リサ・ラーソン ノアの方舟のライオン|寄り添う雌と、円いたてがみの雄の顔

リサ・ラーソン ノアの方舟(Noaks Ark)完全ガイド|二頭ずつ寄り添う陶の動物たちと、年代・底の印の読み方

北欧食器タックショミュッケ編集部
リサ・ラーソン ノアの方舟のペンギン|白い胸を並べた黒に近い深緑の二羽がくちばしを触れ合わせるグスタフスベリの陶の像
ノアの方舟のペンギン。白い胸を並べた二羽が、くちばしの先を触れ合わせる

リサ・ラーソン(Lisa Larson)がグスタフスベリで手がけた陶の動物には、二頭の動物をひとつの像にまとめたシリーズがあります。旧約聖書の物語にちなむ「ノアの方舟(Noaks Ark)」です。寄り添うライオンの雌雄、くちばしを触れ合わせるペンギン、首をV字に広げたキリンと、小型の像はどれも二頭(二羽)で一組になっています。

スウェーデン国立美術館(Nationalmuseum)の所蔵記録によると、小型のペア像が生産されたのは1979年から1983年まででした。リサがグスタフスベリを離れたのは1980年なので、このシリーズは在籍の最後の時期に生まれ、退社のあとも生産が続いたことになります。大型のヒトコブラクダは、1992年まで生産されました。

この記事では、同館の記録と当店で扱った作品を手がかりに、ノアの方舟の動物たちの顔ぶれ、つくりと大きさ、底の印の読み方をたどります。あわせて、「Noaks ark」というスウェーデン語の名前の成り立ちと、スウェーデンの教会や子ども部屋に残るノアの方舟の姿も紹介します。

この記事でわかること

  • ノアの方舟は、小型の動物を二頭(二羽)ずつ一体にした、リサ・ラーソンのペア像のシリーズであること
  • 国立美術館の記録で確かめられる動物の顔ぶれと大きさ、1979〜1983年の生産期間
  • 「Noaks ark」というスウェーデン語の名前の意味と、スウェーデンに残るノアの方舟の図像
  • 底の錨の印と「LISA L」の読み方、大型の像やスカンセン・シリーズとの違い

目次

  1. ノアの方舟(Noaks Ark)とは——二頭ずつ寄り添う陶の動物
    1. 国立美術館に残る十点の記録
  2. 「Noaks ark」という名前——スウェーデン語の「ノアの方舟」
    1. Noaksは「ノアの」
    2. arkは「箱」
  3. スウェーデンに残るノアの方舟——教会の天井画から子ども部屋まで
    1. 中世の教会に描かれた方舟
    2. 木の方舟のおもちゃと、草原の「方舟」
  4. 方舟に乗った動物たち——七種のペア像と大型の像
    1. ライオン(Lejon)
    2. ペンギン(Pingvin)
    3. キリン(Giraff)
    4. リス(Ekorre)
    5. アシカ(Sjölejon)とゾウ(Elefant)
    6. ヒトコブラクダ(Dromedar)
    7. 大型のライオンとヒトコブラクダ
  5. 生産の年代——1979年の見本から、1992年の大型のヒトコブラクダまで
    1. 「1/6-79. PROV.」と書かれたペンギン
    2. リサの退社をまたいだシリーズ
  6. つくりと素材——鋳込みの炻器と、奥行き4cm前後の造形
    1. 型に流し込んでつくる炻器
    2. 横から見ると、厚みは4cm前後
  7. 底の印の読み方——錨のマークと「LISA L」
    1. 小型のペア像の印
    2. 大型の像の印
    3. スカンセン・シリーズ、リッルスカンセンとの違い
  8. まとめ

ノアの方舟(Noaks Ark)とは——二頭ずつ寄り添う陶の動物

ノアの方舟は、リサ・ラーソンのデザインでグスタフスベリが製作した陶の動物のシリーズです。小型の像はどれも、同じ種類の動物を二頭(二羽)並べて一体にしています。旧約聖書の創世記で、ノアは神の言いつけで方舟をつくり、家族とともに、生き物をつがいで乗せて大洪水を生き延びます。二頭ずつ寄り添う姿は、この物語の「つがい」を思わせます。

リサ・ラーソン ノアの方舟のライオン|雌と、たてがみを円く広げた雄が寄り添う茶色の陶の像
ノアの方舟のライオン。左に雌、右にたてがみを円く広げた雄。茶の斑の釉に、砂色の顔と黒い線

リサは1954年にグスタフスベリに入り、1980年まで在籍しました。1955年のリッラ・ズー(Lilla Zoo)、1950年代後半のストラ・ズー(Stora Zoo)から始まった動物の仕事は、四半世紀のあいだにいくつものシリーズへ広がっています。ノアの方舟は、その在籍の終わりに近い時期のシリーズです。リサの生涯と仕事の全体は、リサ・ラーソン完全ガイドで紹介しています。

国立美術館に残る十点の記録

ストックホルムの国立美術館の外観|水辺に建つ石造の建物と正面上部のNATIONALMUSEUMの文字
旧市街のドイツ教会から見た国立美術館。正面の上部に館名の文字、岸壁に白い客船(写真:Bengt A. Lundberg/スウェーデン国立遺産委員会/CC BY 2.5)

グスタフスベリの工場が受け継いできた収蔵品は、2000年に協同組合連合会KF(Kooperativa Förbundet)から国と国立美術館へ寄贈されました。同館の所蔵品データベースには、リサ・ラーソンの「Noaks ark」シリーズとして十点の記録があります。いずれもデザイナーはリサ・ラーソン、製作はグスタフスベリと記され、それぞれの生産期間、素材と釉、寸法が記録されています。この記事の年代と寸法は、おもにこの記録によっています。

「Noaks ark」という名前——スウェーデン語の「ノアの方舟」

Noaksは「ノアの」

シリーズ名のNoaks Arkは、スウェーデン語の言い回し「Noaks ark(ノアの方舟)」をそのまま使った名前です。「Noaks」は、人名Noak(ノア)に所有を表すsが付いた形で、「ノアの」という意味です。スウェーデン・アカデミーの辞典(SAOB)は、Noakの形を18世紀の詩人カール・ミカエル・ベルマン(Carl Michael Bellman)の詩から拾い、「Noaks ark」を決まった言い回しとして載せています。

主なスウェーデン語訳の聖書は、Noakの形を使っていません。1526年の新約聖書は「Noe」、1703年のカール12世の聖書は「Noah」、1917年の聖書は「Noa」と書いています。聖書の表記とは別に、「Noaks ark」という言い回しは暮らしの言葉として定着し、かつては「Noe ark」とも言いました。聖書の訳語が時代とともに変わった例は、クルビッツとはでも紹介しています。

arkは「箱」

arkは、ラテン語のarca(箱、櫃)から来た言葉です。SAOBは、arkの第一の意味に四角い箱や櫃を挙げ、第二の意味に、箱を思わせる形の舟としてノアの方舟を挙げています。ルターがドイツ語訳の聖書で方舟を「Kasten(箱)」と訳したのに対し、1541年のスウェーデン語の聖書は「ark」の語を使いました。

1703年の聖書で、神はノアに「Gör dig en ark utaf furoträ(松の木で方舟をつくりなさい)」と命じます。1917年の聖書では、同じ箇所の木が「goferträ(ゴフェルの木)」になりました。なお、同じつづりのarkには、紙一枚を指す別の言葉もあります。こちらはラテン語のarcus(弓)から来た中性名詞で、方舟のarkとは成り立ちが違います。

スウェーデンに残るノアの方舟——教会の天井画から子ども部屋まで

ノアの方舟は、スウェーデンでも古くから親しまれてきた物語です。教会の壁画や石彫、木のおもちゃ、草原の列石と、方舟はさまざまな姿で残っています。

中世の教会に描かれた方舟

スウェーデン国立遺産委員会(Riksantikvarieämbetet)の中世教会壁画の記録には、ノアの方舟の場面を残す教会がいくつも挙がっています。南部スコーネ地方のビェーレシェー教会(Bjäresjö)の天井画は1200〜1225年ごろ、ラッガ教会(Lagga)の壁画は1450年ごろのものです。

スコーネ地方ビェーレシェー教会の天井画|青い地に描かれた、舟の上に段々の家をのせたノアの方舟
スコーネ地方、ビェーレシェー教会の天井画。青い地に、舟の上へ段々の家をのせた方舟(写真:Hideko Bondesen/Nordenskirker.dk/CC BY-SA 2.5)
スコーネ地方のビェーレシェー教会の外観|石積みの塔と黄色い壁の身廊、緑青色の屋根
2005年8月のビェーレシェー教会。石積みの塔と黄色い壁の身廊、緑青色の屋根(写真:Jorchr/CC BY-SA 3.0)

ウップランド地方のエストゥーナ教会(Estuna)には、1460年代の天井画があります。漆喰の丸天井をめぐるつる草の文様のあいだで、ノアと家族が方舟に乗り込んでいます。

ウップランド地方エストゥーナ教会の天井画|つる草文様の下、窓から人がのぞく方舟と乗り込む人物
エストゥーナ教会の天井画。窓から人がのぞく方舟と、乗り込む人物。中央を縦に走るのは照明を吊る棒(写真:Bengt A. Lundberg/スウェーデン国立遺産委員会/CC BY 2.5)

バルト海に浮かぶゴットランド島のガンメルガーン教会(Gammelgarn)では、入口のまわりの石彫に方舟が表されています。半円を重ねた波の文様の上に箱形の舟が浮かび、その窓から人物が顔をのぞかせています。

ゴットランド島ガンメルガーン教会の入口の石彫|波の文様の上に浮かぶ箱形の方舟と窓からのぞく顔
ゴットランド島、ガンメルガーン教会の入口の石彫。波の上の方舟の窓からのぞく顔(写真:Wolfgang Sauber/CC BY-SA 3.0)

ここで見た中世の方舟は、どれも箱や家のような形をしています。舟の上に家を重ねたビェーレシェーの方舟や、板を積んだ壁に窓が並ぶエストゥーナの方舟は、arkが「箱」を意味する言葉であることを思い出させます。

木の方舟のおもちゃと、草原の「方舟」

19世紀の終わりには、「Noaks ark」は人と動物の人形を詰めたおもちゃの名前としても使われていました。SAOBは、作家ヴェルネル・フォン・ヘイデンスタム(Verner von Heidenstam)の1892年の文章をその例に引いています。

スウェーデンの博物館には、木でつくった方舟のおもちゃが収蔵されています。ストックホルムのノルディスカ博物館(Nordiska museet)の方舟は、ダールスランド地方のステーネビューの職業学校でつくられた彩色の木製品で、「ノアじいさんと8頭の動物」が添えられています。ルンドの文化史博物館クルトゥーレン(Kulturen)の方舟は、ルンドのリューベリ家で使われ、1945年に収蔵されたもので、人形が1体、動物が11頭、木が2本付いています。

イーヴァル・アロセニウスの絵《ノアの方舟》|濃紺の水に浮かぶ赤い方舟と屋根に並ぶ白い鳥
イーヴァル・アロセニウス《ノアの方舟》。濃紺の水に浮かぶ赤い方舟と、屋根に並ぶ白い鳥。国立美術館所蔵(パブリックドメイン)

画家イーヴァル・アロセニウス(Ivar Arosenius、1878〜1909年)も、ノアの方舟を描いています。国立美術館が所蔵するこの小品では、濃紺の水に赤い方舟が浮かび、屋根に白い鳥が並んでいます。同館には、11歳の少年が1948年の絵の募集に応じて描いた「ノアの方舟」も収められています。

エーランド島のカールム・アルヴァル(Karums alvar)には、鉄器時代の墓地に、石を舟の形に並べた長さ26メートルの列石があります。この列石も「ノアの方舟(Noaks ark)」と呼ばれています。

エーランド島カールム・アルヴァルの舟形列石|夏の草原に舟の輪郭のように並ぶ石
エーランド島カールム・アルヴァルの草原。舟の輪郭のように並ぶ石の列は「ノアの方舟」の名で呼ばれる(写真:Olaf Meister/CC BY-SA 3.0)

方舟に乗った動物たち——七種のペア像と大型の像

国立美術館には、小型のリス、ペンギン、キリン、ライオン、ゾウ、アシカの像と、大型のライオン(雄と雌)、大型のヒトコブラクダが収蔵されています。これに当店で扱った小型のヒトコブラクダを加えると、確かめられる小型の動物は七種になります。同館の記録は、どの動物もスウェーデン語の単数形の名前で記しています。

動物 スウェーデン語 寸法(cm) 生産期間 素材と釉
ライオン Lejon 7.4×16×3.1 1979〜1983年 茶色がかった赤の斑の釉、黒の彩色
ペンギン Pingvin 10.1×11.5×3.5
9.6×11.5×3.5
1970年代末
1979〜1983年
黒と透明の釉
こげ茶の釉
キリン Giraff 14.5×13.1×4.3 1979〜1983年 黄色の釉、刷りと彩色の装飾
リス Ekorre 7.6×15×3.4 1979〜1983年 茶色がかった赤の斑の釉、黒の彩色
アシカ Sjölejon 9.5×10.9×4.5 1979〜1983年 白い炻器に茶の釉
ゾウ Elefant 7.8×9.7×4.6 1979〜1983年 茶色の炻器に白い釉、黒の彩色
ヒトコブラクダ(小型) Dromedar 11×13.5×4.5 — 赤褐色と灰緑の釉
ライオン(大型・雄) Lejonhanne 29.5×33×10.8 1980〜1984年 茶色がかった赤の斑の釉
ライオン(大型・雌) Lejonhona 26.5×34×10.3 1980〜1984年 茶色がかった赤の斑の釉
ヒトコブラクダ(大型) Dromedar, stor 35.5×42×17.6 1979〜1992年 灰褐色の釉、刻んだ線の装飾

寸法は高さ×幅×奥行きの順です。小型のヒトコブラクダは当店で扱った一点の計測と観察により、ほかは国立美術館の記録によります。

ライオン(Lejon)

小型のライオンは、左に雌、右に雄が並び、前足を寄せて伏せています。雄のたてがみは顔を囲む円になり、黒い線が放射状に走ります。記録では茶色がかった赤の斑の釉に黒の彩色で、高さ7.4cm、幅16cm、奥行き3.1cmです。

リサ・ラーソン ノアの方舟のライオンの裏側|円いたてがみと前足が背中側にも浮き彫りで表された茶色の陶の像
同じライオンの裏側。円いたてがみと前足が、背中側にも浮き彫りで表される

裏に回ると、たてがみの円と前足の指が、背中側にも浮き彫りで表されています。ライオンはリサが何度も手がけた動物で、1964年のアフリカ(Afrika)にも登場します。アフリカのライオンについては、リサ・ラーソン アフリカ(Afrika)シリーズ完全ガイドをご覧ください。

ペンギン(Pingvin)

ペンギンは、白い胸を並べた二羽が、くちばしの先を触れ合わせています。寄せた頭のあいだには、しずく形のすき間が抜けています。国立美術館には、黒と透明の釉のもの(高さ10.1cm)と、こげ茶の釉のもの(高さ9.6cm)の二点が収蔵されていて、幅はどちらも11.5cmです。当店で扱ったペンギンは、背中と翼が深い緑で、光の角度によって黒に近く沈みました。

リサ・ラーソン ノアの方舟のペンギンの背中側|深緑の背と翼、頭を寄せ合う二羽のグスタフスベリの陶の像
ペンギンの背中側。深い緑の背と翼、頭を寄せ合う二羽

キリン(Giraff)

キリンは、二頭の首がV字に開き、胴は一つに重なっています。橙色の地に、四つ葉のような黒い斑が散り、首の後ろには刻み目の入ったたてがみが通ります。同館の記録では黄色の釉で、装飾は「刷りと彩色」と記されています。高さは14.5cmで、小型の像のなかでは背の高い一体です。

リサ・ラーソン ノアの方舟のキリン|二頭の首がV字に開く橙色の地に黒い斑のグスタフスベリの陶の像
ノアの方舟のキリン。二頭の首がV字に開く。橙色の地に、四つ葉のような黒い斑

リス(Ekorre)

リスは、二匹が前後に重なって座っています。前のリスは前足を口もとに寄せ、尾には羽根のような黒い線が入っています。記録では茶色がかった赤の斑の釉に黒の彩色で、高さ7.6cm、幅15cmです。

リサ・ラーソン ノアの方舟のリス|前後に重なって座る二匹と羽根のような線の入った尾の茶色の陶の像
ノアの方舟のリス。前のリスは前足を口もとに寄せ、尾には羽根のような線

スウェーデンの森や公園で出会うリスは、耳の先に房毛のあるキタリスです。ストックホルムのユールゴーデンの森でも、枝の上で木の実をかじる姿が見られます。

ストックホルム・ユールゴーデンのキタリス|枝の上で木の実を抱える房毛の耳のリス
ストックホルム、ユールゴーデンのキタリス。枝の上で木の実を抱える(写真:Alexandar Vujadinovic/CC BY-SA 4.0)

アシカ(Sjölejon)とゾウ(Elefant)

国立美術館のアシカは白い炻器に茶の釉をかけたもので、高さ9.5cm、幅10.9cmです。当店で扱ったアシカは、胴でつながった二頭がU字を描くように左右へ首を伸ばし、口を開けていました。全体は灰緑の釉で、頭と足元に向かって茶の斑が濃くなっていました。

1960年代のスカンセンのアシカの給餌|円い台にしゃがむ飼育員と水から身を乗り出すアシカ
1963〜64年ごろのスカンセン。円い台にしゃがむ飼育員と、水から身を乗り出すアシカ(写真:スカンセン/CC BY-SA 4.0)

ストックホルムの野外博物館スカンセンには、1960年代にアシカのプールがありました。

ゾウは茶色の炻器に白い釉をかけ、黒で彩色したものです。高さ7.8cm、幅9.7cmで、奥行きは4.6cmと、小型の像のなかでは厚みがあります。

ヒトコブラクダ(Dromedar)

当店で扱った小型のヒトコブラクダは、大きなラクダの前に小さなラクダが寄り添う構図です。赤褐色の釉に、腹のあたりの灰緑の地が対比をつくります。高さ11cm、幅13.5cm、奥行き4.5cmで、国立美術館の大型のヒトコブラクダと同じ組み立てになっています。

リサ・ラーソン ノアの方舟のヒトコブラクダ|大きなラクダの前に小さなラクダが寄り添う赤褐色の陶の像
ノアの方舟のヒトコブラクダ。大きなラクダの前に、小さなラクダが寄り添う

反対側に回ると、大きなラクダのこぶと長い首が横からの姿で現れ、首の下から小さなラクダの頭がのぞきます。脚のあいだには灰緑の胴が見えます。

リサ・ラーソン ノアの方舟のヒトコブラクダの反対側|こぶと長い首の横姿と首の下にのぞく小さなラクダの頭
同じヒトコブラクダの反対側。こぶと長い首の横姿と、首の下にのぞく小さなラクダの頭

大型のライオンとヒトコブラクダ

国立美術館には、大型の像も三点収蔵されています。雄のライオンは高さ29.5cm・幅33cm、雌のライオンは高さ26.5cm・幅34cmで、小型と違って雄と雌が別々の像になっています。大型のヒトコブラクダは高さ35.5cm・幅42cmで、灰褐色の釉に刻んだ線の装飾がほどこされています。生産期間は、ライオンが1980〜1984年、ヒトコブラクダが1979〜1992年です。

生産の年代——1979年の見本から、1992年の大型のヒトコブラクダまで

「1/6-79. PROV.」と書かれたペンギン

国立美術館の、黒と透明の釉のペンギンの底には、「1/6-79. PROV.」と手書きされています。provはスウェーデン語で「見本、試し」を意味し、日付はスウェーデン式に日・月・年の順で書かれているので、1979年6月1日の見本ということになります。同館はこのペンギンを「1970年代の終わりの作」としています。

ほかの小型のペア像の生産期間は、記録ではいずれも1979〜1983年です。デザインの年を記した記録はなく、確かめられるのは、この見本の日付と生産の期間です。

リサの退社をまたいだシリーズ

リサが1980年に退社したあとも、ノアの方舟の生産はグスタフスベリで続きました。当時のグスタフスベリは、1937年から協同組合連合会KFの傘下にありました。1987年には、食器と美術陶器の部門がフィンランドのヴァルチラ(Wärtsilä)に移りました。

1978年冬のグスタフスベリ・ファルスタ湾|雪の積もった手すり越しに見る凍りはじめた入り江と松林
1978年冬、グスタフスベリのファルスタ湾。雪の積もった手すり越しに、凍りはじめた入り江(写真:Vispistrellus/CC BY 4.0)

同じころ、グスタフスベリではリサのほかのシリーズも生産されていました。北欧の動物を集めたスカンセン・シリーズ(Skansen)は1977〜1992年、リッルスカンセン(Lillskansen)は1978〜1992年、アドヴェントの燭台は1979〜1992年に生産されています。1975〜1981年には、リサがデザインした世界自然保護基金(WWF)のための絶滅危惧種の動物たちも製作されています。

1973年5月のグスタフスベリの入り江|ボートの並ぶ桟橋と対岸の塔のある建物
1973年5月のグスタフスベリ。ボートの並ぶ入り江と、対岸の塔のある建物(写真:Szilas/CC BY 4.0)

退社したリサは、ナッカとスコーネ地方のアトリエを拠点に、フリーランスのデザイナー、彫刻家として活動しました。1980年代にはローゼンタール、KF、ドゥーカ、ヘガネスなどの仕事を手がけ、1992年にはフランコ・ニコロージ、シヴ・ソリンとともにKスタジオ(Keramikstudion)を設立しています。Kスタジオについては、リサ・ラーソンのKスタジオ(Keramikstudion)とはで詳しく紹介しています。

1978年夏のストックホルム・セルゲル広場|噴水の池に立つガラスの塔とロータリーを走る赤いバス
1978年夏、ストックホルムのセルゲル広場。噴水の池に立つガラスの塔と、ロータリーを走る赤いバス(写真:Holger Ellgaard/CC BY-SA 3.0)

つくりと素材——鋳込みの炻器と、奥行き4cm前後の造形

型に流し込んでつくる炻器

国立美術館の記録では、ノアの方舟の像はいずれも炻器(stengods)で、多くは型に泥状の土を流し込む鋳込み成形(gjutet)でつくられています。素地の色は動物によって違い、ペンギンやアシカ、大型のヒトコブラクダは白、ゾウは茶色、大型のライオンは黄みがかった赤の炻器です。

釉の色も動物ごとに異なり、それぞれの組み合わせは上の表のとおりです。

横から見ると、厚みは4cm前後

正面から見るとふっくらとした像ですが、横に回ると、思いのほか薄いことがわかります。小型の像の奥行きは、記録では3.1cmから4.6cmです。当店で扱ったペンギンも、幅11.5cmに対して厚みは3cmほどでした。

リサ・ラーソン ノアの方舟のペンギンを横から見た姿|厚み3cmほどの薄い造形と深緑の翼
ペンギンを横から。厚みは3cmほど

二頭を横に並べて一体にし、厚みを抑えた形は、棚の手前や窓辺のような奥行きの浅い場所にも収まります。

底の印の読み方——錨のマークと「LISA L」

小型のペア像の印

小型のペア像の底には、黒い印がプリントされています。錨を囲む「GUSTAVSBERG」の円形マークの下に、「LISA L」と「SWEDEN」の二行が続きます。LISA Lの「L」は、くずした飾り文字です。国立美術館が公開している底の写真でも、ゾウ、アシカ、小型のライオン、キリンに同じ印が見られます。

リサ・ラーソン ノアの方舟のライオンの底|錨の入ったGUSTAVSBERGの円形マークとLISA L、SWEDENの黒い印
ライオンの底。錨の入った円形マークと「LISA L」「SWEDEN」の黒い印、小さな穴
リサ・ラーソン ノアの方舟のペンギンの底|白い素地に黒でプリントされた錨のマークとLISA L、SWEDENの文字
ペンギンの底。白い素地に同じ黒い印

印の濃さや見え方には差があり、印がはっきり見えない作品もあります。国立美術館のリスの底には、印が見当たりません。当店で扱った小型のヒトコブラクダの底にも、プリントの印は見えませんでした。印の有無だけで判断せず、形、釉、大きさをあわせて見ることが大切です。グスタフスベリの錨のマークの移り変わりは、グスタフスベリのロゴの歴史で紹介しています。

大型の像の印

大型のライオンとヒトコブラクダの底には、「Lisa Larson Studio」の文字と手の形の印、「Gustavsberg Sweden」の表記が入っています。大型のヒトコブラクダには、型押しの錨のマークもあります。小型と大型では、印の形式が異なります。

スカンセン・シリーズ、リッルスカンセンとの違い

国立美術館が所蔵する同じころのスカンセン・シリーズとリッルスカンセンの例では、底に「LISA L / SWEDEN / SKANSEN 6」「LILLSKANSEN」のような、シリーズ名を含む印が型押しされています。同館の写真や当店で扱った作品を見るかぎり、ノアの方舟の底にシリーズ名は見られません。シリーズ名の有無と、型押しかプリントかの違いは、同じ時期の動物を見分ける手がかりになります。スカンセン・シリーズの動物たちは、リサ・ラーソンの動物たち完全ガイドで紹介しています。

まとめ

ノアの方舟は、リサ・ラーソンがグスタフスベリに在籍した最後の時期に生まれた、小型の動物を二頭ずつ一体にしたペア像のシリーズです。国立美術館の記録からは、小型の像が1979〜1983年に、大型のライオンが1984年まで、大型のヒトコブラクダが1992年まで生産されたことがわかります。スウェーデンで長く親しまれてきた方舟の物語を思い浮かべながら、寄り添う動物たちの表情をご覧ください。

要点の整理

  • 名前——Noaks arkは「ノアの方舟」。Noaksは「ノアの」、arkはラテン語のarca(箱)に由来
  • 動物——小型はライオン、ペンギン、キリン、リス、アシカ、ゾウ、ヒトコブラクダの七種を確認。どれも二頭(二羽)で一体
  • 年代——小型は1979〜1983年の生産。1979年6月1日の日付の見本がある。大型のライオンは1980〜1984年、大型のヒトコブラクダは1979〜1992年
  • つくり——鋳込み成形の炻器。奥行きは3.1〜4.6cmと薄い
  • 底の印——小型は錨の円形マークと「LISA L」「SWEDEN」のプリント。大型は「Lisa Larson Studio」と手の印。シリーズ名は見られない
  • スウェーデンの方舟——ビェーレシェー教会やエストゥーナ教会の天井画、木の方舟のおもちゃ、エーランド島の舟形列石

参考資料

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