リサ・ラーソン リッラ・ズーの猫の顔|灰色の釉の上に黒い線で目とひげを描いた、茶色の炻器の小さな猫

リサ・ラーソン リッラ・ズー(Lilla Zoo/小さな動物園)完全ガイド|1955年生まれの7点の動物たちと、ラベル・底のしるし

北欧食器タックショミュッケ編集部
リサ・ラーソン リッラ・ズー(Lilla Zoo)の尾を立てた猫|茶色の炻器の胴に黒い縦縞、灰色の釉をかけた顔
リッラ・ズーの尾を立てた猫。茶色の素地に黒い縦縞、灰色の釉をかけた顔と、胸の小さなラベル

リッラ・ズー(Lilla Zoo)は、スウェーデンの陶芸家リサ・ラーソン(Lisa Larson, 1931–2024)が、ストックホルム近郊の窯グスタフスベリ(Gustavsberg)で1955年にデザインした動物のシリーズです。スウェーデン語で「小さな動物園」を意味する名のとおり、所蔵品の記録では高さ7〜12cmほどの小さな動物たちです。

茶色い炻器(せっき)の体のうち、釉薬がかかっているのは顔や背、尾など一部だけです。尾をまっすぐ立てた猫や、背中にジグザグの模様が走る座った猫、体に沿って尾をまわしたキツネがいて、顔は数本の線だけで表情がつけられています。グスタフスベリに入った翌年にリサ・ラーソンが手がけた、最初期のシリーズのひとつです。

この記事では、スウェーデン国立美術館(Nationalmuseum)の所蔵記録と当店に届いたリッラ・ズーの写真をもとに、シリーズの成り立ち、動物たちの顔ぶれと大きさ、土と釉のつくり、胸のラベルや底のしるしを紹介します。1950年代のストックホルムやヘルシンボリの風景、グスタフスベリの町の古い写真もあわせてご覧ください。

この記事でわかること

  • リッラ・ズーは1955年にデザインされ、1956〜1978年に作られた7点の動物のシリーズであること
  • 展示した一匹の縞の猫が注目を集め、リンドベリが動物の像をもっとつくるよう勧めた経緯と、グスタフスベリの「遊び小屋」
  • 尾を立てた猫・座った猫・キツネ・馬の姿と大きさ
  • 茶色の炻器の顔や背、尾にだけ釉をかけたつくりと、胸のラベル・底のしるし

目次

  1. リッラ・ズー(Lilla Zoo)とは——7点の小さな動物園
    1. 7点のうち3点が猫
    2. 「大きな動物園」ストラ・ズーより先に
  2. 一匹の縞の猫から——1955年のグスタフスベリ
    1. 一年だけのつもりで
    2. 若いデザイナーのアトリエ「レクストゥーガン」
    3. 縞の猫が人目を引いた
    4. 1955年のスウェーデン
  3. 動物たちの顔ぶれ——猫、キツネ、馬
    1. 尾を立てた猫——まっすぐな尾と、正面を向く顔
    2. 座った猫——背中を走るジグザグ
    3. キツネ——三角の顔と、体に沿う尾
    4. 馬——平たい体に、青黒い帯
  4. 土と釉——茶色の炻器と、一部にだけかけた釉
    1. 砕いた土を混ぜた、茶色の炻器
    2. 型で形をつくった、中空の体
  5. 胸のラベルと、底のしるし
    1. 「DESIGN LISA LARSON」のラベル
    2. 腹の下と底の小さなしるし
  6. 1956年から1978年まで——家々へ、そして美術館へ
    1. 百貨店や商店を通じて家々へ
    2. 美術館に残る小さな動物園
  7. まとめ

リッラ・ズー(Lilla Zoo)とは——7点の小さな動物園

リッラ・ズーは、グスタフスベリの磁器工場で作られた炻器の動物像のシリーズです。スウェーデン国立美術館の記録では、デザインは1955年、製造は1956年から1978年まででした。足かけ23年にわたって作られたことになります。

7点のうち3点が猫

シリーズは全部で7点からなり、そのうち3点が猫です。同館には、尾を立てた猫と座った猫、キツネ、馬が収められています。

リサ・ラーソン リッラ・ズーの座った猫|木の棚にのる茶色の炻器の猫を正面から、灰色の釉をかけた顔と前足の縞
正面から見たリッラ・ズーの座った猫。釉をかけた顔と前足の縞

所蔵品の高さは7〜12cmほどです。いちばん背が高いのは座った猫で、キツネは高さ7cmと低く、横に長い姿をしています。どれも手のひらにのる小ささです。

「大きな動物園」ストラ・ズーより先に

リサ・ラーソンの動物には、「大きな動物園」を意味するストラ・ズー(Stora Zoo)もあります。ストラ・ズーは1957年に始まったシリーズで、リッラ・ズーはその2年前に誕生しました。ストラ・ズーのことや二つのシリーズの違いは、ストラ・ズー完全ガイドで詳しく紹介しています。

一匹の縞の猫から——1955年のグスタフスベリ

一年だけのつもりで

リサ・ラーソンは1931年、スウェーデン南部スモーランド地方のヘルルンダ(Härlunda)に生まれ、ヨーテボリの工芸学校で陶芸を学びました。1954年、北欧の工芸学校を対象にしたコンペティションに彼女の作品が出品され、審査員のひとりだったグスタフスベリの芸術監督、スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)の目にとまります。

リンドベリが申し出たのは、一年の試用期間つきの職でした。リサはこの年にグスタフスベリへ移り、試用の一年を終えた1955年に正式に採用されます。そのまま1980年まで、26年をこの窯で過ごしました。生涯の歩みはリサ・ラーソン完全ガイドにまとめています。

雪に埋もれたグスタフスベリ・ヘイドハーゲンの木造住宅|壁際にスキー板、白樺と松の影が落ちる冬の白黒写真
深い雪に囲まれたグスタフスベリ、ヘイドハーゲンの木造住宅。壁際にスキー板、白樺と松の影(写真:Rosenberg/ArkDes/パブリックドメイン)

グスタフスベリは、ストックホルムの東、ヴェルムドー(Värmdö)にある窯の町です。

若いデザイナーのアトリエ「レクストゥーガン」

グスタフスベリで彼女が加わったのは、「レクストゥーガン(lekstugan/遊び小屋)」と呼ばれたアトリエでした。リンドベリのもとで若いデザイナーたちが新しいモデルの試作を重ね、そのなかから量産するものが選ばれていきました。

彼女に任されたのは、窯に新しい風を入れ、「ベストセラー」を生み出すことでした。自由に制作してよい一方で、いくつかの作品は量産へと仕上げていく約束でした。のちにリサ・ラーソンは、「商業的な仕事には懐疑的でしたが、自分のプロジェクトを並行して持てたので、それでも引き受けました」と振り返っています。

グスタフスベリの家庭用磁器工場の更衣室|白いタイルの壁に木のベンチとコート掛けが並ぶ白黒写真
グスタフスベリの家庭用磁器工場の更衣室。白いタイルの壁に木のベンチとコート掛け、ラックの上に社名の表示(写真:Karl Erik Gemler/ArkDes/パブリックドメイン)

縞の猫が人目を引いた

1955年、リサ・ラーソンが炻器の花瓶にまじえて、素朴な線を刻んだ茶色の小さな縞の猫を展示すると、その猫が花瓶よりも人目を集め、「抗いがたい」と評判になりました。リンドベリはその可能性を見てとり、動物の像をもっとつくるよう彼女に勧めました。この逸話は、国立美術館のリッラ・ズーの作品解説に添えられています。

リサ・ラーソン リッラ・ズーの猫の顔|灰色の釉の上に黒い線で描いた大きな目とひげ、首に縞
リッラ・ズーの尾を立てた猫の顔。灰色の釉の上に、黒い線で目とひげ

晩年のインタビューで、彼女は動物をつくる理由を「多くの動物は、かたちが彫刻的なのです。私はそこからインスピレーションを受けています」と語りました。

1955年のスウェーデン

リッラ・ズーが生まれた1955年の夏、南部の港町ヘルシンボリでは、市とスウェーデン工芸協会(Svenska Slöjdföreningen)が主催するデザインの博覧会「H55」が、6月10日から8月28日まで開かれました。

1955年夏、ヘルシンボリのH55博覧会|海沿いの通路を白い園内列車が走る白黒写真
1955年夏、ヘルシンボリのH55会場。海沿いの通路を白い園内列車が走り、奥に港のクレーン(写真:Arne Wahlberg/パブリックドメイン)

年が明けた1956年、グスタフスベリでリッラ・ズーの製造が始まりました。

1955年12月、雪のストックホルム・カタリーナヴェーゲン|線路を走る路面電車と頭上の歩道橋の白黒写真
1955年12月、雪のストックホルム。カタリーナヴェーゲンの線路を路面電車が走り、頭上に歩道橋(写真:Herman Ronninger/パブリックドメイン)

動物たちの顔ぶれ——猫、キツネ、馬

リッラ・ズーの動物は、どれも写実ではありません。国立美術館の記録は、その形を「様式化された(stiliserad)」と書きあらわしています。体は単純な塊にまとめられ、顔や縞は細い線で描かれます。ここでは、所蔵記録と当店の写真で姿を確かめられる4点を紹介します。

5月のゴットランド島、赤いチューリップの花壇で昼寝をする白と黒の毛の猫
5月のゴットランド島。赤いチューリップの花壇で昼寝をする、白と黒の毛の猫(写真:W.carter/CC BY-SA 4.0)

尾を立てた猫——まっすぐな尾と、正面を向く顔

リサ・ラーソン リッラ・ズーの尾を立てた猫を胸の側から|板のように薄い胴と胸の青いラベル、奥に立つ尾
尾を立てた猫を胸の側から見た姿。板のように薄い胴と胸のラベル、奥に立つ尾

冒頭の写真の猫は、尾を垂直に立て、顔だけをこちらへ向けています。同館の記録にある猫は高さ10cm、幅11.5cm、奥行き4cmで、「垂直の尾と正面向きの顔」をもつと書かれています。胴は板のように平たく、横から見ると細長い胴に4本の脚が付いた形です。

茶色の素地には黒い縦の線が並び、灰色の釉をかけた顔には、黒い線で大きな目とひげが描かれています。ルンドの文化史博物館クルトゥーレン(Kulturen)にも、同じ姿の猫が「Lilla Zoo, katt」として収められています。

座った猫——背中を走るジグザグ

リサ・ラーソン リッラ・ズーの座った猫の背中|頭の後ろから尾まで灰色の釉の上にジグザグ模様が続く
座った猫の背中。頭の後ろから尾まで、灰色の釉の上にジグザグの模様が続く

座った猫は高さ12cmで、所蔵品のなかでいちばん背の高い一体です。下にいくほどふくらむ胴の上に、平たい顔がのっています。正面には前足がそろい、背中には頭の後ろから尾の先まで、ジグザグの模様が走ります。

キツネ——三角の顔と、体に沿う尾

11月、スウェーデン北部ラウタスの原生林保護区の雪原に立つアカギツネ
11月、スウェーデン北部ラウタスの原生林保護区。雪原に立ち、こちらを見るアカギツネ(写真:ClaudiaTen/CC BY-SA 4.0)
リサ・ラーソン リッラ・ズーのキツネ|灰色の釉をかけた三角の顔と、体に沿って前へまわる太い尾
リッラ・ズーのキツネ。三角の顔と、体に沿って前へまわる太い尾

キツネは高さ7cm、長さ12〜12.5cmほどの、低く横に長い像です。顔はほとんど三角形で、尾は体に沿って前へまわり込みます。釉は顔と背、尾にかけられ、灰色や白、黒が見られます。国立美術館は、このキツネを3点所蔵しています。

馬——平たい体に、青黒い帯

初夏の夕方の牧草地で、北スウェーデン馬の母馬に寄り添い乳を飲む仔馬
初夏の夕方の牧草地。北スウェーデン馬の母馬に寄り添い、乳を飲む仔馬(写真:Anemone Nemorosa/CC BY 2.0)

国立美術館の記録にある馬の1点は、高さ10cm、長さ13cm、奥行き4cmです。猫と同じく平たい体に、青みがかった黒の帯が装飾として入ります。同館には、一部に釉をかけた作品と、釉をかけずに青黒い装飾を描いた作品の2点があります。

土と釉——茶色の炻器と、一部にだけかけた釉

砕いた土を混ぜた、茶色の炻器

リッラ・ズーの素材は、高温で焼きしめる炻器です。茶色の土には、乾かして砕いた土(シャモット)が混ぜ込まれています。素地の表面はざらりとして、小さな粒が見えます。

リサ・ラーソン リッラ・ズーのキツネを後ろ側から見た姿|釉をかけない茶色の素地に、背の縁だけ灰色と黒の釉
キツネを後ろ側から見た姿。釉をかけない茶色の素地に、背の縁だけ灰色と黒の釉

当時の陶器は釉をかけたものが一般的でしたが、リサ・ラーソンは釉をかけた面とかけない面の両方を生かしました。リッラ・ズーでも、釉がかかるのは顔や背、尾のあたりだけで、体の大部分は土の色のままです。尾を立てた猫の胴の縞は、釉のない素地の上に黒い線で描かれています。

型で形をつくった、中空の体

国立美術館の記録には「鋳込みの炻器(gjutet stengods)」とあり、リッラ・ズーは型を使って形がつくられました。当店に届いた猫やキツネも、体の中は空洞で、底には丸い穴が開いています。

リサ・ラーソン リッラ・ズーのキツネを裏返した様子|中空の体の底に丸い穴と4本の短い脚
キツネを裏返した様子。中空の体の底に丸い穴と、4本の短い脚

同館の3点のキツネも、釉の色合いは少しずつ異なり、灰色の濃淡だけのもの、灰色と黒のもの、白と黒のものがあります。

胸のラベルと、底のしるし

リッラ・ズーには、体に貼られた小さな紙のラベルや、腹や底に入った小さなしるしが見られることがあります。

「DESIGN LISA LARSON」のラベル

リサ・ラーソン リッラ・ズーの猫の胸に貼られた青と白のラベル|DESIGNの文字と錨の印、LISA LARSONの名
尾を立てた猫の胸に貼られた青と白のラベル。リサ・ラーソンの名と、錨の印

当店に届いた尾を立てた猫の胸には、青と白の小さな紙のラベルが貼られていました。上の段に「DESIGN」の文字とグスタフスベリの錨の印、下の段に「LISA LARSON」の名があります。クルトゥーレンが所蔵する猫にも、胸に同じ文言のラベルと、錨のロゴが記録されています。

腹の下と底の小さなしるし

リサ・ラーソン リッラ・ズーの猫を下から見た様子|腹の下の小さなしるしと、奥の丸い穴
尾を立てた猫を下から見た様子。腹の下に小さなしるし、奥に丸い穴

当店に届いた尾を立てた猫には、腹の下に小さなしるしが入っていました。座った猫の底にも、穴のそばに「E」の文字があります。クルトゥーレンの猫にも、腹の下に「N」の文字が記録されています。

リサ・ラーソン リッラ・ズーの座った猫の底|丸い穴の上にEの小さな文字
座った猫の底。丸い穴の上に「E」の小さな文字

グスタフスベリの錨のマークと年代の関係はグスタフスベリの年代の見分け方で解説しています。リサ・ラーソンのほかの動物シリーズは、リサ・ラーソンの動物たち完全ガイドにまとめました。

1956年から1978年まで——家々へ、そして美術館へ

百貨店や商店を通じて家々へ

リサ・ラーソンの作品は、百貨店や商店、輸出を通じて広まり、多くの家庭に置かれました。テレビ台や居間のテーブルの上に小さな焼きものの像が並ぶ光景は、スウェーデンのあちこちで見られました。

1957年5月、ストックホルム旧市街ヴェステルロングガータンの石畳の通りを行き交う人びとの白黒写真
1957年5月、ストックホルム旧市街のヴェステルロングガータン。コート店の前の石畳を行き交う人びと(写真:Lennart af Petersens/パブリックドメイン)

リッラ・ズーが作られていたあいだに、リサは1957年のストラ・ズー、1958年のABCの少女たち(ABC-Flickor)と、次々に新しい像を生み出していきました。彼女の名を広く知らしめたのは、ABCの少女たちです。当店では、ABCの少女たちのひとりアマリアを扱っています。猫の作品の歩みはリサ・ラーソンと猫でたどっています。

美術館に残る小さな動物園

グスタフスベリのコレクションは、2000年にスウェーデン協同組合連合会(KF)からスウェーデン国立美術館へ寄贈されました。リッラ・ズーの猫やキツネ、馬もそのなかに含まれます。

秋の朝のグスタフスベリ磁器博物館|アーチ窓の並ぶ赤レンガの建物と館名の看板
秋の朝のグスタフスベリ磁器博物館。アーチ窓の並ぶ赤レンガの建物と、館名の看板(写真:Greger Ravik/CC BY-SA 4.0)

国立美術館に属するグスタフスベリ磁器博物館も、リサ・ラーソンの解説で、初期のシリーズのひとつとしてリッラ・ズーを挙げています。

まとめ

リッラ・ズーは、グスタフスベリに来て間もないリサ・ラーソンが1955年にデザインした、小さな動物たちのシリーズです。展示した一匹の縞の猫が注目を集め、リンドベリの後押しで動物の像が増えていきました。茶色の炻器の一部にだけ釉をかけた素朴な動物たちは、さまざまな意味で、その後の彼女の仕事の方向を示すシリーズになりました。

要点の整理

  • 年代——1955年にデザインされ、1956〜1978年に製造
  • 構成——7点の動物のうち3点が猫。所蔵記録で確かめられるのは、尾を立てた猫・座った猫・キツネ・馬
  • 大きさ——国立美術館の所蔵品で高さ7〜12cmほど
  • つくり——型で形をつくった中空の茶色の炻器。釉は顔や背、尾のあたりだけ
  • しるし——胸の「DESIGN LISA LARSON」のラベルと、腹や底の小さなしるし

参考資料

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