グスタフスベリ ブローヒュサール(Blå Husar)完全ガイド|スティグ・リンドベリの「流れる青」——にじむコバルトと、青い軽騎兵の飾り
北欧食器タックショミュッケ編集部スウェーデン・フィンランドから北欧ヴィンテージ食器を直接買い付け、1,000点以上を検品してきた当店が、一次情報と実物の観察にもとづいて執筆・編集しています。
Share
白い土肌の上を、コバルトの青がゆっくりとにじみ、流れていく——スウェーデンの名窯グスタフスベリ(Gustavsberg)が1968年に発表したブローヒュサール(Blå Husar)は、スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)が手がけた、青の「にじみ」を主役にした食器のシリーズです。器名の「Blå Husar」は、スウェーデン語で「青い軽騎兵(フサール)」を意味します。青い軍服の胸を飾った組紐——その勲章のような飾りを思わせる文様が、輪郭をやわらかくほどきながら、器のうえを流れていきます。
この青のにじみは、偶然の産物ではありません。「フリュータンデ・ブロット(flytande blått=流れる青)」と呼ばれる、19世紀からグスタフスベリに伝わる装飾技法によるものです。ベルサ(Berså)に代表されるリンドベリの明るい絵柄とは、まったく別の系統に立つ一群——それがブローヒュサールです。
この記事では、ブローヒュサールというシリーズの背景にあるグスタフスベリの歴史、「流れる青」という技法、そして「軽騎兵」というモチーフの由来、素地とアイテム構成、裏面のバックスタンプの読み解き方までを、豊富な写真とともにたどっていきます。読み終えるころには、にじむ青の向こうに、ストックホルム群島の水辺と、青い軍服の記憶が重なって見えてくるはずです。
この記事でわかること
- ブローヒュサール(Blå Husar)を手がけたデザイナーと、発表された年代・背景
- 「流れる青(Flytande Blått)」という、リンドベリの絵柄とは別系統の装飾技法
- 「青い軽騎兵」という器名とモチーフの由来
- 素地(フリントゴッズ)とアイテム構成、裏面のバックスタンプで年代を読み解く方法
目次
- ブローヒュサール(Blå Husar)とは——にじむ青の飾り
- 基本情報
- デザイナー、スティグ・リンドベリ
- 「流れる青(Flytande Blått)」という技法
- 「青い軽騎兵」というモチーフ
- フリントゴッズという素地と「LL」の器形
- アイテム構成(ラインナップ)
- バックスタンプと年代の見分け方
- グスタフスベリの「青」と並べて
- 飾る・組み合わせる
- 現地で出会う——グスタフスベリを訪ねて
ブローヒュサール(Blå Husar)とは——にじむ青の飾り
ブローヒュサール(Blå Husar)は、グスタフスベリがスウェーデンで製造したテーブルウェアのシリーズです。デザインはスティグ・リンドベリ。裏面には「Stig L」の略署名が記され、リンドベリの手になるシリーズであることが確認できます。スウェーデンの資料では、1968年に発表され、1970年代前半まで製造されたと伝えられています。
何よりの特徴は、コバルトブルーの装飾が輪郭をぼかしながら、白い地の上に流れ・にじんでいくことです。楕円形にまとめられた飾り文様は、規則正しく並びながらも、青が濃く落ちたところと、淡くにじんだところとで、一点ごとに表情を変えます。均質でくっきりとした転写プリントとは対照的な、やわらかく揺らぐ青——それがブローヒュサールの魅力です。花や動物の具体的な絵柄を持たず、青のにじみそのものが主題になっている点で、ベルサやプルーヌスとは対照的な、静かで硬質な一面を見せています。
基本情報
| シリーズ名 | ブローヒュサール(Blå Husar=青い軽騎兵) |
|---|---|
| ブランド | グスタフスベリ(Gustavsberg)/スウェーデン |
| デザイナー | スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg) |
| 発表 | 1968年発表。1970年代前半まで製造 |
| 技法 | 流れる青(flytande blått)。焼成時にコバルトの青を釉のなかで意図的ににじませる装飾 |
| 素地 | 主にフリントゴッズ(flintgods)。一部の器はボーンチャイナ(benporslin) |
| 器形 | 1957年導入の定番フォーム「LL」。ベルサ、リンネアなどと共通 |
| カラー | 白い地に、深いコバルトブルーと、にじんだ淡い青 |
| バックスタンプ | Gustavsberg/Blå husar/Flintgods/Sweden/Stig L/Flytande Blått など |
デザイナー、スティグ・リンドベリ
スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg、1916〜1982年)は、20世紀のスウェーデンを代表するデザイナーです。1937年、師であり先駆者であったヴィルヘルム・コーゲ(Wilhelm Kåge)のもとでグスタフスベリに入り、1949年にコーゲの後を継いで芸術指導者となりました。以後、1980年に退くまで、この窯の戦後の黄金期を牽引しました。陶器だけでなく、テキスタイル、ガラス、絵本の挿絵まで、暮らしにまつわるあらゆるものを手がけた「多芸の人」として知られます。
リンドベリといえば、ベルサ(Berså)に代表される明るく親しみやすい絵柄のイメージが強いかもしれません。けれども、その本質は「美しい日用品を、多くの人の手が届くかたちで」という理念にありました。ブローヒュサールは、その理念のもう一つの表れです。華やかな図柄ではなく、青のにじみという一点に賭けたこのシリーズには、装飾家リンドベリの実験的で硬質な横顔がのぞいています。リンドベリの生涯と全体像については、スティグ・リンドベリ完全ガイドで詳しくご紹介しています。
「流れる青(Flytande Blått)」という技法
ブローヒュサールを理解する鍵は、「流れる青(flytande blått)」という装飾技法にあります。これは、下絵に置いたコバルトブルーを、焼成のあいだに釉のなかで意図的ににじませ、流れさせる技法です。輪郭がやわらかくぼやけ、青が濃淡の階調をもって広がっていく——その効果は、19世紀のイギリスで生まれた「フロウブルー(flow blue)」の系譜に連なります。
スウェーデンでも、この技法は古くから知られていました。スウェーデン国民百科(Nationalencyklopedin)によれば、流れる青は1850年ごろイギリスで生まれ、1852年にグスタフスベリとロールストランドに導入されたとされます。19世紀のグスタフスベリでは、クラッセ(Krasse)などのディナーセットにこの技法が用いられました。つまりブローヒュサールは、リンドベリが窯の古い伝統に立ち返り、1960年代の感性で再解釈した一群だといえます。
図柄そのものはスクリーンプリントで刷られていますが、焼成のなかで青が流れることで、一枚ごとに違う表情が生まれます。青の階調が器の上でどう広がるかは、窯のなかの偶然に委ねられている——だからこそ、同じシリーズでも一点として同じものはありません。この「制御された偶然」こそが、流れる青の美しさであり、難しさでもありました。青の層がわずかに厚いだけで模様が流れすぎてしまうため、生産は数年で終わり、結果としてブローヒュサールは比較的希少なシリーズになりました。
当時の器には、グスタフスベリ純正の紙ラベルが貼られたものも残っています。そこにはスウェーデン語で、「どれ一つとして同じものはありません。模様の青の階調が一枚ごとに違うのは、欠点ではありません。この装飾法は『流れる青(flytande blått)』と呼ばれ、グスタフスベリに伝わる焼きものの効果です」といった趣旨の説明が記されています。作り手自身が、一点ごとの違いを「味わい」として誇りに掲げていたことがわかります。
絵付けの技法についてより広く知りたい方は、北欧食器の絵付け技法ガイドもあわせてご覧ください。
「青い軽騎兵」というモチーフ
「Blå Husar」とは、スウェーデン語で「青い軽騎兵(フサール)」の意味です。フサール(Husar/英語でHussar)は、15世紀のハンガリーに起源をもつ軽騎兵で、その華やかな軍装ごとヨーロッパ各国に広まりました。肩から羽織る毛皮縁の外套、羽根飾りの帽子、そして胸いっぱいに走る金や色の組紐(braiding, frogging)——この組紐飾りこそが、ブローヒュサールの文様の着想源だと語られています。
「青い」という言葉も、決して思いつきではありません。スウェーデンには実際に、青い軍服の軽騎兵連隊が存在しました。18世紀には青いドルマン(短い上着)をまとった連隊が編成され、長い歴史をもつ近衛軽騎兵連隊は、19世紀半ばに淡い青の新しい軍服を採用しました。青地に飾り紐が走るその胸元は、ブローヒュサールの器面と、どこか響き合っています。
ただし、ブローヒュサールの器面に、騎兵の姿そのものが描かれているわけではありません。あくまで、軍装の飾り紐が抽象的な文様へと翻案され、青の流れとして器を巡っています。楕円形にまとまった飾りを見ていると、たしかに軍服の胸で光る勲章のような組紐が思い浮かびます。歴史のなかを駆けた軽騎兵の飾りが、器の上で青くほどけていく——そんなイメージが、このシリーズの核にあります。
フリントゴッズという素地と「LL」の器形
ブローヒュサールの多くは、フリントゴッズ(flintgods)という素地でつくられています。フリントゴッズは、長石や石英を含む白色の焼きもので、磁器ほど硬く薄くはないものの、白く均質な地をもつのが特徴です。裏面に「Flintgods」と記されているとおり、窯自身がこの素地を明示しています。なお、コーヒー用の一部の器などには、より白く薄いボーンチャイナ(benporslin)が用いられた例もあり、器種によって素地が異なる場合があります。
器の形は、グスタフスベリが1957年に導入した定番フォーム「LL」が用いられました。このLL型は、ベルサやリンネア(Linnea)など、この時期の同窯の量産食器と共通の器形です。飾りを抑えたシンプルな輪郭は、流れる青のにじみをのびやかに受けとめ、装飾と形が静かに調和しています。共通の器形を持つことで、他のシリーズと重ねても違和感なくまとまるのも、この時代のグスタフスベリらしい設計です。
アイテム構成(ラインナップ)
ブローヒュサールには、プレートやボウルといった食器のほか、コーヒーとティーの器、ポットやピッチャー、スクエアプレートまで、幅広いアイテムが用意されました。青の流れは器の形に応じて表情を変え、平たい皿では楕円の飾りとして、円筒形の器では縦に連なる青の粒として立ち現れます。
スクエアプレートのような平たい器では、楕円の飾り文様がのびやかに広がり、青の階調がもっともよく見えます。半世紀前の一枚一枚に、窯のなかで生まれた偶然の青が閉じ込められています。
バックスタンプと年代の見分け方
ブローヒュサールを見分けるうえで、裏面のバックスタンプは確かな手がかりになります。グスタフスベリの窯印とともに、「Blå husar」「Flintgods」「Sweden」「Stig L」「Flytande Blått」といった文字が並びます。シリーズ名(Blå husar)と技法名(Flytande Blått)が同じ器に併記される点は、このシリーズならではの特徴です。器や時期によって表記の構成には差がありますが、「Stig L」の署名があれば、リンドベリのデザインであることの裏づけになります。
グスタフスベリのスウェーデン食器には、しばしば「VDN」という表示も見られます。VDNは、1951年から1973年まで運営されたスウェーデンの商品表示制度(Varudeklarationsnämnden)で、素材や品質を消費者に示すためのものでした。ただし、この表示は制度が終わったのちもしばらく使われたため、VDNマークだけで製造年をピンポイントに特定することはできません。ブローヒュサールの年代は、こうした表示に加え、素地や器形などから総合的に判断されます。バックスタンプの読み方全般については北欧食器のバックスタンプ総合ガイドを、VDN表示の詳細については北欧食器のVDNマークとはをあわせてご覧ください。
グスタフスベリの「青」と並べて
リンドベリは、青を基調とした作品をいくつも手がけました。ブローヒュサールを、同じグスタフスベリの青い名作と並べて眺めると、それぞれの個性がよりはっきりと見えてきます。
| シリーズ | 主なモチーフ | 技法 | 印象 |
|---|---|---|---|
| ブローヒュサール(Blå Husar) | 軍服の飾り紐を思わせる文様 | 流れる青(にじむコバルト) | やわらかい滲み |
| プルーヌス(Prunus) | 青い梅の実と枝 | 絵付け | 繊細・可憐 |
| アダム(Adam) | コバルトの人物と草花 | 絵付け | 大胆・力強い |
| ダート(Dart) | 青いラインと斑点 | 手描き | 簡素・涼やか |
花柄のプルーヌスが「可憐」、人物柄のアダムが「力強い」、青いラインのダートが「簡素」だとすれば、ブローヒュサールは「にじみ」。同じコバルトブルーでも、輪郭をあえてぼかすブローヒュサールは、もっともやわらかく揺らぐ表情を見せます。青の濃淡を意識して数点を並べると、一つのコレクションとしての奥行きが生まれます。それぞれの青については、プルーヌス完全ガイド、アダム完全ガイド、ダート完全ガイドもあわせてどうぞ。青い釉地に描いた祝祭のカルネヴァル完全ガイドも、リンドベリの青の仕事の一つです。
状態を見るときのポイント
ブローヒュサールを含むヴィンテージの器を見るときは、いくつか確認したい点があります。青の階調が一点ごとに違うのは、前述のとおり流れる青の特性であって、傷ではありません。一方で、縁の小さな欠けや、貫入(かんにゅう=釉薬表面の細かなひび)、底面のすれは、時代を経た北欧ヴィンテージらしい痕跡です。当店では全品を検品したうえで、コンディションを★★★★☆(4:美品)のような形式でご案内しています。半世紀近い時を越えてきた一点として、その質感も含めて眺めていただければと思います。
飾る・組み合わせる
ブローヒュサールの魅力は、その青の深さと、にじみのやわらかさにあります。白い地にコバルトブルーという古典的な取り合わせは、和の器とも相性がよく、日本の住まいのなかにも自然になじみます。棚に一枚立てかけるだけでも、にじむ青が空間に静かな存在感を添えます。同じグスタフスベリの青、プルーヌスの梅の絵柄や、縞模様のスピサ・リブ(Spisa Ribb)と並べると、青の濃淡のグラデーションが生まれ、コレクションとしての奥行きが出ます。
木の家具や麻の布と合わせれば、北欧の簡素な暮らしの気配が、そのまま部屋の一角に立ち上がってきます。リンドベリの他のシリーズやグスタフスベリの名作については、グスタフスベリ完全ガイドもご参照ください。錫釉のうえに絵付けするグスタフスベリのファイアンスについては、ファイアンスとはで解説しています。
現地で出会う——グスタフスベリを訪ねて
ブローヒュサールが生まれたグスタフスベリの町は、ストックホルム中心部から東へおよそ21km、群島の島ヴェルムドー(Värmdö)にあります。船の舳先が群島の水面を切って進むと、入り江の岸に沿って建つ赤みを帯びた工場群が見えてきます。窯業は19世紀の初めにこの水辺で始まりました。荷はそのまま水路で運ばれ、グスタフスベリは「水の町」として育った窯業の町です。
グスタフスベリは、初めからイギリスとドイツの器に学びました。1863年にはコーンウォールから船で運ばれた白い陶土でボーンチャイナを焼き始め、青と白の器づくりの伝統を育てていきます。同じ頃、イギリスでは焼成中にわざと青をにじませる「フロウブルー」が流行していました。海を越えて流れ込んだ青と白のにじみの美学は、一世紀の時を経て、リンドベリの流れる青へと受け継がれています。
かつての工場地区は、グスタフスベリ港(Gustavsbergs hamn)として文化的に再生しました。赤みを帯びた工場建屋には工房やショップ、レストラン、そしてグスタフスベリ磁器博物館が入り、その一部は陶芸家たちのアトリエへと姿を変えました。港の水際には、白い給水塔と、緑青色の尖塔をもつ教会が静かに立っています。
町の目の前には、群島の静かな水が広がっています。夏には白夜の光が水面を照らし、秋には岸辺が色づきます。ブローヒュサールのにじむ青を眺めるとき、その向こうに、こうしたスウェーデンの水辺の光景と、青い軍服の飾り紐を重ねてみると、一枚の器がぐっと豊かに感じられるはずです。
要点の整理
ブローヒュサール(Blå Husar)は、スティグ・リンドベリが1968年にグスタフスベリで発表した、「流れる青(flytande blått)」の食器です。器名は「青い軽騎兵」を意味し、青い軍服を飾った組紐を思わせる文様が、輪郭をぼかしながら白い地の上を流れていきます。焼成のなかで青がにじむため、一点として同じものはなく、そのことは当時の純正ラベルにも誇らしげに記されていました。19世紀のイギリスに生まれ、グスタフスベリに受け継がれた古い技法を、リンドベリが1960年代の感性で再解釈した一群——ベルサの作者が見せた、静かで硬質なもう一つの青です。裏面の「Blå husar」「Flintgods」「Stig L」「Flytande Blått」の表記は、シリーズを見分ける確かな手がかりになります。
あわせて読みたい関連記事
当店の北欧ヴィンテージ食器
北欧から直輸入したヴィンテージ食器や北欧雑貨を、状態を確認したうえでご紹介しています。1万円以上送料無料。