鹿児島睦とグスタフスベリ|april・Maj・Juni の絵柄を手がけた作家と、名前を共有する二つの会社
北欧食器タックショミュッケ編集部スウェーデン・フィンランドから北欧ヴィンテージ食器を直接買い付け、1,000点以上を検品してきた当店が、一次情報と実物の観察にもとづいて執筆・編集しています。
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「鹿児島睦(かごしま まこと)のグスタフスベリって、あのグスタフスベリのこと?」——そんな疑問を持って、この記事にたどり着いた方が多いかもしれません。福岡を拠点に器やファブリック、版画を手がける作家・鹿児島睦は、スウェーデンのグスタフスベリ(Gustavsberg)の名前で出た製品の絵柄を手がけています。ところが、この「グスタフスベリ」という名前が、じつはいくつものものを同時に指しているために、話がこんがらがりやすいのです。
検索で「鹿児島睦 グスタフスベリ」とたどり着いた方は、一度は戸惑ったのではないでしょうか。北欧の名窯として知られるグスタフスベリと、福岡の作家の名前が、なぜ並ぶのか。答えそのものは単純です。鹿児島睦は、実際に「グスタフスベリ」の名を持つ会社と仕事をしています。ただ、その「グスタフスベリ」が何を指しているのかが、思いのほか入り組んでいる——つまずきやすいのは、いつもそこなのです。
最初にひとつ、はっきりさせておきます。当店は、この記事で取り上げる現行シリーズ(april・Maj・Juni)を扱っていません。当店が扱うのは、スティグ・リンドベリやリサ・ラーソンたちが在籍していた時代の、ヴィンテージのグスタフスベリです。それでもこの記事を書くのは、「名前を共有する複数のもの」を正しく解きほぐしておくことが、北欧食器を見るときの助けになるからです。
この主題には、必ずといっていいほど三つの取り違えがついてまわります。ひとつめは品目の取り違えです。カップ&ソーサーやプレートは「april」というシリーズで、花器(フラワーベース)は「En Liten Vän」という別のシリーズです。ふたつめは会社の取り違えにあたります。april・Maj・Juni を出したのと、En Liten Vän を出したのは、グスタフスベリ地区にある別々の会社です。みっつめは時代の取り違えです。これらは現行企業の製品であって、コーゲやリンドベリ、リサ・ラーソンが活躍した時代のものではありません。この三つを、確認できる事実だけをたどって整理していきます。
整理の見取り図として、先に「グスタフスベリ」という名前が指しうるものを挙げておきます。ひとつは、april・Maj・Juni を出している現行企業 Gustafsbergs Porslinsfabrik です。自社ブランドを「GUSTAFSBERG」と、f の綴りで表記している会社です。ふたつめは、リサ・ラーソンやパウル・ホフのフィギュア、そして鹿児島睦の花器シリーズ En Liten Vän を手がける Keramikstudion Gustavsberg AB にあたります。みっつめは、ストックホルム群島に位置するグスタフスベリという地区そのものです。そしてよっつめが、コーゲやリンドベリ、リサ・ラーソンらが名作を生んだ、当店が扱う歴史的な名窯としてのグスタフスベリです。ひとつの名前が、これだけ別々のものを指しているのですから、こんがらがるのも当然といえます。
この記事でわかること
- april・Maj・Juni(絵柄のシリーズ)と En Liten Vän(花器のシリーズ)を混同せずに説明できる
- 「グスタフスベリ」という名前が、複数の対象を同時に指していること
- 現行の GUSTAFSBERG と、当店が扱うヴィンテージのグスタフスベリの時代の違い
- 鹿児島睦「まいにち」展がたどった五つの会場(すでに終了)
目次
- 鹿児島睦という作り手
- グスタフスベリの名前で出た三つの絵柄 — april、Maj、Juni
- 名前を共有するもう一つの会社 — Keramikstudion Gustavsberg
- 窯は「手描き」とは言っていない
- いまの GUSTAFSBERG と、ヴィンテージのグスタフスベリ
- 「まいにち」展がたどった五つの会場
鹿児島睦という作り手
鹿児島睦は、1967年に福岡県で生まれました。美術大学を卒業したのち、インテリア会社に勤め、ディスプレイやマネージメントの仕事を担当します。作り手として独立したのは2002年のことです。以降、福岡市内のアトリエで、陶器やファブリック、版画などを中心に制作を続けてきました。その制作領域は、国内外のブランドへの図案提供や壁画の制作にまで広がっています。
作風は、動物や植物を豊かな色で描いた器を中心とするものです。素朴で伸びやかな線と、絵本のような色づかい——鳥や花、猫や兎といったモチーフが、皿や器の上でのびのびと息づいています。制作は福岡市内に構えた二つの拠点でおこなわれており、京都の一澤信三郎帆布をはじめ、ファッション・インテリア・フードといった幅広い分野の、国内外のブランドと協働してきました。
活動は日本の外にも広がっています。2013年以降、ロンドンや米カリフォルニア州ヴェニス、台北などで展覧会を重ねてきました。日本国内では、2017年に太宰府天満宮の宝物殿で展覧会が開かれています。動物や植物という、国や言葉を選ばないモチーフだからこそ、こうして各地の人々に受け入れられてきたのでしょう。
グスタフスベリの名前で出た三つの絵柄 — april、Maj、Juni
鹿児島睦とグスタフスベリの協業は、実際に存在します。窯の公式サイトの「Samarbeten(協業)」のページには、鹿児島睦の名前を挙げた紹介文が掲げられています。ここで押さえておきたいのは、公式情報で鹿児島睦の仕事として明示されているのは器の絵柄(デコール)である、という点です。窯側の表記も一貫して「絵柄をデザインした」という書き方になっています。カップの丸みやプレートの反りといった器の形そのものについては、今回確認できた資料からは鹿児島睦のデザインとは確認できません。ですから正確には、「鹿児島睦がデザインした器」と広く括るよりも、「鹿児島睦が絵柄を手がけたグスタフスベリの器」と表現するのが確実です。確認できるシリーズは、april(アプリール)、Maj(マイ/スウェーデン語で5月)、Juni(ジュニ/6月)の三つが挙げられます。いずれも市販された製品です。名前の並びからも分かるように、四月・五月・六月と、春から初夏へと続く月の名がつけられています。念のため付け加えると、鹿児島睦の名で確認できるグスタフスベリの絵柄シリーズは、いまのところこの三つです。
april(アプリール)
april は、窯の自社製ボーンチャイナでつくられたシリーズです。品目は、コーヒーカップ&ソーサー、18cmプレート、キャニスターの三型です。色は、黒白・黄・ターコイズ・ピンクが確認できます。動物や植物の絵柄が、白い磁器の上に配されています。
Maj(マイ)
Maj は、ティーカップ&ソーサーと22cmプレートの二型です。窯自身は「透明無色釉のボーンチャイナ製の朝食セットで、その絵柄(デコール)を日本人アーティスト鹿児島睦がデザインした」と説明しています。「Maj」はスウェーデン語で5月を意味する言葉です。窯の「Samarbeten(協業)」のページには、この Maj を指して「Maj av Makoto Kagoshima ― 自然への詩的な讃歌」という趣旨の一文も添えられています。5月、6月と月の名を冠したシリーズが続いているのも、こうした季節感と結びついた命名なのでしょう。
Juni(ジュニ)
Juni は「6月」を意味し、Blå(青)・Rosa(ピンク)・Svart(黒)の三色で展開されています。品目はティーカップ&ソーサーと18cmプレートで、色を合わせると計六品目になります。素材の表記は「Benporslin(ボーンチャイナ)」、産地はスウェーデンです。日本では、正規輸入代理店である株式会社Kotte & Co. が、2026年2月27日付で「グスタフスベリ×鹿児島睦 Juni 発売」を告知しています。
なお、窯は自社の紹介文のなかで、鹿児島睦がスティグ・リンドベリから着想を得ている、という趣旨のことを述べています。これはあくまで窯のマーケティング上の記述であって、作家本人がそう語ったという記録ではありません。読むときには、その距離を意識しておくのがよいと思います。
名前を共有するもう一つの会社 — Keramikstudion Gustavsberg
ここがこの記事の核心です。april・Maj・Juni を出した会社とは別に、「グスタフスベリ」の名前を持つもう一つの会社があります。Keramikstudion Gustavsberg AB(住所は Odelbergs väg 5D, Gustavsberg)です。この会社は、リサ・ラーソンやパウル・ホフのフィギュアを製造している会社です。そして、鹿児島睦のもう一つの協働——En Liten Vän——は、こちらとの仕事なのです。
En Liten Vän は、花器(フラワーベース)のシリーズです。カップ&ソーサーでもプレートでもありません。ここが最も間違えられやすいところです。鹿児島睦本人の公式サイトの Design 欄を見ると、二つの仕事が別々の項目として並んでいます。ひとつは「GUSTAVSBERG / April / cup&saucer / plate」、もうひとつは「Keramikstudion Gustavsberg / En Liten Vän / Fox, Squirrel, Monkey, Rabbit, Bird」です。つまり、カップ&ソーサーやプレートは april(=Gustafsbergs Porslinsfabrik)、狐や栗鼠や兎をかたどった花器は En Liten Vän(=Keramikstudion Gustavsberg)と、作家自身がはっきり書き分けているのです。展覧会の公式解説では、En Liten Vän は2018年から続くものと説明されています。
見分けるときの手がかりは、品目です。カップ&ソーサーやプレート、キャニスターといった器のかたちであれば、それは april・Maj・Juni——つまり Gustafsbergs Porslinsfabrik の側です。狐や栗鼠、猿や兎、鳥をかたどった花器であれば、それは En Liten Vän——Keramikstudion Gustavsberg の側です。同じ作り手が絵や造形を寄せていても、その出どころの会社は分かれている。「グスタフスベリの鹿児島睦」とひとくくりにせず、まず品目を見る——これが取り違えを避ける、いちばん確実な入口になります。
そもそも「グスタフスベリ」は、ストックホルム群島に位置する地区の名前でもあります。だからこそ、その地に拠点を置く会社が、それぞれ「グスタフスベリ」の名を掲げることも起こりえます。Keramikstudion Gustavsberg の住所(Odelbergs väg 5D, Gustavsberg)も、まさにこの地区の中にあります。名前を共有していても、法人としては別——地名を冠したブランドを読むときには、この点を頭の隅に置いておくと、取り違えを避けやすくなります。
Keramikstudion Gustavsberg がリサ・ラーソンのフィギュアを手がける会社である、というつながりは、当店の読者には親しみやすいかもしれません。リサ・ラーソンとこのスタジオの関係については、リサ・ラーソンとケラミックスタジオ(Kスタジオ)の記事で詳しく触れています。当店でも、Kスタジオ期のリサ・ラーソン作品をGスタジオのコレクションとしてご紹介しています。同じ「グスタフスベリ」の名を持ちながら、絵柄の器を出す会社と、フィギュアや花器をつくる会社は、別々の存在なのです。
窯は「手描き」とは言っていない
april・Maj・Juni について調べていくと、絵柄の付け方について、実際以上に踏み込んだ説明を見かけることがあります。けれども、ここは慎重に見ておきたいところです。窯自身は、その工程についてそこまで踏み込んだことを、どこにも述べていないからです。
窯は、Maj・Juni を「Handdekorerat Porslin av Formgivare(デザイナーによる手装飾磁器)」というカテゴリーに分類しています。そしてこれを、無地の白い磁器(Björk・Hav・Snövit など)を集めた「Handmålat Vitt Porslin」という別のカテゴリーとは、はっきり分けて置いています。鹿児島睦の絵柄は、前者に入っているのです。
この分類から読み取れるのは、何らかの手作業による装飾の工程がある、というところまでです。読み取れないのは、その先になります。鹿児島睦の絵柄が一枚ずつ筆で描かれているのか、転写など別の方法を用いているのかまでは、今回確認できた公式情報からは特定できません。同じ Handdekorerat のカテゴリーには、ベルサ(Berså)やプルーヌス(Prunus)、リブ(Ribb)といった、量産されてきた古典的な絵柄も一緒に並んでいます。手による装飾という括りは、絵柄ごとの工程の違いまでを説明するものではないのです。
では、確かなことは何もないのか——そうではありません。窯の情報から確定できることは、いくつもあります。シリーズ名(april・Maj・Juni)、素材(Benporslin=ボーンチャイナ)、品目(カップ&ソーサー、プレート、キャニスター)、色の展開、そして絵柄を鹿児島睦が手がけたという事実が挙げられます。これらは窯自身が明記しています。空白として残されているのは、その絵柄が一枚ごとにどうやってつけられているのか、という工程の部分だけです。確定していることと、そうでないことの境目を、はっきりさせておく——ヴィンテージであれ現行品であれ、器を正確に語るうえで、この線引きはいつも大切だと考えています。
ここから言えるのは、次のことです。確定しているのは、窯による分類名・素材・品目まで。絵柄がどのような工程でつけられているのか——その点について、窯側に踏み込んだ記述はありません。販売店の説明にどう書かれていても、それは窯の分類とは一致していません。工程が確認できない以上、当店としては、それを断定して書くことは控えます。写真から観察できることと、資料で確認できることのあいだに、はっきり線を引いておきたいのです。
いまの GUSTAFSBERG と、ヴィンテージのグスタフスベリ
では、この現行の「グスタフスベリ」と、当店が扱うヴィンテージの「グスタフスベリ」は、どういう関係にあるのでしょうか。まず時代からいえば、april・Maj・Juni は現行企業の製品であり、ヴィルヘルム・コーゲやスティグ・リンドベリ、リサ・ラーソンたちが在籍して名作を生み出した時代とは重なりません。とはいえ「まったく無関係な別会社」というわけでもありません。企業としての糸は、細くなりながらも切れずに続いてきました。たとえばリサ・ラーソンは、2023年に同じ現行企業のために SIXTEN というデザインを手がけており、窯のサイト上では Maj・Juni と隣り合って並んでいます。
現行企業は、自社のブランドを「GUSTAFSBERG」——f の綴りで運用しています。ドメインは gustafsberg.com、社名の表記は Gustafsbergs Porslinsfabrik です。一方、当店の器の裏に多く見られるのは「GUSTAVSBERG」——v の綴りです。この f と v の綴りの違いは、じつは年代を読み解くうえで大切な手がかりになります。詳しくはグスタフスベリのバックスタンプと年代の読み方で解説しています。窯そのものの二百年近い歩みについては、グスタフスベリはなぜ高い?200年の歴史と価格の見方と、工場の閉鎖からその後の流れをたどったグスタフスベリの工場閉鎖とその後に譲ります。
当店の棚に並ぶグスタフスベリは、その多くが、ヴィルヘルム・コーゲが窯を率いた時代から、スティグ・リンドベリやリサ・ラーソンが活躍した1950〜70年代あたりまでのものです。リンドベリのベルサやローゼンフェルト、リサ・ラーソンのフィギュアや花器——名前は現行シリーズと同じ「グスタフスベリ」でも、生まれた年代も、絵柄や造形の質感も、まったく異なります。裏印の綴りひとつをとっても、時代の違いがそこに表れています。
当店が扱っているのは、あくまでそのヴィンテージの時代のグスタフスベリです。以下に、当店にある在庫の一部をご紹介します。同じ「グスタフスベリ」でも、指しているものがまるで違うことが、写真からも伝わるかと思います。
これらはいずれも、当店のグスタフスベリのコレクションからご覧いただけます。コーゲやリンドベリ、リサ・ラーソンたちが遺した造形は、見る人を惹きつける静かな力を持っています。現行シリーズと同じ名前を掲げながら、これらは別の時代に、別の手から生まれたものです。
ちなみに、グスタフスベリの旧工場の一帯には、磁器博物館やギャラリーが集まり、産業遺産としての水車や給水塔が残されています。器の裏に刻まれた「GUSTAVSBERG」の文字の向こうには、こうしたストックホルム群島の工場町の光景が広がっているのです。
「まいにち」展がたどった五つの会場
鹿児島睦の仕事をまとめて見る機会として、巡回展「鹿児島睦 まいにち」が開かれました。作家にとって初の大規模な展覧会として企画されたもので、日本各地の五つの会場をめぐりました。この巡回はすでに終了しています。以下は、その記録です。
- 市立伊丹ミュージアム(兵庫)——2023年6月30日〜8月27日
- PLAY! MUSEUM(東京・立川)——2023年10月7日〜2024年1月8日
- 佐野美術館(静岡・三島)——2024年2月24日〜4月14日
- 福岡県立美術館 3階展示室——2024年4月24日〜6月23日
- 華山1914文化創意産業園区 西一館(台北)——2024年9月27日〜10月6日
2023年6月の兵庫にはじまり、2024年10月の台北まで、およそ1年4か月をかけて五つの会場を巡ったことになります。巡回は、2024年10月6日の台北会場をもって幕を閉じました。動物や植物を描いた器を中心とする作家の仕事が、兵庫から東京、静岡、福岡、そして台北へと運ばれ、多くの人の目に触れたことになります。器という日々の道具に添えられた絵が、国境を越えて受け入れられたことを、この巡回の軌跡は静かに物語っています。
まとめ
要点の整理
鹿児島睦とグスタフスベリをめぐっては、三つの取り違えがつきまといます。ひとつめは品目——カップ&ソーサーやプレートは april、花器は En Liten Vän で、別のシリーズです。ふたつめは会社——april・Maj・Juni は Gustafsbergs Porslinsfabrik、En Liten Vän は Keramikstudion Gustavsberg AB という、名前を共有する別の会社です。みっつめは時代——これらは現行企業の製品であり、コーゲやリンドベリ、リサ・ラーソンたちの在職期とは重なりません。ただし企業としての糸は切れておらず、「無関係な別会社」でもありません。窯は絵柄を「Handdekorerat」に分類しており、その工程を断定できる資料はありません。そして当店が扱うのは、あくまでそのヴィンテージの時代のグスタフスベリです。
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