今日は珍しいARABIA製の陶板が入りました。1960年代にフィンランドで製作されたものです。
陶板(とうばん)は陶器製の絵画のことです。陶板は日本にはあまり馴染みがありませんが、北欧ではインテリアに陶板を用いる文化があります。圧倒的に多かったのはスウェーデンのジイ・ガントフタ(Jie Gantofa)という窯元の作品で日本でも数多く流通しています。(詳しくは過去の投稿「ジイ・ガントフタ 陶板の歴史」をご覧ください)
(写真:1960年代のARABIA製の陶板、エキセントリックな筆致でクジャクが描かれている)
ARABIA社では大量生産を行う工場とは別に、陶芸家が一点一点を手作りで作品を製作するアートデパートメントという工房がありました。こちらはその工房で製作された陶板となります。
(写真:デザイナーのアンニッキ・ホヴィサーリ)
左下にはデザイナーのHOVISAARI ARABIAのサインが書かれています。アンニッキ・ホヴィサーリ(1918〜2004)はオルナメンッティというトーテム模様や葉っぱ側のデザインを取り込んだ縦長の陶板作品で知られている人物です。
(写真:ホヴィサーリの代表作の「オルナメンッティ」)
ホヴィサーリの陶板の特徴は同じデザインの陶板が複数サイズ存在している点です。クジャクの陶板についても小さなタイル状のサイズが製作されました。こちらの陶板はクジャクシリーズで最大のもので、30cmを超えた重厚で非常に存在感がある大きさです。
陶板はクジャクのもつ華やかさやきらびやかさがダイヤモンドのように散りばめられた釉薬によって表現されています。自由なプロポーションで胴体を強調した表現で美しいクジャクが描かれています。
一点一点が手作業で作られていることに加えて、当時のアートデパートメント作品の特徴は釉薬の色が一点ごとに違うことです。こちらの陶板も複数製作されデザインは基本的に同じですが、一点ごとに微妙に色使いが異なります。あるときは濃い色であったり、薄く明るい色だったりと様々です。
このことは、アトリエで働く技師が自由に色付をして良いという裁量権を認められていたことを示しています。ベースとなるホヴィサーリのデザインを踏襲しつつ、釉薬は基本形を逸脱しない範囲で自由に調合することができました。同じ理由で名作バレンシアのハンドペイントは自由自在な筆致で描かれ。二つとして同じものはなく一点一点にペインターの個性が現れています。
(写真:一点ごとに異なるバレンシアのハンドペイント。細かい模様の描き方や色の濃さも一つずつ異なる)
しかし、違う見方をすれば、厳密に規格が定まっていないために同じものを作ることができなかったとも言えるでしょう。北欧は良くも悪くも適当で、寸分違わず同じものを作るという価値観がそもそもありません。
リサ・ラーソンの100点限定の陶板、といったものでもサインの仕方に統一感がなかったり、よく見ると大きさも違っていたりします。同じシリーズの同じサイズのお皿でも重ね置きすると数ミリの誤差がありキレイに重ならないのもよくあります。
北欧には「ラーゴム(Lagom)」という価値観があり、これは身の丈に合ったちょうどよいものであればそれがよし、という感覚を意味します。そして、この感覚は品質管理にも反映されています。「一点もの」という堂々とした存在感よりも、程よい適当さという北欧特有の風味が、作品の「ムラ」や「ゆらぎ」として現れていると感じます。