リサ・ラーソン 世紀の変わり目(Sekelskifte)完全ガイド|グスタフスベリが焼いた6体の子どもと、シャモット・炻器の見分け方
北欧食器タックショミュッケ編集部スウェーデン・フィンランドから北欧ヴィンテージ食器を直接買い付け、1,000点以上を検品してきた当店が、一次情報と実物の観察にもとづいて執筆・編集しています。
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広いつばの帽子をかぶり、くるぶし丈のワンピースに編み上げのブーツ。すこし大人びた身なりの子どもが、こちらをまっすぐ見つめています——スウェーデンの陶芸家リサ・ラーソン(Lisa Larson)が1970年代にグスタフスベリ(Gustavsberg)で手がけた「世紀の変わり目(Sekelskifte/セーケルスキフテ)」は、時代の空気そのものを小さな像にとじこめたシリーズです。
シリーズ名の「Sekelskifte」は、スウェーデン語で世紀の変わり目という意味。19世紀から20世紀へと移りゆくころの、子どもたちの装いを主題にした連作です。全部で6体。大きい3体は土肌のあらいシャモット炻器で作られ、小さい3体には白い炻器版とシャモット炻器版があります。この記事では、6体それぞれの姿と見分け方、表面の質感や作りの違い、そして子どもたちが生まれた北欧の工場町グスタフスベリの物語までを、写真とともにたどっていきます。
この記事でわかること
- 「世紀の変わり目(Sekelskifte)」というシリーズ名にこめられた主題と、生まれた年代
- 6体の子どもたち——ヴィクトリア・シグリッド・グスタフ/アンナ・ジュリア・オスカーの顔ぶれ
- 土肌のシャモット炻器と、なめらかな白い炻器——表面の質感と作りの違い
- 底面のサインと、リサ・ラーソンの作品を見分けるための手がかり
「世紀の変わり目(Sekelskifte)」とは
世紀の変わり目(Sekelskifte)は、リサ・ラーソンがグスタフスベリのために手がけた、子どもをかたどった像のシリーズです。原型が作られたのは1973年ごろ、量産されたのは1970年代後半から1980年代のはじめ——おおよそ1975年から1983年にかけてでした。
スウェーデン語の「sekelskifte」は、ひとつの世紀が次の世紀へと移り変わる時期、いわゆる世紀末から新世紀のはじめを指す言葉です。日本語でいえば「世紀の変わり目」。19世紀から20世紀へと世界が姿を変えていった、あの独特の空気をまとった時代のことです。リサ・ラーソンはこのシリーズで、その移り変わりを、子どもたちの服装に託して表現しました。広いつばの帽子、たっぷりとしたワンピース、編み上げのブーツ——古い写真のなかから抜け出してきたような装いです。
当時のスウェーデンでは、写真館で家族や子どもの記念写真を撮る習わしが広がっていました。晴れ着に身を包み、少しかしこまってレンズを見つめる子どもたち——リサ・ラーソンの世紀の変わり目の像は、そうした一枚の古写真を、そのまま陶土にうつしとったかのようです。像のあどけない表情と、大人びた衣装との対比が、なんともいえない愛嬌を生んでいます。
6体の子どもたち——ふたつの組
世紀の変わり目シリーズは、全部で6体。それぞれにスウェーデンの古風な名前が与えられ、大きい3体と小さい3体の二つの家族に分かれています。ヴィクトリア・シグリッド・グスタフの大きい3体はシャモット炻器で作られました。一方、アンナ・ジュリア・オスカーの小さい3体には、なめらかな白い炻器版と、土肌の残るシャモット炻器版の両方があります。オークションなどでも、この6体はしばしば3体ずつのまとまりとして扱われています。
| 組 | 名前 | 素材 | 高さの目安 |
|---|---|---|---|
| 大きい3体 | ヴィクトリア(Victoria) | シャモット炻器 | 約20cm(最も大きい) |
| シグリッド(Sigrid) | 約15cm | ||
| グスタフ(Gustaf) | 約17〜18cm | ||
| 小さい3体 | アンナ(Anna) | 白い炻器版・シャモット炻器版 | 約10〜11cm |
| ジュリア(Julia) | 約15cm | ||
| オスカー(Oscar) | 約12cm |
※ 高さは資料や計測方法によって多少の差があります。彩色や表情には個体差があり、名前の綴りもVictoria/Viktoria、Gustaf/Gustav、Oscar/Oskarと揺れることがあります。
男の子のグスタフとオスカーを加えた6体がそろうと、19世紀から20世紀へと移りゆく子どもたちの姿が、ひとつの家族写真のように並びます。当店でご紹介しているのは、このうち女の子の像——ヴィクトリア・シグリッド・アンナ・ジュリアの4体です。
シャモット炻器と白い炻器——ふたつの肌合い
世紀の変わり目シリーズの特徴のひとつが、表面の質感が異なる二つの作りです。いずれも炻器ですが、焼成済みの陶土粒を混ぜたシャモット炻器はざらりとした土肌を残し、白い釉薬をまとった炻器はなめらかな艶を見せます。リサ・ラーソンが重ねてきた素材と表面表現の探究が、それぞれの像に刻まれています。
大きい3体のシャモット炻器——ヴィクトリア・シグリッド・グスタフ
ヴィクトリア・シグリッド・グスタフの組は、シャモット(chamotte)で作られています。シャモットとは、あらかじめ焼いた陶土を砕いて粘土に混ぜたもので、表面にざらりとした砂粒の質感が残ります。素肌の部分は無釉のまま、土のあたたかみをそのまま見せ、ワンピースや帽子にだけ色と釉薬が差されます。リサ・ラーソンのユニークピースにも通じる、素材そのものの手ざわりを生かした作りです。
小さい3体——白い炻器版とシャモット炻器版
アンナ・ジュリア・オスカーの小さい3体には、白い炻器版とシャモット炻器版の両方があります。当店でご紹介しているアンナとジュリアは、白い釉薬をまとったなめらかな炻器(stengods/ストーンウェア)版です。表面がしっとりと均質で、釉薬の艶が全体をつつみます。一方、同じ小さい3体にも、土粒の質感を残したシャモット炻器版が存在します。同じ原型が異なる肌合いで作られていることも、このシリーズの見どころです。
白い炻器版とシャモット炻器版では、同じシリーズでも受ける印象が大きく異なります。なめらかな釉薬は衣装の輪郭や彩色をくっきりと見せ、シャモットの土肌は像に素朴で彫刻的な表情を与えます。素材と衣装の組み合わせによって、19世紀末から20世紀初めの装いが、それぞれ異なる空気をまとって立ち上がります。
4体の少女たち——ヴィクトリア・シグリッド・アンナ・ジュリア
ここで、当店でご紹介している4体の少女それぞれの姿を見ていきましょう。いずれも広いつばの帽子をかぶり、くるぶし丈のワンピースに編み上げのブーツという、世紀の変わり目らしい装いです。表情や帽子の飾り、衣装の色使いに、一体ずつの個性が宿ります。
ヴィクトリア(Victoria)——シリーズで最も大きな像
ヴィクトリアは、6体のなかで最も背の高い、約20cmの像です。白い上着には青いはけ目の縦縞が引かれ、肩には青いラインで縁どられたケープ状のヨークがかかります。帽子には白い立体的な薔薇と茶色の葉が飾られ、シリーズの主役にふさわしい存在感をたたえています。土肌のシャモットで作られた、20世紀初めの婦人服を思わせる装いの一体です。
シグリッド(Sigrid)——薔薇を飾った帽子の少女
シグリッドは、白い帽子に立体的な白い薔薇と黄色い葉を飾った、可憐な少女像です。白いチュニックには青いラインが横に走り、素肌の部分には土肌のシャモットのざらりとした質感が残ります。おおらかなフォルムと、絵付けの線が描く柔らかな表情の対比が魅力です。
アンナ(Anna)・ジュリア(Julia)——当店で紹介する白い炻器版
当店でご紹介しているアンナとジュリアは、なめらかな白い炻器版です。アンナは青いラインの入った白いワンピースに、黄色い薔薇の帽子と黄色いおさげ。ジュリアはとがった肩のヨークが縦の襞になった白いワンピースをまとい、まっすぐな金色の髪をのぞかせています。シャモットの組にくらべると釉薬の艶がのり、白い肌がしっとりと光るのが見分けの手がかりです。
4体を並べると、帽子の飾りや衣装の色、素材の艶の有無によって、それぞれの個性がくっきりと浮かび上がります。手仕事のため、同じ名前でも一体として同じ表情のものはありません。
底面のサインと見分け方
像を裏返すと、底面にリサ・ラーソンのサインが記されています。世紀の変わり目シリーズでは、多くの個体に「Lisa L」の署名とグスタフスベリの刻印が入り、紙や箔のラベルが併用されることもあります。ただし刻印の組み合わせには個体差があるため、要素の一つひとつを絶対視せず、全体の様子で見るのが確実です。
写真のような手書きのフル署名は、リサ・ラーソンがグスタフスベリを離れたのちの、1992年以降のKスタジオ期に見られるものです。1970年代のヴィンテージの世紀の変わり目には、グスタフスベリ時代の「Lisa L」の署名と窯の印が入ります。署名の様式のこうした違いも、年代を見分ける手がかりのひとつです。
名前の綴りには、Victoria/Viktoria、Gustaf/Gustav、Oscar/Oskar といったスウェーデン語ならではの揺れがあります。カタログやオークションでは英語式にVictoria・Gustaf・Oscarと記されることが多いものの、底面の刻印がどう綴られているかが、いちばん確かなよりどころです。
「本物?」——サインをめぐって
リサ・ラーソンの像には、しばしば「サインが読みにくいけれど本物だろうか」という声が寄せられます。手仕事の署名は個体ごとに筆づかいが異なり、摩耗して薄くなっていることも珍しくありません。北欧のヴィンテージ食器や像には、模造品が出回っているという報告はほとんどありません。作るための手間に見合う経済的な利点がないためです。見分けるべきは、真贋よりもむしろ年代と作り——グスタフスベリ在籍期のヴィンテージなのか、後年に少量作られたものなのか、といった違いのほうです。判断に迷うときは、素材の質感、彩色の筆致、底面のサインとラベルを、あわてず順に確かめていくのがよいでしょう。より詳しい見分けの考え方は、リサ・ラーソンのヴィンテージと復刻版の記事もあわせてご覧ください。
リサ・ラーソンという作家
リサ・ラーソン(Lisa Larson、1931–2024)は、スウェーデン南部スモーランド地方のエルムフルト近郊、ヘルルンダ(Härlunda)で1931年の秋に生まれました。父は製材所を営み、美術や骨董を愛する人でした。木の端材や粘土に囲まれて育った少女は、木彫りの人形を彫り、絵を描いて日々を過ごしたといいます。
1949年、ヨーテボリの工芸学校(HDK)に進みます。当初はテキスタイルを志していましたが、教師の勧めで陶芸の道へ。師となったのは、フィンランド系スウェーデン人の陶芸家クルト・エークホルム(Kurt Ekholm)——かつてフィンランドのARABIAで芸術監督を務めた人物です。北欧の二大窯の系譜が、こうして一人の学生のなかで静かに交わりました。
卒業の年、若きリサの作品が北欧の工芸コンペで注目を集めます。審査に加わっていたグスタフスベリの芸術監督スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)が、1年間の試用の職を用意しました。こうして1954年にグスタフスベリへ加わったリサは、リンドベリの指導のもとで腕を磨きます。1年の約束は、そのまま26年に——1980年まで、彼女はこの窯で創作を続けました。
世紀の変わり目シリーズが生まれた1970年代は、リサ・ラーソンが素材の探究をいっそう深めていた時期にあたります。グスタフスベリを離れたのちの1992年には、自身の工房Kスタジオ(Keramikstudion Gustavsberg)を立ち上げ、動物や子ども、家族といった身近な主題を作り続けました。モダニズムを親しみやすいものへと開いたその作風は、世代を超えて愛されています。2024年3月、92歳で世を去りました。生涯と代表作についてはリサ・ラーソン完全ガイドでくわしくご紹介しています。
グスタフスベリという場所——工場町を歩く
世紀の変わり目の子どもたちが生まれたグスタフスベリは、ストックホルムの東、ヴェルムデー島(Värmdö)にある工場町です。町はファシュタヴィーケン(Farstaviken)という細い入り江に面しています。かつてこの水路を通って粘土が運び込まれ、焼き上がった器が船で積み出されていきました。水辺こそが、この町の中心でした。
磁器づくりが始まったのは1825年のこと。19世紀の終わりから20世紀のはじめ——まさに「世紀の変わり目」のころには、多くの職人を抱える大きな工場へと成長していました。リサ・ラーソンがこのシリーズで描いた子どもたちは、ちょうどこの時代のグスタフスベリを生きた人々の孫やひ孫の世代にあたります。工場町の記憶が、器の主題として静かに受け継がれているのです。
島じたいは、ストックホルム群島(アーキペラゴ)の入口にあたります。夏になれば、無数の小島のあいだを白い帆が行き交い、水と森と光が溶け合う——スウェーデンの人々が愛してやまない季節の風景が広がります。世紀の変わり目シリーズの帽子や衣装に差された青は、この水辺の色をどこかで映しているのかもしれません。
グスタフスベリの窯は、経営の危機や合併を経ながらも、従業員たちの手で火を絶やさずに守られてきました。その歩みについてはグスタフスベリの閉鎖と復活の記事でたどっています。
動物から子どもへ——同じ手ざわりの像たち
世紀の変わり目シリーズは、リサ・ラーソンが手がけた数々の像のなかの一群です。彼女は入社まもないころから、小さな像を作り続けてきました。時代を追ってみましょう。
- リッラ・ズー(Lilla Zoo、小さな動物園/1955年デザイン)——リサが作った猫の像にリンドベリが目をとめ、シリーズ化された出世作。
- ストーラ・ズー(Stora Zoo、大きな動物園/1957年デザイン〜)——それを大きく作り直した動物たち。
- ABCの少女たち(ABC-Flickor/1958年)——本を読む5人の少女。茶色の炻器の人物像シリーズ。
- 世界の子どもたち(Världens barn/1974〜75年)——ユニセフと結びついた、世界の子どもへと主題を広げた作品群。
- 世紀の変わり目(Sekelskifte/1970年代後半〜)——時代の装いをまとった6体の子どもたち。
ちょうどABCの少女たちが本を読む子どもの姿だったように、世紀の変わり目の子どもたちもまた、身近な人間の姿をあたたかなまなざしですくいとっています。動物、少女、世界の子ども、そして時代の子ども——リサ・ラーソンの像がとらえる主題は、こうして少しずつ広がっていきました。素材こそシャモットや白い炻器と移り変わっても、その根にある「小さきものへのやさしさ」は、どの像にも変わらず流れています。
日本とリサ・ラーソン
リサ・ラーソンの作品は、日本でとりわけ深く愛されてきました。動物や子どもという身近な主題、手仕事の質感、そして静かで簡素な造形が、日本の暮らしの美意識と響き合ったのでしょう。関心は年を追って高まり、2014年から2015年にかけて日本の8都市を巡回した回顧展には、20万人を超える来場者が集まりました。
2015年には、滋賀県の信楽陶芸の森に、リサのフィギュアをかたどった大きな彫刻が設置されました。土のやきものの里で、北欧の陶芸家の造形が迎えられたのです。素朴な土の手ざわりを大切にしたリサ・ラーソンの作風は、信楽のやきものが持つ土のあたたかみと、どこか通じ合うものがあります。世紀の変わり目のシャモットの像が見せる、あのざらりとした土肌もまた、その通じ合いを感じさせてくれます。
当店で出会える世紀の変わり目の少女たち
北欧食器タックショミュッケでは、世紀の変わり目シリーズの少女像を検品のうえでお届けしています。それぞれ一体ずつ表情の異なる、手仕事ならではの個体です。造形と彩色を静かに味わう、観賞のための存在としてお迎えください。
- アンナ(Anna)——なめらかな白い炻器。黄色いおさげと青いラインのワンピースの少女。
- ジュリア(Julia)——白い炻器の組。とがった肩ヨークの縦襞のワンピース。
- シグリッド(Sigrid)——土肌のシャモット。薔薇を飾った帽子の少女。
- ヴィクトリア(Victoria)——シリーズでいちばん大きい、約20cmのシャモットの像。
在庫は入れ替わります。最新の品ぞろえは、下記のリサ・ラーソンのコレクションからご覧いただけます。
まとめ
要点の整理
- 世紀の変わり目(Sekelskifte)は、リサ・ラーソンがグスタフスベリで手がけた子どもの像のシリーズ。原型は1973年ごろ、1970年代後半から1980年代はじめに作られました。
- 全6体。ヴィクトリア・シグリッド・グスタフ(土肌のシャモット)と、アンナ・ジュリア・オスカー(なめらかな白い炻器)のふたつの組に分かれます。
- ふたつの素材と衣装の様式が、19世紀から20世紀への「世紀の変わり目」を映しています。
- ヴィクトリアが約20cmで最も大きく、白い炻器の組はおおむね小ぶりです。
- 底面は「Lisa L」の署名とグスタフスベリの刻印が基本。名前の綴りには揺れがあり、刻印が最も確かな手がかりになります。
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