リサ・ラーソン アフリカ(Afrika)シリーズ完全ガイド|グスタフスベリが生んだ動物たちと、スモーランドの作家の物語
北欧食器タックショミュッケ編集部スウェーデン・フィンランドから北欧ヴィンテージ食器を直接買い付け、1,000点以上を検品してきた当店が、一次情報と実物の観察にもとづいて執筆・編集しています。
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スウェーデンの陶芸家リサ・ラーソン(Lisa Larson、1931–2024)は、猫や小さな動物のフィギュアで日本でも広く親しまれてきました。その仕事の一角に、大きな野生動物をかたどった「アフリカ(Afrika)」というシリーズがあります。ずんぐりと丸みを帯びたライオンやゾウは、彼女らしい簡素な線と量感でまとめられ、部屋の片隅に置くと静かな存在感を放ちます。
このシリーズは、彼女が26年を過ごしたグスタフスベリ(Gustavsberg)の窯で生まれました。ストックホルムにほど近い入り江の工房で、リサ・ラーソンは食器も手がけましたが、とりわけ動物や人物のフィギュリン、彫刻的な造形で知られる作家です。アフリカの動物たちは、その造形へのまなざしがよく表れた仕事のひとつといえます。
この記事では、アフリカ・シリーズがどのような作品なのかを、美術館などの資料で確認できる範囲に絞ってたどります。あわせて、作家リサ・ラーソンの歩みと、彼女が働いたグスタフスベリの風景、そして日本との深い縁までを、当店が扱ってきた実物とともに紹介していきます。読み終えるころには、ストックホルム群島の窯場まで小さな旅をした気分になっていただけるはずです。

この記事でわかること
- アフリカ(Afrika)が、リサ・ラーソンによるグスタフスベリの実在シリーズであること
- ライオン3種・ゾウ・トラ・ラバからなる6体の構成と、それぞれの造形の見どころ
- スモーランドに生まれ、グスタフスベリで働いた作家リサ・ラーソンの歩み
- 信楽のモニュメントや展覧会に表れた、リサ・ラーソンと日本の深い縁
目次
| シリーズ名 | アフリカ(Afrika/Africa) |
|---|---|
| デザイナー | リサ・ラーソン(Lisa Larson、1931–2024) |
| 窯 | グスタフスベリ(Gustavsberg/スウェーデン) |
| デザイン年 | 1964年 |
| 構成 | ライオン3種、ゾウ、トラ、ラバの6体 |
| 種類 | 動物をかたどったオブジェ(置物) |
「アフリカ」——リサ・ラーソンが動物に託したかたち
アフリカ(Afrika)は、リサ・ラーソンがグスタフスベリで手がけた動物像のシリーズです。グスタフスベリの陶磁器博物館(Gustavsbergs Porslinsmuseum)とスウェーデン国立美術館(Nationalmuseum)は、いずれも「Lejon Gigant(巨大なライオン)」を〈アフリカ〉シリーズの作品として記録しています。名前のとおり、遠いサバンナに暮らす大型の動物をモチーフにした一群です。
リサ・ラーソンの動物というと、手のひらにおさまる小さなフィギュアを思い浮かべる方が多いかもしれません。アフリカはそれとは対照的に、量感のある大きめの造形が中心になります。細部を追いかけるのではなく、動物の骨格や重心を大きくつかみ、丸みと簡素な線でまとめる——彼女の造形の考え方が、大きなかたちのなかにのびやかに表れています。

シリーズのデザインは1964年です。ただし6体がそろって同じ年に作り始められたわけではなく、モデルごとに製造された期間は異なります。それぞれの動物については、後の章で順にご紹介します。
リサ・ラーソンという作家——スモーランドからグスタフスベリへ
生い立ちとスモーランドの風景
リサ・ラーソンは1931年9月9日、スウェーデン南部スモーランド地方のヘルルンダ(Härlunda、クロノベリ県)に生まれました。深い森と湖が続くこの地方は、素朴な手仕事の文化が根づいた土地として知られます。のちに彼女の造形が見せる、飾り立てない親しみやすさの原点を、この風景に重ねて見ることもできます。


1949年から1954年にかけて、彼女はヨーテボリ(Göteborg)の工芸協会学校(Slöjdföreningens skola、のちのHDK)で陶芸を学びました。学生時代に培った手びねりの感覚は、生涯を通じて彼女の作品の土台になっていきます。
グスタフスベリ入社とスティグ・リンドベリ
1954年、リサ・ラーソンはグスタフスベリ陶磁器工場に入りました。彼女を招いたのは、工場の芸術部門を率いていたスティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)です。若い作り手の個性を見抜いたリンドベリのもとで、彼女は自由に造形へ取り組む場を得ました。以後1980年まで、26年にわたってこの窯に在籍しています。

国立美術館はリサ・ラーソンを「おそらくスウェーデンでもっとも名を知られた陶芸家」と評しています。同館がまとめた回顧展は約200点で構成され、その大半がグスタフスベリ在籍期の仕事でした。アフリカの動物たちも、この創作のもっとも充実した時期に生まれた造形のひとつに数えられます。
退社後とKeramikstudion Gustavsberg
1980年にグスタフスベリを離れたあとも、彼女はフリーの陶芸家・彫刻家として制作を続けました。ロゼンタール(Rosenthal)やホガナス(Höganäs)、オーレンス(Åhléns)など、さまざまな企業と仕事を重ねています。そして1992年、かつての同僚フランコ・ニコロシとシヴ・ソリンとともに、グスタフスベリの地にKeramikstudion Gustavsbergを立ち上げ、自作のフィギュア制作を守り続けました。
リサ・ラーソンは2024年3月11日、ストックホルム近郊のナッカで、92歳の生涯を閉じました。作家としての活動はじつに70年以上に及び、その造形は世界中で愛され続けています。彼女の全体像は、リサ・ラーソン完全ガイドでより詳しくたどれます。
グスタフスベリという窯——リサが立った工房
グスタフスベリは、ストックホルムの東に広がる群島のひとつ、ヴェルムドー島にある窯場です。港に面した赤煉瓦の建物と、街のシンボルである給水塔が、往時の面影を伝えています。19世紀に興ったこの工場は、食器から衛生陶器までを手がける大規模な窯へと発展しました。

こうした量産の現場の一方で、グスタフスベリには芸術家が実験的な造形に挑む「スタジオ」の部門がありました。リサ・ラーソンが日々向き合ったのは、まさにこの創作の場です。手とアルファベットのGを組み合わせたスタジオの意匠は、その自由なものづくりの象徴でもありました。

工場のそばには、ファルスタ湾に張り出した緑ゆたかな一帯が広がります。スティグ・リンドベリのスタジオが置かれたこの入り江は、四季の光をたたえた静かな場所でした。リサ・ラーソンの動物たちは、こうした水辺の風景のなかで形づくられていったのです。

グスタフスベリという窯そのものの歴史は、グスタフスベリはなぜ高い?200年の歴史と価格の見方でくわしく紹介しています。リサ・ラーソンを招いたスティグ・リンドベリについては、スティグ・リンドベリ完全ガイドもあわせてご覧ください。
アフリカに登場する動物たち
アフリカ(Afrika)は、1964年にリサ・ラーソンがデザインした6体の動物像からなるシリーズです。ライオンは小・大・Gigantの3種があり、これにゾウ、トラ、ラバが加わります。各モデルの製造期間は異なり、後年まで作られたものもあります。
ライオン——シリーズの中心
アフリカ・シリーズの中心となるのが、3種が作られたライオンです。グスタフスベリの陶磁器博物館と国立美術館は、「Lejon Gigant」と名づけられた大きなライオン像を、このシリーズの作品として記録しています。たてがみは細かく写し取るのではなく、簡素な線でまとめられ、どっしりと座った姿にリサ・ラーソンらしい落ち着きが宿ります。

ライオンは小・大・Gigantの3種で作られ、飾る場所に合わせて選べる点も魅力です。小ぶりなものは棚の一角に、大きなものは主役として置くと、そのおおらかな量感が引き立ちます。当店でもこれまで、複数のサイズのライオンをお預かりしてきました。

ゾウ・トラ・ラバ
ライオンとならんで親しまれてきたのが、丸い背をもつゾウのオブジェです。鼻から背へと続くなめらかな曲線に、動物のやわらかな量感がよく表れています。ゾウはアフリカ・シリーズの一体で、当店でもお預かりしてきました。


ネコ科の動物では、ライオンのほかにトラもシリーズの一体として作られました。

そしてラバ(Mulåsna)が、シリーズの6体目にあたります。アフリカのなかでも最大級の造形で、6体のなかでひときわ堂々とした存在感をもつ一体です。
なお、シマウマはリサ・ラーソンの別のシリーズ「ストラ・ズー(Stora Zoo)」に登録された作品で、アフリカとは区別されます。動物像を横断してその世界を見渡したい方は、リサ・ラーソンの動物たち完全ガイドで、リッラ・ズーやストラ・ズー、スカンセンなどとの違いを整理しています。
Afrikaシリーズとは別に——「アフリカの母と子」と人物像
ここで紹介する「アフリカの母と子」は、上で見てきたAfrikaの6体の動物シリーズとは別の人物作品です。リサ・ラーソンの造形は、動物だけにとどまりません。彼女は人のかたちにも繰り返し向き合い、世界の子どもたちや家族をモチーフにした作品を残しました。当店がお預かりした「アフリカの母と子」の像は、そうした人物像の系譜に連なる一点ものです。

子を抱く母の姿は、細部をそぎ落としながらも、その関係のあたたかさをまっすぐに伝えます。動物像とはまた違う静けさをたたえ、リサ・ラーソンが人のかたちに込めたまなざしが感じられる作品です。量産のフィギュアとは異なり、こうした一点ものには手のあとがより濃く残ります。

「アフリカ」という言葉は、リサ・ラーソンの仕事のなかで、動物のシリーズと人物の像という異なるかたちで現れます。ひとつの名のもとに、遠い土地への想像力がさまざまに広がっていたことがうかがえます。
リサ・ラーソンの作風——丸みと簡素な線
リサ・ラーソンの造形をひとことで言えば、丸みと簡素さに尽きます。対象の骨格を大きくつかみ、余計な描写をそぎ落とし、明快なシルエットにまとめる——グスタフスベリの陶磁器博物館も、彼女の作風をこうした特徴で説明しています。アフリカの動物たちにも、この考え方がそのまま息づいています。
素材には、彼女が長く親しんだストーンウェア(炻器)が多く用いられました。ざらりとした土の肌に、部分的に釉薬をかけて表情をつくる手法は、彼女の動物像に共通する趣です。ただし、個々の作品の土や釉薬の詳細は、実物の刻印や工場資料で確かめられない限り断定を避けるべき部分でもあります。当店では、写真から観察できる質感を中心にお伝えするようにしています。
作風の本質は、色づかいやモチーフの選び方にもあらわれます。自然を抽象化してとらえるまなざしや、手業の痕跡を残す姿勢については、世紀の変わり目(Sekelskifte)完全ガイドや、多彩な猫作品をたどるリサ・ラーソンと猫でも読み解いています。
見分け方とコレクションの楽しみ方
リサ・ラーソンの作品は、多くの場合、底面にサインや刻印が残ります。グスタフスベリのアンカー(錨)マークや、リサ・ラーソン自身の署名、シリーズや工房を示す記号などが手がかりです。ただし、時期や作品によって表記は一様ではなく、刻印だけで年代を一点に絞り込むのは容易ではありません。底面の情報は、あくまで複数の手がかりのひとつとして落ち着いて確認するのがよいでしょう。

経年をへたオブジェには、釉薬の表面に網目状の細かな線が入ることがあります。これは貫入(かんにゅう)と呼ばれる自然な変化で、素地そのものが割れたひびとは異なります。貫入は時を重ねた器物ならではの表情であり、欠点として過度に気にする必要はありません。手入れの際は、やわらかい布でやさしく拭く程度にとどめ、絵柄を傷める可能性のある漂白剤は避けてください。
飾り方は、動物の量感を生かすのがこつです。棚に一体だけを置いて余白をたっぷりとると、丸いシルエットがきれいに際立ちます。大小のライオンを前後に並べたり、木や籐の家具と合わせたりすると、素朴な土の質感がいっそう引き立ちます。北欧の住まいを思わせる、静かな余白のある置き方がよく似合います。
日本とリサ・ラーソン——信楽のモニュメントと展覧会
リサ・ラーソンは、日本ととりわけ深い縁で結ばれた作家です。2015年には、滋賀県の信楽陶芸の森(Shigaraki Ceramic Cultural Park)に、彼女の作品を巨大化させた記念のモニュメントが設置されました。グスタフスベリの陶磁器博物館と国立美術館がそろって記すこの出来事は、彼女の造形が日本でいかに敬愛されているかを示す象徴的な事実です。
展覧会も各地で開かれてきました。2014年には日本初の大規模展「北欧の豊かな時間 リサ・ラーソン展」が松屋銀座(9月11日〜23日、約230点)で開かれ、大阪の阪急うめだギャラリーなどへ巡回しました。2023年にも「リサ・ラーソン展 知られざる創作の世界」が松屋銀座、鹿児島市立美術館(3月24日〜5月7日)、帯広市美術館などで開催され、多くの来場者を迎えています。
企業とのものづくりも広がりました。2013年に始まったユニクロとのコラボレーションでは、Tシャツやベビー用の衣料に彼女の動物モチーフが用いられ、娘でグラフィックデザイナーのヨハンナとの家族での協働がその柄を支えました。こうした積み重ねが、世代を超えて彼女の造形を身近なものにしています。
スティグ・リンドベリの作品もまた信楽で紹介されており、その様子は信楽で開催された「スティグ・リンドベリ展」レポートにまとめています。北欧の窯と日本の焼き物の里が響き合う縁を、あわせて感じていただければと思います。
まとめ
要点の整理
- アフリカ(Afrika)は、リサ・ラーソンが1964年にデザインした、ライオン3種・ゾウ・トラ・ラバの6体からなるグスタフスベリの動物像シリーズです。
- 各モデルの製造期間は異なり、Lejon Gigantはグスタフスベリの陶磁器博物館と国立美術館にシリーズの作品として記録されています。
- 作家リサ・ラーソンはスモーランドに生まれ、1954年から1980年までグスタフスベリに在籍しました。
- 丸みと簡素な線という作風が、大きな動物のかたちにものびやかに表れています。
- 2015年の信楽のモニュメントや度重なる展覧会に、リサ・ラーソンと日本の深い縁が示されています。
遠いサバンナの動物を、ストックホルム群島の窯で、丸くやわらかなかたちへと変えたのがリサ・ラーソンでした。アフリカの動物たちを手もとに置くと、スモーランドの森と、ストックホルムの入り江の光が、静かに部屋へと流れ込んでくるようです。
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