北欧の匠が手がけた ヴィンテージの逸品
フィンランドのモダンアートを代表する陶芸家ルート・ブリュック(1916〜1999年)の一点物の作品です。1942年にARABIA(アラビア)社の美術部門に入り、約50年にわたって粘土と釉薬による芸術を追求しました。本作"Tuhkavati"(トゥフカヴァティ)は、ブリュックの作風が大きく転換した「独自技法の確立期」——1950年代後半頃に制作された貴重な小作品です。
"Tuhkavati"とはフィンランド語で「灰皿」を意味する単語で、本作は灰皿の形式で制作されたものです(用途を問わず鑑賞用としてお取り扱いください)。厚みのある正方形のタイルに、深いエメラルドグリーンの釉薬が掛けられた、ブリュック作品のなかでも特に密度の高い小品となっています。
中央工芸学校(現アテネウム)でグラフィックデザインを学んだブリュックは、紙や版に向き合う作家でした。陶板という「焼かれる平面」に出会ったとき、釉薬は絵具になり、タイルは画面になり、浮彫の凹凸は光と影を生む構成要素になりました。本作にも、その「平面構成」「色面の重なり」「図像の配置」という、グラフィック出身ならではの眼差しが集約されています。
細部に宿る、徹底した手仕事
中央のくぼみ部分には緑色の釉薬がかかり、周辺の縁は素焼きとなっています。素焼き部分には、独特な手描きの紋様が描かれています。中央の釉薬部と周縁の素焼き部分は、わずかに小高くなった凸部によって縁切りされ、その縁切りの囲いにも数ミリごとに紋様が刻まれています。小品でありながら、あらゆる面に手仕事の痕跡が刻まれた作品です。
中央のくぼみ内部の造形は、緑の釉薬にも厚みの差があります。蝶の羽のように▶◀が展開された部分は釉薬が厚めに掛かり、上下の▼と▲部分は薄めに塗られたエメラルドグリーンのなかにドットが描かれています。色面の濃淡で、ひとつのタイル内に複数の表情が共存しています。
背面まで、作品である
背面は一面が青に近いエメラルドグリーンの釉薬で装飾されています。縁周りに見える一つひとつの目玉のような円はすべて手描き、背面縁の細かな縦線もすべてブリュックの手作業によって引かれたものです。表面と背面で異なる釉薬の処理を施し、しかも表面では素焼きと釉薬が緻密に塗り分けられています——これは、極めて高度な焼成技術を必要とする工程です。
通常、釉薬は重力に従って上から下に垂れます。しかし本作は、背面が均等な釉薬で覆われ、表面では素焼きと釉薬が分離し、さらに中央部では蝶の形に塗り分けられているという、矛盾する条件を一つの作品の中で成立させています。どのような工程で焼成されたのか——本作には、まだ解かれていない謎が残されています。
背面には"BRYK ARABIA"という本人のサインが刻まれており、ブリュックがARABIA社に在籍していた当時の作品であることがわかります。
ARABIAの美術部門は、日用品としての食器を効率よく設計する場所ではなく、陶という素材を使って芸術表現を追求するための特別な場所でした。本作のように、小品でありながら表裏両面に膨大な手仕事の積み重ねを行うことができたのは、量産デザインとは別枠で裁量を与えられた美術部門のアトリエだからこそです。
こうした美術部門の作品は、量産品とは別枠で制作され、展覧会や特別な販売経路を通じて流通することが多かった作品群と考えられます。ブリュック作品は近年とくに評価が高まり、世界的に入手が困難になっています。一点一点に密度を込めて作り続けたブリュックの芸術を、手の届く距離で味わえる貴重な機会です。
■詳細スペック
- メーカー:ARABIA / アラビア
- デザイナー:Rut Bryk / ルート・ブリュック
- 作品名:Tuhkavati / トゥフカヴァティ
- 年代:1950年代後半
- 製造国:フィンランド
- サイズ:縦11.4 cm × 横11.3 cm × 高さ約2cm(公称12×12 cm の陶板です)
■コンディション:★★★★★(5:完品)
欠けや割れはなく、ヴィンテージ品として非常に良好な状態です。製造当時のオリジナルのコンディションを留めた完品です。

