北欧の秋と食卓|ラップランドのルスカ、きのこと木の実、暗さを灯すキャンドル——秋色のうつわと過ごす季節

北欧の秋と食卓|ラップランドのルスカ、きのこと木の実、暗さを灯すキャンドル——秋色のうつわと過ごす季節

北欧食器タックショミュッケ編集部

夏至の頃、北欧の空は真夜中でも青く明るく、太陽はほとんど沈みませんでした。その白夜の季節が終わると、北欧は反対の方向へ動きはじめます。秋は、夏の余韻というよりも、光が急速に退いていく転換点です。日ごとに影が長くなり、森が色づき、やがて北の果てでは太陽が地平線から昇らない極夜へと向かっていきます。

この記事は、そんな北欧の秋を、風景とうつわを通してたどる旅の記録です。ラップランドを燃え上がらせる紅葉ルスカ、森のきのことベリー、夏の終わりを告げるザリガニ祭、そして暗さが深まる季節に灯すキャンドルの光。最後に、その秋の色をそのまま写し取ったような1970年代の北欧の器へとたどり着きます。読み終える頃には、北欧の秋をひととき旅した気分になっていただけたら、と思っています。

この記事でわかること

  • ラップランドの紅葉「ルスカ(ruska)」がどんな現象で、いつ・どのように北欧を染めるのか
  • 森のきのこ狩り・ベリー摘みと、それを支える自然享受権という北欧の考え方
  • 夏の終わりを祝うザリガニ祭「クレフトシーヴァ」と、暗い季節に灯りをともすキャンドル文化
  • 秋の色を写した1970年代の北欧の器——ARABIAのルスカやコスモス、琥珀色のガラスの背景

目次

  1. はじめに——白夜の逆、光が退いていく季節
  2. ルスカ——ラップランドが燃える二週間
  3. 森の恵み——きのこ狩り、ベリー摘みと自然享受権
  4. クレフトシーヴァ——8月、秋の入り口を祝うザリガニ祭
  5. 暗さを灯す——北欧の秋冬はキャンドルの季節
  6. 秋色のうつわ——1970年代の大地色とルスカの器
  7. 秋の北欧インテリアとうつわ——観賞と装飾の視点から
  8. まとめ——うつわに宿る北欧の秋

はじめに——白夜の逆、光が退いていく季節

北欧の一年は、光の量で語ることができます。夏至の白夜で頂点に達した光は、そこから少しずつ、やがて急速に退いていきます。北欧の人々にとって秋とは、「これから闇が深まっていく季節」なのです。夏の名残を惜しむというより、来たる暗さに向けて心とすまいを整えていく時間、と言ったほうが近いかもしれません。

黄金色に染まるラップランドの秋の森
高台から見下ろす、黄金色に染まるラップランドの秋の森(Sarah Dowling, CSIRO / CC BY 3.0)

この光の落差は、緯度が高いほど劇的になります。ラップランドのような北の地では、秋分を過ぎると日照時間が一日ごとにみるみる短くなっていきます。夏には夜がなかった土地が、数か月後には昼のない土地へと変わっていく——その振れ幅の大きさこそが、北欧の秋を特別なものにしています。

この記事を貫く縦糸は、ずばり「光がどこにあるか」です。森の紅葉に映る光、ザリガニ祭のランタンの光、暗い夜に灯すキャンドルの光、そして琥珀色の釉薬やガラスに宿る光。北欧の秋は、退いていく自然の光を、人の手が室内の小さな灯りへと移し替えていく季節でもあります。

タックショミュッケが大切にしてきたのは、「食器ではなく北欧そのもの」を器を通して味わう、という考え方です。この記事でも、うつわを単なる道具としてではなく、北欧の秋という季節・光・自然を映す小さな窓として見ていきます。まずはその季節の入り口、ラップランドの紅葉から旅を始めましょう。

ルスカ——ラップランドが燃える二週間

ルスカ(ruska)は、フィンランド語で秋の紅葉現象を指す言葉です。落葉植物が越冬の準備で葉を落とす際に、葉のなかの緑の色素クロロフィルが分解し、隠れていた赤(アントシアニン)・橙(カロテノイド)・黄(キサントフィル)の色が一斉に現れる——その色づきの全体を、北欧の人々はルスカと呼んできました。語はサーミ語(北サーミ語のruškatと比較されます)に由来し、フィンランド語で「茶色」を意味するruskeaとも関連づけられています。

夕陽に照らされたオレンジ色の白樺と湖
夕陽に燃える湖畔の白樺——フィンランド・ケヴォの秋(Ilona Simomaa / CC BY-SA 3.0)

ルスカはラップランド(フィンランド北部)がとりわけ有名ですが、ラップランドだけの現象ではありません。じつはフィンランド全土で見られる秋の色づきで、北から南へと順に進んでいきます。北ラップランドでは9月の第2週あたりにピークを迎え、およそ10日間ほどで燃え尽きるように過ぎていきます。そこから南へ、数週間かけておよそ500キロメートルの速さで色づきが下りていき、南フィンランドでは9月末から10月初旬に盛りを迎えます。ラップランドの丘が盛りを過ぎる頃、ようやくヘルシンキ近郊の木立が色づきはじめる——そんな時間差のなかで、秋が国土を縦断していきます。

プールスカとマールスカ——樹上と地表、二つの紅葉

紅葉した赤い下草と白樺の林を歩く二頭のトナカイ
紅葉のツンドラを歩く二頭のトナカイ——ラップランド・イナリ(Ximonic / Simo Räsänen / CC BY-SA 3.0)

ラップランドの紅葉には二つの層があります。ひとつは樹上の紅葉、プールスカ(puuruska)。ダケカンバが黄金色に染まり、ナナカマドが赤い実と多彩な葉を掲げます。もうひとつは地表の紅葉、マールスカ(maaruska)。足元に広がるコケモモやブルーベリーの低木の葉が真っ赤に染まり、丘の斜面全体を赤いじゅうたんのように覆っていきます。

9月の第2週、サーリセルカやウルホ・ケッコネン国立公園のフィエル(なだらかな丘)が、いっせいに燃え上がります。見上げれば黄金のダケカンバ、見下ろせば赤いマールスカの海。トナカイが色づいた下草のあいだをゆっくりと歩いていきます。フィンランドの観光当局はこのルスカを、日本の紅葉狩りや花見になぞらえて紹介してきました。短く、鮮烈で、あっという間に過ぎていく——だからこそ人々は、その二週間を待ちわびるのです。

紅葉した丘が川面に映り込むレンメンヨキの秋景色
川面に映る秋の山肌——フィンランド・レンメンヨキ(Ilona Simomaa / CC BY-SA 3.0)

後ほど見ていくように、この「ルスカ」という言葉は、のちに北欧の器の名にもなりました。ラップランドの紅葉色そのものが、一枚の皿の釉薬へと移し替えられていくのです。その話は、秋色のうつわの章まで大切に取っておきましょう。

森の恵み——きのこ狩り、ベリー摘みと自然享受権

秋の北欧の食卓は、森から始まってきました。色づいた木立の下、湿った苔と落ち葉の匂いのなかを、人々はかごを手に歩きます。雨のあとの森には、杏に似た甘い香りが漂います。アンズタケ(kantarell)の香りです。かごに落ちるコケモモの乾いた音、足元でしなる低木の枝——秋のはじまりは、森のなかにありました。

森の落ち葉のあいだに群生する黄金色のアンズタケ
森に群れる黄金色のアンズタケ(Paul Harrison / CC BY-SA 4.0)

アッレマンスレット——歩き、摘む自由の権利

この森歩きを支えてきたのが、スウェーデンの自然享受権「アッレマンスレット(allemansrätten)」です。誰もが、たとえ私有地であっても、自然のなかを歩き、野生のベリーやきのこ、花を自由に摘むことができる——そうした公共アクセスの考え方が、北欧の暮らしに深く根づいてきました。フィンランドにも同じ考え方があり、そちらは「ヨカミエヘンオイケウス(jokamiehenoikeus/万人の権利)」と呼ばれます。両国で概念は共通していますが、法の名称は別ものです。

この権利の根っこにあるのは、「邪魔しない、壊さない(inte störa, inte förstöra)」というシンプルな原則です。住居のすぐそばや耕作地、私有の庭は対象外で、保護されている植物も摘めません。自由には節度が伴う——その静かな了解のうえに、北欧の森歩きの文化は成り立ってきました。

きのことベリー——森が差し出す秋の色

秋の森が差し出すものは、そのまま秋の色でもあります。黄金色のアンズタケ(kantarell)、真っ赤なコケモモ(lingon)、青いブルーベリーやビルベリー(blåbär)。どれも、のちに器の釉薬に現れる色そのものです。森の色が食卓の色になり、やがて器の色になっていく——その連なりを想像しながら、ひとつずつ見ていきましょう。

スウェーデンの野に実る真っ赤なコケモモの低木
赤く色づくコケモモの実——スウェーデンの野にて(boberger / Public domain)
森でブルーベリーを摘み、青い実の入ったバケツを手にする様子
森でのブルーベリー摘み(Ypsilon from Finland / CC0)

そしてもうひとつ、北の湿地でしか採れない特別な実があります。ホロムイイチゴ(hjortron、フィンランド語ではlakkaやhilla)です。酸性の湿地や沼にひっそりと育ち、淡い赤からやがて透きとおった琥珀色へと熟していきます。膝をついて泥の中を探す指先——見つけたときの喜びから、この実は「ラップランドの金」と呼ばれてきました。フィンランドではラッカというリキュールに、スウェーデンではジャムに仕立てられてきました。淡い赤から琥珀色へというその色の移ろいは、まさにルスカの縮図のようです。

森の恵みは、木の実だけではありません。スウェーデンの画家カール・ラーション(Carl Larsson)は、りんごの収穫の情景を穏やかな水彩で描き残しました。籠を持つ人々と赤い家、実りの木立——北欧の秋の暮らしを、これほど温かく伝えてくれる一枚もそう多くありません。

カール・ラーションの水彩画。りんごの木立と赤い家、籠を持つ女性と子供
カール・ラーション『りんごの収穫』——北欧の秋の実りの情景(Carl Larsson / Public domain)

クレフトシーヴァ——8月、秋の入り口を祝うザリガニ祭

森の恵みが色づきはじめる少し前、8月には、夏の終わりと秋の入り口を告げる祝祭が催されてきました。スウェーデンのザリガニ祭、クレフトシーヴァ(kräftskiva)です。スウェーデンで生まれ、フィンランドのスウェーデン語圏やノルウェーへも伝わってきました。今日親しまれている屋外での宴のかたちは、20世紀を通じて広まってきたと伝えられています。

屋外の庭で紙提灯を吊るし、前掛けをした人々が食卓を囲むザリガニパーティー
庭で開かれるザリガニパーティー——色とりどりの紙提灯のもとで(Holger.Ellgaard / CC BY-SA 4.0)

なぜ8月なのか——ザリガニ解禁という区切り

この祭りが8月に集中して催されてきたのには、はっきりした理由があります。20世紀を通じて、スウェーデンではザリガニ漁が晩夏に限られていました。8月のはじめが解禁日(kräftpremiär)とされ、その日を境に人々はいっせいにザリガニを楽しみはじめたのです。夏の盛りが過ぎ、日が少しずつ傾きはじめる頃——ちょうど秋の入り口に、この祝祭は位置づけられてきました。9月まで催されることもあります。

白い皿に放射状に盛られた真っ赤な茹でザリガニとレタス
皿に盛られた真っ赤な茹でザリガニ(David Castor / Public domain)

ザリガニは塩水で茹で、花が咲いたあとのクラウンディルで香りづけして、冷たいまま供されてきました。人々は手で殻を割り、賑やかに語らいながら夏の終わりを惜しんだと伝えられています。ここでは食文化の一場面として、その情景を思い浮かべていただければと思います。

紙提灯とスナップス歌——光と歌の宴

クレフトシーヴァを特別なものにしているのは、その飾りつけと歌です。木々のあいだには、顔を描いた紙提灯や紙の飾りがいくつも吊るされます。人々はとんがりの紙帽子をかぶり、紙のテーブルクロスを敷き、よだれかけをつけて食卓を囲みます。そしてスナップス(アクアビットなどの蒸留酒)とビールが注がれ、乾杯のたびに歌(snapsvisa)が響きます。もっとも有名なのは『ヘラン・ゴール(Helan går)』でしょう。

ザリガニ柄のクロスと太陽の顔の紙提灯が飾られた室内のテーブル
太陽の顔をあしらった紙飾りとザリガニ柄のクロス——室内のザリガニ祭の食卓(CujoJnr / CC BY-SA 4.0)

日が傾き、庭の紙提灯にろうそくの火が入る頃、宴は屋外から室内へと移っていきます。夏の名残の宴でありながら、もう秋の入り口の宵。ここでひとつ、大切な転換が起こります。これまで自然のなかにあった光——森の紅葉の光、湖に映る夕陽の光——が、ここで初めて、人の手が灯す小さな炎へと移っていくのです。次の章では、その灯りの文化そのものへと踏み込んでいきましょう。

暗さを灯す——北欧の秋冬はキャンドルの季節

秋が深まるにつれて、北欧の言葉には「暗さ」を指す語がしきりに現れます。スウェーデン語のmörker(メルケル、暗さ)です。日が短くなり、闇が室内にまで忍び込んでくるこの季節に、北欧の人々は灯りをともす文化を前面に押し出してきました。デンマークのヒュッゲ(hygge)、スウェーデンのミュース(mys)——どちらも、暗い季節に温かで低い光をともし、心地よさをつくり出す生活の哲学です。

暗闇のなかで温かく灯る三つの白い陶製キャンドルホルダーとティーライトの炎
暗がりに灯るキャンドルの光——低く温かな灯り(Hades2k / CC BY-SA 2.0)

この文化の前提にあるのは、北欧の冬の圧倒的な暗さです。ノルウェーのトロムソでは、11月末から1月中旬にかけて太陽が地平線の上に昇りません。フィンランド語では極夜をカーモス(kaamos)と呼び、最北のウツヨキではおよそ52日間、11月末から1月半ばまで太陽が昇らない日が続きます。それでも完全な暗黒ではなく、正午の前後には空が深い青と桃色に染まる「ブルーモーメント」が訪れます。闇のなかにわずかに差す青い光——その静けさもまた、北欧の冬の一部です。

キャンドルの国——暗い朝の一本のろうそく

デンマークは、ヨーロッパで一人あたりのキャンドル消費量がもっとも多い国とされます。欧州キャンドル協会の数字では、一人あたり年間およそ6キログラムの蝋を消費するとも紹介されてきました(統計により幅があり、より低い値を示すデータもあります)。ある調査では、デンマーク人のおよそ半数が週に4日以上キャンドルを灯すとされ、そしてキャンドルをヒュッゲと結びつける人が大多数にのぼるといいます。

デンマークの暗い火曜の朝を想像してみてください。朝食の食卓に、一本のろうそく。窓の外は寒く暗く、室内は低く温かい光に包まれている——その落差こそがヒュッゲだと、北欧の人は言います。灯りは、暗さがあってはじめて意味を持つのです。この考え方は、やがて一年でもっとも暗い季節に光の帰還を祝う12月13日の聖ルチア祭へと連なっていきます。頭にろうそくの冠を掲げた少女が先導し、闇の頂点に光を告げる——秋にともした小さな灯りは、冬の光の祝祭へと続いていきます。

灯りとうつわ——光を宿す燭台たち

秋のうつわを語るうえで、「灯りとうつわ」は切り離せません。キャンドルホルダーや器に反射する光そのものが、暗い季節の室内をかたちづくってきたからです。北欧のデザイナーたちは、この光の季節のために、数多くの美しい燭台を生み出してきました。ここで、当店が扱う北欧ヴィンテージの燭台をいくつかご覧いただきましょう。いずれも、暗さを灯すためにデザインされた器たちです。

ヌータヤルヴィ ルンメ 睡蓮モチーフのガラス製キャンドルホルダー
睡蓮をかたどったガラスの燭台——ヌータヤルヴィのルンメ

ヌータヤルヴィ(Nuutajärvi)のルンメ(Lumme)は、睡蓮をモチーフにしたガラスの燭台です。ルンメとはフィンランド語で睡蓮のこと。厚みのあるガラスがろうそくの炎を受けると、花びらのかたちの縁に光がにじみ、水面に灯りが浮かぶような表情を見せます。暗さを灯すためにデザインされた、静かな造形です。ご覧になりたい方はARABIA ヌータヤルヴィ Lumme(ルンメ)キャンドルホルダー 小のページからどうぞ。

イッタラ シルム 芽をかたどったガラス製キャンドルホルダー
芽(Silmu)の名を持つガラスの燭台——イッタラ

イッタラ(iittala)のシルム(Silmu)は、その名がフィンランド語で「芽」を意味するガラスの燭台です。まるく膨らんだガラスのかたちには、これから開こうとする芽のような気配があります。暗い季節に灯る小さな炎と、春を待つ芽の名——その取り合わせに、北欧の光への祈りのようなものを感じます。イッタラ(iittala)シルム(Silmu)キャンドルホルダーのページで、その透明感をご覧いただけます。

スティグ・リンドベリ 花柄手描きファイアンスのキャンドルホルダー
手描きの花柄が施されたファイアンス——スティグ・リンドベリ

ガラスとは対照的に、陶の燭台もまた北欧の光の季節を彩ってきました。スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg)の手描きファイアンスの燭台は、錫釉の白い地に花柄を描いた、装飾性の高い一点です。ファイアンスという錫釉陶器の技法についてはファイアンスとは?意味・歴史と錫釉陶器の世界で詳しくご紹介しています。手仕事の筆致が残るこの燭台は、在庫はごくわずかです。造形を見たい方はスティグ・リンドベリ 手描きファイアンス キャンドルホルダーへ。

グスタフスベリ アルジェンタ 深緑地に銀彩のキャンドルスタンド
深緑の地に銀彩を象嵌したキャンドルスタンド——グスタフスベリのアルジェンタ

ヴィルヘルム・コーゲ(Wilhelm Kåge)が手がけたグスタフスベリのアルジェンタ(Argenta)は、深い緑の釉薬に銀を象嵌した独特の技法で知られます。暗がりのなかで、銀の装飾がろうそくの炎をかすかに反射する——闇と光のコントラストを、器そのものが体現しているようです。こちらも在庫はごくわずか。グスタフスベリ アルジェンタ(Argenta)銀彩 キャンドルスタンドのページでご覧ください。

秋色のうつわ——1970年代の大地色とルスカの器

ここまで、ラップランドの紅葉、森の実り、祝祭のランタン、暗さを灯すキャンドルと、北欧の秋の風景をたどってきました。そのすべての色——赤、橙、黄、茶、そして琥珀——を、一枚の器に写し取った時代があります。1970年代の北欧です。

白い幹の白樺が並び、黄葉と落ち葉が地面を覆う秋の白樺林
落ち葉が敷きつめる白樺林——秋の大地の色(Valery Kraynov / CC BY 3.0)

大地の色が主役になった時代

1970年代の北欧では、茶、マスタード、オリーブ、錆びたようなオレンジといった大地色(アースカラー)が、器の主役になりました。1960年代の明るくポップな色調から一転しての、この落ち着いた色への移行です。背景には、自然や有機的な暮らしへ回帰しようとする環境意識の高まりがありました。1970年には第1回アースデイが開かれ、人々は自然とのつながりを求めるようになっていきます。1973年の石油危機以降の時代の空気も、この傾向を強めたと語られてきました(アースカラーの流行は石油危機より前、1970年代初頭からすでに始まっていたとされ、石油危機は引き金というより時代の雰囲気を後押しした要因と見るのが穏当です)。この時代の変化については石油危機が北欧食器を変えた日——1973年、黄金時代の終焉でも掘り下げています。

興味深いのは、この70年代のパレット——マスタード、琥珀、バーントオレンジ、深い茶——が、ラップランドのルスカの色そのものだということです。赤橙黄と茶が入り混じるあの紅葉の色を、器がそのまま室内に持ち込む。秋の風景を写した器が、暗い季節の食卓に置かれる。時代の色と自然の色が、ここでぴたりと重なります。

ARABIA ルスカ——秋の色をまとった器

その象徴が、ARABIA(アラビア)のルスカ(Ruska)です。名前がすでに語っているとおり、この器はフィンランド語で「紅葉(秋の色)」を意味する言葉を冠しています。デザインしたのは、ウッラ・プロコペ(Ulla Procopé, 1921–1968)。彼女はアラビアに1948年から1966年まで在籍したフィンランドの器のデザイナーです。ルスカは1960年に発表されたと一般に伝えられ、その後1990年代末(1999年頃)まで長期にわたって製造されたとされます。

垂れ下がる白樺の枝を覆う黄金色の葉がカーテンのように画面を埋める
黄葉の白樺のカーテン——ルスカという名の由来する秋の色(Роман Рябенко / CC0)

ルスカを特徴づけるのは、まだらな茶のマット(艶消し)釉です。量産の実用食器で艶消し釉が用いられたのは、この器が先駆けのひとつだったと伝えられています。つややかではない、しっとりと沈んだ茶の質感——それはまさに、雨に濡れた落ち葉や、湿った森の土の色です。ルスカの器を眺めていると、ラップランドの紅葉の一場面を手のひらにのせているような気持ちになります。

なお、「ルスカ」という語がラップランドの紅葉現象そのものに由来する、と断定できる明確な出典は確認できていません。語がサーミ語に由来し、秋の紅葉を意味することは複数の資料が伝えていますが、器の命名の経緯を厳密にたどる一次資料は限られます。ここでは「秋の色を意味する言葉を器の名に選んだ」という事実にとどめて、静かに味わうのがよいと思います。当店ではこのARABIA ルスカの現物は現在すべて品切れとなっており、ここではシリーズの歴史としてご紹介しました。

ARABIA コスモス——静かな緑がかった茶の器

同じく秋の色を映す器に、ARABIAのコスモス(Kosmos)があります。こちらは1960年代から70年代にかけての器です。装飾(絵付け)を手がけたのは、グンヴォル・オリン=グロンクヴィスト(Gunvor Olin-Grönqvist, 1928–2005)。器の形そのものは、ルスカと同じくウッラ・プロコペの手による「Sモデル」が用いられました。つまりコスモスは、プロコペの器のかたちに、オリン=グロンクヴィストの装飾を重ねた器なのです。製造はおおむね1962年頃から1976年頃までとされます(開始年は資料により1962年・1963年と揺れがあります)。

ARABIA コスモス 茶とオレンジの花柄のティーポット
緑がかった茶とオレンジの装飾をまとう器——ARABIAコスモスのティーポット

コスモスの色調は、緑がかった茶(オリーブ系)が中心です。輪郭のやわらかくにじんだ装飾が特徴で、その技法については資料により手描き・ステンシルと記述が分かれます。より流通量の少ない青色のバージョンも存在したと伝えられます。緑がかった茶を主色とするこの器は、まさに秋の森の色そのもの。落ち葉の茶と、まだ残る苔の緑が溶け合ったような、深く静かな色合いです。

当店には、このコスモスの装飾をまとったティーポットがございます。茶からオレンジへと移ろう温かな花柄が、器の丸みにそって広がっていきます。北欧の秋の色をまとうかたちと装飾を、細部までご覧いただけます。ARABIA(アラビア)Kosmos(コスモス)ティーポットのページで、細部までご覧いただけます。

琥珀色のガラス——光を宿す秋の器

秋の色は、陶の器だけのものではありません。ガラスもまた、この季節の光を宿してきました。とりわけ琥珀色のガラスは、ろうそくや低い灯りを受けると、器の内側に小さな灯りが灯ったように輝きます。暗い季節ほど、ガラスは「光の器」になるのです。

エリック・ホグラン ボダ 気泡を含んだ琥珀色のバブルガラス
気泡を含んだ琥珀色のガラス——エリック・ホグランのボダ

エリック・ホグラン(Erik Höglund)がボダ(Boda)で手がけた琥珀色のバブルガラスは、その好例です。あえて気泡を残した厚手のガラスは、光を受けると内部の泡が無数の小さな輝きになります。琥珀という色そのものが、ホロムイイチゴが熟した色、そして夕暮れのルスカの光と重なります。北欧の市場を経て日本へ届いた、時代を経たヴィンテージらしい質感の一点です。造形を眺めたい方はエリック・ホグラン(Erik Höglund)ボダ(Boda)琥珀色バブルガラス ゼイデルへ。

秋の北欧インテリアとうつわ——観賞と装飾の視点から

秋色のヴィンテージ食器は、北欧の秋という季節を思わせる、観賞の対象です。ここでは、その器を室内にどう取り合わせるか——飾り、眺めるための視点から、いくつかのヒントをお伝えします。現在の飲食のためではなく、あくまで暮らしの風景を組み立てる装飾の発想です。

黄葉した木立の向こうに黄色い集合住宅と赤い屋根が見えるヘルシンキの秋の市街
秋色に包まれるヘルシンキの街並み(Ilya / CC BY-SA 2.0)

色を重ねる——ルスカの色調を室内に

まず色の重ね方です。茶、マスタード、琥珀、錆オレンジ——これら秋色の器を、木の質感やリネンの布と合わせると、室内にルスカの色調が静かに立ち上がります。無垢の木のテーブルに茶のコスモス、その傍らに麻のクロス、というように、自然素材どうしを組み合わせるのがなじみやすい方法です。ルスカの器がテーブルの上でラップランドの紅葉色を再現する——そんな一角を、季節の飾りとして仕立てることができます。

オレンジ色に紅葉した木々と落ち葉の芝生、背後に集合住宅。ストックホルムの公園
紅葉するストックホルムの公園(ThibautRe / CC BY-SA 4.0)

光と合わせる——器を光の器にする

次に光との合わせ方です。キャンドルや低い灯りと琥珀色のガラスを近づけると、光が器のなかで琥珀に灯ります。暗い季節ほど、この効果は際立ちます。窓辺に琥珀のガラスを置き、その隣に燭台を灯す——それだけで、退いていく外の光を室内の小さな灯りが受け継ぐような情景が生まれます。器が「光の器」になる、というのは決して比喩だけの話ではありません。

夕暮れの霧に包まれたフィンランドの湖。淡いピンクの空とその水鏡
霧に沈むフィンランドの湖の夕暮れ——退いていく秋の光(yrjö jyske / CC BY 4.0)

ルスカやコスモスの器は、北欧の市場を経て日本へ届いた、北欧の秋の光景を思わせる品です。それを、当時の秋の情景を想像しながら飾る対象として迎える——タックショミュッケがおすすめするのは、そうした観賞のたのしみ方です。器を通して見えてくるのは、器そのものよりむしろ、それが置かれていた北欧の秋の光景のほうかもしれません。飾り、組み合わせ、集めるという楽しみについては北欧ヴィンテージ食器のある暮らし——飾る、組み合わせる、集めるもあわせてどうぞ。器を長く美しく保つための手入れは北欧ヴィンテージ食器の保存と手入れでご紹介しています。

黄土色や黄色の古い建物に挟まれた石畳の細い路地。ストックホルムのガムラスタン
ガムラスタンの石畳の路地——黄土色の建物が続く秋の街(OleNeitzel / CC BY 4.0)

まとめ——うつわに宿る北欧の秋

ラップランドを燃やすルスカの紅葉、森が差し出すきのことベリー、8月の入り口を祝うザリガニ祭、暗さを灯すキャンドル、そして大地色の器。北欧の秋を旅してきたこの記事の縦糸は、一貫して「光」でした。北欧の秋とは、光が退き、その退いた光を人の手が室内の灯りへと移し替えていく季節なのです。

朝霧に包まれた紅葉の木立と小さな池を空から捉えた俯瞰
朝霧に浮かぶ秋の水辺——フィンランド・ヴァンター(Ximonic / Simo Räsänen / CC BY 3.0)

1970年代の茶系ストーンウェアや琥珀色のガラスは、その秋の風景と光を、一枚の器のなかに写し取っています。ARABIAのルスカやコスモスは、名も色も、ラップランドの紅葉と森の土の色をそのまま室内に持ち込む器でした。器を眺めることは、その器が置かれていた北欧の秋の情景を思い描くことでもあります。

要点の整理

  • 北欧の秋は白夜の逆、極夜へ向かう光の減退の季節。人々は森の恵みを集め、祝祭に灯りを掲げ、室内にキャンドルを灯してきました。
  • ルスカはフィンランドの秋の紅葉現象で、北から南へと進みます。ARABIAのルスカやコスモスは、その秋の色を器に映した1970年代の大地色の器です。
  • 秋色の器は、現在の飲食のためではなく、当時の秋の暮らしを想像しながら飾り、眺める観賞の対象として迎えるのがおすすめです。
  • 年代・人名・技法は、出典の限界を踏まえて断定を控えめにし、節度をもって記しました。

タックショミュッケが大切にしてきた「食器ではなく北欧そのもの」という考え方は、この秋の旅にもそのまま通じます。一枚の器を通して、北欧の秋という季節、光、自然を味わっていただけたら——それが、この記事に込めたいちばんの願いです。

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