グスタフスベリはスウェーデンを代表する陶器メーカーです。
もともとは陶器製のバスタブや洗面台なども製造する暮らし全般の陶器メーカーですが、世界的には食器類や陶板や陶器製の置物などのメーカーとして認知されています。
グスタフスベリの歴史について詳しくは↓こちらの記事↓をどうぞ♪
ベルサはグスタフスベリを代表する食器シリーズです。
(写真:葉っぱ柄が素敵なベルサシリーズ)
「ベルサ」の意味
「ベルサ」とは日本でいう庭園や公園の一角に設けられた屋根だけで壁のない「東屋(あずまや)」の意味です。
スウェーデン語でもあまり日常的には使われない語句のようです。
ちなみに本場では"Berså"とつづり、発音は地域にもよりますが「べショー」「ベルショー」「ベルソー」という音に近いです。
ベルサは現在でもグスタフスベリを代表する製品で、スウェーデンの工場で復刻版が製作されています。
1990年代後半ごろから復刻版の製造がスタートしていますが、実はヴィンテージと呼ばれるベルサシリーズは1961年〜1974年までの13年間しか製造されていません。
当店で扱っているものは基本的に半世紀前に製作された「13年間の作品」です。
復刻版のほうが新しくてきれいで、しかも窯の環境が改善されているため強度も優れています。
ところがベルサは復刻版よりもヴィンテージのほうが人気があります。
(写真:新旧ベルサ対決、どちらのカップがお好みですか?)
ヴィンテージの良さ
こちらの上下のカップの写真をご覧ください。
どちらが復刻版でどちらがヴィンテージでしょうか?
もし見極められた貴方はなかなかの目利きです。
復刻版とヴィンテージでは色味が明らかに違います。
葉っぱの柄が青々としているのが特徴で葉脈の黒い線もはっきりと出ています。
(正解は下が復刻版で上がヴィンテージです)
ここ数年で復刻版の色彩は改善の傾向にありますが、実際は古い時代の作品のほうが色つやが(もっと言ってしまえばフォルムも)優れています。
1974年に製造が終了してから復活するまでの四半世紀で、グスタフスベリの内部ではすっかりベルサを製造するノウハウは失われてしまったようです。
(写真:復刻版とヴィンテージのベルサバックスタンプ)
復刻版・ヴィンテージの見極め方
手っ取り早く両者の違いを見極めるためにはカップの底面にあるバックスタンプをご覧ください。
復刻版は錨マークが描かれています。
ヴィンテージはベルサシリーズ専用に描き起こされたマークがあります。
よく見ると社名のアルファベットのつづりも”Gustafsberg”と”Gustavsberg”という違いがあります(”f”と”v”の違いです)。
こうした点はただのマークの違いといってしまえばそれまでなのですが、この葉っぱロゴがあるかないかで見る人の心も踊ります。
葉っぱロゴのほうが細部まで作り込まれていて、私はヴィンテージのほうが手間暇をかけて製作されていた時代だったのだなと感じます。
(写真:グスタフスベリの倉庫に積まれたベルサ)
製造中止の背景
ベルサの製造が中断した1974年は第四次中東戦争をきっかけとするオイルショック(石油危機)のあった年です。当時この大きな出来事が北欧食器界隈には深刻な影響を与えました。
製造年を記したカタログを見ているとグスタフスベリにとどまらず、ARABIAやロールストランドなどの他の有名北欧食器メーカーでも、人気のあった食器シリーズの製作が軒並み1974年に中止となっています。
ベルサにとどまらず、たとえばアラビア食器の名作パラティッシも1974年で生産を終了をしています。
人気があるのに製造を中止せざるを得ないほど深刻な物価高騰や燃料不足に陥っていたことが伺えます。
オイルショックの年を境として北欧食器には全盛期のような華々しさやディテールへのこだわりに陰りが見えるようになります。
それまでの手仕事による100%国内産の食器にもシンプルな装飾に切り替わったり、デコレーションの一切ない無地の柄の食器が増えていきます。
いまでは北欧デザインというと、シンプルな配色で絵柄は描かずフォルムで勝負!といったイメージがあるかもしれませんが、1974年以前の北欧食器にはそうした特徴はほとんど見られません。
あくまで「今ある環境で勝負した結果」として北欧デザインが存在しているのです。
名作パラティッシは1988年に、その後ベルサも90年代末に復活を遂げるわけではありますが、それ以前と復刻版を比べると再現性の面で課題が感じられることもあります。
(写真:復刻版のパラティッシ)
(写真:1969年製造のヴィンテージのパラティッシ。色の淡さがヴィンテージの特徴。)
なにごとも一旦生産を止めてしまうとそこで様々なノウハウが失われてしまうことがわかります。
それは言ってみれば、ちょっとしたデザインの線の太さや、色の濃淡、フォルムの違いでしかないのですが、良いものとそうでないものの境界は実はそういったごくわずかな違いに左右されます。
古くても良いものは良いと、多くの方に知っていただければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
店主:中村