アラビア スンヌンタイ(Sunnuntai)完全ガイド|ビルガー・カイピアイネンが描いた、お皿の上の「日曜日」
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この記事の要点
- スンヌンタイ(Sunnuntai)はフィンランド語で「日曜日」を意味するアラビアの食器シリーズ
- 1971年にビルガー・カイピアイネンがデザインし、1974年頃にいったん生産を終了
- 長い休止期間を経て、2019年にイッタラ(アラビアブランド)から復刻された
- 現行復刻版はヴィトロ磁器(vitro porcelain)製。鮮やかな黄色を基調とした、太陽のように放射する花のモチーフが特徴
- 装飾は転写紙(painokoriste)による絵付けで、量産を可能にしながら手描きのような温かみを残している
目次
スンヌンタイとは
スンヌンタイ(Sunnuntai)は、アラビアが1971年に発表した食器シリーズです。フィンランド語で「日曜日」を意味するこの名前のとおり、白磁の上に大胆に広がる黄色い花のモチーフは、北欧の長い冬の終わりに訪れる、晴れた日曜日の朝を思わせます。
デザインしたのは、アラビア美術部門に約50年在籍した装飾陶磁器の名匠、ビルガー・カイピアイネン(Birger Kaipiainen, 1915〜1988年)。同じくカイピアイネンによるパラティッシ(Paratiisi、1969年)と並ぶ、彼の代表的な量産食器シリーズの一つとして知られています。
オリジナルの生産期間は短く、1971年から1974年頃まで。その後45年の長い休止期間を経て、2019年にイッタラ(アラビアブランド)から復刻されました。本記事では、このシリーズの誕生の背景、素材と技法、ラインナップ、そして復刻までの歩みを丁寧にたどります。
デザイナー: ビルガー・カイピアイネン
Photo: Wikimedia Commons / Public domain
カイピアイネンは、装飾的でロマンティックな作風を生涯貫いた陶芸家です。ミニマリズムが主流だった戦後北欧デザインの中で、彼だけは古典絵画やビザンチン美術、東洋の磁器を参照する豊かな装飾美を提示し続けました。
本記事ではスンヌンタイの背景に必要な範囲のみ触れます。生涯と全作品についてはビルガー・カイピアイネン完全ガイドで詳述しています。
ポリで生まれ、アテネウムで学ぶ
Photo: Wikimedia Commons / kallerna, CC BY-SA 4.0
カイピアイネンは1915年7月1日、フィンランド南西部の港湾都市ポリ(Pori)に生まれました。幼少期にポリオ(小児麻痺)を患い、右足が麻痺したまま生涯を歩むことになります。ろくろを足で蹴ることができなかったため、彼は早くから「描く陶芸」へと向かいました。
Photo: Wikimedia Commons / Htm, CC BY-SA 3.0
17歳でヘルシンキに移り、芸術工芸中央学校(Taideteollinen keskuskoulu、現アールト大学芸術デザイン建築学部)に入学。当時この学校はアテネウム美術館と同じ建物に併設されていました。在学中の1937年からアラビア工場で働きはじめ、1954年にはスウェーデンのロールストランド工場へ移籍。1958年にアラビアへ復帰してから、1988年に没するまでの30年間、ヘルシンキの工場で創作を続けました。
「装飾家の王」と呼ばれて
Photo: Wikimedia Commons / Public domain
カイピアイネンは「装飾家の王(The King of Decorators)」の異名で呼ばれました。装飾を控えめに、機能を前面に出す——というモダニズムの掟に従わず、彼は花、鳥、果実、宗教画のモチーフを大胆に器の表面に展開し続けました。1960年のブリュッセル万国博覧会ではグランプリを受賞し、装飾陶磁器の分野で国際的評価を確立します。
Photo: Wikimedia Commons / 14GTR, CC0
とはいえ、彼の名を一般家庭にまで知らしめたのは、量産食器シリーズでした。1969年のパラティッシに続いて1971年に発表されたスンヌンタイは、カイピアイネンが工場の絵付け師たちと協働して作り上げた、最も生活に近い装飾の到達点といえます。
1971年——スンヌンタイ誕生の背景
1970年代のアラビア工場
Photo: Wikimedia Commons / SKY-FOTO Möller, CC BY-SA 4.0
スンヌンタイが発表された1971年、アラビア工場はヨーロッパ最大級の陶磁器工場として最盛期を迎えていました。ヘルシンキ北東部、トウコラ(Toukola)地区のヘメンティエ通り(Hämeentie)に建つ工場では、約2,000人の職人が働き、数百種類の食器が日々生産されていました。
Photo: Wikimedia Commons / Holger.Ellgaard, CC BY-SA 3.0
この時代、北欧デザインは新しい局面に入っていました。1950年代の禁欲的なモダニズムから、1960〜70年代にはより色彩豊かで自由な装飾が解禁され、ポップで楽観的なパターンが食卓を彩るようになります。アラビアではカイ・フランクのカイ・フランク路線(無装飾の機能美)と、カイピアイネン路線(豊かな装飾)が並走しており、スンヌンタイは後者を象徴する存在として登場しました。
「日曜日」という名前に込めた感覚
スンヌンタイ=「日曜日」というネーミングには、フィンランド人ならではの感覚が凝縮されています。北欧の冬は長く、暗く、太陽がほとんど顔を出さない日が続きます。その中で、晴れた日曜の朝にコーヒーを淹れて家族と過ごす時間——「kahvitauko(コーヒーブレイク)」——は、北欧の生活文化の核心です。
公式紹介でも、スンヌンタイの柄は「晴れた日曜日のようにポジティブ(aurinkoinen sunnuntai)」と表現されています。皿の上に、日曜日の光をそのまま載せたようなシリーズだと言えるでしょう。
デザインと素材
太陽のように咲く花
スンヌンタイの意匠は、中央に大きな花のモチーフを配し、そこから黄色い花弁とつぼみが放射状に広がる構図です。輪郭はくっきりとしたグラフィカルな線で描かれ、ハイテクなプリント技法と手描きの抽象画の間を行き来するような独特の質感を持ちます。
色は鮮やかなイエロー(黄色)を基調に、葉のグリーンが差し色として添えられています。白磁の地が背景となり、花のかたちがくっきりと浮かび上がる構成は、カイピアイネンの陶板作品で培われた「平面に絵を描く」感覚をそのまま食器に移したものです。
ヴィトロ磁器(vitro porcelain)という素材
現行復刻版のスンヌンタイは、ヴィトロ磁器(vitro porcelain)で作られています。ヴィトロ磁器はアラビアが量産食器に用いた耐久性の高い磁器素材で、現行品では食洗機・冷凍庫・オーブン・電子レンジに対応する仕様となっています。
なお、1970年代オリジナル品の素材表記については、販売資料や個体によって確認が必要です。ヴィンテージ品を扱う際は、現行復刻品の仕様と混同しないことが重要です。
転写紙による絵付け
Photo: Wikimedia Commons / dalbera (Flickr), CC BY 2.0
スンヌンタイの装飾は、転写紙(フィンランド語で「painokoriste」、英語で「decal print」)と呼ばれるプリント技法で施されました。カイピアイネンの原画を版に起こし、薄い特殊紙に印刷した模様を素焼き済みの器に貼り、再焼成によって定着させる方法です。
この技法は、量産品でありながら一点一点に手作業の温度を残します。同じパターンでも、貼り付ける位置や器の曲面によって微妙にずれが生まれ、ヴィンテージ品ではその「個体差」が今では魅力の一部になっています。
ラインナップ
オリジナル期(1971〜1974年頃)に発売された主なピースは以下のとおりです。ラインナップは比較的コンパクトで、日常の食卓に必要な基本形を一通り揃えています。
- プレート: 直径21cm(前菜・サラダ用)/26cm(ディナー用)
- ディーププレート: 直径17cm(深皿)
- カップ&ソーサー: カップ容量28cl(ティーカップ)/ソーサー直径16.5cm
- マグカップ: 容量35cl
- オーバル皿: 25cm/プラッター36cm
- ジャグ(ピッチャー)
- ジャー(蓋付き容器): 0.25L
- チューリン(蓋付スープ容器)
各ピースの初出年は資料により揺れがあり、本記事執筆時点では完全なリストを確定できていません。一部のピースは復刻版で取捨選択されており、オリジナル期にしか存在しないバリエーションも残されています。
生産年表——廃番から復刻まで
1971〜1974年——オリジナル期
スンヌンタイは1971年に発表され、1974年頃にいったん生産を終了したと記録されています。わずか3年あまりの短い生産期間でしたが、当時のアラビアの生産規模を考えると相当数のピースが市場に出回ったと推定されます。生産終了の理由は明確には示されていません。ただ、1970年代前半は第一次オイルショックを境に製造コストや消費動向が大きく変化した時期でもあり、装飾性の高い量産シリーズの整理が進みやすい時代背景がありました。
45年の休止期間
Photo: Wikimedia Commons / Holger.Ellgaard, CC BY-SA 3.0
1974年から2019年までの長い休止期間、スンヌンタイは新品としては流通しませんでした。一方で、ヴィンテージ市場ではコレクター垂涎の品として取引が続き、フィンランド国内のオークションや北欧ヴィンテージ専門店で高値で売買され続けます。
2019年——イッタラからの復刻
2019年、イッタラ(フィスカースグループ傘下のアラビアブランド)はスンヌンタイの本格復刻を実施しました。原画をもとにパターンを再現し、現代の生産設備で焼成された復刻版が販売されています。オリジナルのイエローに加え、新色としてグリーンも展開されました。
現行復刻版は、パラティッシと同じフォルムにスンヌンタイ柄を載せたシリーズとして展開されており、公式にも「明るい黄色が毎日に日曜日の雰囲気をもたらす」と紹介されています。
復刻版は現行品として継続販売されており、ヴィンテージ品とは別の市場として共存しています。両者の最大の違いは、後述するバックスタンプの違いと、磁器の質感のわずかな差です。
ヴィンテージと復刻版、どちらを選ぶべきか
スンヌンタイは復刻版が流通しているため、単に柄を楽しむだけなら現行品でも十分に魅力があります。一方、1970年代のオリジナル品には、当時のアラビア工場で作られた素地の質感、バックスタンプ、経年による表情があります。
実用性を重視するなら復刻版、1970年代の空気感やコレクション性を重視するならヴィンテージ品。両者は同じデザインを共有しながら、価値の置きどころが少し異なります。当店で取り扱っているのは、1970年代のオリジナル品です。
バックスタンプとヴィンテージの見分け方
スンヌンタイの真贋・年代判定は、裏面のバックスタンプを観察することで比較的容易に行えます。代表的なポイントを整理します。
- 1970年代オリジナル品: 「ARABIA / Made in Finland」の文字に加え、製造月と年を示す日付コードが押印されている例が多くあります。たとえば「6-70」は1970年6月製造、「2-71」は1971年2月製造を示します。
- 2019年〜の復刻品: 現行のArabia/iittala統合期のスタンプが使われており、日付コードはありません。
- 素地・状態: ヴィンテージ品では、使用に伴う細かなスレ、カトラリー跡、縁の小さなチップ、バックスタンプの擦れなどが見られることがあります。年代判定では、表面の状態だけでなく、裏面のスタンプ、素地の色味、重量感、釉薬の質感を総合して確認します。
バックスタンプの全体像についてはアラビアの刻印(バックスタンプ)年代別完全ガイドで網羅していますので、より詳しい年代判定をされたい方はそちらもご参照ください。
同時代のカイピアイネン作品
スンヌンタイの背景を理解するうえで、同時期にカイピアイネンが手がけた他の作品を一望することは助けになります。
Photo: Wikimedia Commons / Holger.Ellgaard, CC BY 3.0
パラティッシ(Paratiisi、1969年)はスンヌンタイの2年前に発表された姉妹的存在です。「楽園」を意味するこのシリーズは、果実と花を密集させた華やかな装飾が特徴で、カイピアイネン量産食器の代表作とされています。スンヌンタイがその後、より抽象化され、太陽の光のような明快さを獲得していった流れが見えてきます。
Photo: Wikimedia Commons / Juhani Riekkola, CC BY 4.0
一方で、量産食器と並行して進められていたのが、大型陶板の制作です。1967年の「オルヴォッキメリ(Orvokkimeri、スミレの海)」はタンペレ大学に常設展示されている代表作で、カイピアイネンが本来の表現の場と考えていた装飾陶板の世界を端的に示しています。
Photo: Wikimedia Commons / Anonymous, CC BY 4.0
カイピアイネンが在籍したアラビア美術部門は、20世紀後半のフィンランド陶芸を牽引した特別な創作環境でした。エルサ・エレニウス、リチャード&フランチェスカ・リンド夫妻、ルート・ブリュックなど、独自の表現を追求する陶芸家が同じ屋根の下で制作を続けていました。
Photo: Wikimedia Commons / Anonymous, CC BY 4.0
Photo: Wikimedia Commons / Mahlum, Public domain
スンヌンタイをはじめ、アラビアの装飾陶磁器の歴史は、ヘルシンキ中心部のデザイン博物館(Designmuseo)に体系的に収蔵されています。北欧を旅される際には、ぜひ訪れてみてください。
まとめ
スンヌンタイは、ビルガー・カイピアイネンが1971年にアラビアのためにデザインした、太陽のような黄色い花柄の食器シリーズです。フィンランド語で「日曜日」を意味するこのシリーズは、北欧の長い冬の終わりに訪れる晴れた朝の感覚を、白磁の上に描き出した装飾陶磁器の名品です。
オリジナルの生産期間は1971年から1974年頃までと短く、その後45年の休止を経て2019年に復刻されました。転写紙による装飾は、量産と装飾性を両立させるための重要な技法でした。カイピアイネンの華やかな原画を、日常の食器として多くの家庭に届けたという意味で、スンヌンタイは彼が「装飾家の王」と呼ばれた理由を、最もわかりやすい形で今に伝えています。