タイ製になった理由:
ARABIAは、1873年に設立されたフィンランドを代表する陶磁器ブランドであり、その美しいデザインと高品質は世界中で高く評価されています。ARABIA製品は2016年以降、フィンランドのデザインを保持しつつ、タイとルーマニアの契約工場で製造されています。
(写真:タイ工場の制作風景)
2014年にARABIAはイッタラグループに買収され、フィンランドの食器業界に大きな影響を与えました。イッタラグループは、フィンランドを代表する食器メーカーであり、ARABIAの買収によって北欧食器市場におけるシェアをさらに強化しました。
2000年代後半から、中国をはじめとする新興国の食器メーカーとの競争が激化し、その結果、ARABIAはイッタラグループによる買収を選びました。
ARABIAのブランド開発、デザイン、ポートフォリオの管理は、製品の製造がタイとルーマニアに移された後もヘルシンキで行われています。2016年には、新たにイッタラとARABIAデザインセンターが旧デザインミュージアムのスペースにオープンしました。これにより、ブランドのデザインと品質の管理が保たれています。
両者の違いは何?:
フィンランド製とタイ製のARABIA食器の主な違いは価格です。フィンランドで製造された食器は手作業の部分が多く、その限定性やコレクタブル性から価格が高めに設定されています。それに対して、タイで製造された食器は大量生産されるため、価格は比較的低く設定されています。工程数や両国の賃金の差がそのまま価格に反映されており、端的に言うとタイ製や安くフィンランド製が高いです。
食器としての出来栄えの違い:
両国の製品には出来栄えの差が見られます。特に精巧さや精密さ、貫入や歪みの無さ、黒点の有無といった点では、タイ製やルーマニア製の製品がフィンランド製のものより優れています。
間違いがないように繰り返しますが、タイ製やルーマニア製の外注製品のほうがよく出来ています。
問題は「よく出来ている」ということの意味です。
ヴィンテージ食器との比較:
20世紀の中頃のフィンランド製のARABIA製品は検品体制が甘く、現代の基準では考えられないような歪みがあったり、貫入があったり、サイズが微妙に大きかったり小さかったりするものでも出荷されています。
窯で焼成することによって陶器は約10%縮小しますが、同じお皿でも数ミリの誤差があるのは当時は当たり前です。
重ね置いたときにきれいにスタックできないのはヴィンテージ食器ではよくあることです。必然的に食器を重ねたときの噛み合わせが悪いので、スタッキングによるスレがヴィンテージ食器では特有のキズとしてよく見られます。
なおかつ当時の窯の温度は今ほど高温でないため、硬質さがなく、キズも付きやすいです。
21世紀に入るとフィンランド製のARABIA製品も品質管理が向上しており、さほど出来栄えも気にはならなくなりましたが、プリントがズレているものなども散見されます。
(写真:当時はこうした貫入があった皿でも当然のように出荷された)
ヴィンテージの良さとは:
一方、欠点も存在するフィンランド時代の製品の良さと言えば、それは色つやにあります。特にヴィンテージ品は、現代のものよりも深みのある色彩と、時間を経ても変わらない美しい光沢が特徴です。
ここが個人の好みと食器の理解が大きく分かれる点です。
古いものは手作業で100%の工程を行っています。
(1950年代のARABIA工場の絵付けの風景 sisällön kuvaus/ Keraamiset astiat valmistuvat Arabian tehtailla 2.4.1957)
手彩色の時代のものは基礎的な素養を持ったペインターによって行われています。絵付師の色彩感覚も優れていました。
フィンランド製にも違いはある:
(写真:左側が1968年に製作された最初期のパラティッシ、右側が1988年製の復刻版のパラティッシ。ともにフィンランド製だが色味や線の太さなどが異なる)
ちなみにフィンランド製であったとしても、時期によって出来栄えに差があります。上記のパラティッシシリーズで見ると、硬質で壊れにくく食器としての永続性が高いのは右側1988年製ですが、色ツヤや芸術性という観点では1968年製のオーバルプレートのほうが優れています。
当時は製陶技術の未熟さはありましたが、それを補って余りある釉薬の調合の絶妙さや絵付けの技術の高さがあり、ヴィンテージ食器には独特の魅力があります。
当店で取り扱っているARABIA製品は基本的に1970年代までに製作されたヴィンテージアイテムとなります。その時代を一つの境目として、ARABIA製品はフィンランド製であったとしても、芸術性や色ツヤという観点で見れば大きな差があります。