リサ・ラーソン ABCの少女たち(ABC-Flickor)完全ガイド|本を読む5人の少女像——アマリア・ベアタ・シャルロッタ・ドラ・エンマの見分け方と刻印
北欧食器タックショミュッケ編集部スウェーデン・フィンランドから北欧ヴィンテージ食器を直接買い付け、1,000点以上を検品してきた当店が、一次情報と実物の観察にもとづいて執筆・編集しています。
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ふっくらとした体に、すこし大人びた顔。本を胸に抱えたり、静かに読みふけったり——スウェーデンの陶芸家リサ・ラーソン(Lisa Larson)が1958年にグスタフスベリ(Gustavsberg)で生み出した少女たちは、見る人の頬をゆるませる不思議な力を持っています。シリーズの名はABC-flickor(ABCの少女たち)。アルファベット順の女性名をひとりずつ与えられた5体の少女像です。
茶色の炻器(せっき)の素肌に、藍色の手描きのワンピース。ひとつとして同じ表情がない——それは大量生産の食器とはまったく別の、彫刻としてのあたたかみを宿しています。この記事では、5人の少女それぞれの姿と見分け方、素材と底面のサインの読み方、そして少女たちが生まれた北欧の工場町グスタフスベリの物語までを、写真とともにたどっていきます。
この記事でわかること
- ABCの少女たち(ABC-flickor)が生まれた1958年の背景と、「本立て」だったという逸話
- アマリア・ベアタ・シャルロッタ・ドラ・エンマ——5体それぞれの姿と見分け方
- 茶色の炻器・手彩色・転写(クロモトリック)版という作りの違い
- 底面のサインと刻印の読み方、後年のKスタジオ作品との見分けかた
ABCの少女たちとは
ABC-flickor(ABCの少女たち)は、リサ・ラーソンが1958年にグスタフスベリのためにデザインした、茶色の炻器のフィギュアシリーズです。生産期間は1958年から1973年まで。15年ほどにわたって作られ続けました。
シリーズは全部で5体。それぞれにアマリア(Amalia)、ベアタ(Beata)、シャルロッタ(Charlotta)、ドラ(Dora)、エンマ(Emma)という、頭文字がA・B・C・D・Eと並ぶ古典的なスウェーデンの女性名が与えられています。名前の付け方そのものが「ABC」——つまりアルファベットの手ほどきになっているわけです。少女たちの多くは本を手にしており、「文字を学ぶ少女たち」という主題が、名前と姿の両方に重ねられています。
顔立ちは思いきって簡略化され、閉じた目もとや小さな口が、静けさと愛嬌を同時に生み出しています。派手な装飾はありません。丸みのある量感、明快なシルエット、控えめな彩色——1950年代のリサ・ラーソンらしい造形が、この小さな少女たちに凝縮されています。
5人の少女たち——アマリア・ベアタ・シャルロッタ・ドラ・エンマ
ここで、5体の少女それぞれの姿を整理しておきましょう。頭文字はきれいにA→Eと並びます。なお、Cはセシリア(Cecilia)ではなくシャルロッタ(Charlotta)です。ここはよく混同されるところなので、覚えておくと見分けの助けになります。
| 頭文字 | 名前 | 姿・特徴 | 高さの目安 |
|---|---|---|---|
| A | アマリア(Amalia) | 座って本を読む少女。水色地に藍の幾何模様のワンピース | 約16〜17cm |
| B | ベアタ(Beata) | 横たわる姿。青と白の縞のワンピース | 約10cm(横長) |
| C | シャルロッタ(Charlotta) | 座り姿。淡い地に小さな模様のワンピース | 約16cm |
| D | ドラ(Dora) | 立ち姿。青と白の縞のワンピース。シリーズで最も背が高い | 約26〜27cm |
| E | エンマ(Emma) | ワンピースをまとった女性像 | 約16cm |
※ 高さは資料により数ミリの幅があります。手仕事のため、同じ名前でも一体ごとに寸法や表情がわずかに異なります。
D=ドラ(Dora)——立ち姿のいちばん大きな少女
ドラは、5体のなかで最も背が高い立像です。青と白の縞のワンピースを着て、片手を腰にあて、もう片方の腕を後ろへ回した何気ないポーズ。標準サイズのほか、初期に作られた約27cmの大きなモデルがコレクターに好まれています。大きくなるほど、造形の量感と手彩色の筆致がのびやかに感じられます。
A=アマリア/C=シャルロッタ——本を抱えて座る少女
アマリアとシャルロッタは、どちらも座った姿です。膝の上に小さな器や本を抱え、まぶたを閉じてうつむく——読書に没入した静かなひとときが、そのまま形になっています。アマリアは水色地に藍の幾何模様、シャルロッタは淡い地に小さな四角い模様のワンピースと、彩色で表情が分かれます。
ベアタ(B)は横たわった姿の、シリーズでいちばん小さな一体。青と白の縞のワンピースをまとっています。エンマ(E)はワンピース姿の女性像として、5体の締めくくりを担います。5人が並ぶと、立つ・座る・横たわるという姿勢の違いと、藍や淡色の彩色の対比が、静かなリズムを生み出します。
「本立て」から生まれた少女たち
ABCの少女たちには、ひとつ愛らしいエピソードがあります。この5体はもともと、本立て(ブックエンド)として構想されました。本を読む少女という主題も、そこから来ています。ところが、いざ焼き上がってみると——少女たちは軽すぎたのです。
フィギュアの内部は中空で、本を支えるだけの重みがありませんでした。そのため本立てとしてはうまく働かず、砂を詰めて重しにする、といった工夫も語られています。実用の道具としては目的を果たせなかったものの、「本を読む少女」という愛嬌のある姿そのものが人々の心をつかみ、スウェーデンの家庭へと広がっていきました。役に立たない本立てが、愛される置物になった——そんな出発点も、この少女たちの魅力の一部です。
素材と作り——茶色の炻器と手彩色
ABCの少女たちの素材は、茶色の炻器(stengods/ストーンウェア)です。ざらりとした褐色の素地には、粗い砂粒(シャモット)が混じり、肌の質感に土のあたたかみを与えています。顔や手足の素肌の部分は無釉のまま残され、ワンピースの部分に手で色が差されます。作品によっては釉薬が部分的にかけられ、藍色のワンピースがつややかに光ります。
彩色には、大きく2つの系統があります。
- 手描き——標準の作り方です。塗り手によって筆づかいが異なるため、同じアマリアでも一体ごとに模様の表情が微妙に変わります。この「個体差」こそが、手仕事の証です。
- クロモトリック(chromotryck/転写)——生産の後期に採り入れられた、手間のかかる技法です。あらかじめ用意した模様を写し取るもので、花柄をまとった個体などに見られます。作られた数が少なく、コレクターのあいだで高く評価されています。
どちらも型に流し込んで成形されるため、体の側面などに型の継ぎ目がうっすら見えることがあります。これは不良ではなく、この作り方につきものの正常な痕跡です。
底面のサインと刻印——見分け方
少女たちを裏返すと、素焼きのままの茶色い底面が現れます。ここに記されたサインが、素性を読み解く手がかりになります。
基本の構成は、作品名(Amalia、Dora など)+リサ・ラーソンの署名(Lisa L あるいは LL)+製造国(Sweden/Made in Sweden)です。個体によっては、金色や紙のラベルが併用されていたり、型押しの「Gustavsberg」が加わったりします。「Sweden」の表記はラベル側に現れることも多く、刻印の組み合わせには個体差があります。ですから、要素の一つひとつを絶対視せず、全体の様子で判断するのが安全です。
「スタジオハンド」というマークについて
グスタフスベリの作品には、しばしば「手」をかたどったマーク(studiohand、スタジオハンド)が押されています。これは、ヴィルヘルム・コーゲ(Wilhelm Kåge)が1942年に立ち上げた工房「グスタフスベリ・スタジオ」の印で、工房で手がけられた作品に添えられました。リンドベリ個人のサインと取り違えられがちですが、そうではありません。コーゲ、フリーベリ、リサ・ラーソン、カーリン・ビョルクィストなど複数の作家が共有した、工房の証です(色違いも存在します)。
後年のKスタジオ作品との見分け
リサ・ラーソンは、グスタフスベリを離れたのちの1992年に、自身の工房Keramikstudion Gustavsberg(Kスタジオ)を立ち上げました。この工房では、原型をもとにしたフィギュアが少量ずつ作られてきました。Kスタジオ期の作品には、手書きで「Lisa L / K-Studion / Gustavsberg / Sweden」などと署名の様式が異なるものがあり、これが年代を見分ける手がかりになります。
コレクターの視点
ABCの少女たちは、いくつかの点で個体ごとに表情が分かれます。まず、生産後期の転写(クロモトリック)版は数が少なく、コレクターのあいだで高く評価されているとされます。立像のドラ、とりわけ約27cmの初期モデルは、その量感と存在感から人気があります。手描きの個体は塗り手ごとに筆致が異なるため、同じ名前でも一体として同じものはありません。状態(欠けやひび)や、底面のサイン・ラベルがどれだけ残っているかも、評価を左右する要素とされます。数字や希少性の断定は市場によって揺れますが、「一体ずつ違う」という手仕事の性格は、どの少女にも共通しています。
リサ・ラーソンという作家
リサ・ラーソン(Lisa Larson、1931–2024)は、スウェーデン南部スモーランド地方のヘルルンダ(Härlunda)近郊で、1931年の秋に生まれました。父は製材所を営み、美術や骨董を愛する人でした。木の端材や粘土に囲まれて育った少女は、木彫りの人形を彫り、絵を描いて日々を過ごしたといいます。
1949年、ヨーテボリの工芸学校(Slöjdföreningens skola、のちのHDK)に進みます。当初はファッションを志していましたが、教師の勧めで陶芸の道へ。師となったのは、フィンランド系スウェーデン人の陶芸家クルト・エークホルム(Kurt Ekholm)——かつてフィンランドのARABIAで芸術監督を務めた人物です。北欧の二大窯の系譜が、こうして一人の学生のなかで静かに交わりました。リサはこの学校で1954年まで5年を過ごします。
卒業の年、北欧の工芸コンペに出したリサの作品が注目を集めます。審査に加わっていたグスタフスベリの芸術監督スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)が、若い才能に1年間の試用の職を用意しました。こうして1954年にグスタフスベリへ加わったリサは、リンドベリの指導のもと、若手が新作を試す「遊び場(playhouse)」と呼ばれたスタジオで腕を磨きます。ここで生まれたのが、小さな動物や少女たちのフィギュアでした。以後26年、1980年まで在籍します。
グスタフスベリを離れたのちも、リサは自身の名を冠したデザインを作り続け、1992年には元同僚のフランコ・ニコロシ(Franco Nicolosi)、シヴ・ソリン(Siv Solin)とともにKスタジオ(Keramikstudion Gustavsberg)を設立しました。動物や子ども、家族といった身近な主題を、丸みのある形とやわらかな彫りで包んだその作風は、モダニズムを親しみやすいものへと開いた、と評されています。2024年3月、92歳で世を去りました。
グスタフスベリという場所——工場町を歩く
少女たちが生まれたグスタフスベリは、ストックホルムの東、ヴェルムデー島(Värmdö)にある工場町です。町はファシュタヴィーケン(Farstaviken)という細い入り江に面しています。かつてこの水路を通って粘土が運び込まれ、焼き上がった器が船で積み出されていきました。水辺こそが、この町の中心でした。
磁器づくりが始まったのは1825年のこと。19世紀の終わりから20世紀初めには、約1,000人が働く大きな工場へと成長しました。かつて陶土を乾かした乾燥棟(Torkhuset)は「町でいちばん美しい建物」と呼ばれ、1956年に一般公開された磁器博物館がここに置かれました。工場町には、労働者の連棟住宅や、荘園を改装した館、そして水辺に沿った散歩道が残っています。
水辺に沿った古い建物には、それぞれの記憶が刻まれています。1850年代の「旧作業場」と「旧スラム棟(泥漿を扱った建物)」は、のちにホテルへと姿を変えました。かつて陶器を焼き、運び、暮らした人々の営みの跡が、赤みを帯びた工場建築や連棟住宅として今日まで残ります。港のあたりは、作家のアトリエやレストラン、ゲスト用のマリーナを備えた文化の拠点として生まれ変わり、水辺には約2.5キロの散歩道がめぐります。器の町を歩くという体験そのものが、リサ・ラーソンの少女たちの背景を語ってくれます。
島じたいは、ストックホルム群島(アーキペラゴ)の入口にあたります。夏になれば、無数の小島のあいだを白い帆が行き交い、水と森と光が溶け合う——スウェーデンの人々が愛してやまない季節の風景が広がります。少女たちの藍色は、この水辺の色をどこかで映しているのかもしれません。
動物から少女へ——同じ時代のフィギュアたち
ABCの少女たちは、リサ・ラーソンが手がけたフィギュア群のなかで、ちょうど動物たちに続いて生まれた作品です。時代を追ってみましょう。
- リッラ・ズー(Lilla Zoo、小さな動物園/1955年)——リサが作った猫のフィギュアにリンドベリが目をとめ、シリーズ化された出世作。
- ストーラ・ズー(Stora Zoo、大きな動物園/1957年)——それを大きく作り直した動物たち。
- ABCの少女たち(ABC-flickor/1958年)——動物に続いて登場した、人物(少女)のシリーズ。
- アフリカ(Afrika/1964年)、世界の子どもたち(Världens barn/1974〜75年)——世界の人々へと主題を広げた作品群。
少女たちと動物たちは、茶色の炻器・手彩色・部分的な施釉という同じ言葉で作られています。だからこそ並べても違和感がありません。クリスマスにちなんだルシアやアドベントの子どもたちなど、季節の小さな像も同じ家族の一員です。
やがてリサの視線は、身近な動物や少女から、より広い世界へと向かいます。1974〜75年の「世界の子どもたち(Världens barn)」はユニセフと、1975年に始まる「絶滅危惧種(Utrotningshotade djur)」は世界自然保護基金(WWF)と結びついた作品でした。身近な動物や少女から、世界の人々や自然へ——リサの小さな像がすくいとる主題は、こうして少しずつ広がっていきました。
日本とリサ・ラーソン
リサ・ラーソンの作品は、日本でとりわけ深く愛されてきました。きっかけのひとつは、2000年代のはじめに大阪のデザインショップの店主が贈り物として大きなライオンの像を受け取り、その姿に心を打たれてスウェーデンの工房に連絡したこと、と伝えられています。フィギュアが日本に届きはじめると、たちまち多くの人に迎えられました。
関心は年を追って高まり、2014年から2015年にかけて日本の8都市を巡回した回顧展には、20万人を超える来場者が集まりました。2015年には滋賀県の信楽陶芸の森に、リサのフィギュアをかたどった大きな彫刻が設置されています。Kスタジオで作られる小さなフィギュアの多くが、日本の愛好家のもとへ届けられてきました。動物や子どもという身近な主題、手仕事の質感、そして静かで簡素な造形が、日本の暮らしの美意識と響き合ったのでしょう。
当店で出会えるABCの少女たち
北欧食器タックショミュッケでは、ABCの少女たちを検品のうえでお届けしています。それぞれ一体ずつ表情の異なる、手仕事ならではの個体です。造形と彩色を静かに味わう、観賞のための存在としてお迎えください。
- リサ・ラーソン グスタフスベリ ABCガールズ ドラ(Dora)——縞のワンピースで立つ、Dの少女。
- 希少 初期モデル ドラ(Dora)ABC少女シリーズ 27cm——シリーズで最も背の高いモデル。
- リサ・ラーソン グスタフスベリ アマリア(Amalia)——本を抱えて座る、Aの少女。
- リサ・ラーソン グスタフスベリ シャルロッタ(Charlotta)——淡い模様のワンピースで座る、Cの少女。
在庫は入れ替わります。最新の品ぞろえは、下記のリサ・ラーソンのコレクションからご覧いただけます。
まとめ
要点の整理
- ABCの少女たち(ABC-flickor)は、リサ・ラーソンが1958年にグスタフスベリで生んだ茶色の炻器のフィギュア。1958〜1973年に作られました。
- 5体はアマリア(A)・ベアタ(B)・シャルロッタ(C)・ドラ(D)・エンマ(E)。Cはセシリアではなくシャルロッタです。
- もとは本立てとして構想されましたが、中空で軽く、置物として親しまれるようになりました。
- 手描きのほか、後期には転写(クロモトリック)版が少量作られ、希少とされます。
- 底面は「作品名+Lisa L(LL)+Sweden」が基本。工房の「手」のマークや、1992年以降のKスタジオ署名が年代の手がかりになります。
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