クレイフィッシュパーティー(Kräftskiva)|スウェーデンの晩夏を祝うザリガニ祭——月の顔の提灯、スナップスの歌、そして食卓の器

クレイフィッシュパーティー(Kräftskiva)|スウェーデンの晩夏を祝うザリガニ祭——月の顔の提灯、スナップスの歌、そして食卓の器

北欧食器タックショミュッケ編集部

スウェーデンの夏は、白夜の光とともに駆け抜けていきます。そして8月に入ると、その夏を惜しむように、庭やベランダに色とりどりの紙提灯が吊るされ、月の顔がぼんやりと灯る夜がやってきます。真っ赤に茹で上がったザリガニを山と積み、紙の帽子をかぶり、小さなグラスを掲げて歌をうたう——スウェーデンの晩夏を象徴する行事、クレイフィッシュパーティー(kräftskiva/クレフトシーヴァ)です。

この記事は、その一夜を、歴史と設えとうつわを通してたどる旅の記録です。なぜザリガニなのか、なぜ8月なのか。月の顔の提灯はどこから来たのか。ディルの香りに包まれた食卓には何が並び、人々はどんな歌をうたうのか。そして最後に、その晩夏の情景をそのまま映したような北欧のヴィンテージの器へとたどり着きます。読み終える頃には、スウェーデンの8月の夜をひととき旅した気分になっていただけたら、と思っています。

ザリガニ柄のガーランドと月の顔の紙飾りで彩られたクレイフィッシュパーティーの食卓
ザリガニ柄のガーランドと月の顔の紙飾りで彩られたクレイフィッシュパーティーの食卓。茹でザリガニやヴェステルボッテンチーズのパイが並ぶ。(CujoJnr / CC BY-SA 4.0)

この記事でわかること

  • クレイフィッシュパーティー(kräftskiva)がどんな行事で、いつ・どのように広まってきたのか
  • なぜ8月なのか——ザリガニ漁の解禁「クレフトプレミエール」をめぐる規制の歴史
  • 月の顔が描かれた紙提灯、紙の帽子、ディルで茹でるザリガニ、飲み歌スナップスヴィーサといった定番の設え
  • 晩夏の食卓を思わせる北欧ヴィンテージの盛り皿・ボウル・小さなグラス

目次

  1. はじめに——8月、夏が最後に灯る夜
  2. クレイフィッシュパーティー(Kräftskiva)とは
  3. なぜ8月なのか——解禁「クレフトプレミエール」の歴史
  4. 消えたザリガニ——疫病と輸入の物語
  5. 月の顔の提灯と紙の帽子——夜を飾る設え
  6. スナップスと飲み歌——「ヘランゴール」の合唱
  7. ディルで茹でる——食卓に並ぶもの
  8. 屋外の宴——晩夏のスウェーデンの夜
  9. フィンランドのラプユフラット(rapujuhlat)
  10. 晩夏の食卓を彩る器——盛り皿と小さなグラス
  11. まとめ——うつわに映る北欧の晩夏

はじめに——8月、夏が最後に灯る夜

北欧の一年は、光の量で語ることができます。夏至の白夜で頂点に達した光は、8月に入るとゆっくりと退きはじめます。日はまだ長いけれど、夜には少しだけ闇が戻り、朝夕の空気に秋の気配がまじる——スウェーデンの8月は、そんな夏と秋のあわいの季節です。

この移ろいの時期に、人々は最後の夏を惜しむように屋外に集まります。庭やベランダ、湖畔の桟橋に長いテーブルを出し、紙提灯を吊るし、日が落ちるまで、そして日が落ちてからも語らい、歌います。その中心にあるのが、真っ赤に茹でたザリガニです。晩夏の夜を照らす小さな灯りと、ディルの香り。クレイフィッシュパーティーは、暗さへ向かう季節の入り口で、光と賑わいをもう一度たっぷりと味わう行事なのです。

森と湖に沈む夏の夕日、湖面に映る空。スウェーデン北部
森と湖に沈む夏の夕日——スウェーデン北部の晩夏の夜。(Wrev / CC BY-SA 4.0)

タックショミュッケが大切にしてきたのは、「食器ではなく北欧そのもの」を器を通して味わう、という考え方です。この記事でも、うつわを単なる道具としてではなく、スウェーデンの晩夏という季節・光・食卓の風景を映す小さな窓として見ていきます。まずは、その行事そのものの姿から始めましょう。

クレイフィッシュパーティー(Kräftskiva)とは

クレイフィッシュパーティー(kräftskiva)は、茹でたザリガニ(kräftor)を囲むスウェーデンの晩夏の社交行事です。屋外に長いテーブルを設え、ザリガニを山盛りにし、スナップスと呼ばれる蒸留酒を小さなグラスで酌み交わしながら、飲み歌をうたって夜を過ごします。8月に集中して開かれ、家庭でも、レストランでも、企業や仲間の集まりでも催される、北欧の晩夏を代表する年中行事です。

ディルとともに山盛りにされた真っ赤な茹でザリガニ
ディルとともに山盛りにされた、真っ赤な茹でザリガニ。(Knuckles / CC BY-SA 3.0)

スウェーデンでザリガニを食べる習慣そのものは古く、少なくとも16世紀までさかのぼります。1562年には、国王エリク14世(Erik XIV)が妹アンナ(Anna)の婚礼のために「できるだけ多くのザリガニを調達せよ」と命じた記録が残っています。当初それは宮廷や上流階級のごちそうでした。19世紀になると、都市の市民層のあいだで「クレフトスュペ(kräftsupé)」と呼ばれる夜会が催されるようになり、これが今日のクレイフィッシュパーティーの直接の前身になりました。

「kräftskiva」という言葉自体は、じつはそれほど古いものではありません。使われはじめたのは1900年前後で、それ以前は「kräftfest」「kräftkalas」といった呼び名が一般的でした。1930年代になって「kräftskiva」という語が定着していきます。そしてこの行事があらゆる社会層に広がり、国民的な晩夏の楽しみとして根づいたのは、ザリガニが安く手に入るようになった1960年代のことでした。その背景には、後で述べる「消えたザリガニ」の物語があります。

青と白の磁器やナプキン、燭台が整えられた19世紀の市民の食卓の再現展示
青と白の磁器が並ぶ19世紀の市民の食卓の再現展示。ノルディック博物館。(Daderot / CC0)

19世紀の都市の市民層にとって、夜会は自らの暮らしぶりを映す晴れの場でした。磨いた磁器を並べ、燭台を灯し、季節のごちそうを囲む——そうした市民の食卓文化のなかに、ザリガニの夜会も位置づけられていました。宮廷のごちそうが貴族へ、貴族から市民の台所へ、そして今日ではスーパーの冷凍ケースへと下りてきた。ノルディック博物館の展示は、この移り変わりを一枚の解説カードにまとめています。ザリガニという一つの食材の歩みが、スウェーデン社会そのものの変化を映しているのです。

なぜ8月なのか——解禁「クレフトプレミエール」の歴史

クレイフィッシュパーティーが8月に集中するのには、はっきりとした理由があります。20世紀のあいだ、スウェーデンではザリガニ漁が晩夏まで法律で禁じられていたのです。乱獲によって資源が枯渇するのを防ぐための規制でした。19世紀末、ザリガニ人気の高まりで各地の川や湖が獲りつくされそうになり、漁期を区切る法律が定められました。

網の仕掛けにかかった、茹でる前の暗い緑褐色をした生きたザリガニ
網の仕掛けにかかった、茹でる前の生きたザリガニ。上部に餌の魚が見える。(Holger.Ellgaard / CC BY-SA 4.0)

かつての決まりでは、11月から翌年の8月上旬までが禁漁期でした。そして毎年、待ちに待った解禁の瞬間——クレフトプレミエール(kräftpremiär)——は、8月7日の午後5時と定められていました。この時刻を過ぎると、人々はいっせいにザリガニ籠を仕掛け、その晩のうちに茹でて宴を開いたのです。8月初旬という日取りは、こうして法律によって形づくられました。

解禁日は1982年に「8月の第1水曜日の午後5時」へと改められ、その後1994年には漁期の規制そのものが撤廃されました。法律の上では、もう8月まで待つ必要はありません。それでも多くのスウェーデン人にとって、8月の初めはやはりザリガニの季節です。かつての解禁日が、季節の合図として人々の暮らしのリズムに深く刻まれているのです。「8月=ザリガニ」という結びつきは、法が消えたあとも文化として生き続けています。

消えたザリガニ——疫病と輸入の物語

今日のクレイフィッシュパーティーの食卓には、輸入されたザリガニが並ぶことがほとんどです。かつてスウェーデンの川に豊かに棲んでいた在来種ノーブルクレイフィッシュ(flodkräfta、Astacus astacus)は、20世紀のはじめに大きな打撃を受けました。原因は、水生のカビの一種による「ザリガニ疫病(kräftpest、Aphanomyces astaci)」です。

白い皿にのった茹で上がった一匹の赤いザリガニ
茹で上がった一匹の赤いザリガニ。加熱すると殻は鮮やかな赤に変わる。(JIP / CC BY-SA 4.0)

スウェーデンでは1907年にこの疫病が広がり、各地の在来ザリガニの個体群がつぎつぎと死滅しました。豊漁の川がある年を境に静まりかえる——そんな出来事が北欧の各地で起こりました。資源が細るいっぽうで人々のザリガニ熱は冷めず、需要はふくらみ続けます。そこで1960年代の終わりごろから、トルコ、スペイン、そして中国などからの輸入が本格的に始まりました。安価な輸入ザリガニが出回ったことで、それまで一部の人々のごちそうだったザリガニパーティーは、いっきに国民的な行事へと広がっていったのです。

輸入の規模は年々ふくらみました。2006年にはスウェーデンへ2,500トンを超えるザリガニが運び込まれ、2011年以降は中国産が主流になっていきます。かつて自国の川で獲れたごちそうは、地球を半周してくる食材へと姿を変えました。それでも8月の食卓に赤いザリガニが山と積まれる光景そのものは変わりません。輸入という現実的な背景を抱えながらも、人々は季節の行事としての形をしっかりと守り続けてきたのです。

在来種に代わって、北米原産のシグナルクレイフィッシュ(signalkräfta)も各地の水域に導入されました。茹でると真っ赤になるこのザリガニは、スウェーデンの食卓でおなじみの姿になりました。8月の食卓に山と積まれた赤いザリガニの背後には、失われた在来種と、それを補ってきた輸入と移入の一世紀の歴史が横たわっています。

月の顔の提灯と紙の帽子——夜を飾る設え

クレイフィッシュパーティーを、ただの食事から祝祭へと変えているのが、その独特の設えです。テーブルの上には色とりどりの紙提灯(papperslyktor)が吊るされ、日が暮れるとやわらかな光を落とします。この提灯には、しばしば「月の男(gubben i månen)」——満月に浮かぶ人の顔——が描かれています。にっこりと笑う月の顔が、晩夏の夜のテーブルをのぞきこむ。この愛嬌のある月こそ、クレイフィッシュパーティーのいちばんのシンボルです。

赤・黄・青の紙に月の顔が描かれたクレイフィッシュパーティーの紙飾り
月の顔が描かれた紙の飾り——クレイフィッシュパーティーの象徴、月の男(gubben i månen)。(David Castor / Public domain)

人々はザリガニ柄のあしらわれた紙の帽子(三角のkräfthattar)をかぶり、首には紙のビブ(前掛け)を下げます。ザリガニは手で殻をむいて食べるため、指も口元も汚れます。だからこそ、汚れてもかまわない紙の小道具が欠かせません。テーブルクロスやナプキンにも、赤いザリガニや月のモチーフがあしらわれます。大人も子どもも同じ帽子をかぶり、同じ前掛けを下げる——その少しばかりのばかばかしさが、この宴を肩の力の抜けた楽しいものにしています。

ノルディック博物館のクレイフィッシュパーティー展示。解説カードと皿にのったザリガニ
ノルディック博物館のクレイフィッシュパーティーの展示。「王の食卓から市民の台所、そしてスーパーの冷凍庫へ」と記された解説。(Pymouss / CC BY-SA 4.0)

提灯の月の顔は、もともと晩夏から秋にかけての行事に広く見られたものでしたが、やがてクレイフィッシュパーティーと強く結びつくようになりました。電気の照明が普及したあとも、この行事ではあえて紙提灯やキャンドルの灯りが好まれます。退いていく夏の光を、人の手で小さな灯りへと移し替える——設えの一つひとつに、そんな北欧らしい光への感覚が息づいています。

スナップスと飲み歌——「ヘランゴール」の合唱

クレイフィッシュパーティーに欠かせないのが、スナップス(snaps)です。スナップスとは、香草などで風味づけした蒸留酒の総称で、代表的なのがアクアビット(akvavit)。キャラウェイ(キャラウェイシード)やアニス、フェンネルといった香草で香りづけされ、小さなグラスにきりりと冷やして注がれ、宴のあいだ何度も酌み交わされます。ビールも定番で、子どもたちには炭酸飲料のソッケルドリッカ(sockerdricka)が用意されます。

スコーネの田園風景がラベルに描かれたスコーネ・アクアビットの瓶
スコーネ・アクアビットの瓶。ラベルにはキャラウェイ・アニス・フェンネルで香りづけと記される。(Argus fin / CC BY-SA 4.0)
白いテーブルクロスの上、小さなグラスに注がれた淡い金色のスナップス
小さなグラスに注がれた、冷えたスナップス(アクアビット)。(JIP / CC BY-SA 4.0)

そして、スナップスをただ飲むことはしません。グラスを手に取るたびに、人々は「スナップスヴィーサ(snapsvisor)」と呼ばれる短い飲み歌をうたいます。いちばん有名なのが「ヘランゴール(Helan går)」。直訳すれば「まるごと一杯が空く」。一杯目をぐいと干すことを景気よくうたう歌で、全員で声を合わせて歌い、歌い終えると一気にグラスを干します。歌がひとつ終わるたびにグラスが空き、また注がれる。この掛け合いのリズムが、テーブルをどんどん賑やかにしていきます。

スナップスヴィーサには数えきれないほどの替え歌や地方版があり、家族や仲間うちに伝わる「わが家の一曲」を持っていることも珍しくありません。うたい、飲み、笑い、また次の歌へ——ザリガニの殻をむく手を休めては声を合わせるこの往復が、クレイフィッシュパーティーの夜を長く、あたたかいものにしています。

ディルで茹でる——食卓に並ぶもの

主役はもちろんザリガニです。決め手になるのが、茹で汁の香りづけ。水と塩と少しの砂糖に、大量のディル——それも花をつけたクラウンディル(krondill)——を惜しみなく加えて茹でます。茹で上がったザリガニは冷まし、ディルの香りをまとわせたまま、こんもりと皿に盛られます。冷たいザリガニを一匹ずつ手に取り、殻をむいて身をほじり出す。その手間ひまと語らいの時間こそが、この食卓の醍醐味です。

大量のディルとともに鍋で茹でられるザリガニ
たっぷりのディルとともに鍋で茹でられるザリガニ。(Holger.Ellgaard / CC BY-SA 4.0)

付け合わせにも定番があります。パリッとしたクネッケブレード(knäckebröd、ライ麦の薄焼きパン)、そして北スウェーデン生まれの濃厚なチーズ、ヴェステルボッテンチーズ(Västerbottensost)を使ったパイ(västerbottenpaj)。これらとザリガニ、スナップスがそろえば、クレイフィッシュパーティーの卓は完成です。きのこのパイやサラダ、パンが加わることもあります。素朴で、香り高く、手を動かしながらゆっくり食べる——飾り立てるより、季節の恵みをそのまま囲む食卓です。

熟成庫に並ぶヴェステルボッテンチーズの車輪。ブルトレスク産の刻印
熟成庫のヴェステルボッテンチーズ。北スウェーデン・ブルトレスク産の刻印が見える。(ErikHillbom / CC BY-SA 4.0)
紙に包まれて積み重ねられた、丸くて薄いクネッケブレード
積み重ねられた、丸く薄いクネッケブレード(ライ麦の薄焼きパン)。(Cymydog Naakka / Public domain)

ヴェステルボッテンチーズは、北スウェーデンのブルトレスク(Burträsk)という小さな町で生まれた濃厚なハードチーズです。しっかりと熟成された塩気とうま味は、あっさりとしたザリガニの身と好相性。パイに焼き込んで供されるのが、クレイフィッシュパーティーの定番です。ライ麦のクネッケブレードのパリッとした歯ざわりと合わせれば、素朴ながら奥行きのある晩夏の食卓が仕上がります。

屋外の宴——晩夏のスウェーデンの夜

クレイフィッシュパーティーの多くは屋外で開かれます。まだ夜がそれほど寒くない8月は、外で長い時間を過ごせる最後の季節。庭やベランダ、あるいは湖畔の夏の家(sommarstuga)に長テーブルを出し、提灯を吊るし、日が暮れてからも灯りのもとで宴が続きます。赤い木造の家、白樺の木立、水面に映る夕暮れの光——スウェーデンの夏の風景そのものが、この行事の背景になります。

色とりどりの紙提灯と月の顔の飾りを吊るし、ザリガニ柄のビブを着けた人々が集う屋外のクレイフィッシュパーティー
色とりどりの紙提灯を吊るした屋外のクレイフィッシュパーティー。ザリガニ柄のビブを着けた人々が集う。ヘーリンゲ城、1991年。(Holger.Ellgaard / CC BY-SA 4.0)
野の花とバラに囲まれた赤い木造の夏の家
野の花とバラに囲まれた、赤い木造の夏の家(sommarstuga)。(northofsweden / CC BY 2.0)

湖と森と海に恵まれたスウェーデンでは、夏を郊外や群島(skärgård)の別荘で過ごす人も少なくありません。ストックホルムの沖に無数に浮かぶ島々では、桟橋にテーブルを出して水辺でザリガニを囲む光景も見られます。都市の庭先でも、島の桟橋でも、共通しているのは「外で、灯りのもとで、夜おそくまで」という過ごし方。暗さが増していく季節を前に、屋外で光と賑わいを味わい尽くす——それがこの晩夏の宴の本質です。

ボートとスウェーデン国旗、赤い舟小屋が並ぶ群島の入り江
ボートと国旗、赤い舟小屋が並ぶ群島の入り江——ストックホルム群島ブリド島。(Jukka / CC BY 2.0)

この晩夏の宴は、家庭の庭先だけのものではありません。レストランは8月になるとザリガニのメニューを掲げ、企業や仲間うちのイベントとしても盛んに開かれます。近年ではザリガニを食べない人のために、アーティチョークや豆腐などを主役にした変種も生まれています。形をゆるやかに変えながら、8月の夜を灯りと歌で過ごすという核だけは、世代を超えて受け継がれてきました。

フィンランドのラプユフラット(rapujuhlat)

ザリガニを囲む晩夏の行事は、スウェーデンだけのものではありません。海を隔てた隣国フィンランドにも、ラプユフラット(rapujuhlat)と呼ばれる同じ習慣があります。これは、フィンランドに暮らすスウェーデン語系の人々を通じて19世紀にスウェーデンから伝わり、やがてフィンランド全体へ広がったものです。紙の帽子、紙提灯、ディルで茹でるザリガニ、スナップスと飲み歌——設えも食も、驚くほどよく似ています。フィンランドの提灯にも、月の男「クーウッコ(Kuu-ukko)」が描かれます。

窓の外に群島の夕景が広がる室内で、グラスを掲げて乾杯する1960年代の若者たち
窓の外に群島の夕景が広がる、1966年8月のクレイフィッシュパーティー。フィンランドのスウェーデン系の家族。(Lasse Svahnström / CC BY-SA 4.0)

大きく違うのは、ザリガニ漁の解禁日です。フィンランドでは漁期が毎年7月21日の正午に始まり、10月末まで続きます。そのためパーティーも、スウェーデンより少し早い7月下旬から始められます。フィンランドでもかつて在来のザリガニ(jokirapu)が1890年代の疫病でほぼ壊滅し、その後は北米原産のシグナルクレイフィッシュ(täplärapu)が各地に導入されました。海を挟んだ二つの国が、よく似た祝祭と、よく似た受難の歴史を分かち合っているのです。

晩夏の食卓を彩る器——盛り皿と小さなグラス

華やかな料理も、それを受けとめる器があってこそ卓に映えます。クレイフィッシュパーティーの食卓を思い描くとき、山盛りのザリガニを受ける大きな盛り皿、身をほぐしたザリガニやサラダを取り分ける深皿、そしてスナップスを注ぐ小さなグラス——そうしたうつわの一つひとつが、宴の光景を形づくってきました。ここでは、その晩夏の食卓を思わせる北欧ヴィンテージの器を、造形の美しさという観点からいくつかご紹介します。

スナップスのための小さなグラス

イッタラ パーダー ショットグラス タピオ・ヴィルカラ
氷の結晶を思わせる造形のショットグラス。イッタラ「パーダー」、タピオ・ヴィルカラのデザイン。

スナップスを酌み交わすための小さなグラスは、クレイフィッシュパーティーの名脇役です。イッタラ(iittala)の「パーダー(Paadar)」は、フィンランドの巨匠タピオ・ヴィルカラ(Tapio Wirkkala)が手がけたショットグラス。氷やラップランドの雪原を思わせる面取りが、光を受けてきらめきます。晩夏の夜、提灯の灯りをこの小さなガラスに映して眺めると、北欧の食卓の情景が立ち上がってきます。イッタラのパーダー・ショットグラス

エリック・ホグラン ボダ 琥珀色のバブルガラス・ビアマグ
気泡を閉じ込めた琥珀色のバブルガラス。エリック・ホグランがボダのためにデザインしたビアマグ。

スナップスと並ぶもう一つの定番、ビールの器も見てみましょう。エリック・ホグラン(Erik Höglund)がボダ(Boda)のためにデザインした琥珀色のビアマグは、ガラスのなかに無数の気泡を閉じ込めた素朴な手仕事の器です。アダムとイヴのレリーフがあしらわれ、ぽってりとした温かみのある姿は、屋外の宴のくつろいだ空気とよく響き合います。エリック・ホグランのボダ・バブルガラス・ビアマグ

ザリガニを受ける大きな盛り皿

リサ・ラーソン 43cm大皿 青釉 グスタフスベリ 1980年
直径43cmの青釉の大皿。1980年、グスタフスベリでのリサ・ラーソンのサイン入り。

山と積まれたザリガニを受けとめるのは、堂々とした大皿の役目です。リサ・ラーソン(Lisa Larson)が1980年にグスタフスベリ(Gustavsberg)で手がけた直径43cmの大皿は、深い青の釉薬をたっぷりとたたえています。青はクレイフィッシュパーティーの提灯や夏の水辺を思わせる色。この大きさと色を前にすると、赤いザリガニを盛った晩夏の食卓が自然と目に浮かびます。リサ・ラーソンの43cm大皿

ARABIA パラティッシ オーバルプレート 29.5cm 1971年製
果実と花が全面に広がるオーバルの大皿。ARABIAのパラティッシ、1971年製。

華やかさで卓を彩るなら、ARABIAの「パラティッシ(Paratiisi=楽園)」のオーバル大皿はこのうえない選択です。ビルガー・カイピアイネン(Birger Kaipiainen)が描いた果実と花が皿いっぱいに広がり、その名のとおり楽園のように豊かな表情を見せます。横長のオーバルは料理を並べる器としてデザインされ、晩夏の食卓に置けば、それだけで宴の空気が立ち上がります。ARABIAのパラティッシ・オーバルプレート29.5cm

草花柄の皿と、ザリガニをほぐす深皿

ロールストランド アネモン サービングプレート 26cm
野の花を思わせるアネモンの絵柄。ロールストランドのサービングプレート26cm。

晩夏の食卓には、野の花を思わせる草花柄もよく似合います。ロールストランド(Rörstrand)の「アネモン(Anemon)」は、マリアンヌ・ウェストマン(Marianne Westman)が描いた可憐な花のシリーズ。直径26cmのサービングプレートは、取り分け用の一枚としてデザインされました。ザリガニの赤と、皿に咲く花の色。夏の名残をそのまま卓に移したような組み合わせです。ロールストランドのアネモン・サービングプレート

アラビア コラーリ スーププレート 深皿
珊瑚を思わせる意匠の深皿。ARABIAのコラーリ。

身をほぐしたザリガニや付け合わせを取り分けるなら、丸みのある深皿が頼りになります。ARABIAの「コラーリ(Koralli=珊瑚)」は、その名のとおり海の珊瑚を思わせる意匠をまとった深皿。ゆるやかにカーブしたフォルムは、光を受けたときの陰影が美しく、卓の上でひとつの静物画のように見えます。海の恵みを囲む晩夏の宴に、そっと寄り添う器です。アラビアのコラーリ・スーププレート

器はいずれも観賞用として、当時の暮らしの風景を思い描きながら飾り、眺めていただくのがおすすめです。棚に並べた青い大皿や小さなグラスは、それだけでスウェーデンの晩夏の一夜を、静かに部屋のなかへ呼び込んでくれます。

まとめ——うつわに映る北欧の晩夏

紙提灯にともる月の顔、ディルの香りに包まれた真っ赤なザリガニ、小さなグラスとスナップスヴィーサの合唱。クレイフィッシュパーティーは、暗さへ向かう季節の入り口で、退いていく夏の光を人の手で灯りへと移し替える、北欧らしい晩夏の祝祭です。16世紀の宮廷のごちそうから、19世紀の市民の夜会へ、そして疫病と輸入をくぐり抜けて1960年代の国民的行事へ——一皿のザリガニの背後には、長い歴史が折り重なっています。

夏の光をたたえた、島々が点在するストックホルム群島の穏やかな海
夏の光をたたえたストックホルム群島の海。(Konstantin / CC BY-SA 3.0)

要点の整理

  • クレイフィッシュパーティー(kräftskiva)は、茹でたザリガニを囲むスウェーデンの晩夏の社交行事。16世紀の宮廷食から19世紀の市民の夜会を経て、1960年代に国民的行事として広まりました。
  • 8月に集中するのは、かつてザリガニ漁の解禁が8月7日午後5時と定められていた名残です。規制は1994年に撤廃されましたが、季節の合図として受け継がれてきました。
  • 月の顔の紙提灯、紙の帽子とビブ、ディルで茹でるザリガニ、スナップスと飲み歌が定番の設え。隣国フィンランドのラプユフラットもよく似た習慣です。
  • 晩夏の食卓を思わせる青い大皿や小さなグラスは、現在の飲食のためではなく、当時の宴の情景を想像しながら飾り、眺める観賞の対象として迎えるのがおすすめです。

タックショミュッケが大切にしてきた「食器ではなく北欧そのもの」という考え方は、この晩夏の旅にもそのまま通じます。一枚の器を通して、スウェーデンの8月の夜、その光と賑わいを思い描いていただけたら——それが、この記事に込めたいちばんの願いです。

参考資料

  • Nordiska museet(ノルディック博物館)「Kräftpremiär」
  • Visit Sweden「Crayfish party」
  • Wikipedia「Kräftskiva」「Crayfish party」「Rapujuhlat」「Jokirapu」

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