スウェーデン最古の陶器メーカーのロールストランド社。その人気作品の一つにシルビアシリーズがあります。
製品のフォルムデザインはモナミシリーズで知られるマリアンヌ・ウェストマンが手がけ、スミレの花の装飾は同社のデザイナー、シルビア・レウショヴィウスが考案しました。シルビアシリーズは肉厚で製造工程の跡が見られる通常の北欧食器とは異なり、支柱跡がなかったり薄造りで硬質なボーンチャイナ製の器で、シリーズ全体が優雅で洗練されたデザインとなっています。
(写真:『シルビア』シリーズ)
シルビアシリーズはロールストランド社の創業250周年の記念モデルとしてデザインされました。
しかし発売年の1976年は同時にスウェーデンにとっても記念碑的な出来事があった年でした。
国王カール16世グスタフとシルビア・ソマーレス王妃の結婚です。
(写真:シルビア王妃とグスタフ国王)
シルビア王妃の生い立ちと背景
シルビア・ソマーレスは、1943年12月23日にドイツのハイデルベルクで生まれました。彼女の父親はドイツ人で、母親はブラジル人です。シルビアは、幼少期をブラジルとドイツで過ごし、多文化的な環境で育ちました。このため、彼女はスウェーデン出身ではなく、スウェーデン王室に入る前はスウェーデンとは直接の縁がありませんでした。
(写真:シルビア王妃の通訳時代)
シルビア王妃は、ミュンヘンのオリンピック組織委員会で通訳として働いていた1972年にカール16世グスタフと出会いました。二人は恋に落ち、1976年6月19日に結婚しました。
シルビア王妃がスウェーデン王妃になると決まった時、彼女の外国出身という背景に対する批判も少なからずありました。伝統的なスウェーデン王室に外国からの花嫁が入ることに対して、保守的な視点から批判があったのです。
しかし、シルビア王妃はその後の活動を通じて、スウェーデン国民に愛される王妃となりました。福祉活動や児童福祉、認知症ケアなどに力を入れ、その実直な姿勢と温かい人柄で多くの支持を得ています。
シルビアシリーズの誕生とその意義
通常の北欧食器は肉厚で製造工程の跡が見られるものが多いです。そうした普段使いの無骨な食器をデザインのちからで洗練されたスタイリッシュな食器に変身させる、というのが北欧食器の妙と言えます。
しかしシルビアシリーズは通常の北欧食器とは異なり、支柱跡がなかったり薄造りで硬質なボーンチャイナ製の器で高品質の磁器が使用されています。
透き通った釉薬や絵柄の美しさ、そして洗練されたフォルムは、1970年代のロールストランド製品として特に高品質を誇ります。北欧ヴィンテージ食器にありがちな支柱跡(目跡)がシルビアシリーズには見られない点も特筆すべきで、これはシルビアシリーズのために窯焼き環境が一新されたことを示しています。
シルビアは北欧ヴィンテージ食器の中でも完成度が高く、美しさを極めた一品です。
「Dancing Queen」の誕生秘話
1976年に行われたカール16世グスタフ国王とシルビア王妃の結婚式では、もう一つの大きなイベントがありました。それがABBAの「Dancing Queen」の初披露です。
ABBAは、1970年代を代表するスウェーデンのポップグループであり、その楽曲は世界中で広く愛されています。「Dancing Queen」は、1976年8月に正式にリリースされる前に、シルビア王妃の結婚式の前夜祭で初めて披露されました。この前夜祭は、王室の結婚を祝うために行われ、多くのゲストが参加しました。
「Dancing Queen」の「クイーン」はシルビア王妃を指していると言われています。ABBAのメンバーは、外国出身であるが故に一部から批判を受けていたシルビア王妃を支持し、彼女への敬意を表するためにこの曲を捧げました。
同様に、ロールストランドのシルビアシリーズも、シルビア王妃の気品と優雅さを称えるためにデザインされました。
このエピソードは、スウェーデンの歴史における特別な瞬間として、多くの人々に記憶されています。