み出したものは、区別して「crackle(クラックル)」と呼ばれます。同じ網目でも、偶然の経年で生まれたものと、意図してつくられたものがある——そう知っておくと、器を見る目が一段深くなります。

貫入は「時の表情」——観賞のまなざし

北欧ヴィンテージのうつわに見られる貫入は、素材や個体によって成り立ちが異なりますが、その多くは欠陥というより、半世紀以上の時間が器の表面に描いた「時の表情」として観賞することができます。貫入の網目は一点ごとに異なり、そのうつわの来歴を映す固有の景色でもあります。真新しい器にはない、この静かな奥行きこそ、ヴィンテージを飾る愉しみの核心のひとつです。

ここで一点、貫入と、素地にまで達したひび割れを混同しないことが大切です。貫入は釉薬の層にとどまる細かな網目で、器の強度そのものを損なうものではありません。一方、素地にまで達したひびは、光にかざすと一本の線として透けて見え、指で縁をなぞるとわずかな段差を感じることもあります。網の目のように面で広がっているのが貫入、一本の線として走っているのがひび——この見分けができると、器の状態を落ち着いて判断できます。ひびのある器の扱いについては、のちの章であらためて触れます。

リサ・ラーソン1985年制作 青釉ストライプのカラフとカップ
リサ・ラーソン(Lisa Larson)が1985年に制作した青釉ストライプのカラフとカップ。手仕事の釉調と経年の表情を、そのまま景色として味わう一組。リサ・ラーソン 1985年 青釉ストライプ カラフ&カップセット

貫入と付き合ううえで一点だけ実用的な留意点があります。網目に汚れが入り込むと取り除きにくいため、貫入のある器はできるだけ清潔で安定した環境に置くこと。これは後の「湿度」「手入れ」の章であらためて触れます。貫入は味わいですが、そこに汚れを溜めないことが、その味わいを美しく保つコツです。手元に貫入の器をお持ちなら、コンディションの読み方を解説した記事もあわせてご覧ください。

光とどう付き合うか——直射日光と退色

飾る場所を決めるとき、まず気を配りたいのが光です。光による退色は、露光量(光の強さ×時間)に応じて少しずつ蓄積し、いちど進むと元には戻らない不可逆のダメージとされています。窓辺の明るい特等席は魅力的ですが、直射日光の当たる場所は、長い目で見ると器にとってやさしい環境とは言えません。

とくに注意したいのが、上絵付けや転写、有機顔料を用いた絵柄です。これらは釉薬に焼き付けられた無機顔料に比べて直射日光や紫外線に弱く、色がゆっくりと褪せたり、変質したりすることがあります。ベルサのような転写の絵柄も、鮮やかな色を長く保つには、強い光を避けるにこしたことはありません。

グスタフスベリ ベルサの緑の葉柄のエッグカップ
グスタフスベリのベルサ、ヴィンテージのエッグカップ。緑の葉柄の鮮やかさを保つには、直射日光を避けたやわらかな採光のもとが望ましい。グスタフスベリ ベルサ ヴィンテージ エッグカップ

目安として、美術館の保存の考え方では、光に敏感な品は50ルクス程度に照度を抑えます。陶磁器やガラスそのものは比較的丈夫で300ルクス程度まで許容されるとされますが、上絵や有機顔料で装飾された品は、油彩画などと同じく150〜200ルクス程度に抑えるのが安心です。あわせて、紫外線はできるだけ遮ることが推奨されています。家庭で照度計を用意する必要はありません。「直射日光の当たる窓辺を避け、やわらかな間接光のもとで飾る」——この一点を守るだけで、退色のリスクはぐっと下がります。奇しくもそれは、雪や雲を通したやわらかな北欧の光のもとで器を眺めてきた、あの土地の暮らし方とも響き合っています。

温度と湿度——安定した環境で保つ

急激な温度差を避ける

陶磁器やガラスは、急激な温度変化に弱い素材とされています。強い寒暖差にさらされると、素地と釉薬がそれぞれ異なる度合いで膨張・収縮し、その張力が新たな貫入やひび、割れにつながることがあります。保存修復の分野では、陶磁器やガラスも他の収蔵品と同じく、清潔で環境の安定した条件で保つことがすすめられています。

観賞用コレクションを長く美しく保つためには、暖房・冷房の吹き出し口の直前、窓際の日なた、冷えやすい外壁沿いといった、温度が大きく揺れる場所を避けたいところです。一年を通して室温が安定した場所(目安として摂氏20度前後で、急な変動が少ない環境)に置いておくと安心です。冬場、冷え切った器をいきなり温かい部屋に移すような急な温度差も、できれば避けましょう。

湿度を一定に、金属との接触を避ける

湿度の安定も、器を長く美しく保つうえで大切な要素です。相対湿度が大きく上下すると、素地に含まれることのある可溶性の塩分が結晶化と溶解を繰り返し、器に負担をかけると保存修復の分野では説明されています。一般的な目安として、相対湿度は40〜60%、なかでも50%前後で安定させ、一日のなかの変動をできるだけ小さく抑えることが推奨されます。塩分の影響が気になる器では、より安全側に50%以下で安定させる考え方もあります。

また、貫入(表面の細かなひび)が入った器では、ひびに入り込んだ汚れは取り除きにくく、有機的なシミにつながることがあるとされるため、清潔で安定した環境が望まれます。加えて、鉄や銅などの金属と接触するとサビ由来のシミが生じることがあるため、金属棚に直接置かず、清潔な布やフェルトを一枚敷いて保管すると安心です。日本の住まいは季節で湿度が大きく動きますが、扉付きの飾り棚に収めるだけでも、環境の急変はかなりやわらぎます。

スポット照明で陶板作品を照らすグスタフスベリ磁器美術館の展示室
グスタフスベリ磁器美術館の展示室。作品を照らしながらも、光・温度・湿度をおだやかに整えて見せる環境の実例。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0/撮影:Bengt Oberger)

埃と汚れの、やさしい手入れ

まずは柔らかい刷毛で埃を払う

飾っている間についた埃は、まず清潔で毛先の柔らかい刷毛で軽く払います。乾いた手入れから始めるのが基本です。布は、剥がれかけた装飾やざらついた表面に引っかかることがあるため、状態が安定した滑らかな器に限って、押しつけずに使います。慌てて水に浸ける前に、まずは乾いた状態で埃を払う——この順番を覚えておくと、器を余計な負担から守れます。

水を使いたい場合は、カナダ保存修復研究所(CCI)のガイドが、ぬるま湯(常温以下)を使い、洗剤は加えないよう勧めています。水道水でも差し支えありませんが、蒸留水や脱イオン水がより望ましいとされます。市販の漂白剤や酸性の洗浄剤、研磨剤、強いこすり洗いは避けてください。花器やオブジェの内側に残った古い汚れなど、どうしても水を用いたい場面もありますが、その場合もぬるま湯でやさしく、が原則です。

なかでも塩素系の漂白剤は、絶対に使わないでください。グスタフスベリのベルサ(Berså)をはじめ、転写紙で絵柄を施したヴィンテージのシリーズでは、漂白剤に触れると転写紙の色が溶け、絵柄そのものが退色・消失するおそれがあります。とくに透明釉の薄い初期の個体では、わずかな付着が取り返しのつかない痕になります。黄ばみや汚れが気になっても、ヴィンテージの手入れに漂白という選択肢はありません。

状態の良い、装飾のはがれのない器にかぎっては、水になじみにくい汚れに対して、CCIはエタノールを水に5容量%ほどまで加えてもよいとしています。ただしこれは、絵付けや金彩が水に溶けたりにじんだりしないことを確かめたうえでの、あくまで補助的な手段です。反対に、高温の湯に長くつけ置きする、強アルカリの洗剤や漂白剤に浸す、硬いスポンジやクレンザーでこする——こうした「しっかり洗う」方向の手入れは、観賞用の器にはむしろ負担になります。手入れは「落とす」より「払う」。この引き算の発想が、半世紀の表情を守ります。

グスタフスベリ リサ・ラーソン グラナダの中サイズのフラワーベース
グスタフスベリのグラナダ、リサ・ラーソンによる中サイズのフラワーベース。水を使う前に、釉薬や素地、内側の状態を確認したい一点。グスタフスベリ リサ・ラーソン グラナダ フラワーベース

金彩・上絵・銀彩は特にやさしく

とりわけ気をつけたいのが、金彩やラスター彩、上絵付けの装飾です。これらは器の表面にごく薄く施されており、繰り返しの取り扱いや不用意な清掃で、容易に擦れて摩耗します。こうした装飾のある品は、まず絵柄や釉薬が剥がれかけていないか、水に溶けたりにじんだりしないかを確かめ、不安があれば水にはふれさせないのが安全です。表面が曇ったり(ウィーピング)、細かなひび(クリズリング)が生じていたり、装飾が剥離している品は水を避け、状態が気になる場合は保存修復の専門家に相談してください。

銀彩の装飾にも独特の性質があります。グスタフスベリのアルジェンタ(Argenta)に見られる銀の装飾は、空気中の硫黄分などによってゆっくりと酸化し、黒ずんでいくことがあります。これは銀という素材の自然な変化で、深い色合いを景色として楽しむ考え方もあります。無理に磨き上げようとすると、かえって薄い銀の層を傷めてしまいかねません。埃を払い、変色とおだやかに付き合う——観賞用として保つなら、その距離感がちょうどよいところです。

グスタフスベリ アルジェンタ 銀彩のキャンドルスタンド ヴィルヘルム・コーゲ
グスタフスベリのアルジェンタ、ヴィルヘルム・コーゲによる銀彩のキャンドルスタンド。緑釉に銀の文様が沈む、変色もまた景色となる一点。グスタフスベリ アルジェンタ 銀彩 キャンドルスタンド

絵付けの技法によって手入れの勘どころが変わることについては、北欧食器の絵付け技法ガイドもあわせてご覧いただくと、より深く理解できます。

欠け・貫入のある器の扱い

ヴィンテージには、小さな欠け(チップ)や貫入、素地に達するひびを抱えた器も少なくありません。それも半世紀を生きた証ですが、これ以上傷めないよう、扱い方には少しだけコツがあります。

保存修復の基本として、取っ手や注ぎ口は接合が弱く折れやすいため、そこを持って持ち上げないようにします。持ち上げるときは両手を使い、器の本体を下からしっかり支えます。手はあらかじめ清潔で乾いた状態にし、器に当たりやすい大ぶりの装身具(指輪など)は外しておくと安心です。小さな心づかいですが、事故のほとんどは「片手で」「取っ手をつまんで」持ち上げた一瞬に起こります。

貫入やひびのある器は、水に浸すとひび割れの内部に水が残って傷みが進んだり、状態によっては釉薬が剥離したりする恐れがあります。そのため、原則として水に浸けての洗浄は避け、やわらかい刷毛や布で表面の埃を軽く払う程度にとどめます。判断に迷う脆い品は、無理をせず専門の修復家に相談するのが安全です。欠けや貫入は「隠すべき欠点」ではなく、その器の履歴の一部として静かに受けとめる——観賞用として飾るなら、そんな距離感がふさわしく思えます。

リサ・ラーソンの大型フィギュア ブルドッグ マキシ
リサ・ラーソンの大型フィギュア、ブルドッグ マキシ(廃盤品)。シャモットのざらついた無釉部分は埃が入り込みやすく、水を避けて乾いた手入れが向く。【廃盤品】大型 リサ・ラーソン ブルドッグ マキシ

リサ・ラーソンの動物像に代表される、シャモット(粗い炻器の素地)を生かした作品は、無釉のざらついた肌に埃が入り込みやすい一方、水を含ませると乾きにくいという性質があります。こうした品も、やわらかい刷毛で乾いたまま埃を払うのが基本です。

並べ方と収納——重ねる・立てる・間をとる

飾り棚や収納の中での並べ方も、器を守るうえで見過ごせません。保存修復の指針では、そもそも重ね置きを避け、可能なら一点ずつ置くことがすすめられています。重ねると、下の器に上の器の重みがかかり、縁と縁が擦れ合うためです。

色とりどりの皿を積み重ねた側面のクローズアップ
積み重ねた皿の縁のクローズアップ。縁と縁が直に触れ合う重ね置きは、擦れの原因になりやすい。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0/撮影:Dmitri Popov)

やむを得ず重ねる場合は、皿と皿のあいだにやわらかい緩衝材——無酸性の紙や薄いポリエチレンフォームのシートなど——を一枚挟むと、擦れや重みによる負担をやわらげられます。棚には繊維の出ないやわらかいパッドを敷き、脆くなった表面や剥離しかけた表面に引っかかりやすいポリエステル綿(バッティング)は避けるとされています。重ねるときも、応力や擦れを抑えるため段数は控えめに。パッド入りの収納容器や扉付きのキャビネットは、物理的な損傷だけでなく埃からも器を守ってくれます。

壁一面に多数の皿を掛けて見せるロールストランド美術館の展示
ロールストランド美術館の壁面展示。皿を立て掛けて見せる並べ方は、重ね置きの負担を避ける収納の発想にも通じる。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0/撮影:Majjaw)

皿を立てて飾る、種類ごとに間をとって並べる——美術館の展示は、そのまま家庭の収納のお手本になります。移動や梱包の際は、一点ずつ包み、器全体を下から支えるようにして運ぶこと。とりわけ引っ越しや模様替えのときは、この一手間が器の運命を分けます。

梱包のちょっとしたコツも添えておきます。緩衝材(薄いフォームシートや無酸性の紙)で一点ずつ包み、取っ手や注ぎ口といった突き出た部分には、あらかじめやわらかい紙を巻いて保護します。箱に詰めるときは、重い器を下に、軽い器を上に。器と器のあいだ、そして箱の隙間にも緩衝材を詰めて、輸送中に中で動かないようにします。皿は寝かせて積むより、緩衝材を挟んで立てて詰めるほうが、面にかかる圧力を分散できます。箱の外に「われもの・天地無用」と記しておけば、扱う人の意識も変わります。飾っているあいだの日々の心づかいと同じく、動かすときの数分の手間が、器を次の場所まで無事に運びます。

白い展示什器に種類ごとに整然と並ぶ食器
ロールストランド美術館の食器展示。種類ごとに分け、間をとって配した並べ方の工夫。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0/撮影:Majjaw)

ガラス器の保存——温度差と水あか、クリズリング

北欧のプレスガラスや吹きガラスには、陶磁器とはまた違った、素材そのものに由来する注意点があります。ガラスは配合の偏り——アルカリ分が多く、石灰などの安定剤が不足するといった条件——から、長い年月のなかで化学的に不安定になることがあります。その兆しが、表面に微細なひびが網の目状に広がる「クリズリング」や、その前段階として表面が油膜のように湿る「ウィーピング(泣き)」です。

カイ・フランクがヌータヤルヴィのためにデザインした琥珀色の吹きガラス
カイ・フランク(Kaj Franck)が1953年にヌータヤルヴィ(Nuutajärvi)のためにデザインした琥珀色の吹きガラス。色ガラスは光の透過で表情が変わる。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0/Nasjonalmuseet)

こうした変質は、相対湿度の大きな変動によって進みやすいとされます。コーニング・ガラス美術館やカナダ保存修復研究所(CCI)などの保存機関は、ガラスの観賞・保管に安定した湿度環境を推奨しています。健全なガラスではおおむね40〜50%程度、すでに変質の兆しがあるものでは40〜42%前後を目安に、より厳密な管理が望ましいとされます(機関により推奨のレンジには幅があります)。おおむね40%を下回ると表面が乾いてひびが進み、55%を超えると「泣き」が生じやすいと報告されています。急激な温度・湿度の変化を避けることが、ガラスを長く美しく保つうえでの要点のひとつです。

ARABIA ヌータヤルヴィ オイバ・トイッカ カステヘルミの17.5cmプレート
ヌータヤルヴィのカステヘルミ、17.5cmのプレート。露のような突起の隙間は埃が溜まりやすく、乾いた刷毛での手入れが向く。ARABIA ヌータヤルヴィ オイバ・トイッカ カステヘルミ 17.5cmプレート

カステヘルミのような、露を思わせる粒模様のプレスガラスは、その凹凸の隙間に埃が溜まりやすいのが悩みどころです。やわらかい刷毛で凹凸に沿って払うと、細かな埃も落とせます。透明ガラスは指紋や水あかが目立ちやすい素材でもあります。手に取るときは清潔で乾いた手で、縁ではなく本体を支えて。そして、ウィーピングやクリズリング、表面の剥離といった変質の兆しがある品は、状態を悪化させるおそれがあるため水洗いを避ける——これは保存機関の一致した助言です。

ティモ・サルパネヴァのフェスティボ 氷のような質感の透明ガラス燭台
ティモ・サルパネヴァ(Timo Sarpaneva)のフェスティボ、氷の肌を思わせる透明ガラスの燭台。反射と映り込みが美しいぶん、指紋や水あかも目立ちやすい。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0/撮影:Grigur)

飾る器の扱い——壁掛け・立て掛けの注意

陶板(装飾プレート)や絵皿を壁に飾るとき、あるいは棚に立て掛けるときにも、いくつか心づかいがあります。壁掛け用のワイヤーフックやプレートハンガーは、器の縁に金具が食い込むタイプもあります。縁に負担が集中しないよう、当たりのやわらかいものを選び、締めつけすぎないこと。落下は大きな事故につながるため、フックそのものが壁にしっかり固定されているかも確かめておきたいところです。

スティグ・リンドベリの多色釉を施したテラコッタ地の装飾陶板
スティグ・リンドベリの装飾陶板。テラコッタ地に多色釉で人物を表した、飾るためにつくられた器のひとつ。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0/撮影:Holger Ellgaard)

棚に立て掛けて飾る場合は、皿立て(イーゼル)の受け部分が器を安定して支えているか、前後に倒れやすくないかを確認します。立て掛けた器の前に別の器を重ねて置くと、出し入れのたびに接触の危険が増えます。一点一点に、少しだけ余白を——並べ方の余裕が、そのまま器の安全につながります。壁飾りの陶板については、北欧の壁飾りプレート(陶板)完全ガイドでも詳しく紹介しています。

器のふるさと——北欧の四季と、飾り棚の光

ここまで保存と手入れの作法をたどってきましたが、最後に少しだけ、器が生まれた土地の光景に目を向けてみます。北欧は冬が長く、陽の低い季節が続きます。だからこそ家庭では、窓辺やガラス扉付きの飾り棚(vitrinskåp)に器を並べ、やわらかな採光のもとで愛でる文化が根づいてきました。直射ではなく、雪や雲を通したやわらかな光。それは奇しくも、退色を避けて間接光のもとで観賞するという、美術館の保存原則とも響き合っています。

黄葉した白樺並木に包まれた秋のイッタラのガラス村
黄葉した白樺に包まれた、秋のイッタラのガラス村。器のふるさとに流れる北欧のやわらかな光。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0/撮影:Kotivalo)

器は、職人の手から生まれました。溶けたガラスを吹き竿の先にとり、息を吹き込んでかたちを起こす——1968年のイッタラの工場を写した一枚には、その手仕事の熱がそのまま写っています。一枚の皿、一客のグラスの向こうには、こうした工場の光景と、それを見守ってきた街の時間があります。手元の器を眺めるとき、私たちはその小さな窓から、北欧の四季と暮らしの光景をのぞいているのかもしれません。

1968年のイッタラのガラス工場で吹き竿を扱う職人たち
1968年のイッタラのガラス工場。吹き竿の先で白熱するガラスを、職人たちが手仕事で扱う現場。(画像:Wikimedia Commons/CC0/Szilas)

保存や手入れは、器を古びさせないための作業であると同時に、その一枚の向こうにある物語を、次の時間へつないでいく営みでもあります。うつわを守ることは、うつわが宿す北欧の記憶を守ること——そう考えると、日々の小さな心づかいも、少し豊かなものに感じられてきます。冬の夜、雪あかりに浮かぶ美術館が四万五千点を守り伝えるように、私たちもまた、飾り棚の一点を静かに守っていきます。

雪の積もった夜にライトアップされるグスタフスベリ磁器美術館
雪の夜にライトアップされたグスタフスベリ磁器美術館。器を守り、次の時代へ伝える場所。(画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0/撮影:Bengt Oberger)

まとめ

北欧ヴィンテージ食器の保存と手入れは、むずかしい技術ではありません。根っこにあるのは、「使うため」ではなく「遺すため」という観賞用のまなざしと、器を急がせず、負担をかけないという静かな心づかいです。光をやわらげ、温度と湿度を安定させ、埃はやさしく払い、扱うときは両手で——それだけで、半世紀を生きた器は、これからも長く美しい表情を保ってくれます。

貫入や銀彩の黒ずみ、小さな欠けも、状態を確かめたうえで無理に消そうとせず、その器が歩んできた時間の景色として受けとめる。保存とは、変化を止めることではなく、変化とおだやかに付き合いながら、いまの美しさを未来へ手渡していくこと。北欧の窯が遺したうつわを、あなたの飾り棚で、次の時間へつないでいただけたらと思います。

要点の整理

  • 観賞用として保つ——目的は、いま器がまとう釉薬の艶・絵付けの色・経年の落ち着きを、そのまま未来へ持ち越すこと。
  • 貫入は景色——素地と釉薬の張力で生じる網目。欠陥ではなく「時の表情」として味わい、汚れを溜めないことが美しさを保つコツ。
  • 光をやわらげる——退色は不可逆。直射日光を避け、やわらかな間接光のもとで飾る。上絵・転写・有機顔料の絵柄はとくに注意。
  • 温度と湿度を安定させる——急な寒暖差を避け室温20度前後、相対湿度は50%前後で変動を抑える。金属棚には布やフェルトを一枚。
  • 手入れは乾いた払いから——まず毛先の柔らかい刷毛で埃を払う。水を使うならぬるま湯で洗剤なし。金彩・銀彩・上絵は擦らずやさしく。塩素系漂白剤は厳禁——ベルサ等の転写の絵柄は色が溶ける。
  • 欠け・貫入は水を避ける——取っ手や注ぎ口で持たず両手で支える。ひびのある器は浸水を避け、迷う品は修復家に相談。
  • 並べ方・収納・ガラス——重ね置きは避け間をとる。ガラスは湿度変動でクリズリング・ウィーピングが進むため環境を一定に。

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