リサ・ラーソン グスタフスベリのハリネズミ(Igelkott)|灰緑から茶へ移る背に小さな粒が並ぶ炻器の像

リサ・ラーソン 絶滅危惧種の動物たち(Utrotningshotade djur)完全ガイド|WWFのために生まれたハリネズミと北欧の七種

北欧食器タックショミュッケ編集部
リサ・ラーソンのハリネズミ(Igelkott)を右斜め前から見た姿|灰緑から茶へ移る背に小さな粒が並ぶ炻器の像
グスタフスベリ製のハリネズミ(Igelkott)。灰緑から茶へ移る背に、小さな粒が並ぶ。

リサ・ラーソン(Lisa Larson)のハリネズミ(Igelkott)は、丸い背中いっぱいに小さな粒を並べ、短い四本の脚で立つ炻器の像です。ストックホルム近郊のグスタフスベリ(Gustavsberg)で作られ、底には「WWFのために」という意味の英語が記されています。

このハリネズミは、単独の作品ではなく連作の一体です。1975年から1981年まで、毎年一種ずつ発表された連作「絶滅危惧種の動物たち(Utrotningshotade djur)」に属しています。顔ぶれはオオヤマネコ、イヌワシ、アザラシ、ヨーロッパバイソン、ハリネズミ、カワウソ、ハヤブサの七種で、いずれも北欧の自然に縁のある動物でした。連作はストックホルムの百貨店NKとの企画として作られ、世界自然保護基金(WWF)を支援するための作品として世に出ました。

この記事では、ハリネズミの名前と姿、底の銘文の読み方から、七種の動物が1970年代のスウェーデンでどのような状況にあったのかまでを順にたどります。ラップランドの山からバルト海の岩礁まで、動物たちの暮らす土地もあわせてご案内します。

この記事でわかること

  • ハリネズミ(Igelkott)という名前の意味と、炻器の像としての姿
  • 1975〜1981年の連作「絶滅危惧種の動物たち」と、百貨店NK・WWFとの関係
  • 底の銘文「LIMITED EDITION OF 2200 FOR THE BENEFIT OF WWF」の読み方
  • 七種の動物と、1970年代スウェーデンの自然
目次
  1. 「絶滅危惧種の動物たち」とは——NKとWWFの連作
  2. ハリネズミ(Igelkott)——名前と姿
  3. 底の銘文を読む——2,200体とWWFのパンダ
  4. 七種の動物たちと北欧の自然
  5. ハリネズミのその後——身近な動物がレッドリストへ
  6. WWFとリサ・ラーソンのその後

「絶滅危惧種の動物たち」とは——NKとWWFの連作

「絶滅危惧種の動物たち」は、リサ・ラーソンが北欧の動物相(nordisk fauna)を主題に手がけた連作です。1975年から1981年まで、一年に一種ずつ新しい動物が加わり、七年で七種がそろいました。

連作名 絶滅危惧種の動物たち(Utrotningshotade djur)
デザイナー リサ・ラーソン(Lisa Larson, 1931–2024)
企画 百貨店NK(Nordiska Kompaniet)との企画。世界自然保護基金(WWF)を支援する作品
発表 1975〜1981年、毎年一種
七種 オオヤマネコ(Lodjur)、イヌワシ(Kungsörn)、アザラシ(Säl)、ヨーロッパバイソン(Visent)、ハリネズミ(Igelkott)、カワウソ(Utter)、ハヤブサ(Pilgrimsfalk)
素材 炻器(ストーンウェア)
ハリネズミ 1979年発表。底の銘文に「LIMITED EDITION OF 2200」

リサ・ラーソンは1931年に生まれ、1954年から1980年まで、ストックホルムの東にあるグスタフスベリの磁器工場で仕事をしました。リッラ・ズー(Lilla Zoo)やアフリカ(Afrika)など、動物の連作をいくつも手がけた作家です。生涯と主な作品はリサ・ラーソン完全ガイドで、動物のシリーズ全体はリサ・ラーソンの動物たち完全ガイドでまとめています。

1969年に撮影されたリサ・ラーソンの白黒のポートレート|背後の壁に顔をかたどった陶板が並ぶ
1969年のリサ・ラーソン。背後の壁に、顔をかたどった陶板が並ぶ。画像:撮影者不明/Wikimedia Commons/パブリックドメイン

グスタフスベリは、ストックホルムの多島海に面した入り江の町です。19世紀から磁器工場が置かれ、港には原料や製品を運ぶ船が出入りしました。窯の歩みはグスタフスベリ完全ガイドでたどっています。

1890年代のグスタフスベリ港の白黒写真|帆船の向こうに工場の建物と窯、煙突が並ぶ
1890年代のグスタフスベリ港。帆船の向こうに工場の建物と、とっくり形の窯、煙突が並ぶ。画像:撮影者不明(Sjöhistoriska museet)/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0

百貨店NKと、スウェーデンのWWF

NK(Nordiska Kompaniet)は、ストックホルムの中心部、ハムンガータン通りに建つ百貨店です。「絶滅危惧種の動物たち」は、この百貨店と組んで毎年一種ずつ発表されました。

1961年冬のストックホルム・ハムンガータン通り|雪の通りに百貨店NKの建物が建つカラー写真
1961年12月のハムンガータン通り。雪の通りの左手にNKの建物が建ち、正面にクリスマスの飾りが下がる。画像:Ingemar Gram/Wikimedia Commons/パブリックドメイン

WWFは1961年にスイスで設立された自然保護団体です。スウェーデンの組織(Världsnaturfonden WWF)は1971年に発足しました。連作が始まった1975年は、その4年後にあたります。

ハリネズミ(Igelkott)——名前と姿

スウェーデン語のIgelkott(イーゲルコット)は、ハリネズミという動物の名前そのものです。この連作の動物は、ペットのような固有の名前ではなく、種の名前で呼ばれます。作品名は、そのまま「ハリネズミ」です。ほかの動物のスウェーデン語の呼び名は、リサ・ラーソンの動物たち完全ガイドの一覧で確かめられます。

胴は丸く、背中は小さな粒でびっしりと覆われています。背の針は一本ずつ尖らせず、しずくのような粒で表され、粒の頂が濃い茶に色づきます。顔は鼻先に向かって細くすぼまり、黒い点の目と、濃い茶の丸い鼻がつきます。短い四本の脚が、丸い体を低く支えています。

リサ・ラーソンのハリネズミを正面から見た顔|黒い目と濃い茶の丸い鼻
正面から見たハリネズミ。灰緑の顔に、黒い目と濃い茶の丸い鼻が置かれる。

色は、背中の上のほうが茶、脇腹が灰緑からベージュ、腹のあたりがオレンジを帯びた茶へと移ります。釉は胴の下へ向かって細い筋を引き、上から下へ色が溶け合うように見えます。当店で扱った一体は、長さ約16cm、高さ約10cmでした。

リサ・ラーソンのハリネズミを後ろから見た背中|粒の列が規則正しく並ぶ
後ろから見た背中。しずく形の粒が、頭から尾の方へ列をなして並ぶ。

「かわいさ」より動物の姿を

リッラ・ズーの猫やアフリカのライオンでは、リサ・ラーソンは輪郭を思い切って単純にまとめました。ハリネズミでは、とがった鼻先や背中を埋める粒の数によって、動物らしい姿を写す方向に寄せています。それでも背の針を鋭くせず、丸い粒で表したところに、やわらかさが残ります。写実と省略の釣り合いに、この作品の性格を読むこともできます。

素材は炻器

素地は炻器(せっき)です。陶器より高い温度で焼き締められた硬い焼き物で、磁器ほど白くはありません。底を見ると、脚の接地面だけ釉がかからず、白っぽい素地がのぞいています。陶器・磁器・炻器の違いは北欧食器の素材ガイドで解説しています。

底の銘文を読む——2,200体とWWFのパンダ

当店で扱ったハリネズミの底には、四本の脚のあいだに黒い文字で次の5行が記されています。

  • MADE BY——「〜作」の意味
  • LISA LARSON——作家の名前
  • GUSTAVSBERG SWEDEN.——グスタフスベリ、スウェーデン製の表示
  • LIMITED EDITION OF 2200——生産数を2,200体に区切った作品であることの表示
  • FOR THE BENEFIT OF WWF.——「WWFのために」
リサ・ラーソンのハリネズミの底|MADE BY LISA LARSON GUSTAVSBERG SWEDEN LIMITED EDITION OF 2200 FOR THE BENEFIT OF WWFの銘文とパンダのマーク
ハリネズミの底。脚のあいだに黒い文字の銘文と、パンダを描いたWWFの丸いマークが入る。

最後の行の「FOR THE BENEFIT OF WWF」は、この像がWWFの支援にあてられる作品であることを示しています。文字の下には、パンダを描いた丸いWWFのマークが添えられます。

リサ・ラーソンの作品には、底にサインや刻印が入るものと入らないものがあり、時期や工房によって表示の仕方が異なります。グスタフスベリ期の作品と、後年のKスタジオ(Keramikstudion)の作品を見分ける手がかりは、リサ・ラーソン完全ガイドの「サインと印の見分け方」で整理しています。

七種の動物たちと北欧の自然

七種には、山や森、海、そして人里と、さまざまな場所の動物が選ばれています。1970年代のスウェーデンでは、このうちいくつもの動物が数を減らし、保護の取り組みが進められていました。動物ごとに、その暮らす土地とあわせて見ていきます。

夕方の光に照らされたラップランド・サレク国立公園の山と湖、手前の低木の原野
ラップランドのサレク国立公園。夕方の光の中、台地のような山の麓に湖と森が広がる。画像:Trougnouf(Benoit Brummer)/Wikimedia Commons/CC BY 4.0

オオヤマネコ(Lodjur)

オオヤマネコは、北欧の森に暮らす大型のヤマネコです。耳の先の黒い房毛と、斑点のある毛並み、短い尾が目印になります。スウェーデンでは1920年代にほとんど姿を消し、1920年代の後半に保護の対象になりました。その後、狩猟が再び認められた時期を経て、1991年には全国で保護されています。

凍った地面を歩く若いオオヤマネコ|斑点の毛並みと耳の先の房毛
ストックホルムのスカンセン野外博物館で飼育されるオオヤマネコ。凍った地面を歩く。画像:Bengt Nyman/Wikimedia Commons/CC BY 2.0

イヌワシ(Kungsörn)

イヌワシは、翼を広げると2メートル前後になる大型の猛禽です。スウェーデン語の名前Kungsörnは「王の鷲」を意味します。スウェーデンでは主に北部の山と森に暮らし、南部ではゴットランド島などにも見られます。

曇り空を背に翼を広げて飛ぶイヌワシを下から見上げた写真
ゴットランド島の自然保護区の上空を飛ぶイヌワシ。黒褐色の翼を大きく広げる。画像:Bene Riobó/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0

アザラシ(Säl)

バルト海のハイイロアザラシは、20世紀のはじめに約9万頭いたものが、1970年代の終わりには約5,000頭まで減りました。原因は狩猟と、PCBなどの汚染物質でした。汚染物質の影響で、子を産めないアザラシが増えたためです。スウェーデンでは1974年にハイイロアザラシが保護されました。

バルト海の岩礁の上に横たわるハイイロアザラシと、背景の低い島影
ストックホルム多島海の沖、海藻に覆われた岩礁に横たわるハイイロアザラシ。画像:Arild Vågen/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
夕方のストックホルム多島海の静かな入り江|赤い舟小屋と花崗岩の岩場
ストックホルム多島海、モーヤ島の入り江。赤い舟小屋と花崗岩の岩場が水面に映る。画像:Arild Vågen/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0

ヨーロッパバイソン(Visent)

ヴィーセント(Visent)は、ヨーロッパバイソンのことです。野生の群れは20世紀の初めに途絶え、動物園などで飼われていたバイソンをもとに数が戻されました。スウェーデンでは、ダーラナ地方のアヴェスタにバイソンの公園があり、1969年にはポーランドから雄が迎えられています。

雪原に立つヨーロッパバイソンの群れと赤い木造の建物、背後の森
ダーラナ地方、アヴェスタのバイソン公園。雪の囲いの中に群れが立ち、奥に赤い木造の建物と森が続く。画像:Calle Eklund/V-wolf/Wikimedia Commons/CC BY 3.0

カワウソ(Utter)

カワウソは、川や湖、海辺に暮らす動物です。スウェーデンでは1968年に保護の対象となりましたが、その後もPCBなどの影響で減りつづけました。

きらめく水面の浅瀬に身を寄せるカワウソ
スウェーデンの保護区で撮影されたカワウソ。きらめく水面から顔を上げる。画像:Snösparv5/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0

ハヤブサ(Pilgrimsfalk)

ハヤブサは、急降下の速さで知られる猛禽です。スウェーデンでは、1950年ごろに約350つがいが確認されていたハヤブサが、DDTなどの影響で1970年代半ばには15つがいほどにまで減りました。1972年にはスウェーデン自然保護協会(Naturskyddsföreningen)が保護の取り組み「プロジェクト・ピルグリムスファルク(Projekt Pilgrimsfalk)」を始め、巣の見守りや人工繁殖が行われました。

青空を飛ぶハヤブサを下から撮った写真|とがった翼と横斑のある腹
ヨーテボリの空を飛ぶハヤブサ。とがった翼と、顔の黒いひげ模様が見える。画像:Stefan Berndtsson/Wikimedia Commons/CC BY 2.0

ハリネズミのその後——身近な動物がレッドリストへ

七種のなかで、ハリネズミは人の暮らしに近い動物です。庭や生け垣のまわりにも姿を見せ、夜に動きまわります。

砂利道でこちらを振り向く野生のハリネズミのクローズアップ
フィンランド南西部ポリで撮影されたハリネズミ。砂利の上で振り返る。画像:kallerna/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0

スウェーデンのレッドリストで準絶滅危惧(NT)に分類されていたハリネズミは、2025年版で危急(VU)に引き上げられました。連作から40年あまりを経て、人里の動物が「絶滅のおそれ」の側に名前を連ねたことになります。WWFスウェーデンは、ハリネズミの数を調べる市民参加の調査を呼びかけました。スウェーデンでは2026年11月1日から、ハリネズミが保護の対象となる種(fridlysta arter)の一覧に加わります。

WWFとリサ・ラーソンのその後

1981年の連作から40年あまりを経て、リサ・ラーソンの動物とWWFを結ぶ作品が、グスタフスベリのKスタジオ(Keramikstudion)でふたたび作られるようになりました。2022年のトラ「グレタ(Greta)」とゾウの母子、2023年のサイ、2024年のヒョウに続き、2026年にはリサ・ラーソンのデザインによる雌ライオン「レオーナ(Leona)」が発表されています。レオーナは一体売れるごとに300クローナが、WWFのライオンの保護活動に寄付される仕組みです。

1970年代の連作は北欧の動物を主題にしていましたが、Kスタジオの作品では、トラやゾウ、サイのように北欧の外の動物も選ばれています。

当店で扱ったKスタジオ製のサイは、灰色がかったベージュの地に黒い線と点の模様が入る一体でした。脚の裏には「LISA L.」のサインと「MADE IN SWEDEN」の刻印が入ります。

リサ・ラーソンのKスタジオ製のサイを真横から見た姿|灰色がかったベージュの地に黒い線と点の模様
Kスタジオ製のサイ。灰色がかったベージュの地に、黒い縦線と点の模様が入る。
リサ・ラーソンのサイの脚の裏|前脚にLISA L.のサイン、後脚にMADE IN SWEDENの刻印
サイの脚の裏。前脚に「LISA L.」のサイン、後脚に「MADE IN SWEDEN」の刻印が入る。

Kスタジオがどのような工房なのかは、リサ・ラーソンのKスタジオ(Keramikstudion)とはで詳しく紹介しています。

まとめ

要点の整理

  • 「絶滅危惧種の動物たち(Utrotningshotade djur)」は、リサ・ラーソンが北欧の動物を主題に手がけた連作。1975〜1981年に毎年一種、全七種
  • 七種はオオヤマネコ、イヌワシ、アザラシ、ヨーロッパバイソン、ハリネズミ、カワウソ、ハヤブサ
  • 百貨店NKとの企画で、WWFを支援する作品として作られた
  • ハリネズミ(Igelkott)は1979年の発表。作品名はスウェーデン語の種名そのもので、固有の名前はない
  • ハリネズミの底には「LIMITED EDITION OF 2200 FOR THE BENEFIT OF WWF」とパンダのマーク
  • ハリネズミはスウェーデンのレッドリスト2025年版で危急(VU)に引き上げられ、2026年11月から保護の対象となる種に加わる

丸い背中に粒を並べたハリネズミは、百貨店と自然保護団体を結ぶ企画の中で生まれました。オオヤマネコの森、イヌワシの山、アザラシの岩礁と並べてみると、一体一体の小さな像が、1970年代のスウェーデンの自然を映していることがわかります。

参考資料
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