グスタフスベリ ダート(Dart)完全ガイド|スティグ・リンドベリが手がけた、青いラインの手描きストーンウェア
北欧食器タックショミュッケ編集部スウェーデン・フィンランドから北欧ヴィンテージ食器を直接買い付け、1,000点以上を検品してきた当店が、一次情報と実物の観察にもとづいて執筆・編集しています。
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白い土肌に、細い青のラインが一本、また一本と巡る——スウェーデンの名窯グスタフスベリ(Gustavsberg)が1970年代後半に世に送り出したダート(Dart)は、スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)が晩年に手がけた、簡素で凛としたストーンウェア(一部はボーンチャイナ)のシリーズです。華やかな花柄でも、大胆な抽象柄でもありません。まだらに散る青い斑点と、器のふちや裾をぐるりと囲む手描きのライン。ただそれだけの構成が、かえって北欧の海と光を思わせます。
ダートは、リンドベリが芸術指導者としてグスタフスベリに戻った1970年代の空気を色濃くまとっています。オイルショックを経て、北欧の食器は華やかな磁器から、素朴で堅牢なストーンウェアへと重心を移していきました。オーブンにもそのままかけられる実用的な素地に、職人が一筆ずつ青のラインを入れていく——ダートは、そんな時代の「用の美」を体現した一群です。
この記事では、ダートというシリーズの背景にあるグスタフスベリの歴史と1970年代という時代、リンドベリのデザイン、素材としてのストーンウェア、アイテム構成、そして裏面のバックスタンプの読み解き方までを、豊富な写真とともにたどっていきます。読み終えるころには、青いラインの向こうにストックホルムの群島の海が見えてくるはずです。
この記事でわかること
- ダート(Dart)を手がけたデザイナーと、発表された年代・背景
- 青いラインとまだらの土肌という、ダート特有のデザインの成り立ち
- オーブン対応ストーンウェアという素材と、1970年代の北欧食器の潮流
- 裏面のバックスタンプ(VDN・素材記号・サイン)で年代と真贋を読み解く方法
目次
- ダート(Dart)とは——青いラインのストーンウェア
- 基本情報
- デザイナー、スティグ・リンドベリ
- 1970年代のグスタフスベリという時代背景
- ダートのデザイン——青いラインとまだらの土肌
- オーブンからテーブルへ——ストーンウェアという素材
- アイテム構成(ラインナップ)
- バックスタンプと年代・真贋の見分け方
- 飾る・組み合わせる
- 現地で出会う——グスタフスベリを訪ねて
ダート(Dart)とは——青いラインのストーンウェア
ダート(Dart)は、グスタフスベリがスウェーデンで製造したテーブルウェアのシリーズです。デザインはスティグ・リンドベリ。裏面には「DESIGN: STIG LINDBERG」と明記され、リンドベリ自身の手になるシリーズであることが確認できます。スウェーデンの美術オークションの記録では、1977年頃に登場し、1980年代前半まで製造されたと見られています。乳白色のまだらな土肌に、ふちと裾を巡る手描きの青いライン——淡いスカイブルーの帯を、細い濃紺の線がはさむ構成が基本モチーフです。
花や動物といった具体的な図像を持たず、ラインと斑点だけで成り立つダートは、リンドベリを代表する装飾的な作品として知られるベルサやプルーヌスとは対照的な、抑制のきいた表情を見せます。それはちょうど、1970年代の北欧デザインが向かった「簡素で機能的なもの」への回帰と重なります。
基本情報
| シリーズ名 | ダート(Dart) |
|---|---|
| ブランド | グスタフスベリ(Gustavsberg)/スウェーデン |
| デザイナー | スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg) |
| 発表 | 1970年代後半(1977年頃)。1980年代前半まで製造 |
| 素材 | ストーンウェア(stengods)。コーヒー用の一部はボーンチャイナ(benporslin) |
| 技法 | 手描き(HANDMÅLAT) |
| カラー | 乳白色の地に、スカイブルーと濃紺のライン |
| バックスタンプ | GUSTAVSBERG(錨マーク)/DART/VDN S555(一部B555)/DESIGN: STIG LINDBERG |
デザイナー、スティグ・リンドベリ
スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg、1916〜1982年)は、20世紀のスウェーデンを代表するデザイナーです。1916年、スウェーデン北部の街ウメオ(Umeå)に生まれ、ストックホルムの美術工芸学校コンストファックで学びました。陶器だけでなく、テキスタイル、ガラス、絵本の挿絵、さらにはテレビの筐体まで、暮らしにまつわるあらゆるものを手がけた「多芸の人」として知られます。
グスタフスベリでは、師であり先駆者であったヴィルヘルム・コーゲ(Wilhelm Kåge)の後を継ぎ、1949年から芸術指導者を務め、戦後の黄金期を牽引しました。ミラノ・トリエンナーレではグランプリを獲得し、スウェーデン・デザインの国際的評価を高めた立役者でもあります。1957年にいったん芸術指導を離れてコンストファックで教鞭をとり、1972年に再びグスタフスベリへ戻りました。ダートは、まさにこの復帰後の時代の作です。
リンドベリはベルサ(Berså)やプルーヌス(Prunus)といった、いまも愛される名作を数多く残しました。華やかな絵柄のイメージが強いリンドベリですが、その本質は「美しい日用品を、多くの人の手が届くかたちで」という理念にあります。ダートのように装飾を切り詰めたシリーズにこそ、その思想が静かに息づいています。リンドベリの生涯と全体像については、スティグ・リンドベリ完全ガイドで詳しくご紹介しています。
1970年代のグスタフスベリという時代背景
グスタフスベリは、ストックホルム群島のヴェルムドー(Värmdö)にあり、内海の入り江ファルスタヴィーケン(Farstaviken=ファルスタ湾)の最奥部に位置します。窯業は1820年代にこの入り江の奥で始まり、19世紀にはここが一大拠点として栄えました。港には帆船が並び、瓶のかたちをした窯の煙突が立ち上る——ダートの青いラインは、こうした海辺の記憶とどこかで通じ合っています。
1937年、グスタフスベリはスウェーデンの生活協同組合連合会(KF、Kooperativa Förbundet)がオーデルベリ家から買収し、その傘下に入りました。「良いものを、公正な価格で、すべての人に」という協同組合の理念は、リンドベリやコーゲの「美しい日用品」という思想と自然に響き合い、戦後スウェーデンの家庭に良質な食器を広く行き渡らせました。ダートが生まれた1970年代も、この窯はKFのもとにありました。
1957年にグスタフスベリの芸術指導を離れ、ストックホルムの美術工芸学校コンストファックで教えていたリンドベリは、1972年に再びグスタフスベリの芸術指導者として工房に戻りました。ダートは、この復帰後の時代に生まれたシリーズです。折しも1973年のオイルショックは、北欧のうつわづくりにも大きな転機をもたらしました。手のかかる華やかな磁器から、堅牢で飾らないストーンウェアへ——ダートの簡素さは、この時代の空気をそのまま映しています。同じ時期にリンドベリが手がけた日常のストーンウェア、シエナ(Siena)やビルカ(Birka)も、飾りを抑えたふち模様を持つ姉妹のようなシリーズで、ダートと同じ空気をまとっています。
ダートのデザイン——青いラインとまだらの土肌
ダートのデザインは、ふたつの要素から成り立っています。ひとつは、乳白色の地に散る細かな青の斑点。もうひとつは、器のふちと裾をぐるりと巡る手描きの青いラインです。ラインは、淡いスカイブルーの帯を細い濃紺の線がはさむ構成で、ろくろの回転を生かして一筆で描かれています。プレートでは同心円として、カップやピッチャーでは水平の帯として立ち現れます。
地には、細かな青の斑点が散っています。均質でつるりとした磁器とは異なり、まだらな土肌のひとつひとつ違う表情が、手仕事らしい温かみを生んでいます。青いラインの落ち着いた濃淡とあわせて、北欧の海や空、あるいは陶器の白と藍という古典的な取り合わせを想起させます。
ラインは、器を回転させながら筆を当てて引かれています。裏面に「HANDMÅLAT(手描き)」と明記されているとおり、転写プリントではなく、一枚ずつ人の手で描かれたものです。だからこそ、よく見るとライン幅や濃さにはわずかな揺らぎがあり、同じシリーズでも一点ごとに表情が異なります。装飾を最小限に切り詰めているぶん、この手仕事のわずかな不均一さが、かえってダートの魅力になっています。均質な工業製品にはない、うつわが呼吸しているような感触——それは、大量生産の時代にあってなお手描きにこだわったグスタフスベリの矜持のあらわれといえます。
オーブンからテーブルへ——ストーンウェアという素材
ダートの裏面には「UGNS- OCH DISKMASKINSÄKERT STENGODS(オーブン・食洗機対応のストーンウェア)」と記されています。ダートは、オーブンからそのまま食卓へ——いわゆる「オーブン・トゥ・テーブル」の器としてデザインされました。堅牢なストーンウェアという素材と、飾り気のないフォルムは、そうした当時の暮らし方のために選ばれたものでした。
ストーンウェア(stengods=炻器)は、高温で焼き締められた、緻密で堅牢な焼きものです。透けるほど白く薄い磁器に対して、ストーンウェアはやや厚みがあり、素地に土の風合いを残します。ダートの乳白色のまだらな土肌にも、その素朴な質感がよくあらわれています。土の温もりを残したこうした性格は、オーブンから食卓へという1970年代の暮らしの器として選ばれた理由のひとつでした。
1960年代末から70年代にかけて、北欧各国のうつわは、こうしたオーブン対応ストーンウェアへと大きく舵を切りました。かしこまった正餐の磁器ではなく、日々の暮らしに寄り添う「オーブン・トゥ・テーブル」の思想です。同じ時期、フィンランドのアラビア(ARABIA)ではウラ・プロコッペのルスカ(Ruska)が大地の色の炻器として広く親しまれ、スウェーデン各地の窯でも素朴なストーンウェアが主流になっていきました。ダートのグラタン皿やキャセロール鍋は、この潮流を映すスウェーデン側の代表的なかたちといえます。北欧食器全体の絵付け技法の違いについては、北欧食器の絵付け技法ガイドもあわせてご覧ください。
アイテム構成(ラインナップ)
ダートには、ひととおりの品目がそろう幅広いアイテムが用意されました。プレートは19.5cmのケーキ皿から24cmのディナープレートまで、ボウルやスープ皿、コーヒーカップとティーカップ、ポットやクリーマー、そしてオーブン皿やキャセロール鍋まで。同じ青いラインで統一されているため、種類の異なるアイテムを重ねても美しくまとまります。
なお、素材はアイテムによって少しずつ異なります。プレートやボウルの多くはストーンウェア(stengods、記号S555)、一部のコーヒー用の器はより薄く白いボーンチャイナ(benporslin、記号B555)でつくられました。同じ青いラインでも、素材の違いによって発色や質感がわずかに変わるのも、集める楽しみのひとつです。
バックスタンプと年代・真贋の見分け方
ダートを見分けるうえで、裏面のバックスタンプはもっとも確実な手がかりです。グスタフスベリの錨マークとともに、「DART」「DESIGN: STIG LINDBERG」「VDN S555(または B555)」「HANDMÅLAT(手描き)」「UGNS- OCH DISKMASKINSÄKERT STENGODS」「SWEDEN」といった表記が並びます。
「VDN」は、スウェーデンの商品表示委員会(Varudeklarationsnämnden)の略です。1951年から1973年まで活動した、国と産業界が共同で運営する消費者向けの品質表示制度で、1973年に消費者庁(Konsumentverket)へと引き継がれました。記号の最初の文字は素材を表し、Sはストーンウェア(stengods=炻器)、Bはボーンチャイナ(benporslin)を意味します(ほかにFはフリントウェア、Pは長石磁器)。続く3桁の数字は品質・特性の評価で、1桁目が釉薬の性質、2桁目が食品への適性、3桁目が洗浄への耐久性を示します。つまり「S555」は、ストーンウェアで3項目すべてが最高評価であることを表しています。なお、この表示は制度が終わったのちもしばらくバックスタンプに用いられたため、VDNマークだけで製造年をピンポイントに特定することはできません。ダートの年代は、こうした表示に加えて、オークションの記録などから総合的に判断されます。VDN表示そのものは、「良いものを、正直に、すべての人に」という戦後スウェーデンの消費文化を象徴するものです。
「Stig L.」の手書き風サインや、「DESIGN: STIG LINDBERG」の明記があれば、リンドベリのデザインであることの確かな裏づけになります。バックスタンプの読み方全般については北欧食器のバックスタンプ総合ガイドを、VDN表示の詳細については北欧食器のVDNマークとはをあわせてご覧ください。
飾る・組み合わせる
ダートの魅力は、その静けさにあります。白い地に青いラインという最小限の構成は、主張しすぎず、まわりのものを引き立てます。棚に一枚立てかけるだけでも、青いラインが空間に涼やかなアクセントを添えます。同じグスタフスベリの青い名作、プルーヌス(Prunus)の梅の絵柄や、縞模様のスピサ・リブ(Spisa Ribb)と並べると、青の濃淡のグラデーションが生まれ、コレクションとしての奥行きが出ます。
白と青という取り合わせは、和の器とも相性がよく、日本の住まいの中にも自然になじみます。青いラインの器を、木の家具や麻の布と合わせれば、北欧の簡素な暮らしの気配が、そのまま部屋の一角に立ち上がってきます。リンドベリの他のシリーズやグスタフスベリの名作については、グスタフスベリ完全ガイドもご参照ください。
グスタフスベリの「青」の名作と比べる
リンドベリは、青を基調とした作品をいくつも手がけました。ダートを、同じグスタフスベリの青い名作と並べて眺めると、それぞれの個性がよりはっきりと見えてきます。
| シリーズ | 主なモチーフ | 素材・技法 | 印象 |
|---|---|---|---|
| ダート(Dart) | 青いラインと斑点 | ストーンウェア/手描き | 簡素・涼やか |
| プルーヌス(Prunus) | 青い梅の実と枝 | 磁器系/絵付け | 繊細・可憐 |
| ブロー・ヒュサール(Blå Husar) | にじむ青の釉 | フリントウェア | やわらかい滲み |
| スピサ・リブ(Spisa Ribb) | 縦の縞 | 絵付け | リズミカル・軽快 |
花柄のプルーヌスが「可憐」、縞のスピサ・リブが「軽快」だとすれば、ダートは「静けさ」。同じ青でも、ラインだけで構成されたダートは、もっとも抑制のきいた表情を見せます。青の濃淡を意識して数点を並べると、一つのコレクションとしての奥行きが生まれます。
状態を見るときのポイント
ダートを含むヴィンテージのストーンウェアを見るときは、いくつか確認したい点があります。手描きのラインは、長い年月のあいだに部分的に薄れることがあります。また、ふちの小さな欠けや、貫入(かんにゅう=釉薬表面の細かなひび)、底面のすれも、時代を経た北欧ヴィンテージらしい痕跡です。当店では全品を検品したうえで、コンディションを★★★★☆(4:美品)のような形式でご案内しています。半世紀近い時を越えてきた一点として、その質感も含めて眺めていただければと思います。
現地で出会う——グスタフスベリを訪ねて
ダートが生まれたグスタフスベリの町は、いまも訪ねることができます。ストックホルム中心部からバスで東へおよそ40分。かつての工場地区はポシュリンクヴァルテーレン(磁器地区)として文化的に再生し、赤煉瓦の建物にはショップやアトリエ、そしてグスタフスベリ磁器博物館が入っています。リンドベリやコーゲの作品、ベルント・フリーベリのストーンウェア、そしてダートのような日用のシリーズまで、この窯の歩みを一望できる場所です。港の水際には、いまも「G」の文字を掲げた給水塔と、緑青色の尖塔をもつ教会が静かに立っています。
町の目の前には、ファルスタ湾の静かな水が広がっています。夏には白夜の光が水面を照らし、秋には岸辺が紅葉に包まれます。ヴェルムドー島には手つかずの自然保護区も点在し、氷河に磨かれた岩と群島の海が広がります。ダートの青いラインを眺めるとき、その向こうにこうしたスウェーデンの水辺の光景を重ねてみると、一枚の器がぐっと豊かに感じられるはずです。
まとめ
ダート(Dart)は、スティグ・リンドベリが1970年代のグスタフスベリで手がけた、手描きのオーブン対応ストーンウェアです。乳白色のまだらな土肌に、ふちと裾を巡る青いライン——その簡素な構成には、オイルショックを経た北欧が向かった「飾らない用の美」と、ストックホルム群島の海の記憶が静かに宿っています。裏面の「DART」「VDN S555」「DESIGN: STIG LINDBERG」の表記は、年代と真贋を読み解く確かな手がかりです。華やかな名作の陰に隠れがちなシリーズですが、その静けさにこそ、リンドベリ晩年の思想が息づいています。
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