ロールストランドのバックスタンプ(刻印)完全ガイド|三つの王冠と年代の読み方、1726年から続く印の変遷
北欧食器タックショミュッケ編集部スウェーデン・フィンランドから北欧ヴィンテージ食器を直接買い付け、1,000点以上を検品してきた当店が、一次情報と実物の観察にもとづいて執筆・編集しています。
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ロールストランド(Rörstrand)のヴィンテージを手に取ったとき、多くの方がまず裏返して底を見ます。そこに刷られた、あるいは押された小さな印——バックスタンプ(刻印)です。ロールストランドは1726年の創業から現在まで、時代ごとに印のかたちを変えてきました。この印を読み解くと、その器がおよそいつ焼かれたものかを、驚くほど絞り込むことができます。
この記事では、スウェーデン・リードヒェーピング(Lidköping)にあるロールストランド・ミュージアム(Rörstrand Museum)が公開している一次情報を土台に、印の変遷を年代順に整理します。あわせて、ちまたで語られがちな「数字を西暦に読み替える早見表」のような話が、どこまで確かでどこから根拠を欠くのかも、正直にお伝えします。
この記事でわかること
- ロールストランドの印が、1726年から現在までどう移り変わってきたか
- 三つの王冠だけではロールストランドと判断できず、「Rörstrand」の工場名と組み合わせて読む必要があること
- 裏面の数字や文字から読み取れること・読み取れないことの線引き
- ヴィンテージ・復刻・印のない器を、落ち着いて見分けるための順序
目次
バックスタンプとは——なぜ印から年代がわかるのか
バックスタンプとは、器の裏面(底)に刷られたり押されたりした、作り手の印のことです。ブランド名や製造国、シリーズ名、デザイナーのサイン、そして時には製造年を示す記号が含まれます。窯はロゴや印の意匠を時代ごとに少しずつ改めていくため、その変化をたどると、器が焼かれた年代をかなり正確に絞り込めます。
ロールストランドの場合、この「印の履歴」が約300年分あります。しかも同社は、印の変遷を自社ミュージアムのサイトで公開しています。つまり、想像や噂ではなく、窯みずからが示した記録に沿って読み解けるわけです。以下では、その記録を軸に見ていきます。
画像:Wikimedia Commons/CC0
ロールストランドという窯——1726年、ストックホルムから
印の話に入る前に、その印を生んだ窯そのものを少し眺めておきます。器がどこで、どんな歴史のなかで焼かれたのかを知ると、裏面の一つひとつの印が、ただの記号ではなく時代の証しとして見えてきます。
マイセンに次ぐ、ヨーロッパでも指折りの古窯
ロールストランドは1726年、ストックホルムのロールストランド荘園で創業しました。ドイツ人の陶工ヨハン・ヴォルフ(Johann Wolff)が招かれ、貴族や商人からなる出資者たちが資金を出しています。創業当初に焼かれたのは、白い錫釉にコバルトで絵付けをしたファイアンス(錫釉陶器)で、硬質磁器の製造に成功するのは1770年代以降でした。
ドイツのマイセンが1710年に生まれていますから、ロールストランドはそのマイセンに次ぐ、ヨーロッパでも有数の古い歴史をもつ窯にあたります。「ヨーロッパで2番目に古い」と紹介されることもありますが、これはあくまでマイセンを筆頭に置いた序列での言い方です。いずれにせよ、300年近く器を焼き続けてきた稀有な存在であることに変わりはありません。
画像:Wikimedia Commons/CC0
この時代、ロールストランドはロシア市場へ向けた高い関税を避けるため、1870年代前半にヘルシンキ郊外へ子会社となる窯を設けています。これがのちのアラビア(ARABIA)です。スウェーデンとフィンランド、二つの北欧を代表する窯が、もともと一つの家系から枝分かれしていたことは、覚えておくとおもしろい事実です。
ストックホルムからリードヒェーピングへ
約200年にわたってストックホルムで操業した工場は、都市の拡張にともない1926年に閉鎖・取り壊されました。生産はいったんイェーテボリ(Gothenburg)へ移り、その後リードヒェーピングへと移されていきます。リードヒェーピングでは1932年に地元のリードヒェーピング磁器工場(ALP)と合併し、1936年から1939年ごろにかけて、ロールストランドの生産全体が段階的にこの地へ集約されました。
画像:Nordiska museet(DigitaltMuseum, NMA.0000268)/パブリックドメイン、撮影:Waldemar Lindström
画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0
その後ロールストランドは、ウプサラ・エクビー、フィンランドのヴァルチラ(Wärtsilä)、ハックマン(Hackman)といった企業のもとを経て、2007年にフィスカース(Fiskars)グループの一員となりました。アラビアやイッタラと同じ企業群に属しているのは、この統合の歴史によるものです。リードヒェーピングの工場そのものは2005年12月30日に閉鎖され、スウェーデン国内での生産に一つの区切りがつきました。
時代で変わる印——年代順に読む
ここからが本題です。ロールストランド・ミュージアムの記録に沿って、印の姿を古い順にたどります。まず大きな流れをつかんでおくと、裏面を見たときに「どのあたりの時代か」の見当がつけやすくなります。
「Stockholm」署名の時代(1730年代〜1758年頃)
最初期、1730年代から1758年ごろにかけての器には、工場名ではなく「Stockholm」という地名が手描きで記されました。当時ストックホルムには同種の窯がほかになかったため、産地の名がそのまま作り手の証しになっていたのです。多くの場合、そこに年号や絵付師のサイン、時には価格まで書き添えられました。もし「Stockholm」の手書き署名をもつ器に出会えたなら、それはロールストランドのごく初期の作にあたります。
1758年ごろ、近郊にマリーベリ(Marieberg)という競合の窯が現れると、ロールストランドは「Rörstrand」という工場名そのものを、綴りのまま、あるいは略した形で記すようになりました。工場名が印に登場するのは、この時期以降が目安です。
型押しの工場名(19世紀〜1884年)
19世紀に入ると、フリントウェア(flintware)と呼ばれる白い陶器の時代を迎えます。この頃は、工場名を大文字または小文字で素地に押し込んだ型押し(インプレスト)の印が標準でした。インクで刷るのではなく、素地に凹んだ跡として残る印です。この型押しの工場名印は、1800年代を通じて1884年まで使われ続けました。
画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0
三つの王冠の登場(1884年〜2000年)
そして1884年、ロールストランドを象徴する印が生まれます。いわゆる「王冠スタンプ(crown stamp)」です。イタリック体(斜体)で刷られた「Rörstrand」の工場名を、スウェーデンの小国章である三つの王冠(tre kronor)が囲む意匠でした。
この王冠スタンプは、細部に少しずつ変化を加えながら、実に2000年まで使われ続けました。つまり「イタリック体のRörstrand+三つの王冠」という組み合わせの印が見られたら、その器は1884年以降のものと考えてよいわけです。ヴィンテージ市場で出会うロールストランドの多くは、まさにこの王冠スタンプの時代に属します。
画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0
「SWEDEN」の追記(1940年代〜)
1940年代になると、工場名の「Rörstrand」に「Sweden」の一語が添えられるようになりました。したがって、印のなかに「SWEDEN」の表記があれば、おおむね1940年代以降の器と見るのが妥当です。ミッドセンチュリー期に人気を集めたシリーズの多くは、この「SWEDEN」入りの印をもっています。
ただし注意したいのは、「SWEDEN」の有無だけで製造年を1年単位まで特定はできない、という点です。あくまで「1940年代以降」という大きな枠を示す手がかりとして受け止めるのが正確です。
画像:Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0
冠つき「R」(2000年〜)
2000年、ロールストランドは新しい印を導入します。冠をいただいた「R」の意匠です。1884年以来の「王冠+イタリック体Rörstrand」とは世代の異なる、新しいロゴでした。したがって、冠つきの「R」マークをもつ器は2000年以降のものと判断できます。ヴィンテージと近年の器を分ける、わかりやすい境目の一つです。
三つの王冠だけでは「ロールストランドの印」とは言えない
三つの王冠は、スウェーデンの小国章として広く使われる意匠です。そのため、王冠だけを見てロールストランドと判断することはできません。ロールストランドの王冠スタンプを見るときは、イタリック体の「Rörstrand」という工場名と、その周囲に配された三つの王冠を一組として確認します。この組み合わせは1884年に導入され、細部を変えながら2000年まで使われました。王冠の形だけではなく、文字の書体、配置、SWEDEN表記、シリーズ名、器のフォルムをあわせて見ることで、年代をより正確に読み取れます。
画像:Wikimedia Commons/パブリックドメイン
参考までに、同じスウェーデンの名窯グスタフスベリ(Gustavsberg)が自らの印として選んだのは、三つの王冠ではなく錨(いかり)のマークでした(1839年に採用)。窯ごとに、自分を名指しするための固有のしるしがあったわけです。
数字と文字の読み方——わかるもの、わからないもの
裏面には、王冠やブランド名のほかに、数字や記号が押されていることがよくあります。ここが、ヴィンテージ選びでもっとも誤解が広まっている場所です。結論から言えば、裏面の数字を、なんでも西暦に読み替えられるわけではありません。
年代に結びつく数字——1937年の食器用スタンプ
ロールストランド・ミュージアムによれば、1937年に食器(テーブルウェア)向けとして、3桁の数字を含むスタンプが導入されました。同館の説明では、この3桁のうち最初の2桁が製造年を、3桁目がその年のどの時期かを示すと同館は説明しています。実物の食器にこの3桁コードが読み取れる場合は、この枠組みを手がかりに年代を推し量ることができます。
ただし、同館は個々のコードを西暦に対応させた一覧表までは公開していません。したがって、この3桁システムは「年代を読むための考え方」として理解しておくのが適切で、細部を断定的に語る早見表の類には慎重でありたいところです。
年代とは無関係な数字——型番と素地の記号
一方で、素地に型押しされた数字や文字の多くは、年代とはまったく関係がありません。ロールストランド・ミュージアムははっきりと、これらは陶土(素地)の種類や、その器がどの型(モデル)で作られたかを示す記号であって、日付とは無関係だと述べています。
つまり、裏面に「18」や「3」といった数字が見えたからといって、それを製造年と早合点してはいけません。海外のヴィンテージ販売サイトなどには、こうした数字を機械的に西暦へ変換して「○○年製」と断言する例が見られますが、窯みずからの記録はそれを支持していません。読み取れる数字のすべてが年代を語るわけではない——この一点を押さえておくだけで、器の見方はずっと確かなものになります。
印のない器、そして「2級品」について
ヴィンテージのロールストランドには、裏面に印がまったく見当たらない器もあります。これは珍しいことではありません。絵付けやシリーズによっては、もともと印が控えめだったり、長い年月のなかで摩耗して薄れてしまったりすることがあります。印がないこと自体は、ただちに「本物でない」ことを意味しません。かたちや絵柄、釉薬の質感、素地の色合いといった、印以外の手がかりから総合的に判断することになります。
ときおり話題になる「2級品(セカンド)」についても触れておきます。かつての窯は、わずかな歪みや釉薬のムラなど、規格に満たない器を2級品として区別することがありました。もっとも、ロールストランドが2級品をどのように印で示していたかについては、同館の公開資料に明確な記述が見当たりません。そのため、「この印は2級品を意味する」といった明確なルールはありません。
印がない器や、底面に擦れ・ざらつき・小さな刻みがある器も、ロールストランドの製品として流通しています。確認したいのは、いつ頃作られたものか、ヴィンテージか近年の器か、1級品か2級品か、シリーズ名やフォルム、素地、絵柄がどの時代の特徴と合うかという点です。バックスタンプは重要な手がかりですが、刻印だけで判断せず、器全体の特徴をあわせて読み取ります。
当店のロールストランドで印を読む
ここまで見てきた印の知識は、実際の器を前にするといっそう生きてきます。当店で扱うロールストランドのなかから、ミッドセンチュリー期を代表するシリーズをいくつかご紹介します。いずれも裏面には、これまで見てきた「イタリック体のRörstrand+三つの王冠」、そして時代によっては「SWEDEN」の一語をともなう印が見られます。
アネモン(Anemon)——短い期間だけ咲いた青い花
アネモンは1965年から1968年ごろという、ごく短い期間だけ作られたシリーズです。アネモネの花を思わせる青い絵柄が、白い器面に静かに映えます。製造期間が短いぶん、市場で見かける機会も限られる一群です。
器面の余白と青い花の配置が美しく、棚に一客を置くだけで空間が凛と引き締まります。→ ロールストランド アネモン(Anemon)コーヒーカップ&ソーサー、アネモン サービングプレート26cm
プリムール(Primeur)——シグネ・ペション=メリンの白
プリムールは、スウェーデン陶芸を代表するデザイナーの一人、シグネ・ペション=メリン(Signe Persson-Melin)が手がけた白い器のシリーズです。装飾を削ぎ落としたフォルムに、時に金彩「グルド・バグダッド」を組み合わせた、静かで品のある佇まいが魅力です。
→ プリムール 21cmプレート、プリムール ティーカップ・トリオ
モナミ(Mon Amie)——マリアンヌ・ウェストマンの青い花
モナミは、「スウェーデンの磁器の母」とも呼ばれるマリアンヌ・ウェストマン(Marianne Westman)が1952年に手がけた、青い花柄の名作です。フランス語で「私の恋人」を意味するこの器は、ロールストランドを代表する顔の一つとして、長く愛されてきました。
画像:Wikimedia Commons/パブリックドメイン
→ モナミ(Mon Amie)BVモデル ティーカップ&ソーサー
エデン(Eden)——シグリッド・リクターのコーヒーカップ
エデンは、シグリッド・リクター(Sigrid Richter)が手がけたコーヒーカップ&ソーサーのシリーズです。愛らしい絵柄と手にしっくりくるフォルムに、ロールストランドらしい丁寧なものづくりが息づいています。
これらのシリーズは、いずれも20世紀半ばのロールストランドを物語る器です。裏返して印を確かめれば、この記事でたどってきた歴史の一場面が、手のひらの上にあることに気づくはずです。
画像:Wikimedia Commons/パブリックドメイン
まとめ——裏面を読む順序
ロールストランドの印は、300年の時間を折りたたんだ小さな地図のようなものです。最後に、裏面を手にしたときの読み解きの順序を整理しておきます。
- まず「Rörstrand」の名を探す。工場名があれば、それがこの窯の器である何よりの証しです。三つの王冠だけで判断しないこと。
- 王冠スタンプなら1884年以降。イタリック体のRörstrandを三つの王冠が囲む印は、1884年から2000年まで使われました。
- 「SWEDEN」があれば1940年代以降。ミッドセンチュリー期の器に多く見られる手がかりです。
- 冠つき「R」なら2000年以降。ヴィンテージと近年の器を分ける境目です。
- 数字は慎重に。1937年以降の食器の3桁コードは年代の手がかりになりますが、素地や型番を示す数字は年代とは無関係です。
要点の整理
- ロールストランドは1726年ストックホルム創業。1926年に工場を閉じ、1930年代にリードヒェーピングへ移った
- 印は「Stockholm署名」→「型押しの工場名」→「三つの王冠(1884〜2000)」→「冠つきR(2000〜)」と移り変わった
- 「SWEDEN」の追記は1940年代から。年代の大きな枠を示す手がかり
- 三つの王冠はスウェーデンの国の象徴。ブランドを名指すのは王冠とともにある「Rörstrand」の名
- 裏面の数字は、年代を示すものと、型番・素地を示すものがある。すべてを製造年と読まない
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