今回は、非常に珍しいグスタフスベリのプルーヌスシリーズのチョコレートカップが入荷しました。
このカップは、1970年ごろにスウェーデンで作られました。プルーヌスシリーズには通常、コーヒーカップとティーカップの2種類がありますが、このチョコレートカップは例外です。スウェーデン語で"Choklad koppar"と呼ばれるこの寸胴型のカップは日本語では「チョコレートカップ」となります。この形状のカップはほとんど製造されず、幻の作品とも言われています。
一方、このカップには北欧食器に見られるような、製造工程に起因する欠陥が見られます。ヒビや割れ、貫入が見られることが多く、これが大量生産を妨げた可能性があります。例えば、ARABIAのクロッカスシリーズも同じく短期間で生産が中止となり、貫入が見られるものが一定数存在します。
(貫入とは製造工程の焼成時に釉薬面に走るヒビのことです)
(写真:名作クロッカスに見られる貫入、プレートには一定の割合で貫入が見られる)
プルーヌスのチョコレートカップは試作品?
プルーヌスシリーズは1962年から1974年の間に製造されましたが、このチョコレートカップはおそらく1970年代に製作されたと考えられます。なぜなら、この時期のグスタフスベリの食器は、ペイントロスから食器を守るために透明釉薬をかけて再焼成する技術が用いられていました。
(写真:縁の染み。凹みに釉薬がかかっていないため生じる)
当時の窯焼きの温度管理は現在のような100%機械による温度管理ではないため、焼く陶器の厚さや大きさによって職人が配置や炭の量を工夫していました。
同じものを大量生産する場合は徐々に経験値が蓄積されるため、ヒット商品ほど不良品の割合は少なくなっていきます。
裏を返すと、最初は不良品ができて当たり前の手探り状態からスタートするので、少量しか生産されなかったものほど不良品しか現代に残らないことになります。
プルーヌスのチョコレートカップについては生産されなかった理由はよく分かりませんが、容量が満水時で380mlもありカップの重さと合わせると0.6kg程度になります。こうした重たさも影響していたのかもしれません。
透明釉の厚みで製造年代がわかる
ヴィンテージのプルーヌスの制作期間は1962年から1974年にかけての12年間です。しかしおそらくチョコレートカップに関しては、1970年代に入ってから作られたようです。
グスタフスベリの食器シリーズは転写紙を貼り付けて、透明の釉薬をかけて再焼成する手法でコーティングをして、ペイントロスから食器を守っています。有名シリーズのベルサ、アダム、サリックス、スピサリブなども全て転写紙を無地の陶器に貼り付けて透明釉をかけて再焼成をしてペイントを定着させています。
(写真:現代の復刻版でも伝統的な手法でグスタフスベリは食器を製造している)
具体的には、1960年代の作品は透明釉の層が薄く、ペイントロスが生じやすいのが特徴でした。これに対し、1970年代になると透明釉は厚めになり、ペイントロスから食器をより強く守ることが可能になりました。この透明釉の厚みは、製造年代を特定する重要な手がかりとなります。
(写真:1960年代の初期のBersåプレート。転写紙の葉っぱ柄がほぼ露出している)
(写真:1970年代のBersåプレート。透明釉がたっぷりとかかっている)
プルーヌスのチョコレートカップについても、この年代特有の透明釉の厚みを見ることができます。そして、このカップのバックスタンプにはVDNという品質保証マークが刻印されています。
チョコレートカップはいつ作られたもの?
ヴィンテージのプルーヌスのバックスタンプには2種類があります。
チョコレートカップのバックスタンプは左側の凝った作りで、VDNという品質保証マークがプラムの右上に刻印されています。
VDNとは”Varu Deklarations Nämnden”の頭文字をとったもので、1951年から1973年までの品質を保証するスタンプを押した消費者協会です。このマークと、1970年にデザインされた錨に縄のないグスタフスベリのロゴから、このチョコレートカップが1970〜1973年の間に製作されたことが確定されます。(詳しくは過去のブログ記事→『グスタフスベリのロゴの歴史』をご覧ください)
(写真:20世紀の主なグスタフスベリのロゴ)