春を告げる猫柳の青 数年で姿を消した幻のシリーズ
フィンランドを代表する陶器メーカーARABIAの希少なパユというシリーズのデミタスカップです。シリーズ名のパユはフィンランド語で「柳(やなぎ)」の意味です。日本的な柳の木ではなく猫柳のことで、春先に咲くため季節の変わり目を告げる象徴的な植物として北欧では知られています。
基本的なフォルムはARABIAの代表的なハンドペイント食器バレンシアのNDモデルと呼ばれるカップ&ソーサーの形を踏襲しています。バレンシアは1960年にウラ・プロコッペによりデザインされ、ARABIA製品のなかで最もアンティークファンが多い不朽の名作です。
パユは表面のデコレーションを群青と空色という二色の青によってペイントしています。日本風に言えば「新緑の青々とした緑色」を表現したのが本作となります。
パユは具体的な製作期間は不明ですが、1970年頃の数年間しか製作されませんでした。ARABIAは1973〜1974年の石油危機を境として生産体制が大きく変化しました。それまでのコスト高で手間暇がかかるハンドペイント系食器は軒並み生産が中止されています。パユも新シリーズとしてリリースされて間もなく製造が中止されたもと考えられます。1974年にはデコレーションを考案したウィンクヴィストもARABIAを退社しています。
カップとソーサーの背面にはアンヤ・ヤーティネン・ウィンクヴィストのイニシャルサインが描かれています。右側には絵付師のイニシャルがスラッシュで区切られてサインされています。
ARABIA — フィンランドが世界に誇る陶磁器の名窯

1975年のARABIA工場(ヘルシンキ・アラビア地区)

1873年、スウェーデンのロールストランド社がヘルシンキに設立した分工場がARABIAの始まりです。当初はロシア帝国向けの陶磁器を生産していましたが、1917年のフィンランド独立後に完全なフィンランド企業となり、20世紀半ばにはフィンランド最大の陶磁器メーカーへと成長しました。

黄金時代を築いたデザイナーたち
カイ・フランク(1911–1989)は「フィンランドデザインの良心」と呼ばれ、キルタ(後のティーマ)やカルティオなど、無駄を削ぎ落とした機能美の名作を生み出しました。1949年にはARABIAのクラウンマーク(王冠のバックスタンプ)もデザインしています。
ウラ・プロコッペ(1921–1968)は、コバルトブルーの手描きが美しいバレンシア(1960–2002年)と、鉄粉を施した独特の土色が魅力のルスカ(1960年代–1999年)を手がけました。ルスカの粗い表面は日本の楽焼に似た風合いで、北欧と日本の美意識の近さを感じさせます。

このほか、ビルガー・カイピアイネン(1915–1988)は「装飾の王」と呼ばれ、名作パラティッシをはじめ華やかな装飾陶芸を制作。エステリ・トムラはフローラシリーズの植物画で知られ、ライヤ・ウオシッキネンも数多くの装飾パターンを手がけました。
ヴィンテージの見分け方 — バックスタンプ(刻印)ガイド

- 1874〜1930年頃:素地への型押し(インプレスト)が主流。1878年以降はフィンランドの紋章入りカラーマークも併用。
- 1932〜1949年:クルト・エクホルムがデザインした「パイプスタンプ」。工場に導入された122mのトンネル窯を表現したデザイン。
- 1949年〜現在:カイ・フランクがデザインしたクラウンマーク(王冠)。月桂樹の輪を逆さにして王冠に見立てた斬新なデザイン。1964年、1971年、1975年、1981年、2014年に更新。
- 生産年の読み方:1940年代以降は月→年の順で数字が刻印。2等品にはローマ数字IIや色付きドットが付されます。
- 2016年以降:ヘルシンキ工場は2016年3月に閉鎖され、現在はタイとルーマニアで生産。ヴィンテージ品はすべてフィンランド製で、「MADE IN FINLAND」の刻印があります。
■詳細スペック
- メーカー:ARABIA / アラビア
- フォルムデザイン:Ulla Procope / ウラ・プロコッペ
- パターンデザイン:Anja Jaatinen-Winquist / アンヤ・ヤーティネン・ウィンクヴィスト
- シリーズ名:Paju / パユ
- 年代:1969〜1973年(推定)
- 製造国:フィンランド
- サイズ:直径7.5cm 高さ4.8cm ソーサー直径11.3cm
■コンディション:★★★★★(5:完品)
【複数在庫品】未使用のデッドストック品です。市場で入手可能なトップコンディションの完品です。









