当店では珍しい北欧ヴィンテージ食器を中心に取り扱っています。量販品的なものもありますが、他にはない品揃えにエピソードや歴史を交えて商品の魅力にお伝えしたいと考えています。今日は今年入った珍しい食器シリーズということで、ヴィンテージのカップをご紹介します。
スウェーデンの老舗陶器メーカーのグスタフスベリで1960年代に製作されたエヴァ(Eva)というコーヒーカップです。
(写真:グスタフスベリのヴィンテージのエヴァコーヒーカップ)
一見して普通のコーヒーカップですが、ヴィンテージのエヴァコーヒーカップは非常に高価格で取引される北欧ヴィンテージ食器です。
「北欧ヴィンテージ食器」には明確な定義はありませんが主として「20世紀ごろに北欧諸国の陶器メーカーで生産された食器類」を意味します。
20世紀ごろというと幅広いですが、当店ではヴェクショー(Wexio)シリーズのような19世紀から20世紀初頭のものも取り扱っています。ヴェクショーは大ヒットした作品であるため現在でも比較的流通量が多いものです。今回のエヴァは1960年代ごろの作品なので時代的には比較的新しいものですが、生産数が極わずかだったため希少性が高くなります。
つまり北欧ヴィンテージ食器の価格は古いか新しいかという時代ではなく、どちらかというと数が多いか少ないかという希少性に大きく左右されます。
グスタフスベリのエヴァ・コーヒーカップはほとんど製造されなかった幻の作品と言われています。
アダムとはユダヤ教の教典である旧約聖書に登場する人類初の男性です。そしてエヴァ(イブ)はアダムの肋骨から生まれたとされる人類初の女性です。
グスタフスベリのエヴァカップは水色の濃いドット柄である「アダムシリーズ」を反転させ丸抜きにして、赤く染めたものです。アダムとエヴァはお互いを補完する対の存在であることがデザインにもよく意識されています。
(写真:対となるアダムシリーズのカップ)
アダムの反転バージョンをエヴァと呼ぶのは遊び心=試作品、といった位置づけがあったのかもしれません。というのもヴィンテージのエヴァは窯の温度管理が未熟なことで生じる黒点が見られたり、本体の歪みであるかたつきや、技師の技量が反映される転写紙の圧着でズレが見られるものが圧倒的に多く、きちんとした製作環境が整っていなかったことが伺われます。
さらにグスタフスベリ作品には必ずあるシリーズ名のバックスタンプは、本来はカップとソーサーの両方に刻印されますが、エヴァに関してはなぜかソーサーにしか刻印されませんでした。カップの裏面にスタンプが刻印されているケースは見たことがありません。こうした理由から、エヴァはプロトタイプとして製作はされましたが、大量生産の工場ラインには乗らなかったものと考えられます。
アダムシリーズは1959年から74年まで製作された一方で、ヴィンテージのエヴァに関しては製作年も不詳です。エヴァのソーサーに刻印されているロゴは1970年頃まで使われた縄ありロゴのため1960年代のごく短い期間に生産されたものではないかと考えます。(ロゴの詳細については過去の記事をご参照ください→『グスタフスベリのロゴの歴史』)
(写真:エヴァのティーカップとソーサーの背面。ソーサーにのみシリーズのスタンプが刻印されている)
デザインを担当したのはグスタフスベリの伝説的なデザイナーであるスティグ・リンドベリです。青い水玉模様のアダムはプレートやクリーマーやシュガーボウルなど一連の食器シリーズが作られましたが、ヴィンテージのエヴァに関しては食器シリーズとしての展開はなく、コーヒーカップの一点のみが生産されました。
(写真:20世紀のスウェーデンを代表するデザイナーのスティグ・リンドベリ)
エヴァが希少なのは単に数が少ないだけではなく、スティグ・リンドベリという世界的に著名なスウェーデン人デザイナーが考案した器でもあるためです。生産数の少なさとデザイナーの知名度の両方が揃ったときに、ヴィンテージアイテムは最も高い価値を持つといえるでしょう。
リサ・ラーソンの生産数限定の陶板なども高い価値を持ちますが、意識的に100点限定で生産されたものと、結果的に100点しか製造されなかったものでは後者のほうが価値をもちます。エヴァコーヒーカップはまさに後者です。
なお現在では復刻版が製造されています。色の発色もよく、白磁の白さが映え、復刻版でも出来栄えは申し分ないと思います。
(写真:復刻版のエヴァカップ)
それでも古い時代のヴィンテージ食器が価値を持つのかは、今の時代に入手することがかなり難しいためです。博物館に置いてあるような工芸品の一種として考えて頂けたらとおもいます。