リサ・ラーソンの作品、サインが無いけど本物?

リサ・ラーソンの作品、サインが無いけど本物?

お問い合わせ:「サインが無いんですが本物でしょうか?」

「サインが無いんですが本物でしょうか?」――先日、リサ・ラーソンのファンのお客様からこんなお問い合わせをいただきました。お気持ち、すごくよく分かります。せっかく手に入れたお気に入りの陶器フィギュアに作者のサインや刻印が見当たらないと、「もしかして偽物かも…?」と不安になってしまいますよね。ブランド品などではサインやロゴの有無が真贋のポイントになることが多いため、なおさら心配になるのも無理はありません。


リサ・ラーソンのヴィンテージ陶器(手前のライオンやキリンに貼られた青いシールが見える):リサ・ラーソンがデザインしたスウェーデン製ヴィンテージ陶器の数々。限られた年代にのみ生産されたユニークな作品には、その年代ならではの味わいがあります。

リサ・ラーソンの作品群

そこで今回は、この「サインが無い=偽物かも?」という初心者ならではの不安について、専門知識を交えながらコラム風にお答えしたいと思います。結論から言えば「サインが入っていないからといって偽物とは限りません」むしろヴィンテージのリサ・ラーソン作品はサインや刻印が無いことが多いのです。一体どういうことなのでしょうか?さっそく詳しく見ていきましょう。


 

サインが無いリサ・ラーソン作品=ヴィンテージ本物?

お問い合わせをいただいた方は、「お腹に作者サインがないリサ・ラーソンの動物フィギュアなんて、おかしいですよね?」とおっしゃっていました。でも実のところ、それはおかしなことではありません。リサ・ラーソンの古い作品には、もともとサインやバックスタンプ(工房刻印)が無いのが普通です。サインが入っていないからといって「偽物」と判断してしまうと、実は最も価値のあるものを見逃してしまう可能性があります。

では、なぜサインが無い作品が本物の可能性が高いのでしょうか?ポイントは「ヴィンテージ作品ならではの事情」にあります。

リサ・ラーソンのライオン
(写真:リサ・ラーソンの代表作のライオン像。実は初期のヴィンテージ作品には、サインもシールもありません。実はサインがないほうが価格が高くなります。)

ライオン像のおなか
(写真:後年の作品だと底面にLISA L.のサインが書かれるようになりました。)

 

サインが無かった理由:1950〜70年代シール文化の舞台裏

リサ・ラーソンが活躍した1950~70年代当時、北欧の工芸品では作家本人の手書きサインや刻印がないまま販売されたものが結構ありました。その代わりに製造元のシールが貼られていたのです。例えばグスタフスベリ社製のリサ・ラーソン作品の場合、リサ・ラーソン作品を示す青いシールや、楕円形の「GUSTAVSBERG SWEDEN」と書かれたシールが貼られていました。しかしシールは時が経つにつれ剥がれてしまうため、現在手に入るヴィンテージ品の中には何の印も残っていないものが多いのです

リサ・ラーソンのブルドッグ
(写真: 1960〜1968年まで販売されたリサ・ラーソンの「大きな動物園のブルドッグ(Stora Zoo Bulldog)」、左の前足にリサ・ラーソン作品を示す青いシールが貼られています。)

グスタフスベリのシール
(写真:底面にはグスタフスベリの楕円形のシールが貼られていますが、サインそのものはありません。)

当時は現在ほど「作品に必ずサインを入れる」という文化が根付いていませんでした。リサ・ラーソンの作品は彼女自身がデザインし工房で量産されたもので、すべてに直筆サインが入っているわけではありません 。職人が型を用いて手作りした量産品では、リサ・ラーソン作品の青いシールや社名のシールだけで出荷するのが普通でした。裏を返せば、サインが無いヴィンテージ作品は当時のオリジナル仕様のまま現存しているということであり、サインがないことがむしろ「本物」の証明なのです。

 

もちろんシリーズや時期によっては、「LISA L.」や「Lisa Larson」の刻印、あるいはグスタフスベリの刻印が入っているものも多く存在します 。お手持ちのフィギュアにサインや刻印が見当たらなくても落胆しないでください。それだけで偽物と判断するのはできないということをまず覚えておきましょう。

リサ・ラーソン グスタフスベリ 小さな動物園(Lilla Zoo)きつね
(写真:リサ・ラーソンの最初の代表作「小さな動物園(Lilla Zoo)ねこ」、青いシールが貼ってあるだけでサインはありません。)

サイン無しのおなか
(写真:このようにサインも刻印もないのが初期作品の特徴です

リサ・ラーソン グスタフスベリ ノアの方舟(Noaks Ark)ライオンの置物

(写真:1978〜1983年に製作されたノアの方舟(Noaks Ark)のライオンの置物、この時代になるとスタンプがメインとなります。)

リサ・ラーソンのスタンプ
(写真:これならシールみたいに剥がれませんね)


そもそも偽物はあるの?現在のリサ・ラーソン偽物事情

「サインが無い=偽物とは限らない」とはいえ、「そもそも偽物が出回っているの?」という点も気になります。結論から言えば、リサ・ラーソンのヴィンテージ陶器には偽物が存在しないと考えられます。「リサ・ラーソンの偽物を本物そっくりに大量生産するのは難しく、手間の割に利益が見込めない」というのが北欧ヴィンテージ専門家の見方です。

陶器のフィギュアを型から起こして精巧にコピーするには手間もコストもかかるうえ、リサ・ラーソンの作品自体は単価もそこまで高額ではありません。わざわざ100万円のブランドバックのようにコピー商品を作るメリットがないわけですね。加えて、陶器の質感や色味の表現をオリジナルに忠実に再現することはまず不可能と言っていいでしょう。今のARABIA社が1970年代の食器の復刻版を作っても、同じ会社であるにも関わらず厳密には再現できていないのと理屈は一緒です。(詳しくはこちらの記事をご覧ください。『アラビア食器に「偽物」はある?〜北欧食器の基礎知識〜』)

 

現行品(復刻版)のリサ・ラーソン作品についても、いまのところ偽物が出回っているという話は聞きません 。もちろん「絶対に偽物が存在しない」とは断言できませんが、リサ・ラーソン作品のクオリティを真似るのは多大な労力が必要な上に、偽物を作る金銭的なメリットもないため、「全く心配しなくて良い」レベルであるのは確かです。

 

サインが無いからといって過度に心配する必要はありません。むしろ、古いものほどサインはなく、後期の作品や復刻版ほどサインがある、というのが傾向なのです。サインのない作品に出会ったら「これはヴィンテージですごい価値のあるものだ」と考えてくださいね。


 

一応、「スピンオフ作品」もある

ただし、「リサ・ラーソン風」の雑貨が販売されていることはあります 。これらはリサ・ラーソン本人の作品ではなく、リサ・ラーソンから公式に版権を得た雑貨として流通しているものです。

イラストの大元はリサ・ラーソン本人ですが、イラストを用いたリュックやトートバッグなどもありますので、厳密には「リサ・ラーソン風アイテム」と呼ぶのが適切でしょう。

以上の点を踏まえると、リサ・ラーソンのヴィンテージ作品について過度に偽物を恐れる必要はないと言えます。 むしろ大事なのは、本記事で解説しているような本物の特徴を理解し見極める知識をもつことです。サインやシールが無いからといってすぐ疑うのではなく、ヴィンテージの知識に基づいて判断しましょう。

 

 

おわりに:心配しすぎずヴィンテージを楽しもう

サインが無いリサ・ラーソン作品を前に不安になるお気持ちは、ヴィンテージ入門者としてごく自然なことです。でも、本記事でお伝えしたように「サインが無い=偽物」という図式は必ずしも当てはまりません。むしろ「サインが無いのはヴィンテージ本物の証!」考えていただいて大丈夫です。幸い偽物は報告されていないため、過度に疑うよりは手にしたご縁を楽しむ気持ちを大切にしてください。


初めて手に取ったリサ・ラーソンのネコやライオンたちも、きっと「あなただけの表情」でこちらを見つめていることでしょう。サインの有無にとらわれすぎず、そのヴィンテージ作品が持つ温もりや歴史に思いを馳せてみてください。「なんだ、そんなに心配しなくても大丈夫なんだ」とホッとしていただけたなら幸いです。そして安心して、リサ・ラーソンの世界を存分に愛でてくださいね。


最後にもう一度強調しますが、サインがなくても落胆しないでください。それが北欧ヴィンテージの世界の当たり前のです。これからも素敵なヴィンテージとの出会いを楽しんでください。

当店のリサ・ラーソン作品はこちらからどうぞ

当店には“サイン無し”やシール付き作品の在庫もございます。気になる方はぜひ覗いてみてください!

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