こんにちは。店主の中村です。
今日は北欧食器のミッドセンチュリーのポップアート的側面についてお話したいと思います。
北欧食器の魅力はシンプルなデザインでありながら幼稚ではなく、そこにデザイン性が見いだせる点にあります。
代表的なデザインがグスタフスベリのベルサ(ベショー,Berså)と呼ばれる柄です。
写真:スウェーデンのミッドセンチュリーを代表するベルサ柄
これは北欧の工業デザイナーの中でも傑出した人物であるスティグ・リンドベリが考案したものです。
ベルサとは東屋(あずまや)という意味ですが、昼下がりの木漏れ日差し込む庭園や、明るく青々とした新緑が美しい晴れの日を想起させるデザインです。
しかし言うなれば、ベルサのデザインは連続した緑色の葉っぱが描かれているだけです。
かなりシンプルで、極端に言えば子どもでも描けるようなデザインです。
これと同じようなデザインに心当たりがあるものといえば、
アンディ・ウォーホルのキャンベルスープの缶です。
写真:1962年に制作されたウォーホールの”Campbell's Soup Cans”
あるいは他のウォーホール作品でいえば、ブリロ・ボックスという洗濯用洗剤の彫刻も連続した同じデザインの箱を並べたものです。
最もウォーホール作品で有名なのはマリリン・モンローですが、
これらは全て「同じものが連続しているのにデザインとして成立している」という点で共通しています。
スティグ・リンドベリがベルサをデザインしたのは1961年、ウォーホールが最初のポップアート作品であるキャンベルスープをデザインしたのは1962年です。
つまり両者は示し合わせたように同時代に起きたアートムーブメントでした。
ちなみにアンディ・ウォーホルはシルクスクリーン版画で同じ作品を複数制作しています。
つまり同じものが複数あり、「どれか一枚だけが真作」というこれまでの絵画にあった概念が存在しません。
すべて本人の手による本物であり、本物が複数存在し、なおかつそれが大衆に受容されたことをもって「ポップアート」と呼ばれます。
同じものは複数あり、それら全てが本物、です。
ひるがえってスティグ・リンドベリ作品も転写を用いたことに特徴があります。
それまでのグスタフスベリ工房はファイアンス焼きに代表される手彩色による絵付けに価値を見出していました。
写真:グスタフスベリの工房で彩色の指示をするリンドベリ
いまでもGスタジオ(G-Studion)の作品は市場で比較的高値で取引される傾向にあります。
師であるウィルヘルム・コーゲに薫陶をうけたリンドベリも若手の絵付け師が腕を振るうGスタジオで後進の指導に当たっています。
しかしときは20世紀中葉となり、伝統的な手彩色だけでは製造数が伸びないこと、製品の出来栄えにムラがあること、などの欠点がありました。
それを克服する方法が大量生産になるわけですが、
大量生産をしても製品の魅力を損ねないようにするのにはどうすればいいか。
そのためには、デザインが優れていることと、
前述のように「全てが同じものであり、かつ本物である」という点が重要になります。
そしてウォーホールの場合はシルクスクリーン版画でしたが、グスタフスベリの工房では転写という手法が用いられました。
簡単に言えば、シールを貼る、ということです。
写真:転写による絵付け
このようにミッドセンチュリーと呼ばれる黄金期の製作物は、実は大量生産を可能としつつも、同じものが顔を並べ、なおかつそれら全てが本物である、という点でポップアートに共通するものがあります。
グスタフスベリのベルサは現在復刻されており、オリジナルに忠実な転写の製法を用いています。
これは非常に微妙なさじ加減の違いですが、
ベルサは復刻版よりもヴィンテージ品のほうが色味が優れています。
光に透かしたとき、青々とした緑色に発色するのは古い時代の製品です。
大量生産や転写で同じものを作った、といってもそこには優れた色彩感覚が宿っているのです。
これらは両者を比べてみるとよく分かります。
写真:ヴィンテージ(上)と復刻版のベルサ(下)
もちろん復刻版には復刻版の良さがあります。
たとえば骨灰磁器(ボーンチャイナ)と呼ばれる器は、
現在と昔では、今のほうが白さが美しく際立っています。
材料が安定的に供給され、焼成する技術が機械的に一定に管理できるためです。
そういった面ではヴィンテージ品より現行版のほうが、白磁の美しさでは勝っています。
また復刻版の方が薄造りなので器を手に取ったときの軽やかさがあります。
この機会に両方、お手にとって比べていただければと思います。
ヴィンテージには発色の豊かさが、
復刻版には地肌の白い美しさと軽さがあり、
黄金期の作品をいまに蘇らせようとする職人の気持ちが感じられます。
まだまだ及ばない点もありますが、それはミッドセンチュリーが凄すぎたということで。
それではまた。
店主 中村