グスタフスベリ(Gustavsberg)完全ガイド — 200年の歴史・偽物の見分け方・価格の秘密
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この記事の要点
- グスタフスベリ(Gustavsberg)は、1825年にスウェーデン・ストックホルム郊外で創業した陶磁器メーカー
- アートディレクターのスティグ・リンドベリ(在任1949-1980年)のもと、ベルサやアダムなどの名シリーズを生み出した
- リサ・ラーソン、シグネ・ペション=メリンなど著名デザイナーが在籍
- 刻印の「錨マーク」とロープの向きで年代を推定できる。1940年以前はロープが右巻き、以降は左巻き
- 偽物は現時点で確認されていない。手作業による量産品のため、コピーが経済的に成立しない
- 1990年代に一度閉鎖されたが、2000年代に小規模で再開。ヴィンテージ品は年々希少になっている
目次
グスタフスベリの歴史——レンガ工場から世界的名窯へ
創業——「グスタフさんの丘」の土から
グスタフスベリ(Gustavsberg)は1825年にストックホルム近郊のヴァルムド島に設立されたスウェーデンを代表する陶磁器メーカーです。それ以前はレンガ工場として建材を供給する会社でした。1826年に陶器メーカーとしての歩みをスタートし、約200年の歴史を持つこの窯は、北欧陶磁器の歴史そのものと言っても過言ではありません。
もともとはファルスタ(Farsta)という地名でしたが、創業者のグスタフ氏が当地で産出する土で陶器を製造したため、「ベリ」=「(土が取れる)丘」という意味で「グスタフスベリ」=「グスタフさんの丘」と呼ばれるようになりました。
錨のマークと海辺の窯
グスタフスベリは錨のマークからも分かるように海辺にある会社です。今でも工場はストックホルム郊外のグスタフスベリという地域にあります。
日本では瀬戸焼や信楽焼など良い土と焼き物は内陸部に集中していますが、北欧では湖畔または海辺に陶器の工場がある例が多く見られます。材料を水運で運び込んだり、製品を各国へ出荷したりする上で港がすぐ側にあることは大いにメリットがあったわけです。
ちなみにノルウェーにはグスタフスベリによく似たマークの「ポシュグルン(Porsgrund)」という陶器メーカーがあります。
硬質磁器で有名なドイツのマイセンもエルベ川沿いに立地しています。つまりヨーロッパでは基本的に陶器と港町はセットなのです。そう考えると、グスタフスベリが錨のマークなのはむしろひねりが少ないくらい自然な表現です。
19世紀:産業としての確立
1825年の創業以来、グスタフスベリは実用的な日用陶器の生産で成長しました。19世紀後半にはスウェーデン最大級の陶磁器メーカーとなり、国内の家庭に広く普及していきます。
ヴィルヘルム・コーゲの時代(1917-1949年)
1917年にアートディレクターに就任したヴィルヘルム・コーゲは、グスタフスベリに「芸術と産業の融合」という新たな方向性をもたらしました。1930年のストックホルム博覧会での展示は、スウェーデンのモダンデザインの幕開けを告げるものでした。コーゲの「美しい日用品(Vackrare Vardagsvara)」の理念は、後のスカンジナビアン・デザイン哲学の礎となります。
スティグ・リンドベリの時代——ミッドセンチュリーの黄金期(1949-1980年)
コーゲの後を継いだスティグ・リンドベリのもとで、グスタフスベリは黄金時代を迎えます。ベルサ、プルーヌス、アダム、アネモンなど数々の名作シリーズが生まれ、グスタフスベリの名は世界的に知られるようになりました。この時期には、リサ・ラーソン、ベルント・フリーベリといった才能あるアーティストたちも在籍し、多彩な作品が生み出されました。
衰退と現在——かろうじて残る暖簾
1980年代には経済不況の影響を受けて、芸術性が売りのグスタフスベリの高価格な食器は、安くて実用的な製品に圧倒されていきました。
実はこのムーブメントは、価格競争力のある外国企業に敵わなかった、というものではありません。IKEAに代表される、北欧のシンプルな美を低価格に提供する自国企業によって駆逐された側面があります。グスタフスベリのボーンチャイナは1万円、東南アジアで製造されたIKEA食器は素材は一緒で一個500円。これでは勝負になりません。
1937年にスウェーデンの生活協同組合連合会KFに買収されました。1990年代にKFが経営難で売却して以降、グスタフスベリの商標はたらい回しに遭い、2000年にはドイツの老舗ビレロイ・ボッホ(Villeroy & Boch)に権利移譲されました。現在のイッタラとは異なる資本構成のもと運営されています。
現在のグスタフスベリは、実は食器だけを製造する会社ではなくなっています。ステンレス製の水道の蛇口やシャワーヘッドなども製造しています。かつて、スティグ・リンドベリやリサ・ラーソンを擁して、20世紀のヨーロッパを代表する世界的なメーカーだった面影はほとんどありません。
具体的には"Gustavsberg BENPORSLIN"という屋号が解体され、"Gustavsberg"と"Gustavsbergs Porslinsfabrik"に分割されました。前者は蛇口やシャワーヘッドなどの金属製品の製造を、後者は伝統的なグスタフスベリの記念碑的作品の復刻版を製造しています。
主要デザイナー
ヴィルヘルム・コーゲ(Wilhelm Kåge, 1889-1960)
ストックホルム出身。画家として出発し、1917年にグスタフスベリのアートディレクターに就任。グレゴール・パウルソンが提唱した「より美しい日用品(Vackrare Vardagsvara)」の理念を実践し、芸術と産業の融合を推進しました。アルゲンタシリーズなどで国際的評価を確立。コーゲは「美しいものは特権階級だけのものではない」という信念のもと、一般家庭向けの美しい食器を追求し続けました。
スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg, 1916-1982)
ウメオ出身。コンストファックで絵画を学び、1937年にグスタフスベリ入所。コーゲに師事し、1949年にアートディレクター就任。ベルサ、プルーヌスなど数々の名作を生み出し、テキスタイルやイラストレーションでも活躍しました。20世紀スウェーデンを代表するデザイナーであり、ベルサの緑の葉柄は北欧デザインの象徴として世界的に知られています。リンドベリの作品は美術館にも収蔵されており、単なる食器ではなく「デザインアート」としての価値を持ちます。
リサ・ラーソン(Lisa Larson, 1931-2024)
スモーランド地方ヘルルンダ出身。ヨーテボリ工芸デザイン大学卒。1954年にリンドベリに見出されグスタフスベリ入所。愛らしい動物の置物で世界的人気を獲得し、日本でも絶大な支持を集めました。グスタフスベリ在籍は1954〜1980年で、この期間の作品のみが「グスタフスベリのリサ・ラーソン」です。2024年に惜しまれつつ亡くなり、その死後、作品の価値はさらに上昇しています。特にユニークピース(一点もの)や初期作品は、オークションで数十万円〜数百万円で取引されることも珍しくありません。
ベルント・フリーベリ(Berndt Friberg, 1899-1981)
スウェーデン南部の陶芸の町ヘガネス出身。13歳から陶工として修行を始め、1934年にグスタフスベリ入所。コーゲのろくろ師として働きながら、1944年に自身のスタジオを開設。ミラノ・トリエンナーレで3度のグランプリ、1980年にはプリンス・オイゲン・メダルを受賞。200種以上の釉薬レシピを持つ「釉薬の魔術師」と呼ばれています。
カールハリー・スタルハン(Carl-Harry Stålhane, 1920-1990)
スウェーデン出身。ロールストランドで活躍した陶芸家。力強いフォルムと深みのある釉薬で知られ、特にスタジオ作品はコレクター市場で高い評価を受けています。
代表的なシリーズ
ベルサ(Berså)——緑葉の名作
1960〜74年に製造された、リンドベリの代表作。「東屋(あずまや)」という意味で、蔦が絡まった木漏れ日の差す昼下がりの庭先、というイメージから来ています。ステンシル技法と手仕上げの組合せで、一枚一枚に個体差があります。北欧デザインのアイコン的存在です。
復刻版も丁寧に作られているものですが、ヴィンテージの方が青々とした緑を感じられる色味です。くわえてフォルムもまるっとして可愛らしさがあるのはヴィンテージ版の方です。一度はヴィンテージ版をお手元に置いて頂ければと思います。
プルーヌス(Prunus)——繊細な梅の花
1962〜74年に製造。リンドベリがデザインした白地に繊細な青い梅の花柄が美しいシリーズです。市場に出回る数が極めて少なく、コレクターの間で特に人気があります。
アダム(Adam)——洗練されたブルー
リンドベリの日用食器シリーズの一つ。シンプルで洗練されたデザインが特徴で、スウェーデンの家庭で広く愛されていました。
アネモン(Anemon)——可憐な花柄
リンドベリがデザインした花柄シリーズ。可憐なアネモネの花をモチーフにしたデザインは、北欧の自然を感じさせる作品です。
アルゲンタ(Argenta)——コーゲの傑作
ヴィルヘルム・コーゲが手がけたシリーズ。深い緑の釉薬に銀の象嵌を施した格調高い作品群で、グスタフスベリの芸術性を世界に知らしめました。現代アートとしても高く評価されています。
「偽物」は存在する?
「グスタフスベリの食器を買いたいけど、偽物が心配」——こうした声をお聞きすることがあります。結論から申し上げると、グスタフスベリを含む北欧食器で偽物が流通しているという報告はされていません。
偽物が存在しない理由
偽物が作られるのは、ブランドバッグや高級時計のように一点で大きな利益が見込める商品です。グスタフスベリの食器は、ヴィンテージ品でも一般的に数千円〜数万円の価格帯。陶磁器の偽物を製造するには大きな設備投資が必要で、偽造リスクに見合う利益が得られにくい価格帯です。スウェーデン当局や消費者団体からグスタフスベリの偽物が流通しているという公式な報告は確認されていません。
ネット上の「偽物」記事の実態
「北欧食器 偽物」「グスタフスベリ 偽物」で検索すると、いくつかの記事がヒットします。しかし、これらの記事の多くはアフィリエイト(広告収入)目的で書かれたSEOコンテンツです。
共通するパターンとして、まず「偽物に注意」と不安を煽り、最終的に楽天やAmazonなどのアフィリエイトリンクに誘導します。読者がそのリンクから購入すれば、記事の運営者に広告収入が入る仕組みです。また、買取業者のサイトでは「偽物の見分けはプロに」として自社の買取査定サービスへ誘導しています。
スウェーデン当局や消費者団体から、グスタフスベリの偽物が流通しているという公式な報告は確認されていません。製造コストや市場規模を考えると偽造は現実的ではなく、過度に心配する必要はありません。
復刻品とオリジナルの違い
ベルサなどの人気シリーズは復刻版が存在します。復刻品はグスタフスベリの正規品であり「偽物」ではありませんが、ヴィンテージ・オリジナルとは以下の点が異なります:
| 項目 | ヴィンテージ | 復刻版 |
|---|---|---|
| 製造年代 | 1960〜74年頃 | 2000年代以降 |
| 製造国 | スウェーデン | 海外工場(主にアジア) |
| 絵付け | ステンシル+手仕上げ | 完全転写 |
| バックスタンプ | 年代別の窯印 | 現代のロゴ |
| 資産価値 | 上昇傾向 | 購入価格以下 |
いずれも正規のグスタフスベリ製品であり、偽物ではありません。正しい知識を持ち、安心して北欧食器をお選びください。
刻印(バックスタンプ)の読み方
ヴィンテージ品を見分ける上で重要なのが、裏面の刻印(バックスタンプ)です。グスタフスベリの刻印は、象徴的な錨マークを中心に構成されています。年代によって変遷があります:
- 19世紀〜20世紀初頭——手書きの錨マークに「GUSTAVSBERG」の文字
- 1940〜1960年代——リンドベリ時代。「GUSTAVSBERG」+錨+「SWEDEN」の構成
- Gスタジオ作品——「G」の文字と手描きのサイン。Gスタジオの作品はアーティスト個人のサイン入り
- 現代(復刻品)——復刻品には現代のロゴが使用される
刻印で分かること
- 製造年代の推定——刻印のデザインから、おおよその製造時期を特定できます
- スタジオ作品の判別——アーティストのサインがある場合、一点ものやスタジオ作品(ユニカ)の可能性が高い
- シリーズの特定——シリーズ名やモデル番号が刻まれていることもあります
刻印の種類によって制作年代を推定できるため、コレクターにとって重要な手がかりとなります。
グスタフスベリはなぜ高い?
「グスタフスベリの食器はなぜこんなに高いの?」——北欧ヴィンテージ食器に興味を持った方なら、誰もが一度は抱く疑問ではないでしょうか。ベルサのティーカップ1客が数万円、リサ・ラーソンの陶板が数十万円。その価格には、しっかりとした理由があります。
理由1:生産終了・廃盤による希少性
グスタフスベリの人気シリーズの多くは、すでに生産が終了しています。ベルサは1960〜74年の製造で、新品を手に入れることはできません。プルーヌスは1962〜74年の製造で、市場に出回る数が極めて少ない。供給が限られている一方、世界中のコレクターからの需要は年々増加しています。特に日本、スウェーデン、アメリカでの人気が高く、良いコンディションの個体は市場に出るとすぐに売れてしまいます。
理由2:デザイナーのブランド価値
リンドベリの作品は美術館にも収蔵されており、単なる食器ではなく「デザインアート」としての価値を持ちます。リサ・ラーソンの死後、作品の価値はさらに上昇しています。グスタフスベリが高い最大の理由は、デザイナーの芸術的価値にあります。
理由3:ハンドメイドの品質
ミッドセンチュリー期のグスタフスベリ製品は、多くが職人の手作業で仕上げられていました。ベルサの葉柄はステンシル技法と手仕上げの組合せで一枚一枚に個体差がある。リサ・ラーソンの動物フィギュアは型から取り出した後、手作業で仕上げ・絵付け。現代の大量生産品とは比較にならない手間と技術が込められていました。
理由4:スウェーデンの物価の高さ
経済学では「ビッグマック指数」という各国の物価と為替レートを表すバロメーターがあります。スウェーデンは世界でもトップクラスにビッグマックが高価な国であり、日本と比べて約1.75倍の物価差があります。
グスタフスベリの現行品が高価格なのは、スウェーデンの物価が高いためです。人件費や資材代が高く、陶器を窯で焼くための燃料費も同じです。さらに消費税は25%。それを日本に輸入すると、更に輸送費がかかります。
理由5:純スウェーデン製を貫く姿勢
現在ではほとんどすべての北欧食器の老舗メーカーが生産拠点を東南アジアに移しています。ARABIAやマリメッコなど超有名メーカーの製造拠点は東南アジアです。現地で作るよりも、タイで作ってから北欧に輸入するほうが安い時代なのです。
しかし、グスタフスベリだけは伝統的な手法を守って、今でも100%スウェーデン製の手作り食器をストックホルムの自社工場で作り続けています。グスタフスベリの値段が高い理由は、伝統を維持し貫くための経費が含まれていると考えてください。
理由6:コンディションの希少性
60〜80年前に製造された食器のコンディションは千差万別です。完品(ミントコンディション)に近いものは非常に少なく、コレクターの間で高値で取引されます。
- 完品(ミントコンディション):使用感がなく、製造当時の状態を保つもの → 最も高価
- 良好:わずかな使用感はあるが、目立つダメージなし
- 並:小さな欠けや色褪せがある
- 難あり:割れ、大きな欠け、修復痕がある → 比較的安価
グスタフスベリ食器は「高い」のか?
確かに、日常使いの食器と比べればグスタフスベリのヴィンテージは高額です。しかし、良いコンディションのものは年々価値が上昇しており、60年経っても色褪せないスカンジナビアンデザインの唯一無二の存在です。グスタフスベリのカップを手に取る機会があれば、そこで今でも脈々と受け継がれている北欧の伝統と風景をぜひ感じ取っていただきたいと思います。
まとめ
グスタフスベリは1825年の創業以来、約200年にわたってスウェーデンの陶磁器産業を牽引してきた名窯です。ヴィルヘルム・コーゲが「美しい日用品」の理念を掲げ、スティグ・リンドベリがベルサやプルーヌスで黄金時代を築き、リサ・ラーソンやベルント・フリーベリといった天才たちが多彩な作品を生み出しました。
現在は全盛期の面影こそ薄れていますが、ヴィンテージ作品の価値は年々高まり続けています。偽物の心配は不要で、刻印の知識を持てば年代やシリーズの特定も可能です。
グスタフスベリの食器がもたらす喜びは、大量生産品では得られないものです。ぜひ一度、本物のグスタフスベリ・ヴィンテージを手に取ってみてください。
店主 中村