アラビア フローラ(Flora)完全ガイド——フィンランドの野花が咲く名作食器
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この記事の要点
- フローラ(Flora)は1979〜1981年に製造されたアラビアの手描き風花柄シリーズ
- デザイナーはエステリ・トムラ(1920〜1998年)。植物画に造詣の深い女性陶芸家
- 製造期間わずか2〜3年のため、ヴィンテージ市場での希少価値が非常に高い
- フィンランドの野花を忠実に写し取った、北欧陶芸の黄金時代が生んだ最も詩的な作品
目次
フローラとは
「花の女神」の名を持つシリーズ

Photo: Wikimedia Commons / CC0
アラビアの「フローラ(Flora)」は、1979年に誕生した手描き風の花柄シリーズです。フィンランドの野に咲く草花を淡い色合いの素地の上に写し取ったその姿は、北欧陶芸の黄金時代が生んだ最も詩的な作品のひとつといえるでしょう。スクリーン印刷を基調としながらも、手描きのような伸びやかさを感じさせる——フローラは、工業製品と手仕事の境界を軽やかに越えた稀有なシリーズです。

「フローラ」という名前は、ローマ神話に登場する花と春の女神フローラに由来しています。その名のとおり、器の表面にはフィンランドの野に咲く草花——ヤグルマギク、カモミール、ケシ、クローバーなど——が生き生きと描かれています。製造期間は1979年から1981年とわずか2〜3年。短命であったからこそ、現在のヴィンテージ市場では非常に高い希少価値を持っています。
デザイナー:エステリ・トムラ
植物画家であり陶芸家であった女性

Photo: Wikimedia Commons / Public domain
フローラをデザインしたのは、エステリ・トムラ(Esteri Tomula、1920〜1998年)です。トムラはフィンランドの女性陶芸家で、植物画に深い造詣を持っていました。ヘルシンキの中央工芸学校(現アールト大学の前身のひとつ)で学んだ後、1947年にアラビアに入社。以来、約30年にわたって同社のデコレーション部門で活躍しました。

Photo: Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
トムラの作風は、フィンランドの自然に対する深い愛着と観察眼に根ざしていました。植物学的な正確さと芸術的な感性を兼ね備えた彼女の絵付けは、単なる装飾ではなく、フィンランドの野花そのものの生命力を器の上に移し替えたものです。フローラのほかにも、クロッカス(Krokus)やヴァルム(Valmu)など、植物をモチーフとしたシリーズを数多く手がけました。


Photo: Wikimedia Commons / Public domain
アラビアのデザイン部門は、カイ・フランクのアートディレクションのもと、多くの才能あるデザイナーが集まる創造の場でした。トムラはその中で、植物をモチーフとした装飾を専門とする独自のポジションを築きました。同僚のライヤ・ウオシッキネンとは親しい間柄であり、互いに影響を与え合いながら、アラビアの黄金時代を支えました。

Photo: Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
歴史的背景
フローラが生まれた場所——ヘルシンキ、トウコラのアラビア工場

Photo: Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
フローラが生まれたのは、ヘルシンキ北部のトウコラ地区にあったアラビア工場です。1873年の創業以来、この工場はフィンランドの陶磁器製造の中心地でした。最盛期には1,000人以上の従業員が働き、フィンランドの家庭に届けられる食器の大部分がここで生産されていました。

Photo: Wikimedia Commons / CC BY 2.0
工場の敷地内にはデザインスタジオがあり、トムラをはじめとするデザイナーたちは日々ここで創作に打ち込みました。工場のすぐそばを流れるヴァンター川と、周辺に広がるフィンランドの自然が、フローラのような自然をモチーフとした作品に霊感を与えたのかもしれません。

Photo: Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
時代が求めた「自然回帰」——1970年代後半のフィンランド

Photo: Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
フローラが誕生した1979年は、フィンランドのデザイン界にとって転換期でした。1960年代のモダニズム全盛期を経て、1970年代後半には「自然回帰」の潮流が強まっていました。工業化・都市化が進む中で、人々はフィンランドの原風景——森や湖、野に咲く花々——への郷愁を深めていたのです。
フローラは、まさにこの時代の空気を映し出したシリーズでした。モダンな幾何学模様ではなく、フィンランドの野花をありのままに描く——トムラのデザインは、自然への回帰を求める時代の感性と見事に共鳴しました。
フローラのラインナップ

フローラはフルラインのテーブルウェアとして展開されていました:
- コーヒーカップ&ソーサー——最も人気の高い定番。フィンランドのコーヒータイム(kahvitauko)文化の象徴として愛されていました
- デミタスカップ・トリオ——小ぶりで繊細な佇まい。ゲスト用として大切にされていました
- 20cmプレート——ティータイムの取り皿として日常的に使われていたサイズ
- 34cm特大ディナープレート——希少な大判サイズ。来客時のメインディッシュ用として特別な場面で登場していました
- クリーマー・シュガーポット——テーブルセットの要
- ボウル・ピッチャー——コレクターが特に探し求めるアイテム

Photo: Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
当時のフィンランドでは、フローラのフルセットを揃えて来客をもてなす——そんな使い方がされていたといわれています。コーヒーカップからプレート、サービングウェアまで統一された花柄がテーブルを埋め尽くす様子は、まさに「テーブルの上に咲く庭園」でした。
ヴィンテージの魅力
量産品が宿す一点物の表情
フローラのヴィンテージ品を手に取って最初に気づくのは、一つひとつ微妙に異なる花の表情です。スクリーン印刷を基調とした技法ながら、個体ごとに印刷の出方や色の濃淡に微妙な差があり、それがかえって手描きのような味わいを生んでいます。
さらに、40年以上の歳月を経たフローラには、新品にはない「時間の層」が重なっています。わずかに飴色を帯びた釉薬の深み、使い込まれた縁のやわらかな光沢——それらは、フィンランドのどこかの家庭で日々の食卓を彩ってきた証です。
北欧の家庭では、食器は世代を超えて受け継がれるものでした。祖母から母へ、母から娘へ——フローラの花柄とともに、家族の食卓の記憶もまた受け継がれてきたのです。ヴィンテージ食器の本当の価値は、造形やデザインだけでなく、その器が歩んできた時間そのものにあるのかもしれません。
フローラの見分け方——バックスタンプで年代を読む
フローラのバックスタンプ(裏面の刻印)には、「ARABIA FINLAND」の文字とともに手書き風の「Flora」ロゴが入ります。
製造期間が1979〜1981年と短いため、バックスタンプのバリエーションは限られていますが、それだけに刻印の状態がよいものはコレクターに珍重されています。
アラビアの刻印(バックスタンプ)年代別完全ガイドもあわせてご参照ください。
姉妹シリーズ:ヴァルム(Valmu)

トムラがフローラと同じフォーム(器の形)を用いてデザインしたヴァルム(Valmu)も、知る人ぞ知る名シリーズです。フローラが多彩な野花を描いたのに対し、ヴァルムはより限定された色彩と構図で、静謐な印象を与えます。フローラとヴァルムを並べて観賞すると、トムラの作風の奥行きがよく分かります。
この記事のまとめ
- フローラはアラビアのエステリ・トムラがデザインした手描き風花柄シリーズ(1979〜1981年)
- フィンランドの野花を忠実に写し取った、北欧陶芸の黄金時代を代表する作品
- 製造期間わずか2〜3年のため、ヴィンテージ市場での希少価値が極めて高い
- スクリーン印刷を基調としながらも、個体ごとに異なる表情を持つ一点物の味わい
- 姉妹シリーズ「ヴァルム」と並べると、トムラの作風の奥行きがよくわかる
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